遠距離メールがテーマ。
1.
とても綺麗な月夜だった。
「はぁ……」
『新着メッセージはありません』
しかしあの方からの文(ふみ)とはほど遠い、温かみのない機械的なメッセージが表示され、
「今日も……あの方からの文(ふみ)はないのですね……」
呟き、
そう、あの方と始めてお逢いしたも、こんな綺麗な月夜だった……。
2.
あの日……平和だったこのトリカミは、突如として恐怖に突き落とされた。
5つの首を持ち人語を話す巨大な竜のモンスター、オロチがこの村を襲ったのだ。オロチは瞬く間に、トリカミを守っていた自警団を蹴散らすと破壊の限りを尽くした。そして
お父様はそのような要求など呑めず、ハンターオフィスに相談、オロチに賞金を掛け、その賞金を目当てにやってきたハンターや村の力自慢の若者たちが次々とオロチに挑んでいった。だが……誰一人帰ってくるものはなかった。オロチはそれほどまでに強大だったのである。
やがて、オロチの要求した生け贄の期限が迫ってきていた。
そして、お父様は最後の決断を下した。つまり要求に従い生け贄……
あの時のお父様の顔は忘れられない。厳しく、そしていつも強かったお父様が、涙を流しながら
愛する家族、そして村のため……
でも、死ぬことが怖くなかったわけじゃない。むしろとても怖かった。
その日から
そんな時だ、あの方が来たのは。
「あと何度、この月を見れるのでしょう……」
ジャリ…
砂利を踏む音がして、その方向を見る。そこにあの方はいた。
異国の、ハンターが好んで着用する耐圧服というものを着て、腰には拳銃を一丁下げている勇ましい格好だが、それが似合わない穏和そうな顔をしたおそらく
あの方は
「異国の方ですね。ようこそ、トリカミへ」
そう言って
「……どうしましたか、異国の方?」
「どうして君はそんなに悲しそうなの?」
「……
「うん」
自分では気がつかなかったが、
「
「もうすぐ死ぬって?」
この方はまだトリカミに来たばかりで事情を知らないらしい。そうわかった
すべてを聞き終えたあの方は、途端に怒り出した。
「そんなの間違ってるよ。そんなことで君が死ななきゃならないなんて!」
「ですが
「それでも間違ってる!」
あの方はそう言うと、突然立ち上がった。穏和そうなその顔とは不釣り合いな、力強く、そして真っ直ぐな瞳で。それを見て
何か嫌な予感がする。
「どう……なさったんですか?」
恐る恐る、
「僕がそのオロチっていうモンスターを倒してくるよ」
と、言い放った。
「い、いけません!オロチは強大なのです。今まで向かっていった方々は全員殺されてしまったのですよ!あなたも殺されてしまいます!!」
「大丈夫、僕がオロチを倒して君も村も助けるから」
そう言って行ってしまった。
「ああ……」
だが翌朝……あの方は帰ってきた。ボロボロの戦車で巨大なオロチの死体を引きずり、包帯だらけの身体で。
あの方は村に着くと、
「これで君も村も大丈夫。だからもう泣かなくてもいいんだよ」
そう言って、
その笑顔を見て……
「ありがとう……ございます」
それだけを呟きながら、
自分や村が助かったことも嬉しかったが、それ以上にこの人が生きていてくれたことが嬉しくて……。
あの方は、少し照れたようにしながら、それでも優しい瞳で
この時……
それから、あの方は折りを見ては異国の服や珍しいもの、そしてあの方の辿った冒険の話をお土産に
そんな時、あの方はBSコントローラをお土産として
いつどこにいても文(ふみ)を送れる便利な機械。機械が得意でない
あの方は
しかし……今から一週間前、あの方から突然、しばらく文(ふみ)が送れないという返事が届いた。なんでも嵐の吹き荒れる地方に行くそうで、そこでは文(ふみ)が送れないらしい。
それから
3.
「ふぅ……」
あの方はご無事だろうか? まさか怪我などなされていないだろうか?
次から次へと不安がわき上がる。
「逢いたい……」
一度吹き出した感情は止まらなかった。
「逢いたい、あの方に逢いたい」
寂しい、切ない……そして、逢いたい……。
様々な感情が渦巻き、ただただ涙が流れる。そのときだった。
ジャリ…
砂利を踏む音に、
そこに……あの方がいた。体中に傷を負って包帯を巻き、所々破けた耐圧服。それでも変わらない穏和な顔と、強く真っ直ぐな瞳で。見間違えようはずがない。
「やぁ、カエデさん」
あの方は優しい笑顔で、語りかける。それを見て、
窓から飛び出し、素足のままで庭を駆け、そしてそのままあの方の胸に飛び込んだ。
「うわっ」
あの方は驚いたような声を上げるが、
言いたいことはたくさんあった。次に逢ったときどんなことを話そう、と考えていたものもあった。だが、その瞬間にはそうやって考えていたものすべてはどこかに吹き飛び、そして……。
「逢いたかったです。ずっと……あなたに逢いたかった」
そんな言葉がこぼれる。あの方は
やがて……。
「うん、僕も逢いたかった」
そう言って、あの方は
「カエデさん、大事な話があるんだ」
「はい」
「僕と……結婚してほしい」
「えっ?」
その言葉に驚き、見上げるとあの方は真っ赤になりながら、それでも真剣な顔で真っ直ぐ
先ほどの言葉を反芻する。結婚……夫婦となること。
迷う必要など無く
「はい、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
涙で震える声で、
昔話にこんな物語がある。八つ首の竜に生け贄に捧げられそうになったクシナダヒメは、助けてくれたスサノオの妻となるという話。
「幸せに……してくださいまし」
「うん」
END
おまけ(あるいはただの蛇足).
「ふぅ……」
キュルキュルと重い音を響かせながら、砂漠を戦車が走る。
あのあと、お父様とお母様にあの方は
そして今度はあの方のご両親に承諾を貰うべく、あの方の故郷……ジャンクヤードと呼ばれる街に向かっているところだ。
トリカミとは違う見渡す限りの砂漠を見て、遠くに来たことを痛感する。
「大丈夫?」
そんな
「はい」
「もうすぐだから、もうしばらく我慢してね」
やがて、あの方の言葉通り街が見えてきた。ジャンクヤード……
ジャンクヤードへと到着すると、そのままあの方の生家へと向かう。
すると、
「母さん!」
突然あの方は走り出した。見ればその先には作業着を着た一人の女性が。おそらくはあの人が
見ているとなんと、あの方はそのままお義母様に抱きつくと、接吻を……!?
……落ち着きなさい、カエデ。あの方はお義母様であり、このあたりの風習ではあのような挨拶が家族同士の普通のコミュニケーションなのだろう。ただの文化の違いに決まっている。だから落ち着け。
錯乱しかかった頭で、そう自らを落ち着ける。
しばらくすると、あの方がこちらに戻ってくる。そんなあの方に、
「あの……いつもあのような挨拶をなさっているんですか?」
その問いに、
「うん、そうだけど?」
さも当然のように答える。
家に通され、
その後、キョウジ様はよほど結婚の話が嬉しかったらしく、今日一日つき合え、とあの方は酒場へと連れてかれた。一日酒場で飲み明かすらしい。
さっそく暇となってしまった
「…………」
……絶句した。
中を埋め尽くすのは数多くの調度品と珍しい服。どれもこれもがかなり高価なものであることがわかる。キョウジ様からの贈り物だろうか?
そんな
「悪趣味でしょ、この部屋」
「いえ、そんなことは……」
「いいのよ、無理しなくて。でもあの子からのプレゼントだしね。無下にはできないわ」
…………は? あの子?
「あのニーナ様、ここの部屋の物って……キョウジ様からの贈り物ではないんですか?」
「これ? これは全部あの子が送ってきたのよ。まったく、ハンターはお金かかるんだからこんなもの送らなくてもいいって言ってるんだけどね……」
そう言ってニーナ様は苦笑するが、
そう言えば……ヤマタノオロチを倒したスサノオって、母親に会いたいって騒いで天界を追い出されたマザコンでしたね……。
そんなことを思っていた。
そしてその日から
今度こそEND
当時カエデの結婚もないことに愕然、その後『マザコン』の称号を貰った時に書いたもの。
……惜しい作品だった。
まともな形でリメイクとかしてくれませんかねぇ。