1.
「そうね、あなたの愛車の零式もいいけど、レオパルドもいいわ。機動性と攻撃力のバランスとあの重装甲のボディ……主砲の115㎜滑空砲の発射音なんて聞くだけでゾクゾクしちゃうわ」
ある昼下がり、私――ローズ・ベルディアは家に訪ねてきたシンとお茶の時間を楽しんでいた。
シンは私と同じハンター、それも凄腕のエースハンターだ。狩った賞金首の数は30をゆうに超え、『荒野の死神』と呼ばれ盗賊や悪党から恐れられる存在である。その正体が実は私と同じ16歳のあどけなさを残した少年だと言うことを知っている人間は少ない。
出会ったときから私たちは気があった。そのため、シンは折をみては私の家を訪ねてくれ、私もそれを心待ちにしている日々を送っている。もっともここ最近はキャノンエッジ北……電磁波嵐の吹き荒れる、通称『嵐のカーテン』の辺りをさすらっていたらしく連絡のひとつもなかったのだが、今日になって久しぶりに訪ねてきてくれたというわけ。
「エレファントは微妙ね。あの装甲厚と195㎜バーストはとっても魅力的だけど、いかんせん自重が重すぎて……ってどうしたの?」
ふと気が付くと、シンが疲れたような顔で私を見ている。
「いや、もう一時間近くしゃべりっぱなしなのに疲れないのかなぁと思って……」
「だってあなたとこうやって話すのも久しぶりだもの。いくらしゃべっても疲れることなんてないわ」
それは偽らざる本音だった。戦車に乗ること以外でこんなに楽しんでいる自分を発見するのは少し以外だとは思うが。
「それにしても、ローズはほんとに戦車が好きなんだね」
「ええ、そのためにハンターになったんですもの」
「それじゃあ、ローズの一番好きな戦車って何?」
唐突だった。ふと考えてみる。数ある戦車たちの中で私の一番大好きな戦車は……
「好きな戦車、ね……クルセイダー・ゲパルト・チャフー・モスキート……私の好きな戦車はいくらでもあるわ。それでも……その中でたった一つを選べと言われたら……私はティーガーを選ぶわね」
「ティーガー?」
「あら、意外?」
「うん、てっきりケーニッヒティーガーかと思って」
「確かにケーニッヒティーガーは私の愛車だけど、それ以上に私にはティーガーに特別な思い入れがあるのよ。お父様に貰って、初めて乗った戦車という以上にね」
「へぇ……どんな思い入れなの?」
「……そうね、お茶のお菓子のかわりに話してあげるわ。私のティーガーの話を……」
そういって私は話し始めた。あのときの話を……。
2.
あれは一年くらい前の話。ハンターとして活動し始めてから一年、私は世界各地を回って戦車を集めていた。そんな私の耳にある日、とある砂漠の廃墟にケーニッヒティーガーがあるという話が入ってきた。
ケーニッヒティーガー……当時の私の愛車、ティーガーの後継機。洗礼されたフォルムの中に凶暴な攻撃性を秘めた戦いの美術品……私はそれをすぐに手に入れたくなった。
でも間が悪いことに丁度そのとき、旅先でカールが風邪をこじらせて寝込んでしまったの。どうしても他のハンターに遅れをとりたくなかった私は、必死で止めるカールとセバスチャンを振り切ってたった一人でその廃墟に向かったわ。
そして……
「素晴らしいわ」
私の目の前には巨大な鋼鉄の塊……ケーニッヒティーガーが鎮座していた。
対弾性を考慮したため、丸みを帯びた上部装甲。無骨で、それで機能美にあふれたその洗礼されたフォルム。私はそれをうっとりと眺める。
「あら、すごい保存状態。20㎜機銃も160㎜スパルクも問題ないみたい」
エンジンやCユニットにも問題ない。今からすぐにでも使用できる素晴らしい保存状態だ。私はうきうきしながら、ティーガーと連結しケーニッヒティーガーを牽引する。
その時だ。
ゴゴゴゴゴッ
「な、なんなの!?」
突然の廃墟を揺るがす大きな振動。そして……
キシャァァァァッ!!
廃墟の壁を突き破り、巨大なモンスターが飛び出してきたのだ。
全長およそ15m、全身がぬめぬめと金色にテカる巨体。それを見て私は叫んでいた。
「キングスラッグ!?」
それはこの一帯で目撃されている賞金首、キングスラッグだった。
メタルスラッグなどの上位種と言われている巨大ナメクジで、この辺り一帯を旅する人間に片っ端から襲いかかっては捕食し、この辺りを旅する者にとっては驚異となっている存在だ。
キングスラッグはよほど空腹だったのか、私の存在に気付くと当然のように襲いかかってくる。それを見て私は不敵な笑みを浮かべ、ティーガーの中で答える。
「いいわ、かかってらっしゃい!」
逃げるという選択肢はなかった。ケーニッヒティーガーを牽引したままでは逃げられないだろうし、置いていけばケーニッヒティーガーはこいつに破壊されてしまうかもしれない。それに最大限に改造を施した私のティーガーがこんなやつに負ける訳がない。
私はケーニッヒティーガーの牽引を切ると同時に、ティーガーのアクセルペダルを思い切り踏み込む。
一際大きなエンジン音とともにキャタピラが大地を噛み、重さ40tを越えるティーガーの巨体はそれに似合わぬ軽快さで動き始めた。
「まずはこれよ!」
キングスラッグの周りを旋回しながら、私はトリガーを引いた。
ティーガーに搭載された25㎜バルカンが火を吹く。50㎜のコンクリートを紙のように貫く弾丸の雨が、連続的にキングスラッグに降り注ぐ。
副砲の連射で動きを止め、強力な主砲でトドメを刺す。こういった大型モンスターとの戦いのセオリーだ。だが……
キシャァァァァッ!!
「嘘!?まるで効いてない!?」
25㎜バルカンが直撃したはずなのに、まるで効いた様子がない。よく見れば、体を覆う粘液がバルカンの弾丸を包み込んでいる。あの粘液でバルカンを受け止めたようだ。
シャァァァァッ!!
キングスラッグが雄叫びをあげ、同時に粘液状の何かをティーガーに向かって吐きかける。その粘液をかわすことができず、ティーガーはその粘液をかぶってしまった。同時に、アラートがすさまじい勢いでなり始める!
「何なの!?」
計器を見れば、すさまじい勢いでティーガーの装甲が損傷していっている。それを見て私は何を受けたのか理解した。
「酸ッ!?」
そう、ティーガーが受けた粘液の正体は強力な酸だ。それがティーガーの装甲を浸食していた。
「くっ!」
持久戦は無理と判断した私は、即座に武器の変更、トリガーを引く。
ドゥンッ!!
重い轟音とともに、ティーガーの主砲が火を吹く!
140㎜の巨大な砲塔から放たれた一撃がキングスラックをとらえた。
キュォォン!?
「効いてる!」
あの粘液も主砲の攻撃力の前には効果はないようだ。私は連続してトリガーを引く。
二発、三発と主砲が連続して火を吹き、そのたびにキングスラッグが苦悶の叫びをあげる。
「いけるわ!!」
相手の粘液も主砲の前には無力。このまま主砲を連射し押し切れば勝てる!
私はそのとき、勝利を確信した。……それがいけなかったのだろう。
キシャァァァァッ!!
一際甲高い咆哮、それとともにキングスラッグの巨体が眩く輝き始める。そしてティーガーに向かってその口を最大限に開けた。その中に光り輝く何かが……。
「!?」
まずい、と思ったときには遅かった。すさまじいまでの衝撃がティーガーを、そして私を襲う。
「きゃぁぁぁぁ!!?」
ティーガーの装甲が弾けとび、主砲が砲塔ごと吹き飛んだ。衝撃のやんだあとにはすさまじいまでのアラートが鳴り響く。
「くっ!?」
ティーガーを襲ったものの正体、それは高出力のレーザーだ。キングスラッグはその体で集光、その光を体内で収束・加速させ、高出力レーザー砲として放ったのだ。
ただでさえ強力なそれを、酸で装甲が破損した状態で受けたティーガーは見るも無残なまでの損傷を負っていた。
主砲は砲塔ごと吹き飛び、そればかりか発生した高熱の余波でエンジンやCユニットまでもがイカれていた。
もはや満身創痍のティーガーに、トドメとばかりに襲い掛かるキングスラッグ。
「舐めないで!?」
私はティーガーにかぶりつこうと至近距離にまで寄ったキングスラッグに、ティーガーに残っていた最後の武装、ありったけのATMを打ち込んだ。
ティーガーの後部に装着された16連ミサイルポッドから対戦車ミサイルが連続的に放たれる。
キュォォン!?
さすがに対戦車ミサイル16発を至近距離で受けたのは堪えたらしい。キングスラッグが苦悶の咆吼をあげながら、その巨体がバランスを崩し倒れる。しかし、まだトドメにはいたっていないらしい。
「くっ!?」
私は一つ舌打ちをすると、ハッチを開けて外に飛び出した。そしてケーニッヒティーガーへと駆け寄る。
ティーガーにもはや攻撃能力はない。そうなればケーニッヒティーガーに乗り換えて戦うほか道はない。
ケーニッヒティーガーのハッチを開け放ち、即座に操縦席に乗り込む。
「早く、早く!」
起動キーを入れ、エンジンに火が入り、システムが立ち上がる。その起動までのタイムラグがもどかしい。
カメラを見ればキングスラッグはすでに体勢を立て直し始めていた。
そしてさっきと同じように光り始める。高出力レーザーを放つ気だ。
あれの直撃を受ければ、ケーニッヒティーガーとて無事ではすまない。私は祈るような気持ちでCユニットの起動を待った。しかし……。
「システムエラーですって!?」
長い間放置されていたケーニッヒティーガーのシステムにはエラーがあったらしい。自動修復が始まっているが、この状況下でこのタイムロスは致命的だった。
キングスラッグがレーザーの発射準備を終え、その口をケーニッヒティーガーに向けて開いた。私は思わず目をつぶる。
その時……。
ドォン!
キュォォン!?
何か重いもの同士がぶつかるような音、そしてキングスラッグの声が聞こえた。私はゆっくり目を開ける。そこには
「ティーガー!?」
誰も乗っていないティーガーがキングスラッグに体当たりをしていた。冷静に考えれば、おそらく熱によってCユニットが暴走してしまったのだろう。だがその時の私にはティーガーが意志を持ち、私をかばってくれているような気がした。
キシャァァァァッ!!
怒りに燃えるキングスラッグが、ケーニッヒティーガーに撃つつもりだった高出力レーザーをティーガーに向けて放つ。高出力レーザーの直撃を受け、半壊していたティーガーがさらにぼろぼろになっていく。
「ティーガー!?」
私の悲鳴とほぼ同時にシステムの自動修復が完了し、Cユニットが立ち上がる。私は狙いをさだめ、主砲のトリガーを引いた。
160㎜スパルクの弾頭は狙い違わず、開いたままだったキングスラッグの口の中へと飛び込む。そして頭部を完全に破壊され息絶えたキングスラッグはその巨体を大地に横たえた。
「ティーガー……」
キングスラッグが息絶えたのを確認し、私はすぐさまティーガーへと駆け寄る。ティーガーは見るも無惨な姿だった。
右の半分、キャタピラからメインフレームまでがレーザーの高熱によってアメのようにひしゃげている。破壊されたエンジンからは黒煙がモクモクとあがり、各所で炎が燻っていた。
その姿を見て、私は自分の軽率さを憎んだ。もしカールやセバスチャンとともに、万全の態勢でやってきていたら、ティーガーはここまで破壊されることはなかったかもしれない。
「ごめんね、ティーガー……」
私の頬を涙が伝った。
3.
「そのあと、すぐにケーニッヒティーガーで牽引してティーガーを修理工場に運んだわ。工場には買い直した方が安くつくとまで言われたけど、私にあの子を手放す選択肢はなかった。だって私を身を挺して守ってくれた子ですもの、代わりなんていないわ。おかげでキングスラッグの賞金2万Gとポケットマネーの5万が丸々なくなっちゃったけど、後悔はしなかったわ」
私の話を聞き終わり、彼は頷く。
「ふぅん、だからティーガーが一番好きなんだ?」
「ええ、私は一番ティーガーが好きよ。もっともその思い入れのせいであの子を戦闘で使えなくなっちゃったけどね」
私は彼に、そう微笑みながら答えた。
彼と戦車の話をしたその夜、私は自宅地下にある戦車格納庫を訪れていた。
クルセイダー・チャフー・モスキート・ゲパルト……私の大好きな戦車たちがところ狭しと並んでいる。そんな脇を通り過ぎ、格納庫の奥へと私はやってきた。
「……」
そこには私の大好きなティーガーが静かに鎮座していた。私はその鋼鉄の体をゆっくりとなでるとハッチを開け、操縦席へと座る。
「ティーガー……」
一つ一つ計器をなでるように触っていく。そして私はシートに深く身を預けると、目を閉じた。久しぶりに、この子の中で眠ろう。
砂漠の広野でこの子とともに旅をしたときのように、私は安らかな眠りへと落ちていった。
不安はない。だって私にはこの子がついている。
優しくて、そして強い、砂漠の虎がついているのだから……
当時、ローズ・ベルディアと結婚エンドが無いと知って愕然としたときに書いたSS。
色々惜しかったと思うんですよねぇ……メタルサーガ。