恵まれなかったウマ娘   作:any

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陸話 表現

 

 

 

 

あの後、生徒会長と、そのトレーナーにはきちんと謝罪した。

書面での謝罪にはなったが、頭も下げには行った。許してくれたようではいるので、この件は終わり……というわけには、私は行かない。

 

 

そもそも、私にはトレーナーがいない。

生徒会長のトレーナーのスカウトは結局断ったのだ。

夢を他人に、すぐに預けてしまうような、他人に夢を見るような人と私は、合わない。

私の都合にはなってしまう。

でも、私もやらかした。だから、気まずさだとか、申し訳なさだとかも大きかったと、思う。

 

 

 

となると、私には私をスカウトする、してくれるようなトレーナーがいない。

元々私の選抜レースが見られていなかったのだから。それは、しょうがないことではあると思う。

ただし、これは死活問題。

 

 

担当のトレーナーがいないウマ娘は、水のない魚のようなものだ。

なんせ、トレーナーがいないとウマ娘はレースに出られない。だから、トレーナーは必ずいる。

名義貸し、という裏技もあるにはある。

 

トレーナーに名前だけ借りて、トレーニング等は一切見ない、というものだ。

 

 

 

ウマ娘ファーストのトレーナーたちに、ルールで禁止されている名義貸しという行為を。これを受ける人はいない、そう思われがちだが。

ウマ娘が第一だからこそ、受けてしまう。それがウマ娘のためになるのだから、ウマ娘が望むから。

 

 

でも、私にはトレーナーはどうしても必要だ。

トレーナーが存在しないウマ娘と、トレーナーにきちんと見てもらっているウマ娘は成長具合が違う。

 

 

 

中でも、一流のトレーナーだとその差は明らかなものになる。

ウマ娘をトレーナーが選ぶというのが、基本的な流れだが。

たまに、トレーナーをスカウトするような、逆スカウトが行われることもある。トウカイテイオーは、生徒会長のトレーナーに担当してもらう、と意気込んでいた。

 

 

 

 

でも、私はそのスカウトを蹴ってしまった。

私は有名ではないのだ。決して、そんなことはない。

寒門出身。

恵まれなかった、才能。

それが有名な訳がない。

 

 

私には、トレーナーができない。

とても難しい状況にある。毎年4度の選抜レースがあった時期ならまだ良かったが、もう私は選抜レースには出られない。

 

 

 

コースを眺めながらため息をつく。

どうしたものだろうか。

 

 

 

 

「やあ、元気?」

 

 

 

 

知らない声がした。

誰に話しかけているのかは知らないが、この人は前を向いて生きている、ということはわかった。

声が明るく、足取りが軽い。

 

 

トウカイテイオーに近い。

でも、トウカイテイオーとは違い、穏やかさも秘めた声色。生徒会長とは、対極に位置するような雰囲気を感じる。

誰だろうか、とも思ったが……私には関係のないこと。

割り切って考えを続ける。

 

 

それよりも、トレーナーだ。

逆スカウトでも良い。チームに入るという選択肢もある。

チームに入るというのは、学園内に存在する、何人かを同時に担当しているトレーナーが持っているもので。

 

 

 

 

「む、君に話しかけてるんだよ?」

 

 

 

 

肩を叩かれた。

振り向けば、知らない顔が。

灰色と薄い青を混ぜたよう目に、茶色の癖っ毛のある髪。

 

 

心当たりがない。

知り合いに近しい雰囲気を持つ人はいなかった。……そもそも、トレセン学園自体に知り合いが少ないのだけど。

 

だとすれば、私に興味を持っている者。

ただし、目の前の人物はウマ娘。トレーナーではない。

 

 

 

トレーナーなら、よかった、と少し思ってしまった。

 

 

 

 

「ん、ああ……話せないことはルドルフから聞いてるよ。」

 

 

 

 

生徒会長のことだろう、ルドルフ……と呼んでいる人物のことは。

少なくとも、生徒会長と仲がいいようだ。生徒会の人だろうか?

……いや、生徒会に所属しているのなら会長、と呼ぶだろう。略称で呼び捨て、はあり得ないはず。

 

 

だとすれば本当に誰だろう。

同じ学年ではないだろう。背がかなり高いから、多分。

 

 

 

 

「あ、そうだね。私はミスターシービー。しがないレース好きのウマ娘だよ。先輩ってことになるけど、気遣いとかはなくていいよ。これからよろしく。」

 

 

『ディッフェトーゾです。お願いします。何か御用ですか?』

 

 

「いや、ルドルフから前に話を聞いててね。見かけたから、声をかけてみただけ。……何か悩んでるみたいだね。」

 

 

『トレーナーのことについて、色々ありまして。』

 

 

 

 

ミスターシービー。

日本における史上3人目の三冠ウマ娘で、最も愛されるウマ娘と言われている。

得意なのは追い込み。私の数倍ほどはあるだろう豪快な末脚で、タブーすらも突き破った。

 

 

誰かに夢を見せる存在。

今を輝く一等星、スターと呼ばれるウマ娘の一人に数えられる国内最強クラスのウマ娘。

走るのが何よりも好きであると公言しており、学園の中では雨の日によく外で遊ぶことで有名。

 

担当のトレーナーもそれなりに変人ではある。

 

 

そして、そんなミスターシービー……先輩の私から見た実力面は、雲の上といったところ。

 

 

状況把握。

タイミング。

ペース配分。

末脚。

 

 

 

走りにおけるほぼ全てで、私を……トウカイテイオーを、凌駕する存在。

 

まさに天才。

そして、自分の才能をわかっていて、その才能を正しく伸ばした。

 

 

 

……自分の才能をわかっているということが、どれだけ凄いことか。

 

 

『才能がある』

 

 

と一言で言われて、自分の何が周りよりも優れているのかをすぐに把握できる人はいない。

天性のバネ、とか言われたらわかるけど。

何も説明を受けていないのに、自分の特異性に完全に気がつけるような人はいないのだ。

 

 

他にも。

私は自分に才能がないと思っている。

 

 

でも、そんな私を生徒会長は天才と評した……らしい。

『トウカイテイオーをはるかに超える天才』と。

 

だが、私は自分の才能を知らない。

あると思ったこともない。高評価をしてくれている生徒会長には申し訳ないが……私は中途半端だから。

 

 

 

私はこれだ。才能がわからない。

あるかすら不明。ある、とも信じていない。そういうタイプ。伸ばす、伸ばさないの問題ではない。

 

 

その他にも、トウカイテイオーのようなタイプ。

トウカイテイオーも、自分がどこまで強くなれるか、才能をどう伸ばせばいいかを掴めていない。

柔軟性だとか、末脚だとか、レース運びだとか。そういったものが周りよりもはるかにできるのは理解している……が。

そもそもとして、自分の才能の伸ばし方を知らない。

 

 

 

 

でも、ミスターシービーというウマ娘は違った。

自分の強みを、才能を誰よりも理解して、一番強くなれるように、楽しく走れるような伸ばし方をした。

常識の外を生きる、常識破り。

 

 

常識という縛りを嫌い、抜け出した唯一無二。

 

 

菊花賞に、坂で加速して勝ったのも。

最終コーナーからの17人抜きすらも、やってのけた。

 

理外の存在。

 

 

 

常識とは、人が決めた物。

でもそれは、絶対ではない。

 

それを証明した、歴史に名を残したウマ娘。

尊敬するウマ娘。

 

 

 

「あれ、まだトレーナー決まってないの?ちょっと意外かも。私もレース見てたけど、あれで……ああ、トウカイテイオーか。」

 

 

 

「確かに、見てるトレーナー少なかったね。まあ、君が完成された走りをしてたのもあるのかな?」

 

 

 

『?』

 

 

 

私のレースを本当に見ていたらしい。

暇潰しか、気まぐれか……トウカイテイオーは見ていたのか少しだけ気になる、けど。

その理外の存在は、こう続けた。

 

 

 

 

「君は、完成され過ぎてたんじゃないかな。要は、早熟ってこと。もう伸び代がない……そう、見てるトレーナーは思ってたんじゃないかな。……でも、君。自分がまだまだ中途半端なのはわかってるでしょ?」

 

 

 

 

わかりやすく説明してくれた。

 

早熟なウマ娘は伸び代が短いのが、通説。

天才はその限りではないか、普通ならその能力は3年という限られた期間の中では頭打ちになってしまう。

たまに、3年経っても成長するようなものもいる、けど。

 

 

私はそれに、数年追加してトレーニングをした。

素人の私が考えたようなトレーニングが効果があるかは分からないけど。

自分なりに、限界ギリギリまで追い詰めたつもりだ。もちろん手も抜いていない。嫌いな奴に手加減をしないのは当たり前のこと。

 

 

 

でも。

 

それでいて、私は中途半端だ。

詰めれるところを詰めきれていなかった。フォームにも無駄があった。

走りのペースも、もっと早くても最後の差し、末脚は100%が出せただろう。

 

 

それ以外にも。

あげればキリがないが……

 

 

そういった点を見越して、生徒会長のトレーナーはスカウトしてくれたんだろうか。

 

 

 

「君には才能があるってことはわかっておいた方がいいよ。それと、伸び代もね。君に声をかけてくれるトレーナーは、君の『価値』にちゃんと気づいてくれてる。」

 

 

 

「そんなトレーナーを探した方がいいよ。私も君も、一人のただのウマ娘だから。そんな自分を、等身大のウマ娘として見てくれて、それでいて、ミスターシービーとして見てくれる。」

 

 

 

「そんなトレーナーが一番いいよ。玉石混淆、っていうのかな?星の数ほどいるウマ娘から、君という星を自分の太陽にしてくれるみたいな人がそのウマ娘に一番あってる、そう私は思うな。」

 

 

 

「私のトレーナーも、ずっと私を見ていてくれた。世間だとか、周りに飾られたみんなのヒーローミスターシービーじゃなくて。レースが好きなただ一人のウマ娘の私をね。」

 

 

 

私という等身大。

それを見つけられるトレーナー。……いるだろうか。

 

ミスターシービー先輩は、誰よりも自由だった……らしい。

今もそれは変わっていない、ように見える。

雨の日に、外に行く。

突然、海や山に行く。

 

 

それが、ミスターシービー先輩にとって大切なもの。

自由に価値を感じている。

人ごとに違う価値観。それを全面に強く出している、自由と、走りをこよなく好いているウマ娘。

 

それが、等身大のミスターシービー先輩なのだろう。

 

 

じゃあ、私の価値。

私の価値観。

私が信じているものは、自分と、勝利だけ。だから私には、勝利にしか価値がないように感じる。

感じてしまう。

 

 

だから、勝利を求める。

勝利に、存在価値を感じるようなウマ娘。

なら、私に合っているトレーナーというのは、今誰よりも勝ちを求めているトレーナー。

 

そんなトレーナーはごまんといる。

その中で、さらに私の過去を抜きにして、今の私を評価してくれるような。

そんなトレーナーが私にとって、最高のトレーナー。

 

 

 

そういうことだろうか。

 

 

 

「うん、ちょっとはスッキリしたかな?」

 

 

『はい、お陰様で。』

 

 

 

とてもありがたかった。

私を必要としてくれて、私の価値を正しく理解してくれるトレーナー。

それが、誰もが最低限トレーナーに求めることで、私が理想とするトレーナー像。

 

 

表情がない。

感情も外にあまり出そうとしない。

コミュニケーションも取れない。

そんな私でも、価値を感じてくれるトレーナーがいるのなら、私は勝利を何よりも求めようと思う。

 

 

でも、問題がある。

私の事を、私が走っている姿を知っているトレーナーがそもそもとして少ない事。

 

トウカイテイオーの才能に私は隠れている。

 

 

 

そのせいで、私は学園で全くもって有名ではない。

せいぜい、皇帝の従姉妹。

それもまあ大層な肩書きだとは思うが、それ以外全く認知されていないと思う。

 

影も薄いし、交友関係が少ないのも原因。

 

 

 

「……どうしたの?」

 

 

 

私にしては珍しく、顔に出てしまっていただろうか。

ミスターシービー先輩が首を傾げて聞いてくる。

 

まあ、大切なことも全て聞かせてもらった後なのだから。

 

 

 

『私、無名なので』

 

 

「あー、選抜レース、トレーナー数人しかいなかったしね。ルドルフが少しムッとしてたよ。」

 

 

 

トウカイテイオーの影響は凄まじかった。

数百人のトレーナーがいなくなる、一人のスカウトに向かうのはシンボリルドルフ、皇帝という伝説の存在にもあり得なかったこと。

それはつまり、トウカイテイオーにはそれだけの将来性が見られているということだろう。

 

 

無敗三冠は確実。

もしかすると七冠すらも超え、前人未到の十冠すらも。

そんな期待があるのだろう。

 

 

それに対して、私。

一部の者しか面識が無い。

寒門出身、皇帝とは血のつながっていない従姉妹。

それが、どうして有名になるだろうか?

 

 

 

「うーん……あ、いいこと考えた。聞く?」

 

 

 

悩んでくれていた先輩がポン、と手のひらに手を打ち付ける。

コクリ、と小さく頷くと、笑みを浮かべて。

その後、私を指差していった。

 

 

 

「君と私で模擬レースしようよ。……まあ本音を言うと最初は走りたくて声かけたんだけどね。どう?」

 

 

 

ミスターシービーと走る。

いや、ミスターシービーが走る。それは、普段ならいざ知らず、レースを直前とした今ではより注目される事態。

確かに私の知名度を上げるには良いかもしれないが。

 

 

良いだろうか。

故障の可能性だとか、そういった事を諸々考慮して。

相手に良いこと、メリットが無いような。

 

 

 

「ん、ああ。私が誘ってるんだから気負いとかは良いよ。どうする?走る?」

 

 

 

……本当にいいのだろうか、と思って。

でも相手がこういっているのだから、そう考えていることが失礼だと言うことに思い至った。

相談に乗ってもらったのだから。

断る選択肢はない。

 

 

 

「ん、じゃあやろっか。ちょうどコースも開いたみたいだしね。」

 

 

 

今からやるらしい。

幸い、互いに練習用のジャージなので着替えは必要なさそうだ。

下に降りるか、と階段に向かおうとすると。

 

 

 

「で、マルゼンはどうする?」

 

 

 

進行方向から人影が出てきた。

 

 

 

 

 

 




人はいつだって、前に向かって進まなければいけません。
オリ主も、少しずつ、前に進もうとしています。


終わりが雑ですみません。
後ちょっと忙しくなるので更新頻度落ちます。

誰との絡みが見たい?(いずれ書く)※選択肢にないウマ娘は、ストーリーが思いつかないか、作者が書けないです。すいません。

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