1 記者会見
「んっ…」
雪奈はゆっくり目を覚ます。重い瞼を無理やり開け、布団をどかして頭を搔く。手に上質の絹のような感覚が広がる。背伸びをし、ゆっくりと眠気を覚ました。
「なんか肌寒…って、あ」
布団をどかした直後に起きた、謎の寒気。その原因はすぐにわかった。雪奈は、服を着ていなかった。つまり全裸である。ちなみに、彼女(彼)は昨夜、しっかりと下着とパジャマを着て寝ていた。
「…習慣って怖ッ」
この原因は、“習慣”である。彼は今、自分の習慣を思い出した。二度目の人生で20歳で土地を買い、そこで家を建てポケモンたちと暮らしていた。つまりは人間は一人のみ。文句を言う人間はいない。だからこそ、彼はある程度自由に出来た。その一つとして、全裸での就寝である。今まで家族とともに過ごし、旅のテントでは寒すぎてできなかったこと。それができるようになり、彼は毎晩全裸で寝た。ついには、寝ている間に全裸になる術を身に着けた。身に着けてしまった。
彼は自身がどういった風に全裸になっているのかがつい気になり、自身の睡眠映像を撮ることにした。そして判明したのは、1時間以上寝ると目を閉じたまま服や下着を脱いでいる自分の姿だった。
「あれ、昨日、もしかして…」
昨日のルカリオとサーナイトが息切れしている場面を思い出した。布団もめくれており、とても寒かったのを記憶している。もし、その時に“習慣”が発動していたら――、
「あ~~~ッ…」
彼の“習慣”はポケモンたちの間では周知の事実である。だから脱いだ当時はまたか、程度に思っていたのだろうが、流石に異性の体で全裸で寝ていたという事実を知れば、とても気まずいことになると踏んで、急いで着替えさせてくれたのだろう。それすらも気づかせないとは、流石である。
それに今は2月の末日。まだ季節的に寒いはずだが、ポケモンが現れてから北海道の季節は極端化した。まぁポケモンの中には天候を操るものがいるため、その現象もある程度理解もできるが。それでも寒いことには変わりない。
「寒っ…」
「ゲンガッ?」
「――ん?」
突如声が聞こえ、後ろを振り向くとそこにはゲンガーが雪奈の影から頭を出していた。――肌寒い理由が分かったかもしれない。ゲンガー取り憑かれると、周囲の温度が5度下がると言われている。雪奈の肌寒さの理由は全裸とゲンガーに起因していた。
「お前いつの間に…」
「ゲンガッ!」
「ビックリさせるなよ…」
「ゲゲゲゲゲッ」とゲンガーは笑う。しかしながら今はこんなことをしている場合ではない。この状況はとてもまずい。全裸とゲンガーのコラボでただでさえ温度が下がっているというのに、すぐに服を着ないと風邪をひく。それに、見られてはまずい人物がいる。
「あいつらに悪いことしたな…。とにかくすぐに着替えないと。こんなところ氷花に見られたら殺され――」
「お姉ちゃん起きてる―――」
散乱している下着を取ろうと、ベットから身を乗り出した瞬間、ガチャッ!と言う音とともに氷花が部屋に突撃して、この残状を目撃した。最悪だ。一番見られてはいけない人物に見られてしまった。その瞬間、氷花の瞳からハイライトと笑顔が消え失せた。
その瞬間、ゲンガーが影から飛び出し雪奈を守るように前に立った。
「ゲンガッ!!」
「――何してるの?」
「いや!違うんだ!
必死に弁明し、命を乞う。目覚めて早々、真っ先に知られてはいけない人物に知られてしまった。冷や汗を流しながら、氷花の顔色を伺う。ハイライトのない目になりながらも、ジト目でこちらを見る氷花は、とても怖い。
しばらくすると、「ハァ…」と言うため息が出た。
「分かったから、早く服着て。その姿でいられると、風邪ひいちゃうでしょ」
「お、おう…」
「ほら、早く着替えて」
「え、今?」
「当たり前でしょ?」
「いや、見られると、恥ずかしいと、いうか…」
「私としてはお姉ちゃんの体に変なことしないか不安なんだけど」
ぐうの音も出ない。氷花にとって、目の前の人物は姉の体を乗っ取った初対面の男性だ。警戒されて当たり前である。仕方ないと悟った雪奈は氷花の監視のもと、氷花はゲンガーの監視を受けながら下着をつけた。
「えっと、服は…」
「これ着て」
今床に散乱しているのはパジャマだ。起きた後、着替えるのが普通だ。
いつの間にか扉から移動し引き出しからTシャツとズボンを引っ張り出した。
「これならあなたでも着れるでしょ?」
「あ、ありがとう…」
「ゲガッ」
ゲンガーが氷花の手から服を奪う形でぶんどり、雪奈に手渡した。
「――嫌われちゃったなぁ…」
「ゲンッ!」
「まぁ仕方ないか。ほら、早く着替えてよ」
「う、うん…」
素っ気ない声で指示され、雪奈は服とズボンを着た。これで周りに見られても問題のない恰好になった。
「ど、どうかな…?」
その声とともに、先ほどとは一転し氷花の顔は笑顔になり、声も明るい調子のものに戻った。
「それじゃあ今すぐリビングに来て!今すっごいことになってるからさ!みんなもテレビに釘付けになってるから、出来るだけ早く来てね!」
「お、おう…」
明るきハキハキと目的をつげ、氷花は部屋を去っていった。
「――――」
それと同時に緊張が解け、雪奈は尻もちをついた。それにゲンガーは驚いて雪奈のもとに駆け寄った。
「こ、怖すぎるだろ…」
「ゲンッ…」
聖 氷花。彼女もまた、大きな闇を抱えていた。それを体感する、一つの経験となった。
* * * * * * * *
聖家リビング。そこにいるポケモンたちは、皆一つの画面に注目していた。その時が今か今かと待ちわびて言る。沈黙が続き、その沈黙を破ったのは氷花だった。テレビ画面に向けられていた視線が、氷花に注がれる。
「会見始まったッ!?――良かったぁ、まだだった」
氷花は勢いよく扉をあけ、テレビ画面を見る。が、先ほど席を外した間に会見が始まっていたらと思うと、悔しさでいっぱいだっただろう。だからこそよかったと、心の底から感じる。
「いや~間に合った。お姉ちゃんがちょっと大変なことになってたから、思ったより時間かかっちゃった」
氷花の言葉に、雪奈のポケモンたちは「あぁ…」みたいな顔をした。自身のトレーナーの全裸就寝については知っているため、初見ではさぞかし驚いただろう、と。だが警戒は緩めない。氷花のことをジト目で
「まだかな~」
「お~い…そんなに急いでどうしたんだ?」
後追いするように、雪奈とゲンガーがゆっくりと扉を開けてリビングに入ってきた。
「あ、お姉ちゃん!ようやく来たッ!ほら、早く座って!準備して!」
氷花がピカチュウとイーブイを持ち抱え膝に置き、一人分のスペースを確保すると、笑顔でこちらに来るように促した。雪奈はその言葉に恐る恐ると言った形で隣に座った――が、縮こまっている。
今の状況を整理するとこうだ。
二人用のソファーに雪奈と氷花。氷花の膝にピカチュウとイーブイ。そしてその周りを囲む雪奈のポケモンたち。ポケモンたちは雪奈をジト目で見つめてくる。
控え目に言って怖い。氷花がこの状況でも笑顔なのが怖い。メンタルが強すぎる。
そんないろいろな不安を抱えながら、テレビは総理の出現によって、始まった。
* * * * * * * *
日本国総理官邸記者会見室。9時過ぎと言うこの時間帯に、この一室は今日もたくさんのマスコミによって席が埋められていた。だが、今日この日に限っては席以上のマスコミでこの部屋は埋め尽くされていた。
理由は2つ。1つは官房長官ではなく、総理自身が会見を行うこと。そしてもう1つ、決定打となったのは、今日になって突然世界中に現れた未確認生物ついて、政府の調査により判明したことを発表するということが事前情報として伝えられたことだ。
未だ異変が起きてから一日しか経過していないこの状況で果たして、どの程度の情報が齎されるのか。日本中どころか世界中が注目していた。理由はただ一つ、他の国ではまだ対応にてんてこ舞いだというのに、日本はいち早く会見を行い、情報を公開しようとしている。その情報を持ってして、自国の騒動を収めることを目的としているのだ。
この緊急事態に関する記者会見のため、ほとんどのチャンネルがこの記者会見を映しているという異例の事態も起きている。
個人の自宅から都会のディスプレイに映っている多くのテレビがこの会見に視線を注ぐ。
『えー、時間になりました。これより元森内閣総理大臣による記者会見を始めます。冒頭、総理から発言がございます。総理お願いします』
その会見の進行係の案内が響き渡ると、総理が壇上に上がって国旗に一礼、併せてカメラのシャッター音が響き渡り、フラッシュが焚かれ始める。
『えー、大変お待たせいたしました。これより、未確認生物に関する会見を行います』
元森総理はゆっくりとマイクに口を合わせ、カメラに視線を向けて喋りだす。
『
総理の言葉とともに、周りがどよめきとシャッター音で支配される。マスコミたちはこの一日で自分たちの知らない全く未知の生物であることは分かり切っていたが、それを政府が認めたということで、確かな確信へと変わった。
『それだけではなく、謎の木の実に突如として現れたポケモンショップなる建物…。自体は予断を許さない状況へと深刻化していきました』
ゴクリと、誰かが固唾を飲む。そのことはここにいる全てが知っている。報道関係の人間であれば、尚更だ。突如現れた未確認生物とともに現れた、謎の木の実と謎の建物。そして、その後者に関することであれば、とっくに多くの情報が知られているため。
『私たち政府は、この緊急事態に、陸上自衛隊、航空自衛隊、海上自衛隊の隊員を動かし、事態の収束に向けて奔走しました。その最中…北海道札幌市に現れた、【スマホロトム】。彼?…から
「おぉ…」という感嘆の声が漏れた。この情報も、既に知られていたが、政府――総理大臣が言うと、言葉の重みが違かった。その場所のポケモンショップが使用可能になると、全世界の人間のスマホに利用可能の通知と、その場所に住んでいる人間にのみ、スマホに【ポケモンショップ】のアプリが自動インストールされるということ。それらだけでもかなり貴重な情報だった。さらに“ポケモン”なるもの“モンスターボール”と言うもので捕まえることでマイページに先着順のトレーナーIDなるものが発行されるということ。そして、ポケモンショップを利用可能にするにはそのトレーナーIDが必須であるということ。
『皆さんご存じであるとは思いますが、ポケモンショップのアプリでは店舗で行える“購入”がアプリで可能になります。既にネット上に実際に購入したという方が見受けられます。これにつきましても、近々法案を作る予定でいます』
これに関しても、ある程度予想できていたことだ。最初の事例は、ネットに上げられたLIVE映像。実際にポケモンショップを“即時便”で使ってみたという動画だ。今世界中でポケモンショップのアプリを使えるのは北海道札幌市中央区の人間しかおらず、場所のことは全員が分かっていたが、そんなこと重要ではない。
動画はポケモンショップアプリの購入画面を実際に映している場面から始まった。購入画面はいたってシンプルで、商品項目の中からそれぞれ欲しいものの数を打ち込んで、購入画面に移行する簡単なもの。撮影者はモンスターボール5個ときずぐすり5個を購入した。その際次の画面で“通常便”と“即時便”を選ぶ項目が出てきて、送料が“通常便”が400円、“即時便”が1000円とお高めだった。だが動画の目的とも言える買ってみたを実現するためには、迷わず“即時便”が選ばれた。
購入が完了し、チャイムが鳴ったのは1分後のことだった。あまりにも早すぎて、撮影者とその動画を見ていた視聴者は混乱したが、撮影者はカメラ片手に玄関の扉を開けた。
―――そこにいたのは、恐竜だった。成人男性の身長を優に超える、黄色い体色をした、爬虫類的な特徴や翼などドラゴンの様な姿でありつつ、ずんぐりした体型に二足歩行の、恐竜を思わせる生物。突然の未確認生物の出現により、撮影者は尻もちをつき、コメントは荒れに荒れた。
その生物は、両手で箱のようなものを持っており、尻もちをついている撮影者に箱を渡した。撮影者は慌てながらその箱を受け取った。それを確認すると、未確認生物は背中を向けてゆっくりと飛び立っていった。
これらの怒涛の展開に、ついていけないものがほとんどだった。そしてのちに判明したことだが、荷物を渡した未確認生物の正体がこうだった。
№0149 カイリュー ドラゴンポケモン ドラゴン/ひこう
高さ 2.2m
重さ 210.0㎏
ハクリューの進化系
16時間で 地球を 1周できる。 嵐で 難破しかけた 船を 見つけると 陸地まで 誘導する 優しい ポケモン。
普段は 極めて 穏やかだが その 逆鱗に 触れると すべてを 壊し尽くすまで 収まらない。
この情報が撮影者から公開され、議論は大いに沸き立った。同時に納得した。注文してから1分と言うあまりにも短すぎる時間で来たことも、地球を16時間で1週できるという規格外の速さを持っているのなら1分で届けることができても不思議ではない。
さらに難破した船を助ける優しい性格と言うことが描かれているが、これに関しては賛否両論だ。逆に怒らせると危険だということは誰もが認めていた。最も、この情報だって正しいかどうかも分からない。鵜呑みにするのは危険だ。
何かあってからでは遅い。東京のポケモンショップのような事例を、起こすわけにはいかないのだ。新しく法案を作ると言うのも、発表の一つだろう。だがそんな予想できることを聞きに来ているわけではないのだ。
しかし、ここまでは既に広まっている情報だ。これでは記者会見をしている意味がない。そこで誰もが予想している。本題は別にあると――。
『未確認生物たちは、規格外な強さを持っています。既に報道によって知られている通り、遥かに高い身体能力、猟銃でも仕留めきれない程の耐久力を持ち、そして炎、水、雷、氷、毒等を操る特殊能力を持つ生物が多数確認されています』
そのことに関しても、既に動画がネット上に出回っていた。炎を吐く犬(ガーディー)、水を噴射する亀(ゼニガメ)、雷を操るトラ(ルクシオ)、吹雪を起こし辺りの水を凍らせるジュゴン(ジュゴン)などの映像が世界中で広がっている。
ニュースになったことでは、生きたゴミ袋のような生物(ヤブクロン)の息を吸い、病院に担ぎ込まれたという情報も入っていた。
『これらの生物は私たちが今まで築き上げてきた常識を木っ端微塵に破壊しました。そのため我々は、調査本部を設けることを決定いたしましたッ!!』
総理の大声とともに、この会見内で一番であろう数のシャッター音で見舞われる。これがこの記者会見の本当の理由に違いない。誰もがそう思った。政府が正式に謎の生物たちに対して調査をするための機関を設立した。これだけでも十分ニュースになる情報だ。
だが、総理は大きく深呼吸して、話のトーンを下げた。
『――機関設立に置いて、その最中、我々はとある人物と接触することができました』
話の雲行きが代わり、顔色を変えて記者たちはカメラを構えた。機関の設立ととある人物との接触?それが一体どうつながってくるのだろうか。分からない。だけど、知りたい。記者たちの視線と耳は総理に集中する。
『その人物は我々よりも遥かに未確認生物に対する深い知識を持ち、今回の件に対処可能であると、判断するに足る人物だと判断いたしました』
その言葉に、過去一番ざわめきが広がる。未確認生物に対して深い知識を持つ?そんな人間いるわけがない――と思ったが、ここにいる全員には一人だけ心当たりがあった。北海道札幌市に現れた、【スマホロトム】、その持ち主である。その持ち主ならば、未確認生物に関するなにかを知っていても不思議ではない。マスコミたちの瞳に、炎が燃え上がる。ここで何としてでも情報を得なけばと言う、使命感が、彼らを掻き立てる。
「それは札幌市に現れた【スマホロトム】の持ち主でしょうか!?」
「持ち主に関する詳細は公開されるんですか!?」
「持ち主と既に接触をしていたのですか!?」
「ネットではその持ち主が使役している生物がかなり危険な生物であるということが分かっておりますが、そこのところはどうお考えですか!?」
弾丸のごとく投げられてくる質問に、もはや声と声が重なり合い総理の耳にはただの騒音にしか聞こえなかった。我慢の限界に達したのか、しかし穏やかに、静止の声を轟かせた。
『静粛にお願いします!ふぅ…。この話にはまだ続きがあります。今回、この場にその人物に来てもらっています』
記者会見室に走る、どよめき。ただでさえその人物と政府が接触していたという
『そしてその人物を、対策本部の特別アドバイザーとして、向かい入れることになりました』
総理の言葉に、再び驚きが舞い降りた。これでもはや何度目だろうか。
同時にその言葉には賛否両論だ。誰かも分からない人物がそんな重要な立ち位置についていいのかという疑問と同時に、その人物がその地位に座るのが適任であるという理性がせめぎ合い、混乱を起こしていた。
再び総理は喝を入れて周りを静かにさせた後、――一言告げた。
『では、お入りください』
その言葉とともに、扉の前に立っていた男性が、会見室の扉が開けた。全員の視線が、その扉の先へと集中していた。
ゆっくりと、確かな足取りをもってして、入室してくる、謎の人物が、現れた。
黒色の薄いフード付きコートを深く被り、白い無地の長袖Tシャツに黒い長ズボンをはき、両手には黒い手袋をつけ、“のろいぎつねの面”を被った謎の人物が、黒いアタッシュケースを持って悠然とした歩みで入ってきた。
その隣は付き従うように、1匹の獣とがいた。
その獣は小さな
あまりにも不気味な見た目をした謎の人物に、未確認生物、そして話題のスマホロトムが現れたことで、会見室のどよめきとシャッター音は留まるところを知らない。しかしそんな状況を無視して悠然と歩き、檀上の上に立ちマイクの前まで移動すると、謎の人物は言葉を発した。
『――初めまして、皆さま。この度、対策本部の特別アドバイザーに任命されました。名は…そうですね。適当に、ニバンとでもお呼びください』
ニバン。そう名乗った人物は軽く一礼をした。
『名前の由来は、単純明快。皆さんご存じ、トレーナーID。アレはポケモンを捕まえた人間――いわゆる、ポケモントレーナーになった順番で発行されます。私のトレーナーナンバーは
その瞬間、眩しいほどのフラッシュが焚かれた。それもそのはず。現れて1日しか経っていないのに、1桁台の人間が現れた。それだけもかなりのニュース。そしてその人物が特別アドバイザーに任命された。とんでもない情報だ。
『私は彼らを知る者として、友と想い、仲間と信じるものとして、表舞台に立つことを決意しました。彼らポケモンが現れ早1日…。早急な対応が必要だと感じた私は、自ら総理や大臣らを訪ねました。そして私は今、この舞台へと立っております』
記者たちの視線が、一斉に総理や大臣に向く。総理が一つ動く。ただ単純な動作だ。ただ首を縦に振った。ただそれだけ。それだけの行動に、周りの者たちは騒ぎ立てた。
『誠に残念ながら、私が早く動いたように、武力行使に出たという国があるという情報を耳にしました。それはとても残念なことです。分からないものに対してすぐさま行動を取る――それはとてもいいことです。しかし、考えが極端すぎる。それでは要らない
ニバンは一呼吸置き、重々しく告げる。
『彼らには知恵がある。無論、この子たちにも。それは人間と同じ。彼らにも、喜び、悲しみ、怒り、他者を想える気持ちがある。違いがあるとすれば、強さと、彼らの言葉が分からないことだけ…。それさえ除けば、彼らは人間とほとんど変わりないんです』
周りの人間は、ニバンの言葉に耳を傾ける。ただそれらがネタになるからと言うことだけではない。今後の己の問題にもなるからだ。未確認生物が現れ、今後の自分たちの生活はどのように変わってしまうのだろうか。そんな右も左も分からないときに現れた謎の人物。怪しさなど関係なく、今はただ彼の言葉を聞くしかなかった。
『そんな彼らとの軋轢は、やがて争いへと発展する…。そんなこと、誰も望まない。いらぬ争い、いらぬ犠牲。そんなの敢えて生み出す必要などない。ゆえに私たち人類が彼らに対してとるべき行動はただ一つ――共存です』
ニバンの言葉に、動揺が広がる。共存?あの生物たちと?誰もが思った。無理に決まっている。理由など単純だ。“怖い”、これだけだ。炎や電気、毒などを操る生物などと、どうやって共存しろと言うのだろうか。ザワザワと、会見室が喧騒に包まれる。
そこで、以外な人物の声が響いた。
「落ち着いてください」
その声は、総理大臣の声だった。総理の声により、記者たちは黙る。総理は檀上に上がり、ニバンの隣に立った。総理はニバンと対面になり、緊迫した面持ちでニバンの顔――“のろいぎつねの面”を見て、再び記者たちに向き直る。
「彼の言う通りです。わざわざ争いの火種を燻る必要などありません。むしろ『共存』と言う道があるのなら、そこに飛び込むべきだと我々は考えております」
総理の言葉に、記者たちは押し黙る。総理とはこの国を取り仕切る実質上のトップ。そんな人物が『共存』に肯定的である以上、それを覆すのは難しいだろう。例えどんなに否定しようとも、否定するということは、『争い』を選択するということに他ならない。
争い――すなわちそれは戦争。銃弾が飛び交い、誰かが死ぬ。そんな地獄の幕開けを意味する。
「そのため我々日本政府は、未確認生物を彼に倣い、ポケットモンスター、略して“ポケモン”として、共存の道を進むことを決定いたしましたッ!!」
記者たちの緊張がピークに達する。フラッシュとレンズを向け、その姿が世界中に広がっていく。
「そのためにも、あなたの協力は必要不可欠。これから、よろしくお願いします」
総理が右手を差し出し、握手を求めた。その行動にニバンは、厚い握手で返した。
『こちらこそ、よろしくお願いします』
二人の固い握手――。その光景は、記者たちの心を突き動かし、再びシャッターを切った――。
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