植物園。駅ともある程度歩けば行ける距離にあり、その広さから多くの観光客で賑わってるのだが、昨日から嘘のようにシンとしていた。その理由は明確だ。ポケモンによるものである。
昨日から世界中にポケモンが現れたことで全ての交通機関が麻痺して、植物園と言う場所的に野生のポケモンたちが多く集まっており、今となっては人間たちにとっては未確認生物たちが蔓延る魔窟だ。好き好んで近づく人間はいない。
だが――
「サナッ」
「ふぅ、到着」
「着いたー!ほんとすごい!一瞬だったッ!何度やっても楽しい!」「ピカピカッ!」「ブイブイ!」
「はぁ~~……ホンマに一瞬で着いてもうた…。ポケモンってすごいんやなぁ…」
今日この場に、その物好きたちが現れた。3人の美少女と3匹のポケモンである。
「やっぱりだけどポケモンがたくさんいるな…」
到着して、目に映ったのは、見渡す限りの、ポケモン。ポケモン。ポケモン。空には飛行タイプのポケモンが飛び交い、木々には小さな虫タイプのポケモンが、地面にはノーマルタイプを中心に、池には水タイプなどがいる。
「でも皆小さくて可愛いー。ほら、あのビーバーに似てるポケモンとか!可愛い!」
「ちょ、氷花ッ!」
氷花は警戒などせず我さきへと突っ走った。その先にはビーバーに酷似したポケモン、【ビッパ】が2、3匹ほどいた。それを見て一気に心配は安堵へと変わった。ビッパはこっちから襲ったりしなければ特に襲ってくることのない大人しく友好的なポケモンだ。これが他のポケモンだったらすぐにでも止めていたが、ビッパで本当に良かった。
ビッパは近づく氷花たちに「なんだなんだ」と群がる。それをいいことに氷花たち一行はビッパと戯れている。
「順応早いなー。何度見ても」
「ウチから言わせればお姉さんも対して変わらんけどな。むしろ氷花以上やろ」
「―――」
華凜の辛辣な言葉も、事実なためなにも言えない。
華凜は何度も辺りを見渡し、【キャタピー】に【ケムッソ】、【ミノムッチ(くさきのミノ)】などを見て肩を震え上がらせ、雪奈とサーナイトの間に隠れる。
「どうしたの?」
「ウチ、虫苦手なんや。だから、正直
「あー…」
この威勢のいい少女にそんな女の子らしいところがあったことに少々驚きを感じながらも、妙に納得できた。ポケモンを知っている雪奈からすれば見慣れているものだが、ポケモンを全く知らない華凜からすれば既存のものよりビックサイズのイモムシや毛虫と出会っているのだ。もうここは価値観の違いとしか言いようがない。
「あー、失敗した…。森やからこういうことになるの想定すべきやったのに、ついあのつぶらな瞳に誘惑されてもうた…」
「まぁまぁ。あの子たちはこっちからなにかしない限り特になにもしてくることはないから、落ち着いて」
「そ、そうなん?それならええんやけど…」
雪奈の言葉である程度落ち着いたようだが、未だにサーナイトと自分の間から離れようとしない。無理はないが。
華凜とのやり取りを終えると、氷花もこちらに戻ってきた。氷花は手で、ピカチュウが二本足で立って前足を振って「バイバイ」の意を示し、イーブイは鳴いて直接表した。ビッパたちは軽い会釈をして、その場から立ち去って行った。
「すっごいフカフカしたッ!」
「そっか。よかったね」
帰ってきて第一声がそれか。まぁそれほど印象が強いということだろう。しかもその感想から察するに触らせてもらえたということだ。一応相手は野生のポケモンなのだが。ビッパの警戒心がなさすぎるのか、氷花が相手の心に入り込むのがうまいのか、判断がつかない。
それじゃあ進もうと、足を進めた。途中にもポケモンを見かけるが、大抵の敵意を持つポケモンはサーナイトの眼力で逃げていく。雪奈の過ごしたポケモンの世界にはレベルの概念はなかったが、レベルで言えば
少し進んだ森の先では。
「あっ、【ミツハニー】」
「可愛いー!」
「ハチの巣みたいな見た目やな…」
「ってことは【ビークイン】も近くにいるのかな?」
「えっ、これハチミツ?ハチミツくれるの?ありがとー!」
「ちょ、それ大丈夫なん?」
「甘くておいしいよ?華凜ちゃんも食べてみなって!」
「ちょま――って、普通に甘いわ」
「えっ、なにやってんの?」
ミツハニーたちから“ハニー蜜”をもらいそれを舐めて食レポしていた。好評だったことからもっとたくさんもらい、欲しいと思った手持ちポケモンたちがモンスターボールから出てきて皆でハニー蜜会が開催されたり(こっそり影に隠れてるゲンガーにもあげました)、
「あっ、池だ」
「水場やからか、ポケモンもぎょうさんおるなぁ…」
「【ヤドン】に【コダック】…。【ニョロトノ】、【ウパー】、【ハスボー】もいるし…」
「可愛いー!」
「あ、ちょっと待ちいや!」
「元気だなー」
「お姉さんもなにしとんねん!あのままじゃいつ怪我するか分からへんで!?」
「このポケモンたちは友好的なポケモンばっかりだから大丈夫。それになにかあったらすぐ対応するから。それにほら――」
「うん?」
「あははっ、くすぐったいー!」
「ヤァン」「グワッ」「ニョロニョロ」「ウパッ」「スボー」
「――問題なかったな。杞憂やったわ」
「まぁその気持ち分かるよ…」
氷花は小さいみずタイプのポケモンとすごくじゃれたり、
「広いところに出た…」
「【ナゾノクサ】【チュリネ】【スボミー】【フシギバナ】、【フシギソウ】…。くさタイプのポケモンたちがたくさん…日当たりが良いし、光合成してるのか」
「そうなのかもね。可愛い…でも寝てる…。触りたいけど、流石に寝てるところを邪魔するのもなー…」
「いやそれ以前に気にするところあるやろッ!なんで二人とも上ばっか見てんねん!注目すべきは下やろ下!」
「……【ドダイトス】がいるね」
「でも眠ってるからいいかなーって」
「いや普通はアッチの方気にするもんやろ…。二人についてけへんわ…」
「それより、華凜ちゃん。大きい声出すとあの子たち起きちゃうよ!」
「す、すまん…。――ごめん手遅れやったわ」
「あっ、よし。熊とかから逃げる手順で逃げよう」
広い場所では【ドダイトス】の体の上で寝て光合成している小さな“くさタイプ”のポケモンたちがいた。騒ぎすぎたせいで寝ていたドダイトスの目を覚まさせ、明らかにこちらを睨んできている。幸いまだ小さな――ベビーポケモンたちは寝ているので、雪奈たちはそのまま退却することになった。
時は経ち、雪奈たち一行はさっきとは別の川沿いで休憩を取っていた。
「ふ~一旦休憩やわ…。身が持たんわ…」
「はははっ、だね。楽しかったけど、疲れちゃった」
「まぁあれだけはしゃげば無理もないけど…」
氷花は終始まで野生のポケモンたちと仲良くなっていた。そのため今氷花は汗だくになっており、隣でピカチュウもイーブイも流石にバテていた。ちなみに雪奈が汗まみれの氷花の姿にドキッとしたのはここだけの秘密である。
それにしても氷花はポケモンに好かれすぎじゃないだろうか。確かに明るくて社交性が高いし、出会ったポケモンも小さなポケモンだけだったが、本性は
そして華凜はどちらかと言うと精神的な疲労で疲れていた。華凜からすればポケモンは未知の生物でいつ襲われるかとヒヤヒヤものだっただろうから、仕方がないが。
「でも、おr、私も疲れた…この辺りに自販機とかってあったっけ…?」
「自販機は休憩所とか、トイレとかの場所にあるはずやけど…ここからだと少し遠いで」
「あーっ、水筒持ってくればよかったー!」
ちなみに今ここで3人とも、ここに来てから水を口にしていない。目の前に溜まっている水(池)があるが流石に飲むわけにはいかず、疲労で動けないためこの場で尻もちをついたままだ。
「サナッ」
「えっ」
サーナイトに肩を叩かれる。なんだと思って振り返ってみると、サーナイトの周りには“サイコキネシス”を使っているのかペットボトル飲料水が3つ浮いていた。それぞれがゆっくりと動いて、雪奈たちの目の前に落ちる。ペットボトルはよく冷えており、自販機買いたて、冷蔵庫から出したてのように冷えている。“テレポート”でわざわざ買ってきてくれたのだろうか。
「もしかして買ってきてくれたの?でもお金はどうして――」
これはどう考えても買わなければ手に入らない。でもサーナイトはお金を持っていない。ならどこから入手してきたのだろうか。まさか、盗んで――。
そんなとき、雪奈のズボンの裾が、グイグイと引っ張られる。
「ん?」
下を見てみると、裾を引っ張っている存在の正体はゲンガーだった。まさかお前か?財布から拝借でもしたのか?そんな疑問を回収するかのように、サーナイトが雪奈の手に直接あるものを手渡してきた。それはとても、ジャラジャラとしているものだった。
(――――)
それは小銭だった。サーナイトはなんとも申し訳なさそうな顔をしていた。雪奈はゲンガーとあとでオハナシすることに決めた。
「えっ、これくれるんか?ありがたいわー!ほな、いただきます!」
華凜は疲労が祟ってか特に何も疑問に思わずペットボトルの水をガブ飲みしている。次に隣をチラリと見ると、氷花は何故かペットボトルを持ったまま微動だにしない。氷花は肉体的にも精神的にもかなり疲れているはずなのだが、何故水を飲まないのだろうか。下にいるピカチュウもイーブイも心配そうに氷花を見ている。
すると、氷花がこちらを振り向いてきた。その顔は真顔であり、サイコパスモードに突入していた。それを見た瞬間に雪奈は息を飲む。一体なにが気に食わなかったのだろうか、なにが原因で怒っているのかと不安に思う。しかし、一つ妙なことに気が付いた。視線が雪奈に合っていない。むしろ氷花の視線は、サーナイトに向かっていた。どういうことだと注視してみたら、その原因に気が付いた。
「あっ…」
氷花が不機嫌な理由、それは渡されたペットボトルが飲み欠けだった。ペットボトルの中の水は少し減っており、中身は2/3ほどだった。
サーナイトは氷花の視線に気づくとニヤリと、悪女のごとく笑みを浮かべていた。サーナイトさんや。あなたいつからそんな怖い顔できるようになったの?サーナイトはわざと飲み欠けのペットボトルを作り渡していたのだ。悪意100%で怖い。
だがサーナイトと言うポケモンの性質上、自分のトレーナーを守るためならブラックホールだって生成する
「――――」
氷花はサーナイトの意図を理解したのか、しばらく沈黙していると、蓋を開けてがぶ飲みした。中身が半分ほど減ると、明るい笑顔にシフトチェンジしてしゃがむ。
「はいこれ!ピカちゃんもブイちゃんものど乾いたでしょ?直接になっちゃうけど、飲む?」
「ピカチュッ!」
「イッブイ!」
ピカチュウとイーブイに残りの水を飲ませる。ほとんど素っ気なかったこの報復に満足しなかったのか、サーナイトは雪奈に聞こえるか聞こえないかくらいの音で舌打ちした。雪奈は聞かなかったことにした。
「―――とりあえず飲もう」
ゴキュゴキュと、水を食道に通し胃へと流す。喉の渇きが潤い、心に平穏を
「はぁ~落ちつザッパァアアアアン!!――けない…」
突如として池の方から上がった水しぶき。そこから大型の水の塊が飛び出してくる。その水の塊は厚いベールだ。そのベールが剥がれると、一匹の影が姿を見せた。その影は地面に着地すると、ギロリと雪奈たちを睨んだ。
「ヒッ…!」
「アレは…!」
「っ、ポケモン図鑑!」
そのポケモンはオレンジ色のイタチのような見た目をしていた。二股に分かれた尾を持ち、救命ボートを連想させる形の黄色いものを体全体に覆わせている。
ポケモンの登場により華凜は萎縮する。いつかは来ると思っていた出来事が、まさか休憩中に起こるとは思っていなかった。しかしここは野生のポケモンたちが陣取っているデンジャラスゾーン。休めるときなどない。雪奈は目の前に現れたポケモンに見覚えがあり、その名を口にする前に氷花が先に動いてスマホをそのポケモンに向けた。氷花のスマホは、女性の声(s○ri)でポケモンの説明を行った。
フローゼル うみイタチポケモン みずタイプ
水中の 獲物を 追いかける うちに 浮き袋が 発達した。ゴムボートのように 人を 乗せる。
漁師町に 多く 見られ おぼれた 人を 助けたり 取った 獲物を 運んでいる
ポケモン図鑑が提示したそのポケモンの名前は、【フローゼル】。フローゼルは雪奈たちを視認するとあからさまに威嚇し始めた。
「やっばいな…。ここ、こいつの縄張りか…」
「えっ、えっ、あの、だ、大丈夫とちゃうんか?だって図鑑では人を助けるって…」
「それは人慣れしてる場合に限る。今目の前にいるこいつは縄張りに入った輩を、ただで逃すつもりはないみたいにね…ッ!サーナイト、“サイコキネシス”!!」
「サナッ!!」
雪奈の言葉を最後に、フローゼルが“みずてっぽう”を放ってくる。“みずてっぽう”はみずタイプのポケモンの基本技だが、基本だからと言って舐めてはいけない。ポケモンから放たれる“みずてっぽう”は水鉄砲から放たれるソレとは比にならない。しかもフローゼルは進化個体である。つまりフローゼルから放たれる“みずてっぽう”は――
ズドンッ!!
「ヒィイイイ!!」
華凜の情けない悲鳴が響く。“サイコキネシス”によって軌道を変えられた“みずてっぽう”は木へと激突する。“みずてっぽう”が直撃した木はそこが大きくへこんでおり、次第にメキメキッ、と言う音とともに木が倒れる。
「き、木が…」
「“みずてっぽう”でこの威力…。油断できない…」
「水鉄砲!?こんなん水鉄砲やないやろ!?高圧洗浄機も驚きの威力やで!?」
違う。水鉄砲じゃなくて“みずてっぽう”だ。しかし言葉は同じで口頭じゃ絶対に伝わらない。しかしそんなことを訂正している暇などない。目の前のフローゼルは次の技の準備をしていた。
「とにかく、なんとかしないと。フローゼルと有利に戦えるのは―――「待って。ここは私がやるッ!」ッ!」
頭の中で打開策を考えていた時、隣から氷花の叫ぶ声が響く。二人して氷花の方を見ると、既にピカチュウが前に出てやる気全開だった。ちなみにイーブイは氷花の隣で鎮座している。
「無茶だッ!氷花はまだ一回もバトルしたことないだろ!?やられるのが関の山だッ!ここは俺がなんとかするからッ!」
「そうやて氷花!お姉さんの方が強そうなのいっぱいいるし、ここはお姉さんに任せて――」
「でも、私のピカちゃんはやる気全開だよ?」
「ピッカチュ!!」
頬から電気を漏らして、やる気を見せつける。
「それに私、結構勉強したから。【ピカチュウ】って放電しないとストレスが溜まるんでしょ?だったらちょうどいいと思ってね」
「ピカチュ~!!」
道理で好戦的になって居るワケだ。確かにピカチュウは電気袋に電気を貯めており、寝ているときなどに電気を貯めている。それを時々思い切り放電しないとストレスが溜まるのはピカチュウを持つトレーナーにとっては常識だ。いわばこの場はピカチュウにとってストレス発散の場と言うわけだ。だが、相手が悪すぎる。いくらタイプ相性が有利だとしても、バトル初心者の氷花がフローゼルに勝てるとは到底思えない。
「いくらタイプ相性が良くても、氷花は初心者だろ!俺がやる!じゃないと、俺がここにいる意味がない!」
例え守る相手に嫌われてても、恐怖の対象だろうとも。雪奈にはこの体を使っている以上の義務がある。『雪奈』の家族を守らなければならないという義務が。義務、と言うのは傲慢かもしれない。だが、そう思わないと気が済まない。つくづく自分の性格が恨めしい。
「大丈夫。もし危険になったらお姉ちゃんが助けてくれるでしょ?ね?」
綺麗な笑顔で、そう言ってくる。とても信頼されているような言葉だ。だが、あの本性を知ってしまったからにはその言葉はとても薄い化けの皮をかぶっているようにしか聞こえない。あぁそうだ。もう分かっていたはずなんだ。雪奈は、この子が、氷花が、怖い。
「――うん」
「ええんか、お姉さん!?」
「ああなった以上…多分絶対聞かない。それに、本当に危なくなったら、俺が介入する」
「――――」
誰もが固唾を飲んで見守る、ピカチュウとフローゼルの睨み合い。その雰囲気を破ったのは、氷花の指示。
「――ありがとう。それじゃあ行くよピカちゃん!“10まんボルト”!!」
「ビ~カ~ヂュ~!!!」
ピカチュウの“10まんボルト”がフローゼルに放たれる。強大な雷がフローゼルを襲うが、フローゼルはその巨体に似合わないほど高くジャンプし、地面を焦がすだけの結果に終わる。そのままフローゼルは頭をピカチュウに向けると、体に水を纏わせるわざ――“アクアジェット”がピカチュウに放たれる
「ピカッ!」
「ピカちゃん!!」
「フッロッ!!」
“アクアジェット”を喰らいダメージを負うピカチュウだったが、すぐに体制を立て直す。しかしフローゼルはピカチュウに攻撃を当てたその反動で未だに空中だ。ピカチュウの隙を見逃さず連続で“みずてっぽう”を放つ。
「“でんこうせっか”で避けてッ!!」
「ピッカッ!」
“でんこうせっか”を使用し迫りくる“みずてっぽう”を避ける。“みずてっぽう”が当たった地面は例外なく穴が空いており、その威力の高さが伺える。“みずてっぽう”を撃ち終わり、地面に着地するフローゼル。今の状況はどう見てもフローゼルが圧倒的有利だ。タイプ相性が良くても、経験がモノを言っている闘いだ。
「な、なぁお姉さん…やっぱり今からでも助けに入った方が…」
「いや…まだピカチュウはやる気だ。それに……横やり入れてあとの八つ当たりが怖い」
「絶対そっちの方が本音やろ!?」
このバトルを心配そうにしてみている華凜は、一刻も早くこの戦いが終わることを願っている。木を破壊し地面に穴を空ける水鉄砲を放ったり、即死レベルの電撃を放つバトル。そんな常識外れのことが起こって、気を保てるのはこの世界の人間には無理だ。慣れる必要があるため、華凜もバッチリ対象に入っている。
この戦い、雪奈が出ていけばすぐにでも決着がつくだろう。だがそれでは氷花もピカチュウも納得しないだろうし、なによりその後の八つ当たりが怖い。だから傍観することにする。そうする。
「ピカちゃん!もう一回“でんこうせっか”で接近して!」
「ピカッ!!」
負けじとピカチュウは“でんこうせっか”でフローゼルに近づく。それに対抗してフローゼルは“みずてっぽう”で追撃する。ピカチュウは“みずてっぽう”をことごとく避け、物凄い勢いでフローゼルに近づく。痺れを切らしたのかフローゼルは“みずてっぽう”を中断して“アクアジェット”を放つ。強烈なスピードで放たれる“アクアジェット”。真っすぐ向かうピカチュウと真っ向から激突してしまう。
「地面に“アイアンテール”で飛んでッ!!」
「ピッカッ!!」
咄嗟にピカチュウはジャンプと同時に尻尾を硬質化させ“アイアンテール”を地面にぶつける。その反動でピカチュウの軽い(6㎏)体は宙に浮かび、フローゼルの“アクアジェット”を避ける。
「フロッ!?」
「そのまま思いっきり“10まんボルト”!!」
「ビカヂュ~~!!!」
技を避けられてからの一瞬を狙った“10まんボルト”。これにはフローゼルも避けることができず、直撃する。土煙が発生し、辺り一帯を包み隠す。そのままピカチュウが地面に着地すると同時に、土煙が晴れる。フローゼルは“10まんボルト”が直撃したために皮膚のあちこちが焦げ、明らかに疲弊して苦しそうだ。
「そのまま追撃“アイアンテール”!」
「ピカチュッ!!」
「フロ゛ッ!!?」
軽快な動きでフローゼルに近づきジャンプする。そのまま体を一回転させ“アイアンテール”をフローゼルの頭上に叩きこむ。とても痛そうだ。フローゼルやよろめきながらも、なんとか立ち直ろうとするが、動きがぎこちない。よく見るとフローゼルの体にバチバチと電気が帯電しているのが見受けられた。それを見て真っ先に雪奈が口を出す。
「“まひ”状態か」
「麻痺?」
「ピカチュウの特性は“せいでんき”。接触技を当てたとき30%の確率で相手を“まひ”状態にする…!」
“アイアンテール”でピカチュウの特性“せいでんき”が発動し、フローゼルは麻痺に陥ったようだ。“まひ”状態になったポケモンは動きを制限される。要は機動力を奪われる。闘いの場において、避ける力と動く力を奪われるのは、敗北も同然だった。
「ピカちゃんトドメ!!“10まんボルt”―――」
ピカチュウの10まんボルトが炸裂しようとしたその時―――雨が降った。突然の出来事である。雨はやがて勢いを増し、辺り一面を濡らす。それは雪奈たちも例外ではなかった。雨は雪奈たちの体を濡らし、服を濡らし、体温を徐々に奪っていく。
「なんや…今日の天気予報は一日晴れのはずやで!?」
「なんで急に雨が…」
突然の雨に思考が停止するが、背中――リュックの方がなにやら蠢いていた。そういえばリュックの中にはロトムがいた。スマホロトムは電子機器だから水に濡れると危ない。だからなんとか雨に濡れないようにと試行錯誤しているのだろうか。だが、その考えは一瞬に消え去った。スマホロトムが雪奈にリュック越しに言葉をかけてきたのだ。しかし返答しないわけにはいかないため、小声で話す。
『ユキナユキナ!』
「どうしたんだよ、あまり話すな。お前がいるといろいろバレるだろ」
『早くフローゼルを倒すロト!』
「あ、なんで――」
『フローゼルの特性は“すいすい”ロト!』
「やべっ――!氷花!!早くフローゼルを倒せ!」
いきなり大声を上げた雪奈に、氷花も華凜も驚く。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
「疑問に思ってる暇はない!早くフローゼルを倒さないと危ない!」
「――どういうこと?」
「フローゼルの特性“すいすい”は、天気が『あめ』の時自身の素早さを2倍に上げるんだッ!!」
「えっ、それって――「ピカッ!?」――え」
雪奈の言葉に気を取られ、ピカチュウから目を離した一瞬の出来事だった。目の前にいたピカチュウが吹き飛ばされ木に激突した。ズルズルと木から崩れ落ち、戦闘不能になる。一瞬の出来事だった。
「ピカちゃん…?」
「危ないッ!」
「あっ――」
「ブイッ!!」
雪奈が声を上げると同時に、氷花の目に映ったのは自身に“アクアジェット”で突進してくるフローゼルの姿だった。フローゼルの巨体がわざを放った状態で、華奢な氷花に直撃すればどうなるかは明白だ。当たる瞬間、氷花の目の前にイーブイが立ちふさがり“10まんボルト”を使用した。もし
しかし、素早さで威力が上乗せされたフローゼルの“アクアジェット”には敵わず、そのまま吹き飛ばされる。
「ブイッ!!」
「ブイちゃん!!」
吹き飛ばされたイーブイとピカチュウを、急いで抱える氷花。一応イーブイの“10まんボルト”はフローゼルの追撃を許さないほどには役に立っていたようだ。フローゼルは“まひ”状態であるため電気技が効いたのか少しの間氷花たちのことを見逃していた。そのままフローゼルは氷花たちを見定め、“みずてっぽう”を撃つ準備を進めていた。
「おい待てやこら」
「――フロッ?」
「これ以上の暴挙は見過ごせねぇ。こっからは俺が相手だ。“まひ”状態だっつーのになんつー速さだよ」
氷花たちの前に立つ影が二つ。雪奈とサーナイトはフローゼルの前に立ちふさがり、雪奈はモンスターボールを構える。
「サーナイト。氷花たちを守っていてくれ」
「―――サナッ」
「ありがと。――おい。こっからはこっちのターンだ。覚悟しろ。こいっ、【ルカリオ】ッ!!」
「グオッ!!」
モンスターボールを投げると同時に、ルカリオが姿を表す。ルカリオは拳を合わせると同時に、フローゼルを睨みつける。負けじとフローゼルもルカリオを睨みつける。ルカリオもフローゼルも、目の前の敵が強者であることを悟ったようだ。一切の油断が感じられない。
強敵同士の、第二ラウンドが始まる。
サーナイトの闇の部分が開放された。
氷花ちゃんポケモンバトルうま~い。たくさん勉強したんだね!
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