恵まれなかったウマ娘   作:any

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サブタイトル『大逃げ』


明日投稿の予定でしたが、書き上がったので早めました。
なので、明日・明後日のどちらかに一本投稿します。


参話  責任

 

 

 

 

選抜レースというもの。

それは、トレセン学園に入ったウマ娘が最初に走るレース。

トレーナーたちに自分の力を見せて,スカウトを求める。このレースが一番簡単に参加できて、最も大切と言っても過言ではないような。

 

 

距離は、2000mまで。

最低1200。

 

 

1200に出る子の大半が、短距離路線を。

 

 

1400から1600に出る子は一部が短距離、半数が中距離・マイルになる。

 

 

2000に出る子は、中距離から長距離。

この体ができていない時期からスタミナがあるので、大抵はステイヤー……長距離に向いている。

 

 

私は、2000mに出るつもりでいる。

私は、ずっと一人だったから、時間があった。その時間を、トレーニングに充てていた。

それを、数年間。

継続し続けてきたから。他よりも努力をしている、だろう。

 

 

それに、2000mは走り切れる自信がある。

トレーニングの一つでやっていた、10km走。一定のペースで、これを走り抜く。

これが、効果があるかどうか。トレーニングになっているか。すこし疑問にはあるが、少しペースを上げるぐらいだったら構わずに走れる。

 

 

 

選抜レースも、レースの一つ。

目標に、あらゆる出るレースに勝利したい、と書いたのだから。このレースにも勝つつもりでいる。

浅はかだな、と自分で思う。

 

 

作戦の練り直し。

考えられる要素は少ないし、データもなければ作戦のテンプレもわからない。

何処で仕掛けるか。

誰をマークするべきか。

そのマークしたウマ娘の脚質は。

 

 

 

作戦を立てる、というのはその全てに加え、バ場状態や天候、その日の調子までもを考慮しなくてはいけない。

だから、元々の作戦として、持っていたのは。

簡単な後方策。後ろから前の動きを見て、仕掛ける。

でも、私の末脚……最後のスパートが何処まで通じるかが不透明だ。

 

 

 

 

なら、作戦を変える。

逃げ。最初から一人で先頭に立って、後ろからの追撃から逃げ切る。

 

そもそも、逃げというのは最も強い走り方だ。

だって、一度も前にウマ娘を出さなければいいのだから。

簡単な、方法。

 

 

 

だけど、実際は難しい。

背後からの恐怖。体力、スタミナの管理。レース全体のペースの調整。

大逃げ、逃げ。

 

走りにおいて、大逃げこそが最強の証明である。

 

 

それを裏付けるような存在。

 

 

 

アメリカの、最初の偉大なる赤。Mano`war。

 

 

 

ヨーロッパに語り継がれる、永き夜を照らす存在。最強の、Eclipse。

 

 

 

それらのウマ娘の脚質、走りはわからない。

けれど、語られる物語では、どちらも大逃げと同じ走り方。それをしていた。

他者という存在を無視して。

自分が最強であると疑わずに、他を寄せ付けず、気にもとめない自分勝手なレース。

 

 

そんな走りをする。それが、大逃げ。王者にのみ許される、最強の走り。

 

 

 

それと同時に、逃げとは大逃げの劣化である。

Eclipse、Mano`warという英雄のような自信。自分への信頼。彼の者のように、大きく逃げる程の、絶対的な自信が無い。

そんなウマ娘が取った選択肢が、後に伝わって逃げという走り方が確立された。

 

 

 

 

 

強者だけど。

『最強』には。なれないと、思ってしまう。そうやって、みんな心の何処かで思っているから。

だから、大逃げをするウマ娘がいない。

大逃げをすれば、待つは孤独だ。いくら自分が強いと思っていても、他人がいない、孤独のまま。

 

 

圧倒的な強さは、孤独を招く。

 

 

 

ウマ娘は、幼少期から誰かと走っている。

その中で、大逃げを取れば、なれない孤独の中で、後ろから迫ってくる負けに対して極端に恐怖する。そのまま、ペースを崩して負ける。

 

その状態に。他者を恐れて、走っている途中でなるのが掛かり。

他のウマ娘に恐怖を感じた時に、ペースを崩してしまう。

 

 

 

大逃げをするウマ娘に掛かりはない。

 

 

 

他者を恐れないから。

怖がっていては、行けないから。王者だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど、

私は、大逃げをする。

私は私を強いとは別に思ってはいない。自分に自信はない。信頼もない。

 

 

 

でも、私は孤独を知っているから。

今だって、私は独りだから。

他の人がいない中で、淡々と。日が出ているうちの時間ほとんどを、孤独に、自己研鑽にまわしていたから。

 

 

だから、孤独に対して違和感がない。

一人ではない。

 

 

独り。

 

 

 

後ろから来るウマ娘は、私だって怖い。

だって、負けることが極端に恐れているから。私には勝利しか許されていないから。

心にも。現実にも、余裕がない。

 

 

 

そんな私が、逃げるための走り。

 

 

 

極端に他者を恐れているから。

だからこそ、最も他のウマ娘と遠く走り、最も他のウマ娘を、走ることを怖がってはいけない走りをする。

 

 

 

 

 

 

 

……まあ。

作戦として、大逃げを語るのは簡単だけど。

 

 

実際にやるとなったら、それが初めてなら。

誰だって恐怖を感じる。未知の領域。子供の、友達同士のじゃれあいの一環のかけっこではない。

本当に、人生がかかっているような。その重みを知って。

 

 

誰もが一度は、戦慄する。

それがレースという競技。数多のウマ娘が人生と、ユメをかける競技。

そして、あらゆる競技の中でも、希望と、そのかけられたユメが最も多く、簡単に。

潰える、残酷な競技。

 

 

 

走っていて、負けることへの恐れだとか。そういった、走りに邪魔なマイナスの感情。

それを感じないのは、よほどの走り好き。

誰だって緊張をするように、誰だってユメへと踏み出すときに、不安を感じる。

 

だがそれも。

走るために生まれてきたような性格を。走ることにのみ興味があるような、走ることをとにかく愛しているようなら、怖くはないだろう。

 

 

 

 

……実際、そんなウマ娘はトレセン学園にはいるには、いる。

 

 

 

自分が楽しく走るために、努力をできる。

そんなウマ娘が、走るために生まれてきたようなウマ娘だから。私はあくまで異端。壊れているからこそ、大逃げをしようと思える。

 

 

努力ができるものが、この学園には入れるから。

だから、走るのが何よりも好き、三度の飯より走るようなウマ娘は、強い。走っている時に恐怖を感じないから。

 

 

私は、走っている時に恐怖を感じる普通のウマ娘だ。

その恐怖心と、孤独を恐れる心とずっと隣にいたから。私にとって、そういう、マイナスな感情とは密接な関係にあった。

だから。怖いことが、怖くない。

 

 

 

 

 

 

 

こうやって考えていれば、強いウマ娘っていうのはどこか周りと違っている。

 

 

 

生徒会長も、何処か周りと違う。

ずっと、完璧。何があっても、欠けたることがない。

間違わない。常に、生徒の模範、目指される星で有り続ける。

 

 

 

 

トウカイテイオーも、周りとは一線を画している。

何処までも強い生徒会長への崇拝。自分への自信。

そして、一年で今、最も注目されているということを理解している。

 

 

 

……それと、たづなさん。

歩き方で分かるが、アレは速い人特有の歩き方。多分、ウマ娘。

それでいて、自分がウマ娘であることを隠し続けていることも、変わり者だ。

 

 

 

 

何を持って強いとするかは人によって違う。けど、私にとって強さとは速さだ。

三人とも、とてつもなく強い。

トウカイテイオーも。生徒会長も、たづなさんも。全員が、私よりも強くて、早くて、賢い。人の幸せを願っている。

 

 

 

 

だけど、今回の選抜レースに、トウカイテイオーという障害は存在しない。

トウカイテイオーは、私の一つ前のレースだから。

多分、私の出るレースは一番注目されないと思う。それがその日最後のレースで、トレーナーの人はみんなトウカイテイオーの方に行ってしまうだろうから。

 

 

他人に隠れる形にはなる。

目立たない。

けど、それが私にとって一番都合のいい状況。

 

 

 

だから、それはありがたいことだ。

私が目立たないから。誰かと話さなくて済むから。

私にとって、トレーナーとは尊敬する人々であり、感謝するべき人々であり。……そして、最も怖くて、脆い人々だと思っている。

 

 

人だから。

ウマ娘と人間という種族の差は、あまりにも大きすぎる。人間は、ウマ娘に勝てない。

 

 

力が、違う。バ力(ばりき)という言葉が存在するほどに。

 

 

感覚が、違う。トレーナーが、音と匂いに特に気を使うように。

 

 

レースへの思いが、違う。一人称と、二人称の差。

 

 

 

それに加えて。

おじさんのように、卒業後に差し切られていたりだとか。色々あって、トレーナーは……

トレーナー業は、万年人員不足になっているのが現状。

 

 

トレーナーの門は狭い。

厳しい試験をクリアして、数年間の修行を積んで、ようやくトレーナーになれるのだ。

その、対価。トレーナーには、賞金の一部が与えられる。

 

トレーナーという仕事には夢がある。

生徒会長のトレーナーが、一般人どころではない富豪だったり。私のおじさんも然りだ。

 

 

 

……私にとって、大人、特に年上の男性。

それは、恐怖の対象で有り続ける存在。あの日から、ずっとテレビや、取材のときに見た。

 

 

 

無責任な世間の声を。

 

 

 

私の、トラウマの一つに入っている。

 

 

 

だから、私が選抜レースで勝利したとして。

スカウトを受けるのだろうか。受けられるだろうか。

 

……おそらく、いやほぼ、無理だ。

こちらの意志を伝える方法が、拒絶か受諾しかない私には、トレーナーを持つということは不可能だ。

 

 

 

 

 

……まあ、そういったことはレースに勝ってからだろう。

まずは目の前のレースに集中すべきだろう。

 

私にとってもこのレースは今後のため、という意味でとても大切になってくる。

 

 

公式の記録には残らないこの選抜レースだが、記憶には残る。

だから、重賞レースに出る際に、出やすくなる。強いウマ娘が、重賞レースには出るから。選抜レースで勝っておけば、ジュニア級ではかなり有利だ。

どちらにせよ、勝つのだ。

 

私のために。いつか記憶が戻った時、自分が好きになれるように。

 

 

 

 

 

 

Eclipseは再来しない。

Mano`warは戻ってこない。

帰ってこない。伝えるしかできない。だから、伝説。

 

 

 

 

 

一度終われば次はないのだ。たとえ、記録に残らないレースで、賞金がないレースであったとしても。

レースを次の日に控えている身としては、最善の状態。

レースのために、2年以上を走りだけに費やした。そのために、生徒会長を突き放した。悲しませた、優しさを踏みにじった。

 

 

ずっと、孤独だった。

それが悲しいとは思わない。私は壊れているから。壊れたおもちゃが捨てられるように、普通からはじき出されていたから。

それが、当然だとわかっていたから。

 

私がレースにかける思いは、自己嫌悪でも、この先生きるためでもない。

 

 

 

私は、レースに自分をかける。

私の今までを否定されたくないから、他人の過去を否定する。

そうするしかない。私が勝つ、ということは他の10何人全員が敗北する。その数だけ、ユメが消えるから。

 

 

そうやって積まれる私の過去を。人の夢を潰して進むことを、背負って、その行いを勝利をもって肯定する。

だから、勝ちたいと思う。

 

周りから見れば、そんな思いで走る私はいい目で見られることは決してない。悪役の同じような思想。

自分勝手で、自己中心的。

まるで、戦隊モノの敵側、根っからの悪役に似ているように映る。

 

 

でも、そうわかっても。

他の人の頑張りは絶対に肯定しない。できない。

それは、負けたということだから。だから、他人の努力は私は背負えない。

 

 

『キミの分まで頑張る』

 

 

それは、自分の気持ちの押しつけだと思う。

無責任な言動の一つだとも、思う。

だって、その言葉は。負けたら、それは敵わないから。二人分の努力と、一つの勝利が釣り合うことは決してない。

 

 

 

 

だから私は、どこまでも自分のために。

 

 

 

自己嫌悪と、自己肯定。

相反する2つを背負って生きる。その矛盾を、勝利することで正しくする。

壊れた私には、壊れた理論が似合っている。

 

 

 

人の心は、簡単に壊れてしまう。

だから、私は誰かを壊すだろうという予想をする。私は人に、私を壊されているから。

 

壊されている痛みを、他人に押し付けるだろう。

 

 

そういう私を好きにはなれない。

私は、嫌われるかもしれない。

レースでは、皆が皆、他人のユメが消えることに目を伏せて。勝者のみを見ることで、誤魔化している。

 

 

 

でも、私は、敗北を何よりも恐れた。だから、勝利することの責任を何よりも知ろうとした。

勝者には負の感情がつきまとう。走ることはそういうことだと思っているから。

 

一度走って、一度勝つ。この一連の行いの裏には、これほどの膨大な責任だとか、今まで負かしたウマ娘の夢や想い。

 

その全てがついてくるのだから。だから、生徒会長は褒め称えられた。

そのすべてを背負って尚、先頭に立ち続けたから。折れなかったから。

 

 

こういったところでも、私は『皇帝』の名の重みを知ることになる。

 

 

でも、私は生徒会長とは違う。私は、弱い。

だから、走っているうちだけは、その責任から逃れていたい。知らないふりをしていたい。そう思う。

 

私が大逃げを選ぶのは、そういう理由もある。

 

 

 

生徒会長が聞いたら、なんと言ってくれるだろうか。

肯定するだろうか?否定するだろうか?

 

 

 

 

……たとえ、答えがどちらだったとしても、私は他者を考えずに走ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 




Mano`war 
『アメリカの史上最高の馬』。
アメリカ初の獲得賞金20万ドルを達成した馬。
アメリカ初の三冠馬、サーバートンに対して七馬身差での勝利。
ローレンスリアライゼ―ションステークスでの約100馬身差の勝利は有名。


Eclipse
『Eclipse first, the rest nowhere.』
生涯成績は18戦とも20戦とも26戦ともいわれている。真偽不明だが、確かなのは、無敗であること。
18世紀、100年間の中で最も強かった馬。

誰との絡みが見たい?(いずれ書く)※選択肢にないウマ娘は、ストーリーが思いつかないか、作者が書けないです。すいません。

  • オグリキャップ
  • サイレンススズカ
  • ナイスネイチャ
  • マンハッタンカフェ
  • アグネスタキオン
  • シリウスシンボリ
  • マヤノトップガン
  • サクラバクシンオー
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  • サトノダイヤモンド
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