「野球部に入りませんかー」
先輩達が復帰した翌日。ヨミさんと川口姉妹と一緒に野球経験者に声掛けをしている。ちなみに何故経験者なのかがわかるのは芳乃さん調べだ。
「経験者だよね?1度練習を見に来てよ」
「ごめん。将棋部に入ったんだ」
「最悪助っ人でも良いから入らない?結構昔に八丈島にある高校なんかは将棋部や囲碁部が野球部の助っ人に来てた事があるんだよ。兼部でも問題ない(と思う)よ」
「や、止めとく……」
粘り強い勧誘も断られてしまいました。いけると思ったんだけどなぁ……。
「野球経験者と思われるのはさっきので最後だね」
「明日からは未経験者にも声を掛けていきましょ」
もう形振り構っていられないからね。
「そういえば……」
「どうしたの葵ちゃん?」
「入学式の日に野球上手そうな雰囲気の子とすれ違ったんだよね」
「そうなの?」
「振り返った時にはもうその子はいなくなっちゃったし、クラスもわからないから、会える可能性は低いけどね……」
顔は覚えてるんだけどねぇ……。金髪で花弁の髪止めをしてた可愛い子だった。また会えないかなぁ……?
「そろそろ練習に行こっか」
芳乃さんの号令によって今日の勧誘は終わる事に。それはそれとして練習頑張ろう!
……で、練習時間。
ズバンッ!
「ナイスボール!」
私はヨミさんと交代で投げ込みをしている。ヨミさんはちょっと出て行ったんだよね。どこ行ったんだろう……?
「綺麗なシンカーを投げるわよね……」
「なんか水が流れてるイメージが見えた気がするぜ……」
二遊間コンビが私のシンカーを見てぼやいていてた。実際に稜さんみたいな感想を抱いている人多いよ。だから『マリンボール』だなんて呼ばれる訳だけど……。
「皆~!入部希望者だよ」
外に出てたヨミさんが入部希望者(?)を連れて戻ってきた。
「歓迎するよ!」
「キャプテン、余り威圧しないでくださいよ?」
「わ、わかってるよ……。コホン。主将の岡田です。2年生……。ポジションとか適当に自己紹介をお願いします」
怜先輩……。なんかぎこちないな。もしかして昨日の件を気にしてる?そんな怜先輩は置いといて、2人の自己紹介が始まる。
「お、大村白菊です。中学までは剣道部なので野球は初心者です。なのでポジションはまだ決まってません……」
「剣道かぁ……。なんでまた野球部に?」
「いえ……。個人競技以外もやってみたくて……」
野球って団体競技ではあるんだけど、ある種の個人競技でもあるからね。尤も彼女の場合は他にも理由がありそうだけど……。
「剣道かぁ。良いね。鍛えてるね!」
大村さんは野球初心者だけど、意外と良い活躍を見せるかも知れない。息吹さんも初心者ながらセンスを見せてるし……。
「次、そっちの子良い?」
「はぁ……」
そして2人目の自己紹介。
「中村希……。一塁と外野してました」
中村さん……。
「芳乃さん、この人だよ。さっき言ってた入学式の日に私がすれ違った子」
「そうなんだ!中村さん、おてて見ても良い?」
「えっ?うん……」
芳乃さんが中村さんの手をおもむろに見始めた。
(私の見立てでは彼女、相当優れた打者だと思うけど……)
多分ガールズ出身じゃない。菫さんや稜さんのように中学野球かな?そして芳乃さんが知らないという事は恐らく埼玉県外の人間……。ぎこちない標準語に言葉のイントネーションから察するに……。
「それじゃあ体験入部って事で、バッティングでもしてみる?」
「良いんですか!?」
中村さんの方は乗り気じゃなさそうだけど、バッティングと聞いて参加する事に……。
「頑張れ~!」
順番は経験者の中村さんから。左打ちなのを見ると、ふと新越谷野球部に左打ちが1人もいなかったのを思い出した。息吹さんとか左打ち出来そうなのにね。
「じゃあお手並み拝見といくかぁ!」
稜さんがマシンの設定を県内最速投手に合わせてあるみたいだけど……。
カンッ!
中村さんはそれを難なく捉える。
カンッ!カンッ!カンッ!
「何者なの……?」
「全部芯で捉えてるな……」
10球打たせた結果、全部ピッチャー返しだった。あれは狙って打ってるね。
「中村さん!!中学はどこだったの!?」
「箱崎松陽。福岡……」
やっぱり九州の方の人だったか。特有のイントネーションが出てたもんね。
「福岡……野球王国!」
「道理でチェックリストにいない訳だよ!葵ちゃんと同じ野球留学生?」
別に私は野球留学生って訳じゃないけどね……。
「ち、違……」
「驚いたな。葵の他にも県外から来てたとは……」
「ち、違うよ。埼玉に来たのは親の都合でたまたま……」
なんだ。私と同じじゃん。ここまで来ると魔法の言葉だよね。親の都合って。
「本当は全国目指せるところで野球したかったっちゃけど、ここの野球部の事調べんで入ったけん入部する気は……」
かといって転校するのもなんだかなぁ……って感じするけどね。
「中学の皆と約束したのに……。全国大会で会おうって」
「全国……」
(このチームじゃ現実味がないわね……)
実際のところ全国出場は厳しめだけど、良いところは行くと思うよ。このチームは。
「ガールズで全国経験がある珠姫と葵はどう思う?」
「私達に振らないでくださいよ……」
(全国!?この子達が!?)
なんか中村さんの目線が私と珠姫さんの方を行き来してる。忙しそう……。
「……私はそれなりに良いところまで行くと思っていますよ。多分芳乃さんと同じ気持ちなんじゃない?」
「私?そうだね……。中村さんと大村さんが入ってくれるとして……」
一呼吸置いて、芳乃さんは言う。
「ベスト4くらいじゃないかな」
うん。私も同意見だ。
(えっ?そんなに!?)
「またまた~」
「それは嘗め過ぎじゃないかしら……?」
ヨミさんと菫さんは否定的だ。可能性を潰すのは良くないね。
「嘗めてないよ?そっちこそ自分を過小評価するのも良くないよ?」
「そ、そうね……」
「まぁチームのポテンシャルはそれくらいあるよね。色々と運の要素もありそうだけど……」
「そうだね。3ヶ月みっちりと練習して、運が良かったらだけど……」
それ次第では結果が上下しそうだけどね。
(なんでかいな……。この子達は信用出来る気がする)
「じゃ、じゃあ1年後はどうなるとかいな!?」
「そこまで先の事はちょっと……」
「他校の事情も変わってくるしね……」
興奮している中村さんを他所に、次は大村さんの番だ。
「大村さんは初心者だったわよね?スイングとか大丈夫?」
「はい。一応……」
大村さんって実は野球好きだったりする?バットの持ち方も出来てはいるし……。
「よろしくお願いします……」
元剣道部の大村さん。初秋ながらも未知数の実力。果たして……?
カキーン!!
「バットに当たりました!凄く良い感触……」
「嘘……」
「当たったってもんじゃないわよ……」
打球はフェンスオーバーってところか……。地方球場ならホームラン狙えるね。
(今の感触を忘れない内に……!)
「次、お願いします!」
しかしこの後は全て空振りに終わる。最初の1球だけだったね……。
(しかし将来性はあるね。大村さんの成長次第ではチームのスラッガーも担えそうだ)
そして中村さんがワナワナと震えている。凄く悔しそう……。
「思い出した!大村白菊さん!剣道の全国優勝とかでテレビで見たわ!」
(全国優勝!?)
剣道の全国優勝経験者か……。なんか続けないのはもったいない気がするな。
「実は元々は野球がしたかったんです……」
大村さんの話によると、親との約束で剣道で1番になったら野球をしても良い……という事みたい。それで全国優勝まで導けるんだから、モチベーションが凄い。
「白菊ちゃん、希ちゃん。私、投手なんだ!」
ズバンッ!
「「!?」」
(なに!?今の……)
ヨミさんはそう言ってあの球を投げる。2人共凄く驚いてるね。
「ちなみに葵ちゃんも投手なんだよ!」
何故ヨミさんが言う?
「まぁ……そうだね」
とりあえず私もヨミさんに続いて投げる。もちろん投げたのはマリンボールね。
ズバンッ!
「き、綺麗な球です……」
(こ、このチームって本当に強い……?)
「2人の打撃力で私達をどんどん援護してね?」
まぁアベレージヒッターとパワーヒッター(ロマン砲とも言う)が入ってくれるのは心強いね。
「……良いよ。でも入るからには、一緒に目指してほしいっちゃけど。全国を……」
こうして新越谷高校野球部の目標は全国に決まりました。
「…………」
(珠姫さん……?)
なんか珠姫さんの元気がない気がするけど、チームのモチベーションは上がってきているし、悪い事ではないのかな……?
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