先生の薬指に指輪があったら   作:Haito

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ゲヘナ②(アコ/アル/セナ)

天雨アコ

 

「先生、いらっしゃいますか?」

 

 

「はい、先日の件で参りました。どうやら、緊急の対処が必要なようでしたので」

 

「では、早速打ち合わせを──」

 

 

「──って、はぁ!?」

 

 

「い、いえ。別に、何でもありませんよ?」

 

「ただ、何というか……」

 

「そう! 忘れていた用事を、ちょっと思い出しただけです!」

 

「えぇ、行政官たる私が取り乱すハズがないじゃないですか。全く、先生も落ち着いてください」

 

 

「でも、何かショックを受けているように見える……?」

 

「な、何を根拠にそんなことを」

 

 

「ですが、まぁ?」

 

「ストレスなら、増えているかもしれませんね?」

 

「それも、ほんのつい数秒間に。えぇ、どこかのどなたかのお陰で」

 

 

「って、そういうことじゃないですから! 首輪を持ってこないでください!」

 

「鞭も要りませんから! その蝋燭も! 新しく買ったんですか!?」

 

 

「……まったく、今後はそういう振る舞いも控えた方が良いですよ?」

 

「当然のことですから。まぁ、既にご自身でお分かりかもしれませんが」

 

「何で、って……。そんなの、胸に手を置いてみれば分かることでしょう」

 

 

「えぇ? わ、分からない? け、見当もつかない?」

 

 

「先生。そういう考えは、流石に大人としてどうかと……」

 

「……まさか、そういう(・・・・)大人だと? 先生がそんな──」

 

 

「コホン。しかし、先生が良くてもお相手が許さないでしょうね」

 

「ですので、私たちはこれで終わりです」

 

「では、その首輪も鞭も持って帰りますので。あ、蝋燭もいただいておきますね」

 

「しかし、まさか思いもしませんでした。突然、まさか前回で最後になるなんて……」

 

 

「……そう考えると、コレも結局使わないまま──」

 

 

「──いえ、今ならまだ、もう一度だけ……?」

 

「……えぇ、そうですよ!」

 

「仮に駄目だったしても、その時は先生が怒られるだけです!」

 

 

「ふふっ、完璧に理解しました」

 

「というワケで先生、やっぱりこの鞭を持ってください!」

 

「首輪は妥協して自分でします! なので、先生はこの仮面と黒手袋を付けてください! あっ、ロープはここに置いておきますので」

 

 

「賭け? そんなの今は良いんですよ!!!」

 

「これはアコらしくない、って……。仕方がないじゃないですか! これで最後になるんですから!」

 

 

「この目が、嘘偽りを言っているように見えますか!?」

 

「──はい、分かればいいんです。では早速、始めましょうか」

 

 

「その調子ですよ、先生。仮面を付けて、手袋もして、そう、指輪も外して──」

 

「──あれ、先生?」

 

「どうしたんですか、急に固まって。まだもう片方が──」

 

 

「──え?」

 

「付ける指を間違えちゃってた、と?」

 

「そんな、軽い感じで言われましても……。いや、それじゃあ、まさか──!?」

 

 

「一回! 一回止めましょうか! その仮面も一度外して!」

 

 

「……本来、その指輪は人差し指に付けるつもりだった」

 

「……先生は婚約も結婚もなさらない、と」

 

「えぇ、納得しましたよ。それはもう、完璧にね」

 

 

「はぁ、本当に人騒がせな……。ちょっと待ってください、別に再開しませんから!」

 

「あぁもう、分かりません!? 私が、何というかその、勘違いをしてたって!」

 

「全然気づかなかった? 違和感はあったけど、概ね普段通り?」

 

「もう、私を何だと思ってるんですか!」

 

 

「あーあ。何だかんだ満足……。ではなく、興が冷めてしまいましたね。今日は帰るとしましょう」

 

「仕事? そんなもの、私がやっておきますよ。別段、そんなに重要なものでもありませんので」

 

 

「ゴホン。では、このグッズはまた預けておきますね」

 

 

「……いえ、首輪だけは私が持っておきましょうか」

 

「どうしてか、って? まぁ、何となくですよ」

 

 

「それでは。また()()お会いしましょうね、先生?」

 

 

 

 

 

 

陸八魔アル

 

「先生、相変わらず早い到着ね!」

 

 

「この私と待ち合わせるんだもの……、ぜぇ、殊勝な心掛けよ!」

 

「まぁ? 当然、私の方が早く来ているのだけどね!」

 

 

「あ、汗をかいているように見える? 息も切らしているって……」

 

「……そ、そんなことないわよ! 見間違えじゃない?」

 

 

「そんなことより、早速会議を始めましょうか!」

 

「今回の議題は、便利屋68の新たなプロジェクトについてよ! その名も──」

 

 

 ~~~

 

 

「……なるほど。先生の知見は、やはり頼りになるわね」

 

「この私の先見の明と併せれば、きっと今回こそは成功するに違いないわ!」

 

「そうと決まれば、早速カヨコに連絡しないと──」

 

 

「──あら。カヨコ、それにムツキも。ちょうどいいじゃない!」

 

 

「ねぇカヨコ、この企画についてなのだけれど……」

 

 

「……え? 指輪?」

 

 

「えっと、私は別に今はしてないけど。どうかしたの?」

 

「せ、先生が? あぁ、よく見れば確かに──」

 

 

「──って、えぇ!?」

 

 

「せ、先生!? それ、薬指にしてるじゃない! ってことは、結婚するの!?」

 

「そ、その通りって……。本当に!?」

 

 

「ま、まぁ? もちろん祝福させてもらうわよ」

 

「なら、結婚式も挙げるのよね? なら、ご祝儀ってのが必要で、相場は……」

 

 

「さ、三万円!?」

 

 

「あぁ、折角余裕が出てきたのに……! それじゃ、毎日のラーメンが……」

 

「もう、カヨコも苦笑いしてないで考えてちょうだい! これは便利屋の今後に関わる一大事よ!」

 

「よく考えれば、先生という大事な人に贈るものだもの……。相場の二倍、いや三倍は最低でも絶対に──」

 

 

「ムツキ? そんなに笑っている場合じゃ……」

 

「……へ、冗談?」

 

 

「そ、そうだったのね!」

 

「まぁ、そんなことじゃないかと思ってたけど!」

 

 

「フン。別に謝る必要はないわ、先生」

 

「堂々たるアウトローのトップなら、部下のこれぐらいの悪戯は受け入れる度量がないと!」

 

 

「……それにね、先生?」

 

 

「本当に先生が結婚するってなっても、私に気を遣う必要はないのよ?」

 

「あなたがする選択なのだから、私が口を挟む領域じゃないわ」

 

 

「もしこの便利屋を離れるとしても、残念だけど受け入れるわ。何よりも、社員の意思が第一だもの」

 

「善悪よりも先に、それがあるべき社長としての姿でしょう」

 

 

「……どう? 惚れ直したでしょう? ……って、何よムツキ」

 

 

「じゃあ、本当に先生が誰かと結婚してもいいのかって……」

 

「も、もちろん? さっき言った通り、私は引き留めないわ」

 

「え? 最近、なんか先生と距離が近い方が居る……? れ、連邦生徒会の?」

 

 

「せ、先生? まぁ、こうして仕事も終わったことだし」

 

 

「この後、私とディナーでもどう?」

 

 

 

 

 

氷室セナ

 

「先生、来てくださったのですね」

 

 

「差し入れも、有難うございます。具の好みも覚えてくださっていたのですね」

 

「相変わらず、こんな場所で申し訳ありません。業務の都合上、どうしてもこういった地域での待機になってしまいますから」

 

「この雨では、月なども見えませんし。もし退屈でしたら、早めにシャーレに戻っていただいても構いませんよ」

 

 

「……まぁ、そう答えてくださると思ってはいましたが」

 

「やはり、不思議な人ですね。しかし、その心遣いが温かくもあります」

 

「こんな湿気の多く暗い場所は、耐えられこそすれど味気のないものですが──」

 

「──先生。貴方と居られるのなら、明るく楽しい場所に変わるような気もします」

 

「それで、願うのならば……」

 

 

「っと、先生はいつもこの先を止められますね」

 

「別段、構いませんが。些細なことですし」

 

 

「……しかし、このおにぎりは美味しいですね。やはり、しゃけが一番です」

 

「おっと、ゴミがそちらに。あぁ、拾っていただけますか」

 

 

「はい、有難う──」

 

 

「────────」

 

 

「──先、生?」

 

 

「……いえ、大丈夫です。少し、ふらついただけで」

 

「最近は、少し業務が立て込みましたから。恐らくは、その影響でしょう」

 

「はい、分かっています。無理はしませんので」

 

「自身の心身を守ることが、何よりも第一ですから」

 

 

「っと。どうやら、緊急で要請がかかったようですね」

 

 

「今回の現場では、感染症の危険が予想されています」

 

「ですので先生、この手袋を二重にしていただければと」

 

 

「……はい、それで構いません」

 

 

「車を出します、準備をしてください」

 

 

 ~~~

 

 

「先生、シャーレに着きましたよ」

 

 

「はい。これにて、本日の業務は全て完了です」

 

「今日は有難うございました。とても助かりました」

 

「しかし、こんな大雨になるとは。二次災害に繋がらないか心配です」

 

 

「こちらのシャワーを使うか、と? いえ、今回は大丈夫です」

 

「まだ、ゲヘナの方でやることが残っていますので。お心遣いは感謝します」

 

「先生も、どうかお体に気を付けてください。戻ったら、すぐにシャワーを浴びるように」

 

 

「……はい。では、さようなら」

 

 

 ~~~

 

 

「……どなた、ですか?」

 

「今は、出たい気分ではありません」

 

「業務や学業の連絡なら、携帯端末を通して……」

 

 

「……先生?」

 

 

「今は、貴方とも会いたい気分ではありません。ですので、お帰りください」

 

「……どうしても、です。だから、来ないでください」

 

 

「来ないでと──あぁ。鍵をかけるのを、忘れていましたか」

 

「……好ましいことではありませんね、先生。生徒の部屋に無断で入るなど」

 

「……濡れたままでいるのも、私の自由です。立ち入らないでください」

 

「最後に、もう一度だけ言います。早く出て行って──」

 

 

「──その、左手は」

 

 

「あぁ。やはり、そういう……。はは、なら、良かった」

 

 

「……はい。やはり、違った指に、付けていたって……」

 

「……どうして」

 

 

「どうして、貴方はそんな残酷な間違いが出来るんですか」

 

「ごめんって、それだけで済む訳がないじゃないですか」

 

 

「私がどんなに心を揺さぶられ、胸を締め付けられたか……」

 

「……先生に、果たしてお分かりになるでしょうかね」

 

 

「……あぁ。本当に、嫌な日になってしまいました」

 

「こんなに頭が真っ白になり、これまでの自分の行いが想起された時間はありませんでしたよ」

 

「先生が私に下さった優しさが、どれ程のものだったのか。先生と過ごす時間が、どれだけ楽しかったか。私にとって、先生がどれぐらい大切なのか……」

 

 

「……そして、一つだけ疑問が生まれました」

 

 

「──先生。貴方にとって、私とは何なのでしょうか」

 

「私と同じように、愛や恋といった感情を捧げるに相当する存在なのでしょうか」

 

 

「答えてください。誤魔化さずに、肯定か否定かで、はっきりと」

 

 

「否ならば、もう私を助けていただかなくて結構です。今度こそ、この部屋から出てください」

 

「たとえ生徒と先生という形だとしても……。貴方から受ける優しさは、もう苦痛になってしまいまから」

 

 

「……ですが」

 

「もしも、肯定してくださると言うのなら──」

 

 

「──こちらへと来て、私を、抱き締めてください」

 

 

「………………」

 

 

「……はい、先生。ずっと、こうしたかった」

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