悪役憑依のヒーローアカデミア 作:轟家の犬
エンデヴァーからの特訓が再開されたが、あまりのきつさにブチ切れて絶賛親子喧嘩中です。
轟燈矢14歳。
エンデヴァーの顔に青タン付けた代わりに全身に青タン付けさせられた哀れな男が俺である。
途中で『ヒーローの癖にガキに顔面殴られてて草ァ!』とか『ヒーローなのに家ではヴィランそのものなの偉いでちゅねえ!』、『ヒーローとしては一人前のようだが父親としては三流以下のようだなぁ!?』、『二度と焦凍に近づくな!(キリッ』とか言いながら、カバディ染みた動きしてたら向こうから家を出ていってしまった。
おいたわしやパパ上。でも帰ってきたらもう片方の目にも青タン付けてパンダみたいにしてやるから覚悟しろ(豹変)。
という訳で家では色々あったものの、未来の為にも実力を上げるための普段のルーチンをおろそかには出来ない。
今日も今日とて俺は轟家所有の森の特訓場にやってきた。
……のだが。
「やあ、今日はいい天気だね……月が綺麗だ」
そう言って月を見上げるのはスーツ姿の男。
顔は影に隠れていてよく見えないが、どう見ても堅気の雰囲気じゃない。
「申し遅れた。僕の名はAFO……君を迎えに来たんだ。轟燈矢君」
そこには、悪の権化が立っていた。
◇
AFO。それはヒロアカにおける諸悪の根源でありラスボスその人でもあるやべー奴である。
日本崩壊の引き金を引いた張本人の1人と言ってもいいくらい頭がパー。
その上人の命をゴミか何かだと勘違いしている勘違いおじさんのレベル100個体でもある。
「エンデヴァーの息子である君にはかねてから興味を持っていてね。友人がそんな僕の意を汲んで見張っていてくれたんだよ。そしたらどうだ。出てくる出てくる、ナンバー2ヒーローの闇と歪みが! これは放っておいてはもったいないと思って出張ってきてしまったよ」
「……」
「エンデヴァーと喧嘩したんだってね。あの男は父親としては最低だったようだ。個性婚に最高傑作がどうのこうのと……その上、息子の夢までくじこうとした。分かるよ、君の気持ちは……そんな男の息子として生まれてしまい、辛かったろう、悲しかったろう。でももう大丈夫、僕が来た」
手を差し出してくる不審者。
「僕らはもう友達だ。さあ、この手を取るんだ」
「あ、お断りします」
俺はそう言って、丸太にジェットを付けてその男に思いっきりぶつけた。
そして周囲に一気に入道雲のような炎の塊を生み出して、目くらましにしてその場から遁走。
丸太をもう一本使ってタオパイパイの真似して空に跳び出した。
「あばよ、とっつぁん!」
最悪だ。最悪の事態だ。俺は凄まじい勢いで空を飛びながらあまりの事態に頭痛を感じていた。
思えばコイツ、死にかけた燈矢君をわざわざ遺体を用意して秘密裏に助け出すくらいには注目していたんだっけ。
エンデヴァーの息子。それだけでも目を付ける理由に値する。
逆に、事ここに至るまでその可能性に一切気付かなかった俺って本物の馬鹿じゃん。
学校のテストではいつも高得点取ってるのに、要領悪くてバイトで使えないタイプの馬鹿じゃん。
前世の俺だよ。こいつ全く成長してねえ。
とにかく距離を取らなければ、何されるか分かったもんじゃ――――。
「そう逃げないでほしいなあ、轟燈矢君」
「うわキモ無理」
不意に景色が変わっていた。
空の光景から、さっきまでいた森の訓練場に。
そして目の前にはアフォ。手のひらから、黒いもやもやを出している。そのまま俺に触ろうとしてきたので、丸太をぶつけて距離を取る。
「便利だろう、これ。手のひらから靄を出して、好きな所から好きな所へ転移できる個性なんだ。欠点と言えば手のひらからしか出せないから、あまり大きなゲートは作れないという所か……全身もやもやだったらもっと巨大なゲートを作り出せるんだろうけどね」
それってYO! なんか聞いたことあるなぁ!?
でもまあ今はどうでもいいか。
とりあえず巨大な炎出して森焼き尽くしとこ(豹変)。
「おいおい、さっきので炎は僕には効かないと分かっただろうに」
そこまで言って、アフォは笑みを深めた。
「酸素が狙いか。良いね、面白い」
そりゃまあ気付くか。
俺の炎は別に酸素を燃やしてるわけじゃない。個性によって生み出された可燃性の何か不思議なエネルギーを燃料にして炎を生み出しているのである。
じゃないとあっという間に空気中の酸素が消えて酸欠になってしまうし、エンデヴァー程の炎は酸素だけが燃料じゃあ説明がつかない。
だが、とはいえ酸素を燃やせないとは言っていない。使い道を誤らなければこれも立派な武器となる。
という訳でアフォが対応してるうちに俺は遠くに行く!
もう一度丸太ジェットで空に打ちあがる。
「あの家庭環境だと高確率で人格が捻じ曲がると思っていたけど、期待外れだったかな。まさか当の本人がこれとはね……こうなると個性を奪って殺してしまいたいところだが……」
と、ここでサイレンの音が遠くからなり始めた。
「なるほど、派手に森を燃やしたのはこれも狙いだったか。ここで表ざたになるのは少し面倒だな。しょうがない、お暇するとしよう。轟燈矢君。次に会える日を楽しみに待っているよ」
俺は遠くに着地し、汗を拭った。
死ぬかと思った。ここまで特訓しておいて良かったと思ったことは無い。
その後、警察に保護されて俺はひとまず病院へと運ばれたのだった。
◇
「燈矢兄!」
夏雄と冬美が病室に入ってきて、そして遅れて母さんと焦凍も転がり込んでくる。
「ヴィランに襲われたって……無事なの、燈矢!」
「燈矢兄、大丈夫!?」
心配そうにする女神と天使たち。俺は妹と弟二人の頭を撫でた。
「安心しろ。俺は無傷だ。まあ山は消し飛んだけど」
「それだけの相手だった、ってことだろ!?」
「まー、そうかもしれんが、とりあえず無事なのは確かだ」
そこまで言うと、ようやく安堵したのか全員が息を吐きだした。
「肝が冷えたわ……燈矢が無事でよかった……」
「母さん……」
何か言おうとしたが、俺はふと熱を感じて口を閉ざした。
「……? 燈矢兄?」
「来るぞ、焦凍。奴だ」
「燈矢ああああ! 怪我はないか!?」
エンデヴァーがヒーロースーツ姿で病室に入ってきた。
「ヴィランに襲われたと聞いたぞ! 無事なのか!?」
「パパ上、暑苦しいから帰れ」
「父に向かってなんだその言い草は!」
めっちゃ燃えてて草。でもいつもより勢いがない。
「心配したんだぞ!」
怒るか心配するかどっちかにしろ。
「怪我はないな……流石は俺の息子だ」
「けっ」
「なんだその態度は!」
エンデヴァーはため息を吐き出し、そして母さんに目を向けた。
「冷、悪いが他の子ども達を外に」
「そんな、来たばかりなのに……」
「少しの間だ。燈矢には話してもらわなければならないことが沢山ある。……ヴィランは俺が必ず捕らえる。俺の息子に手を出したことを、後悔させてやる」
エンデヴァーは凄まじい眼力で、見た事の無いヴィランを睨みつけていた。その横顔を、母さんとその子どもたちが目撃する。
「……分かりました。ほら、行きましょう皆」
病室から出ていって、エンデヴァー……父さんと二人きりになる。
父さんは椅子に座って、俺と向かい合ってきた。
「聞かせろ。お前を襲ったというヴィラン……AFOの事を」
俺がさらっと警察に喋っていた情報を共有してきたのだろう。その名を当たり前のように口に出した。
「……聞かせろって言われたって、話せることは少ないけど」
「構わん。ひとつ残らず話せ」
これって原作崩壊だよなぁ。
まあ別に気にしないけど。俺にとっては焦凍が生まれてきた時点で原作を守る気は一切無い。
大まかな流れが変わらなければ、後は自由にやるつもりだ。
転生者だから異物、なんて思想は俺にはない。俺だってこの世界で生きる一人の人間だ。
俺はとりあえず容姿と喋り方を細かく教えた。その上で情報を上乗せしていく。
「まず一つは、俺らの家庭のことを結構知られてた。近くに協力者がいるっぽい。今日父さんと俺が喧嘩したことも漏れてた。で、二つ目はそんな俺を仲間に引き入れようとしてきた。最後の三つ目は、奴は熱に対する耐性を持つ個性、ワープゲートを作る個性、無酸素状態でも生きられる個性を持ってて、更に最後に俺を殺して個性を奪うとかどうたら言ってた」
「……」
父さんはそこまで黙って聞いて、「そうか」と短く答えた。
「そこまで分かれば十分だ。後は俺に任せろ。ソイツは必ずタルタロスにぶち込んでやる。……よくやった、燈矢。それから……すまなかった」
父さんは立ち上がり、そしてそのまま外へと出ていってしまった。
エンデヴァーが謝った。
明日は槍が降りそうだな。
◇
「……AFOについて手を引けだと!? ふざけるのも大概にしろ!」
数日後、炎が吹き上がった。
公安局の建物。そのとある一室から出てきたエンデヴァーは、先ほどの公安との会話を思い出し怒りに燃えていた。
「公安が動いている……箝口令に辻褄合わせ。行動がいくら何でも早すぎる……何が起きている……!」
エンデヴァーは執念に燃えた瞳で天井を睨みつけた。
「AFOとは……一体何者だ」
そこまで口にしたところで、不意にすぐ隣に巨大な人影が現れた。
「……オールマイト」
「やあ、エンデヴァー。久しぶりだね!」
彫りの深い笑みを浮かべて片手を上げる仇敵。
エンデヴァーは凄まじい形相で睨みつけた。
「何故貴様がここにいる」
「君に話があるんだ。AFOについて、知っていることを話したい。とりあえずここじゃなんだし、部屋を一つ借りてるんだ。そっちで話そう」
オールマイトはそう言って歩き出す。エンデヴァーは無言でその背中を追った。
「……以上が、私とAFOの因縁だ。奴は協力者を増やし続け、闇の帝王として君臨し続けている」
「……ふんっ。公安が躍起になって存在を秘匿する訳だ」
エンデヴァーは気に食わない気持ちを隠そうともせず鼻を鳴らした。
「何故話した。上の奴らは俺に聞かれたくないようだったが?」
「君は知るべきだと思った。というか、知らないままで満足するような男じゃないだろう、君」
「知ったような口を利くなァ!」
「ご、ごめん」
オールマイトは席を一つ挟んで、真摯に語り掛けた。
「エンデヴァー……君が事情を知る一人となり、味方となってくれたら私としてはこれ以上心強い味方はいない。ここは協力し合わないかい?」
「冗談じゃない。誰が貴様と協力などするものか! AFOについては独自に調べ、俺が捕らえる! 貴様の出る幕はもうない。話は終わりだな。貴様と違い俺は忙しいんだ。行かせてもらう」
エンデヴァーが部屋から出ていく。
「エンデヴァー!」
それをオールマイトが止めた。
「……まだ何か用か?」
「いや、最後にどうしても伝えたくて。君の息子さんのことさ! AFOは私が本気を出してもとらえきれない強敵だ。それを相手に無傷で逃げおおせるなんて、とんでもない偉業だ。轟燈矢君……本当にすごい息子さんを持ったね」
「……ふん、当然だ。俺の息子だからな」
エンデヴァーはそう言って、部屋を出ていった。
残されたオールマイトは一人笑みを浮かべた。
「相変わらずあたり強いな~! でも、前と比べると何かが変わった気がする。良い変化であれば良いのだが」
そう呟いて、オールマイトは「……不味い、時間だ!」と時計を見て驚き、窓を開けて飛び立ったのだった。