メタルサーガ短編   作:キューマル式

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メタルサーガの巫女さん、カエデさんのお話。

遠距離メールがテーマ。



『クシナダヒメの憂鬱』 トリカミ=カエデ編

1.

 とても綺麗な月夜だった。

 

「はぁ……」

 

 (わたくし)―――トリカミ=カエデは今夜何度目かわからないため息をつくと目の前の、手の平大の機械を見つめる。それは『BSコントローラ』と呼ばれる機械で、あの方から貰ったものだ。いかに遠くにいようと文(ふみ)を送れるという便利な機械である。

 (わたくし)はBSコントローラを手に取ると、今日何度も繰り返した行動を再び行った。BSコントローラを操作し、あの方からの新しい文(ふみ)を確認する。あの方から新しい文(ふみ)が来ていることに淡い期待を抱きながら。

 

『新着メッセージはありません』

 

 しかしあの方からの文(ふみ)とはほど遠い、温かみのない機械的なメッセージが表示され、(わたくし)は再びため息をついた。

 

「今日も……あの方からの文(ふみ)はないのですね……」

 

 呟き、(わたくし)は再び窓の外を見る。そこにはとても綺麗な満月がぽっかりと浮かんでいた。それを見ながら(わたくし)は思い出していた。

 そう、あの方と始めてお逢いしたも、こんな綺麗な月夜だった……。

 

 

2.

 

 あの日……平和だったこのトリカミは、突如として恐怖に突き落とされた。

 5つの首を持ち人語を話す巨大な竜のモンスター、オロチがこの村を襲ったのだ。オロチは瞬く間に、トリカミを守っていた自警団を蹴散らすと破壊の限りを尽くした。そして(わたくし)を生け贄に捧げよ、と要求してきたのだ。

 お父様はそのような要求など呑めず、ハンターオフィスに相談、オロチに賞金を掛け、その賞金を目当てにやってきたハンターや村の力自慢の若者たちが次々とオロチに挑んでいった。だが……誰一人帰ってくるものはなかった。オロチはそれほどまでに強大だったのである。

 やがて、オロチの要求した生け贄の期限が迫ってきていた。

そして、お父様は最後の決断を下した。つまり要求に従い生け贄……(わたくし)をオロチに捧げる、と……。

 あの時のお父様の顔は忘れられない。厳しく、そしていつも強かったお父様が、涙を流しながら(わたくし)に村のために生け贄になるよう言ったのだ。

 愛する家族、そして村のため……(わたくし)はそう思い、お父様の言葉に頷き、生け贄となることを決めた。

 でも、死ぬことが怖くなかったわけじゃない。むしろとても怖かった。

 その日から(わたくし)は部屋に篭もり、生け贄に出される満月の夜まで怯えながら、そして己の運命に泣きながら過ごしていた。

 そんな時だ、あの方が来たのは。

 

「あと何度、この月を見れるのでしょう……」

 

 (わたくし)はその夜も眠れず、月を眺めていた。そんな時だ。

 

ジャリ…

 

 砂利を踏む音がして、その方向を見る。そこにあの方はいた。

 異国の、ハンターが好んで着用する耐圧服というものを着て、腰には拳銃を一丁下げている勇ましい格好だが、それが似合わない穏和そうな顔をしたおそらく(わたくし)と同じくらいの歳の少年、それがあの方だった。

 あの方は(わたくし)を不思議そうに見やる。そんなあの方に(わたくし)は村長の娘として礼を行う。

 

「異国の方ですね。ようこそ、トリカミへ」

 

 そう言って(わたくし)はお辞儀をする。しかし、あの方はそんな(わたくし)を不思議そうに見やるだけ。

 

「……どうしましたか、異国の方?」

 

「どうして君はそんなに悲しそうなの?」

 

 (わたくし)の問いに、あの方はまっすぐな瞳で問い返す。

 

「……(わたくし)はそのような顔をしておりましたか?」

 

「うん」

 

 自分では気がつかなかったが、(わたくし)はよほどひどい顔をしていたらしい。しかし、それを直すような気力は今の(わたくし)にはない。

 

(わたくし)はもうすぐ死にゆく身ですから……そのような顔をしていたのかもしれませんね」

 

「もうすぐ死ぬって?」

 

 この方はまだトリカミに来たばかりで事情を知らないらしい。そうわかった(わたくし)はこの方に事情を話した。なぜそのようなことを思ったのか……おそらく(わたくし)は誰とも会わず、話すこともなくただただ死を待つ中で寂しかったのだろう。だから、異国の会ったばかりのあの方に話をしたのだと思う。

 

 すべてを聞き終えたあの方は、途端に怒り出した。

 

「そんなの間違ってるよ。そんなことで君が死ななきゃならないなんて!」

 

「ですが(わたくし)が生け贄になればこの村は守られるのですよ?そうしなければこの村が……」

 

「それでも間違ってる!」

 

 あの方はそう言うと、突然立ち上がった。穏和そうなその顔とは不釣り合いな、力強く、そして真っ直ぐな瞳で。それを見て(わたくし)は急に不安になった。

 何か嫌な予感がする。

 

「どう……なさったんですか?」

 

 恐る恐る、(わたくし)はあの方に問う。すると、

 

「僕がそのオロチっていうモンスターを倒してくるよ」

 

 と、言い放った。

 

「い、いけません!オロチは強大なのです。今まで向かっていった方々は全員殺されてしまったのですよ!あなたも殺されてしまいます!!」

 

 (わたくし)は必死で、その方を止めようとした。しかし、あの方は強い決意を宿した瞳で首を横に振ると、

 

「大丈夫、僕がオロチを倒して君も村も助けるから」

 

 そう言って行ってしまった。

 

「ああ……」

 

 (わたくし)は去っていくあの方の背中を見ながら、己の行動を呪った。

 (わたくし)があんな話をしたせいで、あの方を死へ追いやってしまった。力強く、そして真っ直ぐな瞳をしたあの人が死んでしまう……そう思うと涙が出た。(わたくし)はその晩、自分の運命ではなく後悔の涙で枕を濡らした。

 だが翌朝……あの方は帰ってきた。ボロボロの戦車で巨大なオロチの死体を引きずり、包帯だらけの身体で。

 あの方は村に着くと、(わたくし)のところにやってきて、

 

「これで君も村も大丈夫。だからもう泣かなくてもいいんだよ」

 

 そう言って、(わたくし)に優しく微笑みかけた。

 その笑顔を見て……(わたくし)はあの方の胸に飛び込んだ。そして泣いた。今までとは違う涙で。

 

「ありがとう……ございます」

 

 それだけを呟きながら、(わたくし)はあの方の胸で喜びの涙を流した。

 自分や村が助かったことも嬉しかったが、それ以上にこの人が生きていてくれたことが嬉しくて……。

 あの方は、少し照れたようにしながら、それでも優しい瞳で(わたくし)を見ている。

 この時……(わたくし)はこの方への恋に落ちたのだった……。

 

 

 それから、あの方は折りを見ては異国の服や珍しいもの、そしてあの方の辿った冒険の話をお土産に(わたくし)の元へやってきてくれ、そしてそれを(わたくし)は心待ちにする日々を送っていた。そして逢えない期間を切ない想いで過ごす日々。

 そんな時、あの方はBSコントローラをお土産として(わたくし)にくれた。

いつどこにいても文(ふみ)を送れる便利な機械。機械が得意でない(わたくし)はその使い方を必死で覚え、そして日に必ずあの方への文(ふみ)を送ることを日課としていた。

 あの方は(わたくし)の文(ふみ)に必ず返事を送ってくれ、それが(わたくし)の最大の楽しみとなっていた。

 しかし……今から一週間前、あの方から突然、しばらく文(ふみ)が送れないという返事が届いた。なんでも嵐の吹き荒れる地方に行くそうで、そこでは文(ふみ)が送れないらしい。

 それから(わたくし)は毎日のようにあの方からの文(ふみ)を確認し、そして文(ふみ)の無いことに落胆のため息をつく、という日々を送っていた……。

 

 

3.

 

「ふぅ……」

 

 (わたくし)はもはや何度目かわからないため息をついた。

 あの方はご無事だろうか? まさか怪我などなされていないだろうか?

 次から次へと不安がわき上がる。

 

「逢いたい……」

 

 (わたくし)はいつの間にかそう呟いていた。途端に眺めていた月が歪む。

 一度吹き出した感情は止まらなかった。

 

「逢いたい、あの方に逢いたい」

 

 寂しい、切ない……そして、逢いたい……。

 様々な感情が渦巻き、ただただ涙が流れる。そのときだった。

 

ジャリ…

 

 砂利を踏む音に、(わたくし)は顔を上げた。

 そこに……あの方がいた。体中に傷を負って包帯を巻き、所々破けた耐圧服。それでも変わらない穏和な顔と、強く真っ直ぐな瞳で。見間違えようはずがない。

 

「やぁ、カエデさん」

 

 あの方は優しい笑顔で、語りかける。それを見て、(わたくし)は走り出していた。

 窓から飛び出し、素足のままで庭を駆け、そしてそのままあの方の胸に飛び込んだ。

 

「うわっ」

 

 あの方は驚いたような声を上げるが、(わたくし)をやさしく抱き留めてくれた。

 言いたいことはたくさんあった。次に逢ったときどんなことを話そう、と考えていたものもあった。だが、その瞬間にはそうやって考えていたものすべてはどこかに吹き飛び、そして……。

 

「逢いたかったです。ずっと……あなたに逢いたかった」

 

 そんな言葉がこぼれる。あの方は(わたくし)の言葉を聞いて、恥ずかしそうに顔を赤くする。

 やがて……。

 

「うん、僕も逢いたかった」

 

 そう言って、あの方は(わたくし)をギュッと抱きしめてくれた。

 

「カエデさん、大事な話があるんだ」

 

「はい」

 

「僕と……結婚してほしい」

 

「えっ?」

 

 その言葉に驚き、見上げるとあの方は真っ赤になりながら、それでも真剣な顔で真っ直ぐ(わたくし)を見つめていた。

 先ほどの言葉を反芻する。結婚……夫婦となること。(わたくし)とあの方が……。

 迷う必要など無く(わたくし)の心など始めから決まっていた。

 

「はい、ふつつか者ですがよろしくお願いします」

 

 涙で震える声で、(わたくし)はそう答えた。

 

 昔話にこんな物語がある。八つ首の竜に生け贄に捧げられそうになったクシナダヒメは、助けてくれたスサノオの妻となるという話。(わたくし)の境遇とよく似た話だと思う。そう、オロチより救われた(わたくし)はこの方の妻となる運命だったのだろう。

 

「幸せに……してくださいまし」

 

「うん」

 

 (わたくし)はあの方の胸の中で、幸せに浸っていた。憂鬱な日々は終わり、これからは幸せな日々が続くと確信して……。

 

 

                                      END

 

 

 

 

 

 

 

おまけ(あるいはただの蛇足).

 

 

「ふぅ……」

 

 キュルキュルと重い音を響かせながら、砂漠を戦車が走る。

 あのあと、お父様とお母様にあの方は(わたくし)との結婚の話をした。急な話で、お父様もお母様も大変驚いたが、あの方は村を救った英雄であったし、なにより(わたくし)の気持ちを知り、承諾をしてくれた。

 そして今度はあの方のご両親に承諾を貰うべく、あの方の故郷……ジャンクヤードと呼ばれる街に向かっているところだ。

 トリカミとは違う見渡す限りの砂漠を見て、遠くに来たことを痛感する。

 

「大丈夫?」

 

 そんな(わたくし)にあの方は優しく声をかけてくれた。

 

「はい」

 

「もうすぐだから、もうしばらく我慢してね」

 

 やがて、あの方の言葉通り街が見えてきた。ジャンクヤード……(わたくし)の嫁ぎ先はもうすぐそこだった。

 

 

 ジャンクヤードへと到着すると、そのままあの方の生家へと向かう。

 すると、

 

「母さん!」

 

 突然あの方は走り出した。見ればその先には作業着を着た一人の女性が。おそらくはあの人が(わたくし)のお義母様となるニーナ様だろう。

 見ているとなんと、あの方はそのままお義母様に抱きつくと、接吻を……!?

 

 ……落ち着きなさい、カエデ。あの方はお義母様であり、このあたりの風習ではあのような挨拶が家族同士の普通のコミュニケーションなのだろう。ただの文化の違いに決まっている。だから落ち着け。

 

 錯乱しかかった頭で、そう自らを落ち着ける。

 しばらくすると、あの方がこちらに戻ってくる。そんなあの方に、

 

「あの……いつもあのような挨拶をなさっているんですか?」

 

 その問いに、

 

「うん、そうだけど?」

 

 さも当然のように答える。(わたくし)は顔が引きつるのを止められなかった。

 

 

 

 家に通され、(わたくし)はあの方のご家族……お義父様となるキョウジ様とお義母様となるニーナ様、そしてあの方の妹のエミリ様に紹介された。結婚の話は皆さん大層驚かれていたが、それでもあの方が真剣であるとわかると、快く承諾してくださった。

 その後、キョウジ様はよほど結婚の話が嬉しかったらしく、今日一日つき合え、とあの方は酒場へと連れてかれた。一日酒場で飲み明かすらしい。

 さっそく暇となってしまった(わたくし)に、ニーナ様とエミリ様が声をかけてきた。私(わたくし)とあの方の話を聞きたいらしい。断る理由があるわけもなく、(わたくし)は誘われるまま、ニーナ様の部屋へと入った。そこには……

 

「…………」

 

 ……絶句した。

 中を埋め尽くすのは数多くの調度品と珍しい服。どれもこれもがかなり高価なものであることがわかる。キョウジ様からの贈り物だろうか?

 そんな(わたくし)に気付いたのか、ニーナ様が苦笑していた。

 

「悪趣味でしょ、この部屋」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「いいのよ、無理しなくて。でもあの子からのプレゼントだしね。無下にはできないわ」

 

 …………は? あの子?

 

「あのニーナ様、ここの部屋の物って……キョウジ様からの贈り物ではないんですか?」

 

 (わたくし)は恐る恐る聞いた。すると、

 

「これ? これは全部あの子が送ってきたのよ。まったく、ハンターはお金かかるんだからこんなもの送らなくてもいいって言ってるんだけどね……」

 

 そう言ってニーナ様は苦笑するが、(わたくし)はそんなものは見ていなかった。

 

 

 そう言えば……ヤマタノオロチを倒したスサノオって、母親に会いたいって騒いで天界を追い出されたマザコンでしたね……。

 

 

 そんなことを思っていた。

 そしてその日から(わたくし)の波乱に満ちた結婚生活が始まるのだった……。

 

                            

 

                            今度こそEND

 

 

 




当時カエデの結婚もないことに愕然、その後『マザコン』の称号を貰った時に書いたもの。

……惜しい作品だった。
まともな形でリメイクとかしてくれませんかねぇ。
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