「では、お先失礼します」
8時間の労働を終えたのでフーディエを出る。後はフリーターのおじさんやアルバイトの大学生に任せるしかない。
これから起きうる事に気分が沈んでいたが、逆に言えばここを乗り切れば上手く行く。フーディエを出ようとすると麟児さんがいた。
「そろそろだと思っていてな」
「そうですか……じゃあ、家で話をしますね」
麟児さんが待ち構えていたのは少しだけ驚いたが、直ぐに冷静さを取り戻す。
詳しい話は家でする、そうじゃないと言えない事も多々ある。ホントに厄介な役割だよ、主人公と言うのは。
「あら、久しぶりね」
「どうも……ちょっと勉強で分からない事があるので修に聞きに来ました」
「そう……ちゃんと教えるのよ」
家に上がれば母さんが出迎えてくれる。
麟児さんは大学で分からないところを俺から教えてもらいに来たと息を吐くように嘘をついた。その光景を見て罪悪感は特に抱かず、母さんもなんとなくで色々と察している。だから深くは踏み込もうとしてこない。
「……大分変わったな」
「大きな仕事を与えられたので、模様替えしました」
今まではベッド、テーブル、テレビ、ゲーム、本棚、タンスだけにシンプルな部屋だった。
しかし今はデスクトップPCにそれを置くテーブルとゲーミングチェアが置かれておりそれをベースにした部屋に模様替えしている。
麟児さんは大分変わった事を口にし、とりあえずはとベッドの上に座ってもらい俺はゲーミングチェアに座る。
「なにを何処から語ってくれるんですか?」
「そうだな……先ずはコレからだ」
麟児さんは長方形の細長い21gぐらいの道具を……ワールドトリガーの根底に関わるアイテムであり兵器、トリガーを置いた。
予想通りの事になっているので深くは驚くことをせず、コレがなんなのか触れてみる。思っていた以上に軽いなと思っていると麟児さんは地図を広げる。三門市の地図だ。
「コレはボーダーのトリガーだ……協力者から横流ししてもらった」
「なんの為に?」
「千佳の為にだ」
なんの為にトリガーを横流ししてもらったのか聞けば麟児さんは即答する。
話が上手く繋がらないと思っていると麟児さんは地図上に記されている☓印を指差した。
「この☓印のところが主に近界民が出てくると言われている」
「いや、出てくると言われていると言われてもボーダーが世界中で開く門をこの三門市に誘導してるんだから当たり前じゃないですか?」
なにを今更な事を言っているんだ、この人は?
完全に話の腰を折るのは理解しているが、ホントに三門市民には常識的な事なので呆れてみる。若干どころか結構気まずい空気が流れるが麟児さんからなにかを切り出さないと困る。
「修は近界民をなんだと思っている?」
「異世界からの侵略者です……それとも言い方を変えて近界民はこの地球と言う星とは異なる星の住人、異世界人と言った方が都合がいいですか?」
「っ!?」
どうしてそれを!的な感じで驚く麟児さん。
むしろなんでそれに至らないのか、それだけボーダーの情報操作が上手いんだろう。だが、そんな事はどうでもいいことだ。俺はボーダーに対して何かしらの思い入れがあるわけではない、仮に誰かが死んでもそれがどうした?とハッキリと言い切れる自信がある。俺はその辺はドライだ。
「どうして異世界の人間だと言い切れる?」
「何故異世界の人間だと知っている?が疑問ですね。確か4年前の大規模な侵攻の際に自衛隊が出動して戦車でミサイルを撃ったりしたけども効果は無かった。こちらの世界の火薬を用いた兵器が通じない相手を倒す未知のテクノロジーを所有していた……何処から?彼等はこの日の為に対策していたと言い異世界からの侵略者と言っていた。つまりは異世界からの住人から何かしらのコンタクトがあったのだと考えるのが妥当なところ、それが友好的かタカかトンビかは分からないが異世界は確かに存在し、何かしらの理由で侵略行為を行っている……戦争ほどハイリスク・ハイリターンの博打は存在していない。戦争が起きる主な理由は資源の奪い合い、資源を求めてこちらの世界に侵攻してきている、それを上手い具合に誤魔化している。そんなところだ」
「……」
そこまで既に理解していた、推察していたのかと言葉が出てこない麟児さん。
これぐらいならば少しだけ頭を捻れば誰にでも出てくる答えだが、皆は意外と出てこないらしい。
「それで何故にトリガーを横流しに?ボーダーの入隊試験に落ちたんですか?」
「違う…………近界民を抑えようと思うんだ」
「無謀、無茶、無能の3つの言葉が浮かび上がってきたよ。なにから言って欲しい?こっちは相手を全くと言って知らない、情報のアドバンテージが0なのに抑えようと思うんだは無能の極まりだ」
近界民を抑えようと思うんだと言う言葉に呆れる。
綺麗な言葉で見繕っても俺は心が動かない。麟児さんに対してなにも思わないと言えば嘘になる、多少の情はあるがそれだけだ。なんの考えも無しに向こうの世界に行こうとしている。向こうの世界に行きたいと言う思いは伝わってくるがな。
「……ならば言い方を変える。青葉と言う女の子を探しに行きたいんだ」
「青葉って言うと千佳の友達で……」
「ああ、近界民に拐われた子だ。近界民の存在が認知される前に千佳の事を信じた結果、拐われた……そのせいで千佳は誰かに頼るぐらいならば自分1人が犠牲になって我慢しようとしている……その子を連れ戻せば千佳を前に進む勇気を巻き込む勇気を与える事が出来る筈だ」
「勇気か……その為に貴方が犠牲になると?なにかを得るにはなにかを失わないといけない、等価交換の法則、この世の理だ。だが、貴方が犠牲になればますます千佳は前に進む事が出来なくなる……」
「そうならない為にお前の元に来たんだ、お前なら千佳を守ることが出来る……千佳を守ることが出来る力を俺に貸してほしい」
「嫌です」
「……なら、お前が近界民に対抗する力を持っていると協力者を経由してボーダーにバラす」
「脅しですか?」
「そう捉えてくれても構わない……千佳に勇気を与える為にも、あいつを前に進ませる為にも俺には戦う力が必要だ」
「……う〜ん……貸す貸したくないの問題じゃなくて貸せないんですよ」
麟児さんは俺を脅しにかかってくる。
そっちがその気ならばこちらにも考えがある。先ずは俺の力を貸すことが出来ないと言う意味合いを教える為に体からデジソウルを放出する。いきなりのデジソウルに麟児さんは驚く。
「コレはデジソウル……人間の精神エネルギーを具現化した物だと思ってください」
「それを使えば近界民と戦えるのか?」
「先に言っておきますけども、近界民と戦うには優れた戦闘力が必須です。ただ純粋にデジソウルを麟児さんでも出せる方法は知っていますが、仮に出せたとしても生身で戦車と殴り合いで勝てと言ってるもの……死にますよ」
「ならなんでお前は生きているんだ?」
「運が良かった。優秀な師匠に恵まれた。スゴい奴が直ぐ近くに居た……麟児さん、この事件を知っていますか?」
俺はパソコンにあの時の事件のまとめを見せる。
「空港から蓮乃辺市行きのバスを銃を持った連中がやって来たバスジャック事件、蓮乃辺市に現れた謎の巨人だろ?確か、バスジャック事件はお前とおばさんが巻き込まれたって千佳から聞いた事がある」
「実は巨人の方も関わっているんですよ……」
「……アレは近界民の仕業じゃないのか?」
「……そういえば千佳には見せたことがありますけども、なんだかんだで麟児さんに見せたことは無かったですね」
近界民が何処の街を襲うか下調べにやってきた、そんな風に麟児さんや世間は認識している。
実際のところはRD−1、リリエンタール関係であり黒服の組織や日野夫妻が情報を遮断している。故に色々の説が出ているが、情報なんてそんなものだと部屋のドアノブに触れて右に2回、左に1回回してからドアをノックし開いた
「!?」
「修じゃない」
「やぁ、ここ最近来れなくてごめんねマリー……メタルシードラモンもすまないな」
「気にするな」
ドアを開けばそこは俺の部屋を出た廊下……ではなく、巨大な孤島にいた。
フワフワと浮いていたマリーがメタルシードラモンに乗って俺の元にやってくる。ここ最近、なにかと忙しかったからこの部屋に来ることが出来ていない。部屋の出入口であるドアの間に立って俺の部屋とこの孤島を見比べる。
「どうなっているんだ……」
「お客様?修が誰かをここに連れて来るだなんて珍しいわね」
麟児さんの存在に気付くマリー。
とりあえず部屋に繋がるドアを閉じて島を歩く。
「修、いったいどうなっているんだ?お前はなにを隠しているんだ!?」
「1から10まで全てを話していたらキリが無い…………結論だけ言ってしまえば、俺はコイツラの力を借りている……リロード、ブルーフレア」
デジヴァイスを取り出し、デジモンを出す。
黒いアグモン、黒いガブモン、ギルモン、細いスマートなグレイモン、メイルバードラモン、サイバードラモン、デッカードラモン、ブイモン、ワームモン、クロックモン、ドラコモン、そして多数のガオスモン。
アグモンとかならばまだ許容範囲内だろうがデッカードラモンとかは驚くしかなく、言葉を失う麟児さん。
「ほぉ、人間か……オレ達は蒼の軍、ブルーフレア!!」
「落ち着け、アグモン……俺自身は基本的には戦いません。アグモン達が戦ってくれるんです」
俺や千佳以外の人間なので堂々と名乗りを上げるアグモン。俺自身は基本的には戦わないことを伝え、アグモン達が戦ってくれる事を教える。
アグモンとかワームモンとかは見た目からして頼りない感じがするが、デッカードラモンやサイバードラモンは如何にも強そうな見た目をしている。
「ハッキリと言いますが俺はボーダーを一種の信頼はしています。それと同じぐらいには疑いも持っています…………千佳は近界民に狙われやすい、その原因をボーダーは知っている。そしてその原因を対処する事をボーダーはしないといけない、この街を戦場に変えている奴等は千佳を見つけなければならない義務がある……ボーダーには色々な人がいて、思想は異なりますけども全員が街を守るという意志はある筈です」
街を守るという思いがあるという点では派閥は関係無い。そこだけは履き違えない……少なくとも俺はそう思っている。
俺がトリオン兵と戦っているんじゃなくてアグモン達が代わりに戦っている事を伝えれば麟児さんはアグモン達に頭を下げた。
「俺に、俺に力を貸してくれ!誰でもいい、終わった後にどんな目に遭っても構わない!」
「……修よ、いったいどういう状況なのだ?」
「デッカードラモン……この人は千佳の兄で昔、アグモン達に倒してもらった敵を送り込んでくる所に行きたいって言ってるんだ」
力を貸してくれと頼み込む麟児さん。
突然のことに戸惑うので皆の代表としてデッカードラモンが聞いてくるので素直に答える。
「向こうの敵地に乗り込むか……悪くはないな。いちいち相手をしていたらキリが無い。格の違いを思い知らせてやろうじゃないか」
「いや、俺じゃなくて麟児さんが行きたいって言ってるんだよ」
メイルバードラモンは力を知らしめてやろうと考えるが、俺は行くつもりはない。
麟児さんが行きたいって言っているだけであり、それを聞いたメイルバードラモン、いや、アグモン達は呆れていた。
「ならばこの話は最初から無かった事になるね……だって修ちゃんが行かないんじゃボクたちまともに戦えないよ」
「どういうことだ?」
「オレ達、修の心で強くなれるんだ!修が居ないとデジクロスも進化も出来ないんだよ!」
俺が行かないと分かればこの話は最初から無しになる。
ワームモンやブイモンは俺が居るから進化やデジクロスなんかが出来ると言っている。力を貸すことが出来ないと分かれば麟児さんは目に見えて落ち込んだ。
「そう落ち込むでない、確かにワシ達はお前に力を貸すことが出来ない……お前からは深き愛を、家族を思う心を感じる。修よ、彼ならばデジヴァイスを託してもいいのではないか?」
「……まぁ、そうなるよな…………」
デッカードラモンはデジヴァイスを渡すことを進言するので俺は白色のクロスローダーを取り出した。
リリエンタールの力で生み出されたデジヴァイスは桜と雪、お兄さん、鉄子が持っていてそれらを解析し……なんとかデジヴァイスに近い物を作り上げる事が出来た。このデジヴァイスならばデジクロスも進化もデジメンタルアップもスピリットエボリューションも出来る。見た目は完全にクロスローダーだけど。
「麟児さん……千佳の友達だった青葉ちゃんを連れて帰るんですよね?」
「ああ……そうすれば……」
チラリとアグモン達に視線を送るが首を横に振る。
正しい意味での確信犯になろうとしているか……少なくとも、原作とは異なり正直に俺に話をしただけマシだろう。
「今こうしている間にも近界民はやって来ている。ボーダーが4年かけて軍備拡大して近界民に対抗する術を身に着けた……聞こえはいいが相手と対等じゃない少しだけ下で戦えるようになったと言っているだけに過ぎない……貴方が居なくなればどうするつもりだ?千佳を更に絶望の底に叩き落とすだけだ」
「…………前に進もうにも過去に囚われようにもどっちみち一緒だ。だったら少しでも希望になる未来を掴み取りたい」
「一緒に歩くことは出来ないの?」
「兄は前に進むものだ……その道を通れとは言えないが道を舗装する事ぐらいは出来る」
ダメだな、この人は。なにを言ったとしても止まることはない。
あ〜もう、嫌だよ。この人は絶対に行こうとするよ。なんで俺が……ああ、俺は三雲修だったからか。ホントにマサラタウンのサトシくんになると言うご褒美が無ければ俺は動かないよ。現金な人間なんだぞ、俺は。
「とにかく、俺が出来るのはこのデジヴァイスを渡すことだけです……アグモン達を連れて行ってもなにも出来ないですし、アグモン達も言うことを聞きません」
「ブルーフレアのジェネラルは修しかないよ」
ガブモンも裏切るような真似はしたくない、ブルーフレアのジェネラルは俺だけだ。
ガブモン達も嫌だとハッキリと言い切ったので麟児さんはデジヴァイスを受け取って先に麟児さんだけが島から出ていく。
「あの人、遠い所に行っちゃうの?」
「……」
原作通りに事を進めればなんだかんだで物語は無事に終わるだろう。俺を転生させた奴はなにを望んでいるのか分からないが。
マリーは麟児さんが遠い所に行ってしまう事を心配そうにする。麟児さんが危険な目に遭うからではなく千佳が悲しむ……あ〜もう、仕方がない。
「グレイモン、メイルバードラモン……ちょっと協力してくれ」
「修も行くの?神堂に怒られないの?」
「俺は行くつもりはない」
「あのデジヴァイスならばオレをメイルバードラモンとデジクロスしメタルグレイモンになれる。だが、ジークグレイモンにはなれない。向こうの世界とやらは謎が多い。国が1つでない可能性も考えればオレ達だけ向かうのも危険だ……お前も行けというのならば行くが」
「いや、麟児さんを当日で締める……デジヴァイスに戻ってくれ」
アグモン達にデジヴァイスに戻ってもらう。
メタルシードラモンはここでまだ遊んでいくと言う、マリーもメタルシードラモンに乗っているのでこれでいいかと部屋から戻れば麟児さんが白色のデジヴァイスを無言で見つめていた。
「すみません、色々と話し合いが長引いたんで……どうかしましたか?」
「いや……この機械にさっきの奴等は入っているのかと思って」
「入ってないですから、データを送りますね」
読み通りか、麟児さんは自身のデジヴァイスに1体もデジモンが入っていない事に気付く。
そもそもでデジモンを生み出すことが出来るのは俺が転生特典としてもらったデジヴァイスだけ……スピリットもデジメンタルもデジモンカードも全て俺が独占している状況だ。メイルバードラモンとグレイモンを麟児さんのデジヴァイスに送った。デジタマが無いのかやバグなんかが無いのかを確認し、デジヴァイスの色を黒色に変えた。
「麟児さんは……
麟児さんにデジヴァイスを渡してメイルバードラモンとグレイモンを貸した。
コレで当日にデジヴァイスを置いていくことはない、麟児さんが近い将来持つことになる軍の名前を呟く。
「コレで残すは1つか」
リリエンタールの力で作ったのとは異なる自らの力で作り上げたデジヴァイス。
完成品は3つしかなく、大量生産も出来ない代物だ。その内の1つは母さんに、1つは麟児さんに……最後の1つは恐らくだが……いや、今は考えないでおくか。
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