滅竜魔導士と妖精國   作:ジャガイモ

1 / 1
人口1,700万の永世中立国。
そこは魔法の世界。
魔法は普通に売り買いされ 人々の生活に根づいていた。
そして、その魔法を駆使して生業とする者たちがいる。
人々は彼らを魔導士と呼んだ。
魔導士たちは さまざまなギルドに属し、依頼に応じて仕事をする。
そのギルド国内に多数。
そして、とある街にとある魔導士ギルドがある。
かつて、いや、後々に至るまで数々の伝説を生み出したギルド。
その名は……フェアリーテイル。


の、はずだった。


序章

 気が付いた時にはもう遅い。

 少年がそれを身に沁みて理解できたのは、生まれてからどれくらい経った頃だろう。もしくはいまだに理解できていないかもしれない。

 下を見れば草木の生い茂る地面が広がり、横を見渡せば見た事もない雑木林の中にいる。さっきまで、黒髪の青年に無理やり引っ張られてきたのに、何故このような場所に放り込まれたのか(放り込まれたというよりは、捨てられていったというほうが近いが)。

 理解することを脳が拒んでいる。

 いや、正しくは少年はこのもどかしさを言語化できるだけの、知能が存在していなかった。

 

「おいナツ、何をボーっとしている」

 

 少年が呆然と突っ立っていると、上から声が聞こえた。

 言葉の意味は分からない。ただ、あの黒髪の青年と同じく、それが自分に対して呼びかけられたものだとは分かる。

 見上げてみれば、見覚えのない赤い竜が、自分をアリンコでも観察するように見下ろしていた。

 

「————————あ”?」

 

 喉から迫り上がってきた声なんてそんなものだ。

 少年は言葉を知らない。その赤い龍を象徴する単語を知らない。

 喉から発声し、感情をのせただけの伽藍洞なセリフには、疑惑や怒り、さらには不安が込められているようだった。

 

 少年を見下ろしている赤い竜も、とうとう様子がおかしな事に気が付いたのか、目をぎょろりと回す。

 

「まずは言葉を教えねばならんな」

 

 赤い竜は唸るように喉を震わせた。そして数瞬、何かを思案するように目を閉じると、その長い鉤爪をつかい、地面になにかを刻みだす。

 

「……ぎあ、あぁあ?」

「いいか、俺の名はイグニール。そして、お前の名は————————」 

 

 

 

 

 

 ■ 

 

 

 

  

 ナツ・ドラグニル。それがイグニールの語った少年の名前だった。

 

 ナツは言葉や文字を知らなければ、それを覚えようともしない悪童であった。言葉を教えれば癇癪を起し、読み書きを覚えさせようとすれば、すぐに森へと逃げた。

 イグニールはそのたび、ナツと真摯に向き合った。決して投げ出すことなく、覚えなければ覚えるまで何度も繰り返してくれた。

 そこにはたしかな愛情があったのだろう。龍が抱くには難しく、されど美しい情愛があったのだと思う。

 次第にナツもイグニールの気持ちを理解できたのか、態度を軟化させていった。言葉を覚え、言語でのやりとりをし、簡単にだが読み書きも覚えた。一人で生きていくだけの術を叩きこまれた。

「いいか、ナツ。生物にはかならず家族がいる。父、母、兄妹、子供。誰一人、自己完結ができるものはいない」

「ふ~ん」

「みんな誰かを必要として生きているんだ」

「じゃあ、イグニールは俺にとって、とおちゃんだな!!」

 そうイグニールの描いた絵を見て笑うナツ。このようなやり時ができるほど、彼は成長することができた。

 

 一生こんな穏やかな日が続くのだと思っていた。イグニールさえいればいいとナツも思うようになっていた。

 しかし、現実とは無慈悲なものだ。どれだけ警戒していようと、どれだけ平穏を望もうと、いつの間にかそれは音を立てずやってくる。

 壮大に広がる大地。上には雲ひとつ存在しない澄んだ青空。いつもならナツを微笑ましく眺めていた赤い竜は、その雄大な姿をかき消していた。

 ナツがイグニールに預けられて、人間社会で言えば7年と7月7日が経過したころだ。

 

 この日、イグニールはナツの目の前から突如姿を消したのだった——————。

 

 

 

 

 

 

 

 そこからナツの記憶は曖昧であった。

 道なき道をかき分けて進み、消えたイグニールを求め探し続けた。

 イグニールから教わった狩猟で食い繋ぎ、なんとか人がいるであろう場所へと目指して歩き続ける旅路。こんな心細い思いをしたのは初めてのことだった。いつもならイグニールがそばにいて、夜も一緒に語り合い、笑い合っていた。

 だけど、そんなイグニールももういない。

 

「会いだいよ、イグニール…………」

 

 ぼろぼろとこぼれ出る涙を腕で拭き取りながら、ナツは今日採った食べ物を食べる。

 その度に思い出すのはイグニールの言葉だった。

 

『泣くなナツ。悲しい時はどうするんだ?

 教えただろ。じゃあ、やってみろ。立ち上がるんだ』

 

 未来を語れ、いつもイグニールはそう言っていた。

 楽しいことも、辛いことも、悲しいことも、全てひっくるめて未来を語れと教えてくれた。イグニールはナツに生きる力を教えてくれたのだ。

 だから、頑張れる。だから、生きようと思える。

 どれだけ悲しくてもナツはまたイグニールと会うために頑張ろうと思えるのだ。

 

 ナツは焚き火の暖かさに身を包みながら、マフラーを握りしめてそっと目を閉じた。

 明日こそ、イグニールが見つかるようにと願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは偶然だった。

 私がそれに気がついたのは、何回目かも分からない●●があった時だった。

 森の方に狼煙のような煙が上がっているのである。私が目覚めた棺からもそう遠くはない。集落以外で呑気に生活をする妖精など、この世にいるはずもなく、であれば何かしらの救援を募っている可能性が高いと考えられる。

 私はぐっと身を引き締めると、近くに掛けてあった杖とローブを取り身に着け、様子見を兼ねて森へ行くことにした。

 

 森に行き、立ち登る煙の近くまで寄れば私の耳に一つの寝息が聞こえてくる。

 見てみれば、そこには私よりも小さい体をした男の子が白いマフラーを抱えながら眠りについていた。

 どうやら煙の正体は、彼が野営するときに焚いた火が原因だったらしい。それにしても、よく燃えている……。

 

「んぁ…………?」

 

 私の足音で目が覚めたのか、少年は目を擦りながら身を起こした。

 よく見てみれば、少年の目元に赤い腫れが見える。泣いていたのだろうか。

 

「おはようございます。起こしてしまいましたね」

「ふわぁ、おはようって、誰だオマエ…………!?」

 

 寝ぼけているのか、少々うわずった声で男の子がそう問いかけた。

 

「近くに住んでいる者です。貴方は?」

「俺はナツ。ナツ・ドラグニルだ!」

 

 男の子はそう言って上体を起こした。

 

「そうですか。では、ナツ。申し訳ないのですが——服を着てくれませんか?」

「あっ」

 

 私━━トネリコがそう言うと、自身の上半身が裸なことにナツは気がついたのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。