元憲兵の提督がブラック鎮守府に着任する話   作:レオパルト

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やる気がいかに大事かよく分かりますね。早速2話です。主人公の話はまだまだ続きそうですねどね。


第2話 軍規違反

「憲兵隊だ!動くな!」

 

勢い良く開けられた扉に、執務室の中にいた面々は驚愕の表情を見せる。具体的には、今回の件の主犯格である駒塚提督と艦娘に性暴力を行ったとされている一部の整備員や基地所属の憲兵に護衛としてこちらに艤装を構えている秘書艦と思わしき艦娘などだ。艦娘の顔は怯えつつも招かれざる侵入者を追い払おうと必死だった。どうやら主犯格の連中は、我々の立入検査に気づいて、責任のなすりつけあいでもしていたのか、執務机に座る駒塚提督に詰め寄っている。

 

「な!もうここまで来たのか!おい中佐、どうするんだ!」

 

一人の整備員が、驚いた様子で駒塚提督に更に詰め寄る。

 

「おい黙れ!余計なことを言うな!それで?憲兵隊がなんの用だ?」

 

苛立ちながらも平静を装う中年小太りの駒塚提督は、あくまでしらを切るつもりでいるらしい。

 

「初めまして、駒塚提督。自分は白河将弥、階級は大尉。海軍憲兵隊の隊長をしています」

 

「なんだ?たかが大尉ごときが中佐の私に何の用だ?」

 

「大本営より憲兵隊の方にこの基地の査察及び立入検査を実施するよう命令がありましたので、今回はこちらに出向いた次第です」

 

こちらの解答がなかなか得られないことに更に苛立ちを露わにする。

 

「だから!憲兵隊が何の用だ!」

 

「心当たりはあるはずなのですが……本当に何も知らないと仰るのですね?」

 

「ああだから何度もそう言っているだろ!なんだお前は!大尉の分際で偉そうな口を叩きやがって!」

 

どうやら駒塚提督はあくまでシラを着るようで何も知らないというスタンスを貫くようだ。

 

「……仕方がないですね。いくら悪人とは言えど令状を見せるのは義務ですからね。矢矧、例の書類を頼む」

 

「分かりました」

 

矢矧はそう言うと書類を後ろに控えていた憲兵から受け取り、令状を見せつけるように広げる。

 

「この基地には、艦娘に対する非人道的な扱いや性暴力が内部告発によって確認されています。このことから大本営より駒塚中佐を含むこの件に関与した全ての職員を拘束することを許されています」

 

矢矧の言葉で改めて現実に引き戻されたであろう駒塚以外の職員が口を開く。

 

「俺たちは、こいつにやらされていたんだ!中佐命令でし、仕方がなく!」

 

「そ、そうだ!か、解雇をチラつかされて、ほ、本当はこんなことしたくなかったんだ!」

 

「…………」

 

静かにこの場を見据え、怯えを必死に隠してことが過ぎるのを待つ駒塚の秘書艦は艤装を構える手が震えが止まっていない。一方で、命乞いをするかのように自分は仕方がないだの、関係ないだの喚き出す駒塚以外の職員たち。悪人の絆とは実に儚いもので、自分が窮地に追い込まれると一瞬にして仲間だったはずの人間を自らが助かるための交渉材料にする。こうなるのなら最初から悪事に手を染めなければ良いのに、と呆れとともに虫唾が走るが、顔には出さず淡々と事実を追究する。

 

「そうですか、ですが内部告発者の協力で貴方たちが今回の件に深く関与しているのは確定的です。ですので見苦しくお仲間を売るのは営倉の中でしてください。君たち、申し訳ないがここの奴らを表の車まで頼む」

 

「了解しました、隊長。駒塚中佐、失礼ですが営倉まで来ていただきます」

 

後ろで控えていた三人の憲兵たちに加え、作業が終わり手が空いて応援に来たほかの憲兵たちが、事件の犯人たちを一網打尽にせんと、囲い込み犯人たちに詰め寄る。

 

「矢矧、今回はこれで終わりだ。後は保護した艦娘と一部の無関係の職員についてだが……」

 

「そうですね、報告書についてはこちらで纏めます。艦娘については長官などに……」

 

この犯罪者たちには用が済んだので、この後の基地の処遇についての報告書を纏めるべく、矢矧と相談を始める。しかし、彼らは失念していたのだ。一人だけこの緊張状態から解き放たれていない駒塚の秘書艦は未だにこちらに主砲を構え、砲口がこちらを狙い続けていることに気づいていなかったのだ。

 

「おい鳥海!さっさとそいつを撃て!せめてこいつだけでも道連れにしろ!」

 

「え……」

 

拘束され身動きが取れない駒塚が突如、唯一武装を解かずに近くで固まっていた秘書艦、鳥海に向かって撃つように命じる。またしても非人道的な発言をする駒塚に軍規違反を伝えようとすると、駒塚が固まって撃つのを躊躇っている鳥海に追い打ちをかける。

 

「撃たないと、貴様の姉たちは今すぐ全員解体だ!嫌ならさっさと撃て!」

 

「……ごめんなさい!」

 

「隊長!」

 

駒塚の姉妹艦の解体発言に、震えが止まらなくなった鳥海は目を瞑り謝罪の言葉を口にしながら、主砲を発砲した。こちらと鳥海の距離は数メートルしかなく、直撃せずとも大惨事になることは明白だった。しかし発砲する間際、誰かが自分と鳥海の間に割り込んできた。執務室の中で爆発が起こる。どうやら駒塚は鳥海に実弾を装備させていたようだ。煙が晴れ、視界が回復すると目の前に腕を抑え血をぽたぽたと垂らしながら、ギリギリの状態で持ちこたえている矢矧がふらふらしながら立っていた。

 

「お、おい!矢矧!大丈夫か!」

 

「隊長……私は……いいので……鳥海さんを……落ち着かせて……」

 

彼女たちはいくら同じ艦娘とはいえど、矢矧は軽巡洋艦であり重巡洋艦である鳥海の主砲を艤装も展開せずに至近距離で直撃しようものなら、人間より頑丈な彼女たちでもたちまち大破どころか瀕死の状態になる。撃った張本人の鳥海も、目の前の惨状に気づいて錯乱状態になって膝から崩れ落ちている。

 

「おい、矢矧!矢矧!」

 

鳥海を気遣う言葉を苦しみながらも口にした矢矧は、すぐに気を失い倒れる。身を挺して自分を守り、血を流し息も絶え絶えになった彼女を見た俺は、頭の中で自分を律していた何かが切れる音がした気がした。

 

「…………すまない君たち、駒塚から離れてくれ」

 

先ほどからの丁寧な口調はそのままだが、一段と冷たく更に殺気立った様子の声で、駒塚を拘束していた憲兵たちを退かせる。

 

「なんだお前?さっきまでの落ち着きはどこに行ったんだ?艦娘一人倒れたくらいで、怒ってんのかお前?まさか、あの艦娘のことが好きだったのか?」

 

駒塚は相変わらずの減らず口で、捲し立てるように俺を挑発してくる。その顔は一矢報いて満足気味にも見えた。俺は駒塚の前まで近寄ると、精一杯握りしめた拳を、駒塚の顔面にクリーンヒットさせた。

 

「駒塚ァ!」

 

この時、白河将弥が軍属してから初めて軍規を破った瞬間でもあった。




人物紹介
白河将弥
憲兵隊の隊長を務める軍人。この物語の主人公。艦娘人権派の海軍大臣や海軍長官のお気に入りで、若くして憲兵隊隊長に就任する。艦娘は人間を守ってくれているのだから、人間から手を出すのは言語道断というスタンスでいる。
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