早瀬ユウカ
「先生、おはようございます。今日もお早いですね」
「朝食はもう摂られましたか? 良ければ一緒にコーヒーでも……」
「…………嘘」
「……いえ、何でもありません。少し、気になってしまっただけで──」
「何が、ですか? それは──」
「そ、そういえば! ノアと先に約束していたんでした!」
「すみません先生、これで失礼しますね」
「…………」
「落ち着こう、落ち着け、私。まだ確定はしていない。だから」
~~~
「せ、先生! これからお昼ですか?」
「お一人でしたら、良ければご一緒させていただけませんか? 偶然、私も遅くなってしまったんです」
「なら良かった。では、あの席が空いていますよ!」
「では、いただきます」
「先生、またそんなものを食べて……。きちんと野菜も摂取してください、そんなことではすぐに……」
「……いえ、何でもないです」
「ちょっとこれ、味付けが辛すぎるかもしれませんね。後で、担当者に文句を言いに行かないと」
「ごちそうさまでした。あの、先生、この後はお忙しいですか?」
「そうですか。なら──いぇ、でも、よく考えれば大したことない用でした! またお帰りの際にでも、改めてお話しましょう」
「はい、先生も頑張ってくださいね」
「…………」
~~~
「……ノア?」
「先生が私を? なら──」
「いや、ちょっと体調が悪いって伝えて。大丈夫、そんな深刻なやつじゃないから。用事も、後で連絡するし」
「お願い、ありがと」
「……はぁ、はは」
~~~
~~~
「先生、おはようございます……」
「この
「……ただの、個人的な理由ですから」
「わっ。だ、大丈夫ですから。ですので手を……あれ?」
「先生、その、指輪は……どうされたんですか?」
「はい、はぁ!?」
「間違えて、付けていた? 昨日は一人での作業だったから、気付かなかった?」
「はぁ……先生はもう、本当に……」
「この指にリングをするということの重大さが、分からない年でもないでしょう! 第一、文字を書くときにでも、水を飲むときにでもすぐに気付きますよね!? 普通!」
「いいですか! この際だから言っておきますけど、もっと身だしなみに気を遣ってください! ほら、寝ぐせだって跳ねて──」
「わ、私? 私の話はしていませんから──あぁもう、撫でないでください!」
「まぁ、周囲に多大な誤解を与えたことに関しては、別に許してあげます。悪気があったようでもないようですし?」
「ただ、もう二度と間違えないでくださいね? もし本当に付けることになっても、先に私に──」
「──いえ、何でもないです」
「さ、仕事に移ってください! 規定の時間を過ぎていますよ」
小鈎ハレ
「先生、おはよう」
「今日も早いね、D.U.からご苦労様。頼まれてたエナジードリンクは──」
「──や、何でもないよ。ちょっと用事を思い出しただけ。こっちの話」
「うん? 大事な用じゃないから大丈夫。それより、はいこれ。先生が飲みたがってたヤツだよ」
「ふふ、美味しいでしょ? 含まれているカフェインの量もなんと1.3倍になっていてね~、一日のクオリティが飛躍的に上がること間違いなしだよ」
「私? 何を隠そう、これで三本目。この勢いなら何徹でもできそうだよ」
「大丈夫、本当に疲れたらきちんと休むよ。自分の限界は分かってる。……無理はしてないから、さ」
「じゃ、作業を始めよう。とりあえず、頼まれてた資料がこれで──」
「──それで、二回目の実験の結果がこうなって──」
「──だから、三号モノレールの料金設定には改定の余地があると思うよ。先生はどう思う?」
「役に立った? うん、それなら良かった。せっせとデータを集めて解析した甲斐があったってものだよ」
「じゃあ、次は……」
「……先生、やっぱり聞くね」
「その指輪はただのファッション? それとも、貴方には婚約者ができたの?」
「…………」
「そぅ、だよねぇ」
「はぁ、考えてみたら当たり前だったや。先生、そんな素振り全然なかったし」
「ごめんって言われても……。まぁ、出歩く前で良かったよ。そのままセミナーにでも行ってたら、きっと凄い騒ぎになってたと思う」
「ううん、気にしないで。それじゃ、仕事に戻ろうか」
~~~
「じゃあね先生、今日はお疲れ様。気を付けて帰って、よく休んでね」
「うん、私もシャワーを浴びたらベッドに飛び込むよ」
「ばいばい、また明日。エナジードリンクはまた用意しておくね~」
「…………」
「……先生、次からは、もっと気を付けてね」
黒崎コユキ
「せ゛ん゛せ゛い゛~~、う゛ぁ゛~~~~~」
「わ、躱された」
「もう、ちゃんと受け止めてくださいよ! もう慣れたやりとりですし?」
「それより、聞いてください! またノア先輩に脅されたんですよ! あの目はもう、可愛い後輩を見る瞳とは──」
「──え、っと?」
「──あれ?」
「先、生?」
「あの、えっと、何でも、ないです」
「いぇ、近寄らないでください。その方がいいというか、きっと、そうするべきですよね? 何というか、その、お互いに」
「いえ、当たりどころが悪かったとかじゃないです。には、は。私は元気ですよ?」
「でも、今日はちょっと、解散にしませんか? ちょっと、気分が、気分が悪いので! アレです、寝たら治るやつですから!」
「……だから、大丈夫です」
「一人でいいのかって? ……はい。にはは、もう寂しくないので」
「はい! だから、さようなら。ノア先輩には、ちゃんと大人しくしているって伝えてください」
「はい、もう、寂しく……」
「寂しく……寂しくは、ないんです」
「せ、せんせい? だから、もう、出ていっていいんですよ?」
「なにを探してるんですか? あっ、指輪ならちゃんと指に……」
「……えっと、外しちゃって、いいんですか? には、大事なものなんですよね?」
「あの、せんせい? 出口はそっちじゃなくて、それは窓ですよ? 換気してくれるんですか? でも、そんなに開ける必要は──えっと、何を振りかぶって──、先生!? ちょ、投げようとしないでください、先輩に! 先輩に怒られちゃいます!」
~~~
「先生、顔を上げてください」
「はい、誤解だったのは分かりましたから! その指輪も、ただのアクセサリーなんですよね? ……こんなぐにゃぐにゃじゃ、もう付けられなさそうですけど」
「何というか、先生も結構力あるんですね」
「はい? 怒ってませんよ。ただ、少しだけ、取り乱しちゃいましたけど」
「いつもお世話になってますから、このぐらいどうってことないです」
「でも、そんなに言うなら、一つだけ」
「……今日は、ずっと一緒に居てくれますか?」
「にはは! じゃあ、何から始めましょうか!」