人生三回目、現代にてポケットモンスター現る。   作:龍狐

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7 オレ スシー!

 

「ルカリオ、“しんそく”ッ!!」

 

「グオッ!!」

 

「フロッ!!」

 

 

 豪雨が降り注ぐ中、二匹のポケモンがぶつかり合う。

 ルカリオに指示した“しんそく”は必ず先制攻撃を可能とする技。特性“すいすい”で素早さが2倍に膨れ上がっているフローゼルに対抗するためには、速度特化型のポケモンをぶつける必要がある。パワータイプはスピードタイプに弱い。だからこその選択だ。本当は今持っていない最後の一匹が完全速度型でトリッキーな戦法すらも得意とするポケモンだ。だがこの場にいないポケモンのことを思っていても仕方がない。

 

 “しんそく”にスピードでパワーが上乗せされたルカリオの拳と、フローゼルの頭突きが炸裂する。互いに衝撃で後退し、睨み合う。

 

 

「“はどうだん”!!」

 

「ルオ゛ォッ!!」

 

 

 両手の平を重ね合わせ、ソコを中心に青色のエネルギーを貯めていく。やがてそれは玉の形となり、フローゼルへと放つ。フローゼルは“みずてっぽう”を何度も発射し、“はどうだん”にぶつけ、やがてエネルギー弾は破裂する。

 発生する土煙。その好機(チャンス)を逃がす二匹ではなかった。互いに上昇した速度を持ってして土煙の中で乱戦を繰り広げる。

 

 

「くそっ、“まひ”状態だっつーのにこんなに早いだなんて聞いてねーよ…。フローゼルの巨体であそこまでの速度が出せるなんて……まさか、“こうそくいどう”か?」

 

 

 “こうそくいどう”。エスパータイプの変化技で、自身の素早さを上げる技。“まひ”状態で動けないはずの体を根性か意地かで無理やり動かしながら、上昇した速度で無理やり補っているのだろうか。

 

 

「“すいすい”に“こうそくいどう”…早く決着つけないとやべぇ…」

 

 

 今のルカリオとフローゼルは互角だ。だがそれは“まひ”であるからこそだ。ルカリオは速度と攻撃の両立タイプ。“しんそく”によって繰り広げられる肉弾戦でなんとかフローゼルに対抗できている。だからこそ今素早さ特攻のフローゼルに“まひ”状態を解除されるとルカリオだけでは対処できない。

 ただでさえこの雨で視界が悪く、雪奈自身の体温も奪われてまともな判断も難しい。他のポケモンを出すにしても、あと戦えるのを試行錯誤するが、ゲンガー、リザードン、ユキノオーは論外。ゲンガーは華凜の前で出すわけにもいかず、リザードンはしっぽの炎が生命器官のため論外。ユキノオーをバトルに出した際に発動する特性“ゆきふらし”はさらに視界と体温を奪う結果になりかねない。この雨の中でならなおさらである。本当にこんな時、なんでアイツはいないんだ。

 

 

「ルカリオッ!!“サイコキネシス”でフローゼルの動きを止めるんだッ!!」

 

 

 ルカリオが後方に飛び上がると、“サイコキネシス”を発動しフローゼルの動きを止める。そのまま着地すると全力でぬかるんだ地面を駆けて拳を握り締める。

 

 

「フロッ!!」

 

「連続で“コメットパンチ”!!」

 

 

 フローゼルがサイコキネシスの束縛を自力で解除するがもう遅い。青い光とともに硬質化した拳から放たれる“コメットパンチ”がフローゼルに直撃した。フローゼルは微妙に耐えてはいるが、それでも苦しそうだ。だが2撃、3撃と連続で放たれるコメットパンチにフローゼルは苦痛の声を上げている。最後の一撃を打ち込み、フローゼルが大きく後退した。

 だが、フローゼルはまだ倒れない。そもそも、フローゼルは“みずタイプ”だ。対してルカリオが放った“コメットパンチ”は“はがねタイプ”の技であり、“みずタイプ”は“はがねタイプ”の技を半減する。ゆえに、フローゼルにはあまり効いていなかった。フローゼルが苦しんでいるのは、単に手数によるゴリ押しによるものだ。

 それくらい、雪奈の思考は今低下している。それでも雪奈は負け時と、次の指示を放った。

 

 

「周りの木を“サイコキネシス”で使え!」

 

 

 雪奈の指示と同時に、フローゼルの“みずてっぽう”で倒壊していた周りの木が浮き上がり、フローゼルを襲う。しかし負けじと持ち前の機動力と“こうそくいどう”で強化された速度を駆使して向かってくる木々を避ける。

 

 

「“しんそく”で立ち向かえッ!!」

 

 

 再び爆発的な速度で突進したルカリオはフローゼルに近づいて拳を繰り出す。フローゼルも水流を纏って“アクアジェット”を繰り出し互いの技が激突する。中心で爆発を起こし、互いを吹き飛ばす。

 

 

「フロッ…フロッ…ゼッ…」

 

「グォ…ガァ……」

 

 

 互いに睨み合い覇気を出すことをやめはしないが、二匹ともに明確な疲労が顕著になってきていた。フローゼルはピカチュウとのバトルからの連戦。ルカリオはこの雨による急激な体温の低下による疲労で、二匹とも既に限界が近かった。

 それに今までバトルの激しさで気づいていなかったが、フローゼルはとっくに“まひ”状態から脱していた。あれほど時間が経ったのだ。当然のことだ。

 

 

「フロッ……!!!」

 

 

 フローゼルの周りに、水流が集まる。“アクアジェット”だろうか。いや、水流が“アクアジェット”に比べてデカすぎる。雪奈は必死に野生のフローゼルが覚えられる中での技を模索する。だが、この雨のせいでまともに思考が動かない。バトル以外のことが、もう考えられない。

 

 

『ユキナ!ユキナ!』

 

「―――?」

 

『野生のフローゼルが覚える最強の技は、“ウェーブタックル”ロト!』

 

「“ウェーブタックル”…サンキューロトム」

 

 

 これで判明した。フローゼルが最後に放とうとしているわざは“ウェーブタックル”だ。みずタイプの物理技における最強技。その分自分にもダメージはいくが、最後を飾るには申し分ないわざだ。つまりフローゼルはこの攻撃で決めるつもりでいる。

 

 

「ルカリオ、“はどうだん”の準備」

 

「ルオッ」

 

 

 ルカリオの手に、青き波動が宿る。それは大きな球状へと変化し、巨大化していく。

 フローゼルが纏う水流が、巨大化していく。

 

 

「フロォオオオッ!!」

 

「そのまま“はどうだん”で殴れ!!」

 

「ルオオオオオッ!!!」

 

 

 圧倒的速度による突進。高速で動く水の塊と言う鈍器とともに突進してくるフローゼルに、拳に固定した特大の“はどうだん”で対抗する。強力な力同士が激突し、辺り一帯を蹂躙する。その衝撃波が、降り注ぐ雨の軌道すら歪めてしまう。

 

 

「ルカリオ、少しでいい!フローゼルの攻撃の軌道を逸らせッ!」

 

「グァアアアアア!!!」

 

 

 トレーナーの指示を汲み取ったルカリオは、力を振り絞って力の向きを上部へと向け、拳の“はどうだん”が爆ぜる。その衝撃でフローゼルの軌道が少し上に逸れた。

 

 

「チャンスを逃すなッ!!“しんそく”!!!」

 

「オオオオオオオ!!!」

 

 

 空いている左手で、ルカリオはすかさず“しんそく”による拳を繰り出した。軌道がズレたことでガラ空きだったフローゼルの腹に圧倒的速度で放たれた拳は直撃した。

 

 

「フロッ…」

 

 

 水流が霧散し、フローゼルが地面に落ちる。フラフラとよろけ、最後には目を回しながら倒れた。

 

 

「ハァ…ハァ…ヨッシャアアアアアアアアア!!!!」

 

「オオオオオオオッ!!!」

 

 

 勝者たちが、互いに雄たけびを上げるが、その声はこの豪雨でかき消される。それでも叫ばずにはいられなかった。この世界に来てからの初のポケモンバトル。豪雨と言う最悪の環境下の中でも、勝つことができた。自分は特に強いわけでも弱いわけでもない。リーグに出場したところでなぁなぁの成績だった。それでも、勝てた。あの不利な環境下で、勝つことができた。それが何よりもうれしかった。

 

 

「やってやったぞ、コンチクショー……」

 

「お姉ちゃん!」

 

「お姉さん、無事かいな!?」

 

 

 戦闘終了と同時に、氷花、華凜、サーナイトが雪奈たちの方に集まってくる。なぜか雪奈に比べてあまり濡れていなかった。サーナイトが“サイコキネシス”で雨を弾いていたのだろうか。その証拠に今現在も勢いが弱まったとはいえ雨が降っているはずなのに全然雨に当たっていない。

 

 

「なんとか…でも、ちょっと寒い…」

 

「あんなに雨に当たってたんやから当たり前や!とりあえず今日はもう帰ろうや!風邪ひいたら元も子もあらへん!」

 

 

 あれだけ雨風に当たれば当たり前である。

 

 

「そうだね。ピカちゃんたちも休ませたいし、服もビショビショだし、早く帰った方がいいよ」

 

 

 ここまで戦い、守ってくれたポケモンたちを一刻も早く休ませなければならない。それに、氷花は自分たちの服を見る。雨によって服が完全に濡れており、下着もスケスケだ。こんなところを他人に見られたら軽く恥ずか死する。

 

 

「そうやなぁ…。流石にこれは恥ずかしいわ…」

 

「ははっ、帰ったらお風呂だな…」

 

「そうだね。ホッカホカのお風呂、入ろっか。二人で」

 

「二人で!?まだ姉妹でお風呂入っとるんか!?」

 

 

 華凜にすごく驚かれるが無理はない。この年になって年の近い兄弟や姉妹と一緒に入浴など、宿泊での温泉以外ではありえないのだから。

 本当に氷花はこの状況でもそこを徹底していた。余念のない姿勢に、雪奈は苦笑いをするしかない。

 

 

「はぁ~……最近の姉妹ってそこまで仲ええんか…?」

 

「いや(ウチ)が特別なだけだから」

 

「華凜ちゃんも風邪ひくといけないから、ウチのお風呂使ってもいいよ!」

 

「ええんか?ありがとな!それじゃあお言葉に甘えて借りることにするわ」

 

「それじゃあ、帰るか。ルカリオ、お疲れ様」

 

「ルオッ!」

 

 

 モンスターボールを向けると、赤い光とともにルカリオがモンスターボールに収まる。モンスターボールを仕舞うと、サーナイトの方を向き直る。

 

 

「それじゃあ、サーナイト。“テレポーt”――」

 

「フロッ…!!」

 

 

 サーナイトへ指示を出そうとしたとき、背後からフローゼルの鳴き声が聞こえた。慌てて後ろを振り返ってみると、フローゼルが意識を取り戻し、ボロボロの体ながらも立ち上がり、雪奈たちを睨みつけている。

 

 

「ふ、復活したぁ!?」

 

「しまった…、時間を与えすぎて、気絶から復活したのか…」

 

「どうする、お姉ちゃん?このまま逃げる?」

 

「まぁ……できるちゃできるけど…それを許してくれるかどうか…」

 

「フッロォ~…」

 

 

 フローゼルはヨロヨロになって立ち上がりながらも、口に水を貯めて“みずてっぽう”の準備をしている。

 

 

「やばっ、来る――」

 

「フロッ!?」

 

 

 そんな時、突如としてフローゼルの背中に紫色のビームのようななにかが直撃した。フローゼルはうつ伏せになって倒れ、再び気絶する。

 一同はその場面をただ唖然として見ていることしかできなかった。何が起きた?フローゼルが背後から攻撃されたということは分かる。そしてあの技は――

 

 

(“りゅうのはどう”…!)

 

 

 ドラゴンタイプのわざ、“りゅうのはどう”。ボロボロの状態とはいえあのフローゼルを倒すとなると、相当強いドラゴンポケモンだと予想できる。

 ドラゴンポケモンに対して有利に戦えるのはユキノオーとサーナイトのみ。サーナイトは氷花たちの護衛をしてもらっているため、ユキノオー一択。弱まっているとはいえ、雨はまだ降っている。だが我儘は言ってられない。ユキノオーの入っているモンスターボールを握り、警戒を緩めない。

 ガサガサ、ガサガサと、茂みが揺れる。やがてそのポケモンは姿を表した。

 

 

「――え」

 

「――あっ」

 

「――はい?」

 

 

 そのポケモンの姿を見て、一同は腑抜けた声を出す。

 

 そのポケモンは、ドラゴンと言うにはとても小さすぎた。

 

 そのポケモンは、ドラゴンと言うよりエビだった。

 

 そのポケモンは、態度だけはドラゴンタイプだった。

 

 そのポケモンは、ドラゴンと言うより――

 

 

 

 

「オレ、参上(スシ)

 

 

 

 

 寿司、だった。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 シャリタツ そったすがた ドラゴン/みずタイプ

 

 小型の ドラゴンポケモン。 ヘイラッシャの 口の中に 棲み 外敵から 身を 守っている。

 非常に 悪賢い ポケモン。 弱ったふりで 獲物を おびき寄せ 仲間の ポケモンに 襲わせる。

 

 

 これが今目の前にいるポケモンの全てだ。

 シャリタツ そったすがた。体色は薄いオレンジ色、胴体の上側は色が濃く、下半分は色が薄い。胴体の色の境は大きく波打っており、背ビレと尾ビレは色が濃い。胸ビレは先端だけが色が濃く、左右のフチだけ濃い部分が大きい。腹は白い。これが目の前のシャリタツの見た目に関しての情報だ。

 

 

「す、寿司…?」

 

 

 長い沈黙を破ったのは、華凜だった。次は一体どんな恐ろしいポケモンが来るのかと身構え、恐怖していたら、なんと出てきたのは小さな寿司を自称するポケモンだった。想像と現実によるギャップの差が激しく、思考がスリープしている状態から絞り出した言葉だった。

 

 

「オレ、スシ!」

 

「やっぱ聞き間違いじゃなかった!えっ、このポケモン喋っとるで!?これってすごい発見なんやないか!?」

 

 

 華凜は喋っているポケモンを直に見て驚きを隠せていない。あの生中継を見た後では、ポケモンは普通喋れない。喋れるポケモンは特別だ、と言う認識でもおかしくない。そもそもポケモンが喋ることはほとんどないためその認識で正しいのだが、それが通用しない例外も存在している。目の前の寿司(シャリタツ)も、その一例。

 シャリタツは華凜をジト目で見ると、ため息をついた。

 

 

「オマエ、ハシャギスギ。スシ ハ ミンナ カシコイ。アタリマエ」

 

「お、おっ…!本格的に喋ったで!すごいわぁ…」

 

「マァ オレ、ホカ ノ スシヨリ カシコイ。ホメラレル アタリマエ」

 

 

 エッヘンと胸を張るシャリタツ。この一連の出来事で、ようやく現実に意識を戻せた雪奈は、身構える。雪奈の記憶ではシャリタツは確かに弱い代わりに賢いポケモンだが、ここまで人間の言葉を理解し話せるシャリタツも珍しい。本ポケ(本寿司)の言う通り、他のシャリタツより賢い個体なのだろうか。そう考えればいい。

 

 

「で、なんの用?」

 

「ヌ?」

 

「さっきの“りゅうのはどう”、君のだよね?野生のポケモンがわざわざ自分から姿を表したってことは、何かしら理由があるんでしょ?」

 

 

 シャリタツは悪知恵が働くポケモンだ。その知恵を使って狩りをしている。普通のシャリタツは自身で寿司に擬態して獲物を他のポケモンに襲わせるのが定石だが、このシャリタツは他のシャリタツより賢いと自称し、その証明として人間の言葉を流暢に話している。なら、何かしらの罠を張っているとしても、おかしくない。

 

 

「ソーダッタソーダッタ。ホンダイ ワスレテタ」

 

 

 シャリタツはポヨンポヨンと跳ねながら雪奈たちに近づいてくる。その瞬間でも警戒は緩めない。サーナイトも雪奈の意図を汲み取ってシャリタツを含め全体を警戒している。そしてシャリタツが雪奈たちに近づくと、倒れているフローゼルの上に飛び乗る。ジッーと一同を見て、やがて視線は、華凜に止まった。

 

 

「オマエ」

 

「えっ、ウチ?」

 

「オレ キメタ。オマエ ノ コト“デシ”ニスル」

 

 

 弟子。聞き間違えでなければ、目の前のシャリタツは確かに『弟子』と言った。華凜を、自らの弟子にすると。あまりにも急展開に、誰もがポカンとしかなれない。

 

 

「キョーカラ オレノコト シショーヨブ」

 

「ちょい待てや!なんやねん弟子って!?それに師匠!?急すぎて着いていけへん!?それに急に出てきていきなり弟子にするとか何様や!?」

 

「オレ、スシサマ」

 

 

 シャリタツは豪胆な態度で胸を張る。だが華凜の言い分ももっともだ。急に出てきたポケモンにどうして弟子呼ばわりされなければならないのだろうか。しかも強そうなポケモンだったらまだ分かるが見た目がどうも弱すぎる。華凜の不満ももっともだ。

 

 

「ソレニオレ、ズット オマエタチ ノ コト ミテタ」

 

「……お、私たちのことを?」

 

「ソウ。オレ、ソダテルノ トクイ。ダカラズットミテタ。オマエ スデニツヨイ ソダテルイミナイ。オマエ ハ ミコミアル。デモ ナンカ ヤナカンジ スル カラ ノーカン」

 

 

 このシャリタツ。結構できるかもしれない。ただ見てるだけで氷花の本性を見破るとは思いもしなかった。今はヤな感じでとどまっているが、その疑問はやがて広がって確信に変わっていくだろう。雪奈の中でシャリタツの評価がグーンと上がった。

 

 

「デモ オマエ ダメ」

 

「はぁ!?なんで初対面のやつにそんな評価(コト)言われなアカンねん!可愛い見た目しといて、とんでもない毒舌やな」

 

「ホメル バカリ ジャノビナイ。イクセイ ノ テッソク。オマエ ヘタレ。ヨワムシ。ダカラソダテガイ アル!」

 

 

 エッヘンと再び胸を張るシャリタツ。本寿司からすれば激励の言葉をかけているつもりなのだろうか。だが初対面のヤツからかけられる自身を貶す言葉は、ただの怒りにしかならない。

 

 

「お断りやそんなもん!そんな上から目線のヤツに教えてもらうことなんてなにもあらへん!それに教えてもらうとしたら断然氷花とお姉さんに頼む!お前なんかに入る場所はあらへん!」

 

「スシ…オレ…イラナイコ…?」

 

「えっ」

 

 

 強気で真っ向からの否定。華凜の心からの否定から帰ってきたシャリタツの反応は――涙だった。明らかに声のトーンを落として涙を流している。

 

 

「オレ、イツモ ヒトリボッチ…。オレ ドコマデ イッテモ コドク…」

 

 

 シャリタツは気力のない体で振り返り、トボトボと悲壮感漂うまま、奥の茂みに身を消そうとしてい――

 

 

「ああぁあああああ!!待て待て待て待て待ちぃや!分かった!分かったから!話だけでも聞くから待ちぃや!!」

 

 

 華凜、耐えられず自爆。駆け寄ってシャリタツを抱っこする。シャリタツは華凜に持ち上げられたことを認識すると、上目遣いをしてきた。

 

 

「ヌ?」

 

「ハァ…ハァ…話ちゃんと聞くから、そんな悲しいこと言わんといてや」

 

「オレ…イラナイ スシ ジャナイ…?」

 

「いらなくなんてないからそんなこと言わんといてや!」

 

「スシ!アリガト!」

 

 

 全ての会話を終え、華凜はシャリタツを抱えてこちらに戻ってくる。ちなみにシャリタツは8キロほどである。身近なものの例で例えると“小学生のランドセルに五教科全部入れた重さ”である。そんなものを抱えて辛くないのだろうか――いや、よく見ると我慢しているようだ。腕がプルプルしている。

 

 

「よかったね。華凜ちゃん」

 

「なにが良かったのか全然分からへんけど、まぁええか…」

 

「そうだな…。とりあえずサーナイト。帰りもお願―――」

 

 

 サーナイトの方を振り返ると、サーナイトの目はとても細かった。なにか見下しているかのような、そんな感じの目だった。視線の先を振り返ってみると、サーナイトの視線はシャリタツに向いていた。サーナイトは心を感じ取るポケモン。シャリタツは賢いが狡猾なポケモン。雪奈は全てを察した。なにをとは言わないが、全てを察してしまった。思わず雪奈もシャリタツを凝視した。

 

 

「―――もういいか」

 

 

 雪奈は全てを諦めた。大人しくサーナイトに“テレポート”をしてもらおうと思ったが――地面に未だ倒れてるフローゼルが目に入った。フローゼルは雪奈たちとの闘いで全身ボロボロ。トドメにシャリタツの“りゅうのはどう”を喰らい、満身創痍だ。そんなポケモンを見捨てるほど、雪奈は性悪ではなかった。

 

 

「サーナイト。一応コイツも連れていく」

 

「サナッ」

 

「えっ、このポケモンも連れて行くんか…?暴れたらどうするねん!?」

 

「こんなボロボロじゃ暴れるもなにもないって。それに、暴れさせないから」

 

 

 雪奈は縮めた状態のモンスターボールを片手で持てるだけ持って、華凜に見せつける。これには華凜も納得するしかなかった。フローゼルには襲われて良い思いが一欠片もない華凜でも、満身創痍の状態であのメンバーの中で暴れようとするとは思えなかった。

 

 

「それじゃあ今度こそ…。サーナイト。“テレポート”!」

 

 

 一同は、植物園の中から姿を消した。

 誰もいなくなったはずの植物園。その場所には闘いによって近くにいたポケモンも逃げ出してしまい、どの生物もいないはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、一つだけ、あった。

 シャリタツの他に、いたのだ。雪奈たちを監視していた、もう一つの影が。その影が雪奈たちがいなくなったことを確認すると、体を翻してその場から去っていく。

 

 その影の手には、一つの薄い板――のようなものがあった。それはDVDのパッケージのようなものだった。その四角いものには、番号が書いてあった。その番号は『50』。

 

 “あまごい”の技マシンを持って、その影は、姿を消す。

 

 

 

 

 

 




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