悪役憑依のヒーローアカデミア 作:轟家の犬
目を覚ます。
何やら視界がぼんやりとしていた。
え、なにこれ? 俺の目どうなっちゃったの?
湧いて当然の疑問を口にしようとして、出てきた言葉はこうだった。
「あ~うぁ~」
可愛らしい赤ちゃんボイス。正直自分で自分が信じられない。いくら寝ぼけているからって赤ちゃんボイスは無い。
もしかして俺は自分でも分からないうちにバブみに目覚めていたのだろうか。
やだ何それ。信じたくない。
「目を覚ましたか」
「……ええ……」
何やらぐぐもって聞こえないが、誰かの話声が響いた。
えっ、俺一人暮らしのはずなんですが。
「名前を決めなければな」
何やら巨大な人間のようなものが現れて、俺を抱き上げてきた。浮遊感が与えられてめっちゃ怖い。
「ふぇぇぇん!」
「良く泣くいい子だ。お前の名は……燈矢。轟燈矢だ」
あえ……轟燈矢、だって?
ん? 聞き覚えがある名前だ。
って言うか目の前のぼやけた人、なんか顎髭とかが燃えてませんか?
えっ、これってもしかして……エンデヴァー?
「ふえええええええ!?」
あまりの事態に泣き叫ぶ俺を、エンデヴァーこと轟炎司が、野心のこもった目で見つめていたのだった。
◇
何が何だかわからないまま、俺はすくすくと成長していった。
身体が赤ちゃんだからかは分からないが、俺の意識はほぼ無い。ふと夢でも見るかのように自我を取り戻すのだ。
他の時間は完全な赤ちゃんとして振舞っているようで、お陰でおしめを変えてもらったりなどの尊厳破壊は今の所起きていないし、疑われるようなことも無い。
ふと気が付けば1年が経ち、2年が経過し……視界も早いうちに正常になり、この世界がヒロアカの世界で、俺が登場人物の1人である『轟燈矢』に憑依転生してしまったことが確定してしまった。
ヒロアカってあれでしょ? 終盤で日本が丸ごとめちゃめちゃになってしまう超過酷世界のことでしょ?
い、いやじゃいやじゃ! なんで寄りによってそんな過酷な世界で、悪役として転生しなきゃならんのじゃ!
正直、何度も夢であれと願ったが、俺は一向に目を覚ますことは無かった。
月日は矢の如く過ぎ去っていき、俺は4歳になっていた。
「燈矢、お前はもう個性を使うな」
「嫌だ」
「嫌だ、じゃない! お前は、個性を使うたびに火傷するんだぞ!」
「うるさい! 個性使うもん! もっと強くなるもん!」
「俺の言う事を聞け、燈矢!」
「強くなって崩壊した日本を乗り切るんだもん! ヒーローになって公金チューチューして楽に生きるんだもん!」
「ダメだと何度言えば……っ、お前、そんな言葉どこで覚えてきた、燈矢ああああ!」
穏便に事を済ませ、俺は自分の部屋に戻った。
「……さて、どうしたものか」
エンデヴァーはああ言っていたが、この世界は非常に危険だ。日本が文字通り崩壊するのである。
それは、そう簡単には止められそうにない。当然悪の元凶は存在するのだが、オールマイトの死亡やそれまで燻っていた個性社会のひずみなど、多くのものが作用してああなったのだ。俺一人のイレギュラーの影響でどうにかなる規模ではないだろう。
つまりどういうことかというと、自衛ができる程度の力は手に入れておきたい。
……というのもあるし、俺が否定して駄々をこねないと、夏雄や焦凍が生まれてこない可能性もあるんだよなぁ。燈矢君の夢を否定するためにエンデヴァーは躍起になって焦凍を生み出したのだから、当然だ。
その代わり父さんと母さんがヤバい感じになったりするが、そこはフォロー入れて何とかしてみるつもりだ。
そういう訳で個性のトレーニングは続けるのだが……痛いんだよなぁ。普通に痛いんだよ、火傷。
当然だ、肉が焼けているのである。
むしろ原作の燈矢君は一体どうやってこの痛みを耐えていたのだろう。
どうにかできないものか。
◇
「何故分からん! お前は外を見ろ……! 学校に行って友達と遊べ! 勉強をして別の道を生きろ! そうしていくうちに忘れる……!」
はい、という訳で焦凍が無事生まれました。半熱半冷のチート個性もしっかり持って生まれてきたよ。あー、良かった。これ見よがしに火傷作って来たりしてきた甲斐があったってもんだ。
「まあ落ち着けパパ上」
「パパ上……!?」
俺は膝を付いて俺の肩に手を置く父さんの肩を叩いた。
「俺は別に、オールマイトを超えるヒーローとか目指してないよ」
「むっ……!?」
「ただ、俺は……」
俺の言葉を、エンデヴァーは喉を鳴らして表情をこわばらせる。
「ただ……父親がプロのヒーローという事を利用して、楽してヒーローになって、楽な仕事をして、楽に稼ぎたいだけなんだ……!」
「燈矢ああああ! 誰がお前をそんな風にしたああああ!」
めっちゃ燃えてて草。
◇
「夏くん……夏くん……」
「……眠いよ燈矢兄……」
夜、俺はゴゴゴゴ……と弟である夏雄に語りかけていた。
「ス〇ブラしよ……」
携帯ゲーム機を取り出して、悪魔の誘いを仕掛ける。
「ゲームは夜中やっちゃだめでしょ……」
「やっちゃダメだから楽しいんじゃないか……!」
圧力をかけると、夏くんは鬱陶しそうに寝返りを打った。
「たまには姉ちゃん誘えよ……」
「ダメだダメだ! すぐに母さんにチクられて怒られる……! 分かるだろ……!? 怖いんだよ、うちの女は皆怖いんだ!」
「へえ、誰が怖いって?」
母さんの声が後ろから響いた。
「これはこれはママ上殿……ご機嫌麗しゅう」
「ご丁寧にどうも。でも、私今ご機嫌麗しゅうございませんわ。ちょっと来なさい、話があります」
俺は布団を蹴飛ばして逃げ出した。
「あっ、コラ! 逃げるんじゃありません! 待ちなさい燈矢!」
「おやすみ~、燈矢兄、母さん……」
◇
「やっとできた」
轟家所有の訓練場……そのうちの一つである、とある森の中。
俺は10年かけてやっと到達した。
やけどをしないで個性を使う方法だ。
まず、火の粉を飛ばす。そして自分の身体から離れた場所で火の粉を操り、一気に炎を大きくする。
俺はどうやら、炎の出し方も特別仕様だったらしい。
原作に出てくる外典が、自分から氷を出すのではなく離れた場所の水さえ氷にして操っていたのと同じことを、俺は炎で出来るようになったらしい。
エンデヴァーや焦凍とは違い、そこに火種さえあれば、離れた場所で炎を出せる。これなら火傷する必要もなく炎を操れるし、火事などの災害時もすぐに火を消せたりとかなり汎用性が効く。
更に丸太などの棒に火を付けて、ジェット噴射して飛ばすことで、物理攻撃をしたり、自分を空に飛ばしたりすることも可能。
丸太が火消しに使う纏になれば、炎々ノ消防隊に出てくる新門大隊長のコスプレも可能と、本当に幅広く使うことができる。
「という訳で、俺を見ろエンデヴァー」
「急に何だ、燈矢」
寝間着姿の父さんの前にろうそくを並べて、それを離れた場所から一気に火をつけた。
「お前、これは……」
「ふっ」
「燈矢……まさか、自分で編み出したのか!? 火傷をしない個性の使い方を……!」
父さんのテンションが一気に上がる。
「行ける……これならいけるぞ! オールマイトを超えるヒーローにお前は成れる!」
「いや、ならんけど」
「なんだと!?」
「俺は、楽してヒーローになる男だ!」
気分は麦わら。ウィーアーヒーロー。
父親の七光りがあったら使うよね。俺もそうする。
「燈矢あああ! 何故そんな風に育ってしまったんだ!」
父さんの慟哭が深夜0時に屋敷に響いた。
その日から、訓練が再開されてしまった。
テンション上がってたからとは言え、父さんに教えなきゃよかった。
目指すは雄英らしい。勉強しなきゃじゃん。キッツ。