久しぶりの閑話です。前半はバース視点です。
物語とはあまり関係ありませんのでご注意ください。
俺はバース。元Aランクの冒険者だ。今は引退して稼いだ金で建てた宿【豊穣】を経営している。つっても経営は嫁さん任せで俺は専ら料理しかしてないが味には自信がある。
冒険者時代に色んな街で出合った料理の経験が活かされている…。客はいつも疎らだが家族3人が食っていける分だけ稼げば文句はない。このまま無難に人生終えるのも良いかもしれねぇ…。危険な橋は冒険者時代で充分だ。だが心に引っかかる何かがあった。
そんな時だった。俺は出会っちまった。あの【シャイニングスター】のアランに…。
初めて見た時は冒険者とは思えなかった。かと言って貴族や商人とも違う雰囲気で俺の料理を絶賛していた。普通の客は気付かない下味や隠し味も褒められるのは嬉しいもんだ。嬉しくて思わず声をかけちまった。
次の日、ブラックバードを自分で調理したいと言ってきやがった。そこまで言うならと厨房を貸して作った唐揚げは最高だった。今まで出合った事がない衝撃が走った。
あのカリッとした食感とブラックバードのモモ肉のジューシーさと肉汁が今でも忘れられない。それに加えてアランの作るスープやサラダも美味かった。
アランが凄いのは自分が学んだ知識を余すことなく俺やララって嬢ちゃんに教えてくれたことだ。調理に関する注意点も加えて。プロの料理人なら門外不出の技を弟子以外に伝えることはタブーな筈だがアイツは全く気にしてなかった…。
俺は覚悟を決めた。次の日、恥も外聞も捨ててアランに料理を教えてもらうよう頼んだ。報酬は何もねぇがアラン達の宿代をタダにするぐらいだ。アランは驚いたがこの料理をモノにすれば安いもんだ。
それからの日々は衝撃の連続だった。天ぷらやトンカツといった揚げ物やチャーハンやオムライス、ハンバーガーといった主食までアランのレパートリーは無限と言っていいものだった。こういった時に必ず娘のサラとガウ坊が必ずつまみ食いをして俺やララが叱りつけるのが日課だった。ガウ坊は反省したフリをして更に盗み食いしようとして本気で姉ちゃんに怒られてたな…。
アラン達が依頼で厨房に立てない日は残念だったがアランがよく言っていた料理に合うソースを作るのが日課だった。完成したソースをアランに試食してもらい合格点を貰った時の嬉しさは半端なものじゃなかった。
噂が噂を呼びどんどん客が舞い込んできて気づいたら今じゃゴタニア1の宿なんて言われるようになった。満室で宿泊客を断るなんて今までなかったもんな…。
そんな最高の思い出だが1番忘れられない日があった。
……………………
アランと買い出しに行ったときの事だ。その日に珍しくゲイツ王国から来た商人が卸した薬草が市場に並んでいた。薬草なんて食えるもんじゃないのにアランはそれを見るなり震えだしてびっくりしたぜ。
「タ、ターメリック、それにコリアンダー、此れは確かクミンだったか?それに以前の採取で取ったナツメグもある…。出来る…。出来るぞ!バース!やったぞ!此れを全部買う!今日の料理は決まった!」
それから市場で残りの野菜と肉を買いすぐに店に戻った。いつもなら優しく教えてくれる筈が薬草を粉末状にして1人でブツクサと悩んでいる。声なんてかけられなかったよ。
パーティーのリアに聞いたら戦いでもこんな表情戦いでも見たことないって。いつもは腕白なガウ坊もその時だけは聞き分けのいい子供だったのには笑っちまった。
まるで薬師だ。とっても料理をしてるように見えなかったからよ。調合?して瓶詰めしたブツと分量のレシピを渡されたんで「此れは調味料か?」って聞いたらアランは笑いながら、
「魔法の粉だ。最も今から料理していくんだかな…。あ、魔法の粉ってスパイスのことね。【ルウ】が作れれば…今は難しいな…」
それから牛肉と野菜を切り、フライパンに炒め始めた。アラン曰く肉はビッグボアやブラックバードでもいいらしい。スジ肉は臭みを取るように注意された。摩り下ろしたガーリックやジンジャーが香ばしい香りで食欲を注ぐ。そこであの魔法の粉を投入する。なんていい香りだ!何なんだ厨房一帯に広がるあの香りは!お世辞にも綺麗とは言えない茶色の粉なのに…。
そっから大きな寸胴鍋に移し水を入れ煮込みだす。すり潰したトマトやミルク、アランが作ったコンソメ、小麦粉を入れ更に煮込む。最後の2つはとろみを出すため必要って言ったのが印象に残っている。後で自分で作った時のシャバシャバさったらなかった。
言い忘れたが今の工程は2回分作っている。【チューカラ】と【アマクチ】らしい。【アマクチ】はリアやガウ坊の為らしいが、あの魔法の粉の分量が違うらしい。驚いたことにアランはその魔法の粉は完成形じゃないという。これからさらなる改良が必要だという…。こんな上手い香りしてまだまだ発展途上で未完成
なんてアランの向上心には脱帽しちまった。俺も楽隠居しようなんて考えが恥ずかしくなっちまった…。ホントにアランに出会えた事は女神ルミナス様に感謝だ。
馬鹿でかい寸胴鍋が2つ…。「流石にこんなには食えねぇだろ?
」ってアイツに言ったら、
・・・
「バース…俺の作る【カレー】は2日分必要なんだ。
・・・
忘れるなよ2日分だ。」
あの時の目付きは冒険者で魔物を仕留める時の目だったな…。そんな中、煮込んで完成したのは良いが見た目が悪すぎる…。今までのアランの作った料理は見栄えも綺麗なものが多かったのに…。どちらかというとドス黒く何かの魔物の血も一緒に煮込んだような…とても食欲の湧く料理じゃなかった。
アランがニヤリと笑って味見を強要してくる。俺も覚悟を決めて一口食べた。次の瞬間、俺は泣きながらアランを抱きしめていた。ピリッとした辛さの中に野菜や肉の旨味、あの薬草の風味が混ざり合い美味すぎて涙が止まらなかった。
ララの嬢ちゃんも恐る恐る味見してみるとフードをはみ出して耳と尻尾が逆立ち恍惚の表情している。此の時初めてララガウ姉弟が獣人って人種を知った時だ。
完成に合わせ大量の米を炊き、一部はあの薬草を使って黄色いライスも作った。
料理が出来てシャイニングスターのメンバーに【カレーライス】なるものを提供する。他の客には通常の料理を出した。言っちゃ悪いが貴族様や金持ちの商人に「何だ此の不味そうな料理は」なんて言われた時には俺は殴るだけじゃ済みそうになかったんで肉料理を即席で作った。
テーブルを見るとリアやエルナ達は中々食べようとはしなかったが一口食べた瞬間、悲鳴にも似た歓声でお代わりを要求してきた。珍しくララの嬢ちゃんも恥ずかしそうにお代わりしていたな…。
他の客が訝しげに見ていたが、1人客の若い商人があの料理を金を払うから俺にも作ってくれと要求してきた。
宿代は払っているから金は断ったがカレーライスを一皿出してみると彼は泣きながら「上手い、うめぇ…。生きてて良かった。」と味わっていた。
それを見て他の客も食べたがっていたのでアランに残りはまだ半分あるから出していいか聞くと
「他の客には申し訳ないが、このカレーは渡せない。何故なら更に進化するんだ!その意味は明日になってから分かる…」
いつもなら他人に厳しい事を言う男じゃないのに目はマジだったな…。
若い商人が食べ終わると遠くを見つめ虚無感でブツブツと何かを言っていた…。あんちゃん、気持ちはわかるぞ。だがお代わりはなしだ!俺と俺の家族の分は渡さねぇぞ!
……………………
次の日の朝、アランからカレーを再度温めて出してほしいと言われ温めたカレーをシャイニングスターに提供する。
また例の如く歓声が上がる…。…可笑しい、確かにカレーライスは最高に上手いが昨日よりも騒いでいる。言っちゃ悪いが残り物だぞ?そんな事を思いながら味見をしてみる。
…アランの言ったとおりだ。「あ、味が…カレーが進化している。」
昨日食ったカレーが【剛】なら今日食ったカレーは【柔】だ。昨日は情熱とパンチの効いたカレーで今日は優しさとまろやかさがマッチしたカレーだ…。俺の語彙力が足りなくてすまねぇ…。
昨日カレーを食った若い商人が来たんで朝食に無言で差し出してみた。一瞬、驚いたが何度も何度も「ありがとうございます」ってまた泣きながら食いだした。一口食べて更に驚く。
「これは…。今日新しく作ったんですか!?」
あんちゃんの気持ちは分かるぜ…。
「此れは昨日の残りもんだ。コクが出て驚いたろ。」
「嘘だ!騙されませんよ…。こんなに上手いのに残り物なんて…
」
この料理の説明をして何とか理解してもらった。
アランの言を俺のくだらねえプライドが邪魔して思いとは裏腹にそんな言葉が出ちまった…。今思えば恥ずかしい限りだが、
「新しいゴタニア名物だ。【カレー】覚えておけよ!」
申し訳ありません。書き終えれず閑話がまた続きます。
因みに私はカレー粉からカレーを作ったことは一切ありません(恥)