今回は話にだけ出ていた長官が登場します。
そして、主人公を庇って倒れた矢矧の運命はいかに。
「まさか、憲兵隊の君が軍規違反するとは……」
「申し訳ないです。長官のご厚意をこのような結果で返してしまい……」
俺は事件から一週間後、先日のブラック基地での一件で、海軍長官に呼び出されていた。俺に今回の件の処分を言い渡すついでに話がしたいとのことだった。
「いくら相手が非人道的な行いをしたことは事実とは言え、既に拘束した相手を殴り続けるのはいただけないな」
「申し訳ないです」
いくら事情があれど、軍規違反なものは軍規違反であり、軍法に照らして処分を受けなければならない。それに、俺を庇って重巡洋艦の砲撃が直撃した矢矧は、未だにその後を聞かされていない。
「駒塚とその件に関与していた職員は皆懲戒免職となった」
「……」
「やはり、浮かない顔をしているな。矢矧くんの容態は把握しているかね?」
「いえ、あの後すぐに、現場のドックに入渠させようとしましたが、とても使える環境ではなかったので……」
「彼女は、あの後私の鎮守府で高速修復剤を使って回復した。だが、今回の件で憲兵隊を除隊した」
「やはり、そうですよね……すみません。矢矧にまで迷惑をかけて……」
彼女は憲兵隊を除隊した。やはり、そうだろう。身を挺して守った相手が軍規に違反したのだから当然と言えば当然である。あの行いは彼女のキャリアにも汚点を残すことになったようだ。
「さて、君は反省しているようだし、大本営からの処分を伝えなければならない」
「分かりました」
「君は新たに設置される神戸鎮守府に司令官として派遣されることになった。これで君も晴れて提督の仲間入りだ」
「ほ、本当に仰ってますか?なぜですか?自分は、軍規違反をしたんですよ!?それなのになぜ提督に?」
「まあ落ち着きたまえ、これには深い事情があってね。そのために君を呼んだんだよ」
長官はそう言うと封筒を取り出し、中の書類を見せてくる。書類には『神戸鎮守府における艦娘虐待事件の報告書』と書かれていた。
「事情……ですか?」
「ああ、実はもともと神戸鎮守府は、建造間もない艦娘を訓練し経験を積ませる目的で設置したんだ。いわゆる艦娘の訓練学校みたいなものだね。だから資材は多く割り当てられていたのだよ。ところが前任の提督がそれを勝手に他の基地に流して横領していたみたいでね、そのせいで神戸の艦娘たちは、訓練はさせられてもロクな補給もしてもらえずに練度も上がらずに、前線へと配備され多くが撃沈していっていたんだよ」
「なぜですか?普通、配属先の提督は練度が低ければ出撃を控えるはずですが?」
「それが神戸からの配属先の全て「艦娘兵器論」を主張する提督の基地だったのだよ。これがどういうこと、君なら分かるだろう」
「……ちなみに前任の提督はどうなったんですか?」
「君とは別の憲兵隊が立入検査した結果、駒塚と同様に懲戒免職処分が下ったよ。そろそろ、私も次の予定が近いからね、最後に神戸まで君を案内する艦娘を呼んでおいたのだが…………」
そういって長官は執務室の扉の方を見やると、狙いすましたかのようなタイミングで扉がノックされる。そして扉の向こう側から聞こえてきた声の主は思いもよらぬものだった。
「長官!呼び出しに応じ、矢矧、参りました!」
「え?」
「来たか、入ってくれ」
突如、ついこの間まで聞き慣れていた声が聞こえ固まっている俺を気にせず、長官はその艦娘を部屋に入るように命じた。
「矢矧!入ります!」
「……」
「お久しぶりです。隊長!……いや白河提督!よろしくお願いします!」
啞然としている俺に向かって、矢矧はいつもの凛とした立ち振る舞いでは無く、屈託のない笑顔を向けてきた。
人物紹介
鶴田隆継(つるたたかつぐ)
海軍の司令長官を務める艦娘人権派のNo.2。階級は大将で、艦娘をこよなく愛する人情家としても有名。まだ若い主人公を憲兵隊の隊長に就任させ、鎮守府の提督に仕立て上げた張本人でもある。