『それでは、質問を受け付けます』
官房長官の一言で記者たちからニバンに対し豪雨のような質問の嵐が飛び交った。一つ一つの声はただの言葉として成立しているが、それらが混ざり合い、同時に発せられることによってそれは騒音へと代わり、聞き取ることが不可能なほどの声量へと変わる。
『――――』
そこで、ニバンは手の平を記者たちに向け、静止の合図をした。それだけで、騒がしかった記者たちは一気に静まり返った。
周りが静かになったことを確認すると、ニバンは言葉を発する。
『質問が多いため、少数に抽出させてもらいます。まず“彼らはどこから来たのか”“何故私が彼らについてこんなにも詳しいのか”と言う質問が多かったため、そちらを優先的に話させてもらいます』
ニバンの言葉に動揺が起こる。特に分かりやすかったのは実際にこの質問をしたものたちだ。マシンガントークのレベルで放たれていた質問を聞き分けられていたとでも言うのだろうか?いや、まぐれに決まっているし、なんなら本人がこの質問を予想していたという方がまだ納得できる。
『二番目の質問に答えるためには一番目の質問に答える必要があるので、ちょうどよかったです。率直に言いますが――彼らポケモンは、この世界の存在ではありません』
ザワザワ…と静寂とともに戸惑いの声が広がる。その言葉に誰もかもが困惑しており、同時に納得もしていた。この場で顔色を変えていないのは総理大臣や官房長官などの政府の人間だけだ。
ポケモンは明らかに既存のものとは全く違う生物。それらの正体が違う世界から来た生物――そんなSF染みた言葉も、納得できるほどの事態だった。
『彼らはこことは違う別の世界の存在――。要するに異世界の生物です。どういうわけか、彼らの世界には人間の知識はありますが創世記の時代から存在していないようなので。明確なまでの異世界です』
異世界の生物――。それが今世界を騒がせている未確認生物――ポケモンの正体だった。部屋のざわめきを無視し、ニバンは言葉を続ける。
『そして、人間の世界とポケモンの世界…。本来別々に存在していたはずの二つの世界。その二つが昨日――融合したんです』
世界の融合。その普段絶対聞くことのないパワーワード。そんなことがあり得るのだろうか。いや、逆にそうじゃないとこの事態に説明がつかない。どこかの機関が作った
『これが、彼らがどこから来たのかと言う疑問の答えです。理解いただけましたでしょうか?』
ニバンの答えに誰もが閉口している。ニバンと言う存在が現れた時点でこの質問が出ることは誰もが予想していた。だがこんなのあまりにも突拍子過ぎて誰もが冷や汗を流しながら次の自身の行動すら決められず、その場で止まっている。
しかし、そんなことニバンにとってどうでも良かった。
『そして次に…私が何故彼らについてこんなにも詳しいのか。昨日融合したばかりの世界について、何故そんなにも知っているのか。それは私が
ニバンがケルディオの顔を見合わせ、その頭をなでる。ケルディオはその行動を不服そうな顔をしながらも辞めるようにはしなかった。ニバンは正面を向き、記者たちに見えない顔を向けた。
もはや記者たちはニバンの言葉にしか耳を傾けていない。ニバンと言う人物は一体何者なのか。ついにその核心を聞くことができるのだ。緊張はとっくにピークに達している。そして、ニバンの口からついにその正体が明かされる。
『理由は単純明快です。彼らから直接聞いたんですよ。彼らが何者かについてを』
直接聞いた。その言葉に、どよめきが走る。しかしそんなことはあり得ない。絶対に。
一人の記者が手を挙げた。だがニバンは今話をしている最中であり、それは話の腰を折る行為だが、ニバンはそれを気にせずその記者を指した。記者は立ち上がり、この場の全員が思っているであろう疑問を口にした。
「失礼ですが、それは未確認生物――ポケモンから直接聞いたとと言う意味でしょうか?」
『はい』
「そんなことがありえるのでしょうか?」
この記者の疑問は最もだ。今まで発見されているポケモンは全て鳴き声であり、人間の言葉を喋るポケモンなど見たことも聞いたこともない。ポケモンが出現して1日なため当たり前のことではあるが、にわかには信じられないことだ。
ニバンは記者の言葉に考え込む素振りをした後、思考を終了する。
『ポケモンは不思議な生き物…。既存の常識で対応していたら追いつかない。“百聞は一見に如かず”と言います。今からその証拠をお見せしましょう…。ケルディオ、もう喋っていいぞ』
「えっ、いいの?」
仔馬のポケモン――ケルディオが、人間の言葉を喋った。その事実に、皆が驚きを禁じ得ない。ポケモンの技のことでさえ驚いていたのに、そこにさらに追加して人間の言葉を喋ることのできるポケモンが現れた。驚く理由にしては十分だ。
ケルディオはニバンより一歩前に立つと、突如光り輝きその姿を変え始めた。ユニコーンのようなツノは鋭さを増し剣のようなものに、頭からは青・橙・緑の3色の羽飾りが生えた。その明らかな変化に人間たちは驚きと美しさで完全に魅入り、勇敢な声で自己紹介をする。
「ボクは【ケルディオ】!聖剣士さ!」
胸を張って自己紹介をしたケルディオを未だにポカンとしている記者たちの耳に入ったのは、ニバンの声だ。
『――と、このように、ポケモンの中には言葉を話せるほどの高い知能を持った個体も存在します。例を挙げればエスパータイプ……と、趣旨がズレました。ここら辺の話はまた今度することにしましょう』
「えっ、ボクの出番これで終わり!?もうちょっと話させてくれても――」
『コバルオン』
「うっ…分かったよ…」
急にケルディオが怖気づくと、ケルディオは“いつものすがた”に戻る。その光景に再び感嘆の声が上がる。ケルディオが顔を下に向けてあからさまに落ち込んでいるのを
『今見てもらった通り、人間の言葉を話せるポケモンも存在します。非常に稀なパターンですが。私はこの子とは別の、人間と意思疎通が可能なポケモンから、話を聞きました。これが私がポケモンについて詳しい理由です』
ニバンの言葉に、質問をした記者は押し黙る。今のを実際に見るまで、ポケモンから聞いただなんて言葉を信じていなかった彼らだが、今のを実際に見た以上黙るしかなかった。それと同時にケルディオの存在によって、他にも人間の言葉を話せるポケモンがいることへの証明となった。
しかし、その記者はめげずに次の質問をした。
「では、あなたにそれらを教えたそのポケモンとは、一体どのようなポケモンなんでしょうか?」
『それについてはお答えできません。本人――本ポケ?から、自分のことはあまり話さないように言われておりますので。私は彼の意思を尊重します。彼は私に知識をもたらしてくれたいわば恩人――。その恩人を売るような真似はしたくないので』
これについては即答だった。ニバンに自分たちのことを教え、人語を解することのできる謎のポケモン。それについて詳しく知りたいと思うのは当然のことだ。だが拒否され、その理由も先に言われた。もっともらしいことを言われては、記者も黙るしかない。
『ちなみになんですが、私が今回このような装いでこの場に立っているのも彼の進言によるものです』
ニバンの恰好は怪しい。薄い黒いコートにフードを深く被り、白いTシャツに黒いズボン。黒い手袋に黒い靴下黒い靴、“のろいぎつねの面”。これで怪しむなと言う方が無理な服装。その理由は、“彼”によるものだった。
『私の身元が特定されれば、そこから自身の存在が露呈すると思った彼は、私にこの装いをするように言いました。これが、私がこのような恰好をしている理由です』
ニバンがそんなに怪しい恰好をしている理由が身元の特定を防ぐためだとは誰もが内心思っていた。だが、その裏にはニバンに知識を与えた謎のポケモンがいた。この情報には記者たちの好奇心は最高潮にくすぐられるが、ニバンが先手を打つ。
『あと、彼はあまり人間の前に姿を表したくないらしいので、深追いは厳禁です。そんな彼がわざわざ私に知識を授けてくれた。彼を敵に回すようなことはしたくないので、そこらへんはご理解願います』
その警告に、記者たちは黙るしかなかった。今だにポケモンがどれほどの力を持っているのか全体像が把握しきれておらず、尚且つ炎や電気などの特殊な技を操る生物たちの中で、人語を理解するほどの特殊なポケモン。その力がどれほどのものなのか把握しきれていないのに、そのポケモンを敵に回すのは愚策であると本能的に察したからだ。
『……これ以外に、なにか質問はありませんか?』
ニバンの言葉に、静まり返る会見室。ニバンが答えた質問は、たったの3つ。疑問だってたったの3つしか解けていない。本当ならもっと聞きたいことがあるはずなのに、会場はシーンとしている。これも全て、話の
そんな中、勇敢にも手を挙げた記者がいた。
『どうぞ』
「気になったのですが、あなたは札幌市にお住まいの方なんですか?」
『――そう思った根拠は?』
「あなたは世界で二番目にポケモンを捕まえた人間だとおっしゃっておりますが、現状ポケモンショップのアプリを持っている人間は札幌市中央区の人間のみ。であればそう思うの自然だと、私は考えています」
その記者は自身満々に言った。確かにポケモンショップアプリを入手する方法はその地区にあるポケモンショップの開放だ。だからこそニバンはだが彼は一つ重要なことを見落としていた。
『そうですね。例えポケモンを捕まえていても、トレーナーIDはポケモンショップのアプリを持っている人間にしか発行されない。それは正しい。だから私が札幌市住みの人間だと思った』
「であれば『しかしあなたは思い違いをしている。その動画でスマホロトムは言っていたはずです。ポケモンショップアプリを入手する、もう一つの方法について』――え?」
記者はポカンとしている。が、ニバンは続けて話す。
『アプリの入手方法はもう一つある。それは【スマホロトム】』
「スマホロトム…ですか?」
『そう。どういう原理か詳しくは知りませんが、ロトムが電子機器――スマホやパソコンなんかに憑依すると、その電子機器にアプリが自動インストールされるんです。なのでもちろん、私もスマホロトムを持っております。ですので、私の出身地や育った土地も北海道ではありません』
これについては、実際に動画内でスマホロトムが言及していた。アプリ入手のためには“ポケモンショップの開放”か“ロトムの憑依”が必要なのだ。スマホロトムのことについては全世界に出回っているはずなのだが、この記者はその部分について知らなかったのか、理解できなかったのか。どちらにせよ恥をかいたことに代わりはない。その記者は顔を赤くしながら席についた。
そして、次の記者が手を挙げた。
「私は札幌テレビの者です。実は、先ほどの15分の休憩中にその【ケルディオ】と言うポケモンについて調べようとポケモンショップを使ったのですが、図鑑が反応しないどころか、“1番と2番の許可”“ポケモントレーナー10万人達成”と言う表示が出たのですが、これはどういうことなのでしょうか?」
その記者は札幌市から来た記者だった。しかも中央区の人間である証拠たる【ポケモンショップ】のアプリを持っていた。ゆえにポケモンショップの図鑑を起動したが、ケルディオの情報を確認することができなかった。その理由について、聞いてきた。
『そうですね。理由は単純です。ケルディオのような特別なポケモンは……まだ人類には早すぎる。それが理由ですかね』
「人類には早い…?それは一体どういう意味でしょうか?」
『言葉通りの意味です。ただでさえ世界中がポケモンによってあらゆる機関が麻痺し、混乱している状況…そんな崖っぷちのような状況で、ケルディオのような特別なポケモンについて知るにはまだ早すぎる。今回の場合は特例だとでも思ってください』
特例。早すぎる。その言葉に困惑は広がる。
『世界が落ち着き、ポケモンが生活の一部にまで浸透するのに、10万人は十分な数です。それが達成されたとき、あなた方は彼らについて知ることができる。そのため、ここで断言させていただきます。私は申請に許可を出すつもりはない』
申請に許可を出さない。それはつまり、「ケルディオについて知りたければさっさとポケモントレーナー10万人達成しやがれ」と遠回しに言っているようなものだ。
『ちなみに私のスマホロトムなんですが、ケルディオの情報開示申請が一気にきたことでオーバーヒートを起こして今休んでいます』
ここでニバンのスマホロトムの所在についても明らかになった。ケルディオの情報開示申請が一斉に来たことでのオーバーヒートにより撃沈しているとのことだ。
ここで一回許可を通せば同じことが起こる。自身のロトムのことを考えれば、その種を潰すのは当然のことだ。
『そして、例え私が許可を出したとして、1番の方が許可を出すかどうかがネックになってきます』
「そ、それでは、ニバンさんは1番の方とはどのような関係ですか?」
『関係もなにも、私は1番さんと面識どころか、存在自体知りませんでした』
引き続きその記者から今度は1番との関係性を問われた。しかし知らないものは知らない。ニバンは即答する。しかしそんなことを信じるほど彼らは素直ではない。1番と2番と言ういち早くポケモンを捕まえた人間。そんな彼らが何の関係もないなど、信じられるものはごく少数だ。
『正直なところ、私が1番になるものだと、傲慢にも思っていました。しかし私より先客がいた…。この事実に驚きはしたものの、それよりも嬉しさが勝ちました。』
「嬉しさ…ですか?」
『はい。私よりも先に、ポケモンを捕まえた人間がいる…。1番のトレーナーIDを入手する経緯で必要なのが、ロトム、モンスターボール、ポケモン。それらを恐れず、ただ真っすぐに、ポケモンと向き合ったからこそ得た称号でしょう。外部から知識を得ることで納得した私とは大違いだ。しかし無論、1番の方のことなど何も知らないため、その方が私と同じケースであってもおかしくはない。ですがそれらは全て私の憶測に過ぎません』
ニバンは嬉しかった。自分より先にスマホロトムを入手し、ポケモンを捕まえた人間がいた。自分にはポケモンの知識と言う大きなアドバンテージがあったにも関わらず、先を越された。悔しさがなかったと言えば嘘になる。
『私は嬉しかった。私の他にもこの状況で、ポケモンのことを恐れず捕まえるまでに至った人間がいたことが。仲間がいたことが』
「――では、1番の方について、どのように思っておりますか?」
『どう思っているか、と言う質問から少し外れますが…会ってみたいです。ポケモンと出会って、彼らを知って、どのような経緯でロトムと出会ったのか、どんなポケモンを捕まえたのか。そんな話をしてみたい。そしてあわよくば……私と一緒に、人間とポケモンを繋ぐ架け橋になってもらいたい』
落ち着きのある声で、ニバンはそう言った。この言葉は紛れもなく本心だ。きっとそうに違いない。一人は心細い。話を聞く限りではニバンはポケモンの知識について詳しいただの人間でしかない。そんな彼に、他に仲間がいたら?こんな嬉しいことはないだろう。
『では、次の質問を――そちらの方、どうぞ』
「はい。最初の質問の際、ポケモンの世界には人間が存在していないのに、人間の知識があるとおっしゃいましたが、それはどうしてですか?」
中々に的を得た質問だ。その記者の質問で、「確かに…」と言う声が多く聞こえてくる。先ほどの話のスケールがデカすぎてほとんどの人間が聞き逃していたが、この記者は聞き逃さなかったようだ。
ニバンはマイクを手に持つと、話始めた。
『そうですね…一言で言えば、彼らにとって、私たちは“創作物”です』
「そ、創作物、ですか…?」
『我々が本来存在していないゴブリンやオーク、エルフやドワーフなど、存在しない知識を持っているのと同じです。つまり彼らにとって私たちは、本の中の登場人物』
その例えに、開いた口が塞がらない。存在していないはずなのに知識がある。その明らかな矛盾の秘密が、人間がポケモンたちにとって創作物であるという事実。これにはこの記者も閉口していた。
質問が終わると、ニバンは自身の右腕――についている腕時計を見た。その腕時計はベルトがメタリック製の、とても安い腕時計だ。
『――と、申し訳ありませんが、時間が押してきています。私この後用事あるので、あと一つの質問で終わりにしようと思います』
そのあまりにも突然の言葉に、ちょっと待てと叫びたい。まだ聞きたいことはたくさんある。このチャンスを逃してしまえばもう二度と聞けないかもしれない。それだけはなんとしてでも阻止したく、その最後の一つの質問権を獲得するために手など上げず、質問が先に口から飛び出てきていた。
「対策本部のアドバイザーに就任されたと聞きましたが、どのようなことをするおつもりですか!?」
「ポケモンを誰もが持てるということは、子供でも持ててしまうということですが、そこはどうお考えですか!?」
「ポケモンを捕まえるとは言いますが、どのように捕まえるんですか!?」
「ポケモンショップがどうやって作られたかご存じですか!?」
「このあとのご予定とは!?」
矢継ぎ早に記者たちの質問の嵐が飛び交う。残り一つの質問権。誰もが手に入れようと必死だ。その質問の嵐の中、ニバンは固定されていたマイクを手に持った。ただそれだけの動作で、会場は静まり返る。マイクを口に近づけた。
『今後どのような仕事をするかは、まだ詳しいことは決まっておりません。そこらへんの法整備は総理などに一任するつもりであり、掴まえ方はポケモンショップのQ&Aで確認できます。そして、これからの予定ですが、とりあえず東京のポケモンショップすべてを利用可能にする予定です」
ニバンは、一つと言わず聞こえた全ての質問に対応した。しかし矢継ぎ早に質問されたため、記者たち全ての疑問に答えたわけではない。あの騒音レベルの状況では仕方がないが。
そしてニバンの次の行動の予定に記者たちは一斉に食いつく。東京のポケモンショップの開放。それはすなわち自分たちもそのポケモントレーナーになれるということだ。
『…それでは、私からの質疑応答を終わります』
ニバンは一礼すると、ケルディオとともに会見室から去っていく。その姿を逃すまいと、記者たちのカメラのフラッシュが二人を襲っていた。
「ねぇ、この後ダルマッカ弁当食べたい」
『毎度のことだが再現率は期待するな』
それは、二人にはあまり気になっていなかったようだ。
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