やってきましたグラウンド。ヨミさんと珠姫さん、そして川口姉妹がそれぞれペアでキャッチボールをしている。私ハブられてるんだけど……。
「誰もいないわね……」
「停部期間は終わってる筈なんだけどね。このまま廃部になっちゃうのかな……」
話によると、2年生の先輩が2人いるらしい。この場にいないのは今日偶々いないのか、それとも辞めてしまったのか……。
「どう?私の直球は?」
「普通かな」
(でも1回戦負けはもったいないかな……)
ヨミさんと珠姫さんのキャッチボール。珠姫さん目線でヨミさんの直球は普通みたい。まぁ本気じゃないだろうしね。
「あはは……。タマちゃんは手厳しいねぇ」
「投球練習、してみる?」
「うん!」
野球をやるつもりはないと言ってたヨミさんだけど、こうして投球練習に乗り気なのは性なのかもね。
「よーし。じゃあ私が打席で見てあげるわ!」
「じゃあ私は審判ね!」
なんかあれよあれよと決まっていく……。じゃあ私は観客?
「良いけどヘルメットかぶってね。あと後ろ危ないよ?」
「その心配はないんじゃない?珠姫さんは公式戦の捕逸0なんだし」
「うんうん!信頼してるよ!」
(早川さんはともかく、こっちの子は何者……?)
実際の投球と同様の距離……。
「そうだ。ヨミちゃん、あの球は投げないの?」
「え……」
(あの球……?)
ヨミさんの決め球かな?
「昔カラーボールで投げてた魔球の事だよ」
カラーボールか……。幼少期の野球ごっこみたいな遊びでやってたのかな?カラーボールは軟球とも硬球とも違うから、面白い変化球が投げられそうだね。
「投げて……良いの?」
あれ……。ヨミさんの空気が変わった?
「捕れるの……?」
「な、投げられるの?硬球で!?」
「似たような球なら……」
「投げて!きっと捕るから!!」
「な、なんか空気が変わったような……。嫌な予感がするわね」
(きっと投げられるのは……!)
(ヨミさんの決め球だね……)
(何が来るんだろう……。あの球と似たような球って事は多分カーブ系だと思うけど……)
「いくよ……!」
(あんなのオモチャのボールでしか投げられない……よね?)
「こい……!」
武田さんから投げられたその球は打者役の息吹さんの頭部へと向かっていく。
(ヤバッ!すっぽ抜け!?)
「へ?」
(息吹ちゃん避けてっ!)
芳乃さんは先程言っていた。ヨミさんの決め球はカーブ系だと。だからここから……。
(落ちてくる……!)
ズバンッ!
右打者の顔付近から大きく曲がり、低めに落ちていく……。これがヨミさんの……武田詠深の決め球か。
「か、顔に当たるところだったじゃない!」
「確かに直球なら顔に当たるけど、そこから大きく曲がるその球はストライクゾーンに入ってるよ」
「うん。入ってるね」
「マジ!?」
あれ程大きく曲がる球はそうそう見れないね。これで1回戦負けって事は……。
(組んでた捕手が今の球を捕れなかった……ってところかな)
少なくとも珠姫さんと組んでたら、県ベスト4くらいは狙えるんじゃないかな?
それからもヨミさんはあの球とやらを投げ続け、珠姫さんはそれを全て捕球していた。流石だね。
「次で最後の1球ね」
「うん……」
「あの2人にも色々あるのね」
「人間誰しも問題を抱えているものだよ」
私も……野球がつまらなくなってきているしね。
「も、もう1回打席で見てくるわ」
「さっきは目を逸らしちゃったから?」
「ええ……」
ヨミさんと珠姫さんがこれから野球を続けていくのかはわからない。でも今はこの瞬間を……2人が紡ぐ物語を見ていよう。
「こ、今度はちゃんと見てあげるから、ほ、本気で投げても良いわよ!」
息吹さんはヘルメットに加えてプロテクターとレガースも着けて戻ってきた。武装態勢じゃん……。
「あはは!」
「な、なにが可笑しいのよ!?」
今の息吹さんの格好じゃないかな?
「ううん。なんか楽しいなって……」
「変な子ね……」
「……それじゃあラスト1球ね」
最後に投げられた球はこれまでよりも想いのこもっていた球だった……。
ズバンッ!
「……ナイスボール」
本当に、良い球だったよ。
……という空気のままで終わる事なく、次は私の番になった。
「まさかこんな機会が来るとは思いもしなかったよ……」
「本当にね……。ガールズ時代は敵同士だったし」
「タマちゃんのチームと葵ちゃんのチームって戦った事があるんだね?」
「練習試合で1回、全国大会で1回。両方共その時の捕手は珠姫さんだったよ」
「そして両方共投げていたのは葵ちゃんだったね……」
当時投げていた吉川さん……だったかな?その人の荒れ気味の球を珠姫さんが上手くコントロールしていた。ウチの打線次第では全然負けていた試合だったと記憶しているよ。
「負け試合0って事は葵ちゃんのチームが2試合共勝ってたの?」
「一応ね」
(葵ちゃんの決め球……『マリンボール』って呼ばれてたその球はわかっていても打てない絶対的な球だった……。ウチのチームの方針ではマリンボールが来る前に投げるカウントを稼ぐ球を狙ってたっけ。それでも打ちきれなかったけど……)
かつて敵対していた人と今はこうしてバッテリー練をしている……。人生何があるかわからないよね。
「じゃあまずは適当に数球投げるよ」
「OK」
決め球以外の持ち球はカーブ、チェンジUP、カットボールだ。もう1つくらい何か覚えておきたいな。
ズバンッ!
(直球……速くなってる。それに制球もしっかりしてる。流石だね)
「アンダースローなのね……」
「このアンダーが早川葵のフォームだよ!深いけど、サブマリンよりかは高く投げてる……」
それから10球程投げ続け、良い具合に肩が暖まってきた。
「じゃあそろそろいくよ。私の決め球……!」
(っ!くる……!)
(葵ちゃんの決め球……!)
(マリンボールが……!)
今日は良い物を見せてもらった。そのお礼になるかはわからないけど、見せるよ。私の決め球を……!
「「綺麗……」」
ズバンッ!
「……ナイスボール!」
「ま、まさか葵ちゃんの決め球を生で見る事が出来るなんて……!感動だよーっ!」
芳乃さんが感極まってる。テンション高くて着いていけないよ?
「ガールズ時代に打てなかったこの球を捕る事が出来るなんて……」
「ヨミさんのあの球を捕れる珠姫さんなら絶対に捕れると思ってたよ」
「これが葵の決め球……!」
「その球はまるで滑らかで綺麗な流水を見ているかの如く……。神奈川からその球が大きく広がり、葵ちゃんがアンダースローなのも相まってやがて『マリンボール』と呼ばれるようになった!」
芳乃さんのいう流水云々は比喩表現ね。本当に水が見えてたら、その人の目を心配するレベル……。
「ヨミちゃんの決め球がカーブ系、そして葵ちゃんの決め球がシンカー系……。奇しくも2人は対の存在だね!」
言われてみれば確かに……。
「……どうするヨミさん?ここまで持ち上げられているけど」
「そうだよヨミちゃん。もう野球はしないの?」
「ヨミちゃんと珠姫ちゃんはきっと良いバッテリーになるよ!それに葵ちゃんと珠姫ちゃんのバッテリーも見られるよ!」
後者はヨミさんには弱いアピールじゃない?
「……芳乃ちゃんと息吹ちゃんが見てくれて、葵ちゃんと一緒に投げ合って、タマちゃんが捕ってくれるなら、やりたい。やりたいよ!」
「……うん。やろうよ。ヨミちゃん!」
「タマちゃぁん……!」
良かったねヨミさん。自分の球を肯定してくれる捕手と出逢えて……。しかもそれが幼馴染とか胸熱いじゃん。
(なんか良いな。こういうの……)
この人達なら、私も野球を楽しめるかも知れない。ガールズ時代になかった感情が芽生えるかも知れない……!
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期間不定期でももっと文字数がほしいなぁ。