いろいろなパターンを考えた結果で、まとまって投稿にまで至りました。どうぞ、お楽しみください。
雪奈はフローゼルが目覚めたのを確認すると、近くに駆け寄って状態を確認する。きずぐすりのおかげである程度傷は治っているため、とても元気そうだ。だが、雪奈を見る目は依然として鋭い。今だに警戒されている。無理はないが。
「知らないところで驚いたでしょ?倒したのは私たちだけど、流石に放っておけなくて」
そう声をかけて警戒を少しでもなくしてもらおうとしたが、フローゼルはそっぽを向いた。「ははッ…」と乾いた笑いをすると、フローゼルは突如、ゆっくりと立ち上がる。
一同はその動作に警戒を緩めない。いくら戦意がないとはいえ、相手は野生のポケモン。こちらとて警戒するに越したことはないのだ。
立ち上がったフローゼルは周りの警戒など意に介さず、毅然とした態度で氷花が座っているソファーの隣に座った。図太すぎやしないだろうか。フローゼルの巨体がソファーの面積の半分を支配したことで、氷花は必然的に端に追いやられる。両隣に寝かしていたピカチュウとイーブイをゆっくりと移動させながら、フローゼルに場所を開けた。
「フロッ…フロフロッ、ゼルッ…」
ソファーに座ったフローゼルが何かを語り始めた。何か真剣な顔をしながら喋っているが、致命的な問題があった。
(((何言ってるのか分からん(ない)……)))
致命的な問題。そう、言語の壁だ。ポケモンの言葉は人間には分からない。エスパータイプなら話は別だっただろうが、フローゼルはみずタイプ。全くカスリもしていない。
「あーストップストップ」
「―――?」
「あの、なに言ってるか、分からない」
雪奈が率先してそう言うと、フローゼルはポカンとしていた。えっ、まさかそのこと全然考慮していなかった?気絶から目が覚めた後とは言えど、うっかりしすぎではないだろうか。
「フロォ…」
「んー、あの、なんか、ごめんね?」
「ポケショのアプリに翻訳機能とかないかな…?」
氷花はアプリを起動していろいろ見てみるが、残念なことにポケモンの言葉を翻訳する機能はついていなかった。
「ん~…フローゼルがなにを伝えたいのか、分かればいいんだけど…」
一番効率的、と言うか真っ先に思い浮かぶのはロトムに翻訳してもらうことだ。しかし華凜がいる手前、ロトムを出すわけにはいかない。ポケモンが世界に現れてまだ2日目。スマホロトムを持っている人間=トレーナーID1番と言う図式が完成してしまう現状、正体を知っている人間はできるだけ少ない方がいい。
「どっかに、人間の言葉を話せる都合のいいポケモンがいればええんやけどなぁ…」
そういう華凜の視線は、全然別の方向を向いていた。その言葉で雪奈と氷花はすぐに華凜の言葉の意図を理解し、手持ちポケモンたちも一斉にその視線に合わせた。そこにいる、とても都合のいいポケモンを見るために。
「――ヌ?」
部屋にいる全ての生き物の視線を集めたポケモン――シャリタツ(そったすがた)は自身に注がれた視線に気づき、眉を
「お~っと、こんなところに人間の言葉を話せる賢いポケモンがおるで」
「ドシタ、キュウニ」
「ちょっくら頼みあるんやけど、あのポケモンの言葉翻訳してほしいんや」
「エェ~」
華凜の頼みに、シャリタツは腕を組んで目を細める。どうやら乗り気ではないようだ。
「オマエ サッキ オレノコト サンザン イッテオイテ ヒツヨウニ ナッタラ タヨルトカ ツゴウヨスギル。オレ ソンナニ ヤスイ スシ ジャナイ」
「まぁまぁ…お願いだよ、シャリタツ。これは君にしか頼めないことなんだよ。お願い」
フッスー、と息を吐き目を閉じてあからさまに不機嫌なシャリタツに雪奈はなんとか頼み込む。ロトムを除けばフローゼルの言葉を翻訳できるのはシャリタツしかいない。ここでシャリタツにやってもらわなければ、この話が延長線上で終わってしまう。
「スーシー…」
「お願いだよ、シャリタツー…」
「――――」
できるだけ目線を合わせようとしゃがんで懇願する雪奈に、シャリタツの片目が若干開いた。やがてシャリタツの首が完全に雪奈の方に向き、両目も完全に開いていた。
「ジャア“ジョウケン”ヒトツアル」
「…条件?」
「――ニンゲンノ“クイモノ”タベテミタイ。マエマデ ズット タベテミタイ トオモッテタ」
シャリタツが出した条件はとても単純で、人間が食べている食べ物を食べてみたいというものだった。
かくいう雪奈たちも、シャリタツの出した“条件”に安堵していた。どんな条件が来るのかと身構えていたら、その口から出たのは人間の食事を食べてみたいという単純なもの。
「それくらいだったら別に構わないよ。なんか普通の条件で安心したなぁ」
「小さい見た目の割して食いしん坊やな」
「まぁまぁ。それでシャリちゃんは、どんなの食べてみたいの?」
「(シャリちゃん…?)―――ラーメン」
ビシッっと、時が止まる。そこは寿司じゃないんだ。この場にいる全員がそう思った。確かに寿司屋でラーメンを食べることはできるが、寿司屋に来たならまずは寿司である。最初にラーメンを頼むのはかなりの猛者だ。
「そこは寿司やないんやな。寿司を自称してるからてっきり寿司が好きなんかと思っとったわ」
「ジショウ チガウ!オレ スシ!」
シャリタツが再びプンプンと怒り出す。どうやら深いこだわりとプライドがあるようだ。
「ソレニ スシハ オタカメ。マンプク ナルノニ オカネカカル。タイシテ ラーメン センエン クライデ オナカ イッパイナル」
「いや確かにそうやけどお前なんか妙に金銭感覚しっかりしとるな」
どうして寿司の――と言うか人間の金銭事情にこんなにも詳しいのだろうか。普通そんなこと野生どころかポケモンは知らない。中身人間か?と言われれば納得してしまうまである。
先ほど自分で安くはないと言っておきながら“安さ”を気にして配慮しているところが何とも言えない。
「タダシ」
「――?」
「“カップラーメン”“オモチカエリ”ロンガイ。チャント オミセデ タベタイ」
「「「―――――」」」
財布に配慮してくれたと思ったら束の間、シャリタツは世間の目に関して一切配慮することがなかった。そもそもポケモン云々の話を抜きにしても人間以外の生物を飲食店に連れてくるのはNGである。
「いや…無理や」
「ナンデ?」
「そもそも飲食店は人間以外入れへん」
「デモ オレ シッテル。ニンゲンノ セカイニハ “アニマルカフェ”ナルモノ、アル」
「お前“アニマル”なんか?」
「オレ、スシ!」
「じゃあ無理やな」
「――ハッ、“ユウドウジンモン”ハカッタナ!」
なにを見せられているのだろうか、これは。シャリタツは自分で抜け道を用意しておきながら自分でその抜け道を潰し、華凜に至っては不思議なまでに冷静に対応していた。
「それに、ただでさえ世界が混乱しとるんや。開いてる店があるかどうかすら怪しいんやで?」
「ヌ~…」
「カップラーメンかお持ち帰りで我慢しぃや。いずれ、それができるとときが来たら連れってったる」
「ヌ~……ワカッタ。ケド、ゼッタイ ヤクソク!」
「はいはい。わーったから、早よ翻訳よろしゅう頼んだわ」
「ヘンジテキトー…。デモ ヤクソク シタ!」
シャリタツが飛び跳ねながら机に近づき、ゆっくりとよじ登り、フローゼルと可能な限り目線を合わせた。
「オレ、ホンヤク スル。ダカラ ハナセ」
「――フロッ。フロフロ、フロッ、ゼル。フローゼ…」
「フムフム……」
シャリタツの言葉が伝わったのか、シャリタツに向かって真剣な顔で話を進めるフローゼル。相変わらず何を言っているのか分からないが、それは全てシャリタツに
やがてフローゼルは全てを話し終えたのか、ソファーに背中を預けた。ここ一応人間の住処なんだけど、ゆっくりしすぎでは?
「コイツノ ジジョー ダイタイ ワカッタ」
「ヘェー、それで、なんて言ってたんや?」
「コイツ、ムレノナカデハ ニバンテ ナンバーツー」
「若頭みたいなものかな?」
「なんでヤのつく自営業で例えてんねん。副社長みたいなもんやろ」
氷花のナンバーツーの役職の例えが物騒過ぎた。普通二番手などと聞いたら真っ先に思い浮かぶのが華凜の例えである。どんな思考回路していたらまず最初にその例えが出てくるのだろうか。
「――で、二番手ってことは群れのボスがいるはずだろ?そのボスはどうしたんだ?」
「ソノ“ボス”、キノウ タオサレタ ラシイ」
「はぁ!?倒されたァ!?」
群れのボスが倒された。それも昨日に。その事実に雪奈は素っ頓狂な声を出した。ウェーブアタックを覚えているフローゼルが二番手だったという事実すら驚きなのに、さらに巨大な爆弾を投下してきた。自分とルカリオがあれほど苦戦して倒した目の前のフローゼルがまさかの群れでのナンバー2だった。このフローゼルより強いフローゼルが、昨日倒されたとあっては無理もない。
「ソイツ、モリノポケモン ノナカデ ツヨイヤツニ ケンカウッタ。オレモ キノウノコト オボエテル」
「まぁ、あの森におったんやし当然やわな…。そいつって、どんなやつやったんや?」
「オレ ズット カクレテタ。ダカラ ミテナイ」
「なんや、期待させよって…」
「ムチャ イウナ!オレ、スシ!」
「はいはい…」
フローゼルたちの群れのボスを倒せるほどの強いポケモンが現れたのなら、シャリタツであれば隠れるという選択肢が必然だ。ゆえにその姿を見ていないと言っても仕方がない。
「デ、ソイツノセイデ キガタッテイタ ラシイ」
「なるほどなぁ…。それでウチらのこと襲ったわけか」
華凜がソファーに座っているフローゼルをチラ見する。最初期はフローゼルに対する恐怖が瞳の中で見え隠れしていたが、事情を知ってからか同情的な視線になっている。むしろここまで見方を変えられる人間も珍しいものだ。
「――――」
「ん、どうしたの、お姉ちゃん?」
昨日フローゼルたちのボスが倒された、と言う話を聞いてからずっと無言の雪奈を心配してか、氷花が声を掛ける。そんな氷花に対し雪奈はそれとなく対応したが、内心は心臓バックバクだった。
(昨日…強い奴に喧嘩を売る…。もしかしてアイツじゃないよな…?いや、俺の考えすぎだ。うん、きっとそうだ)
「で、結局ソイツはどんなやつやねん?」
「タイケイハ“スリム”。カラダハ“青い”。クビニナニカ マイテタ。メッチャ“速い”。“分身”シテキタ。コンナカンジ」
「スリムで青くて首に何か巻いてて分身する…。なんやそれ」
「スリム…青い体…首に巻いてて、分身…お姉ちゃん、もしかしてそれって…」
氷花もどうやら気づいたようだ。森を襲った謎のポケモンの正体が。なんならその姿を一回見ているから。断片的な情報でピンときてない華凜は仕方がないが、一度その姿を見ている氷花にとってそれだけの情報でもその姿を思い浮かべることは容易だった。
氷花が雪奈の方を見ると、雪奈はガタガタと体を震わせ、顔を暗くしていた。
(いや落ち着け俺!もしかしたら別個体って可能性だって無きにしも非ず!今この世界には生息地とか関係なしにポケモンが現れてるじゃないか!だからワンチャンその可能性だって――)
「ソイツ サリギワ イッタ。『俺と再び闘いたくば俺の主人を倒してみせろ。銀の髪に碧き瞳を持つ人間…彼女を倒したとき、再び戦ってやろう』。……ダッテ」
「長い銀髪で碧い瞳…?――――」
華凜とシャリタツの視線も、雪奈に集中する。流石の華凜もここまでの情報があれば分かった。そのポケモンの正体は知る由もないが、そのポケモンの主人が誰なのかは分かった。目の前にいるどちらか二人である。そして、その中でも体を震わせている、以下にも「なにか知ってます」かのような反応をしていれば、誰だって気づく。
やがて雪奈はその視線に耐えられず、フローゼルの正面に正座して――
「あの……いや、ホントに…ウチのがマジですみませんでした…」
日本に伝わるアルティメット謝罪スタイル――土下座を披露した。
* * * * * * * *
「はぁ…」
「元気出してよ、お姉ちゃん…」
「せやせや。お姉さん、元気出してちゃんと食いぃや」
「オノッ…」
「サナッ…」
「ブルッ…」
「グルゥ…」
「ゲンゲンッ…」
あれから時間が経ち、お昼の時間になったため昼食の準備をしていた。その中で台所の机とキスをしている雪奈と、それを慰める二人とそのポケモンたち。なんともな光景だ。
あれからシャリタツに翻訳してもらった話を纏めると、こうだ。
昨日、雪奈の手持ちである“ヤツ”が植物園の強いポケモンたちを襲撃した。当然対抗したポケモンたち。しかし成す術なく悉くやられていき、倒れ伏したポケモンたちの前で先ほどの台詞を言い放ち去っていったようだ。唯一の救いは子持ちのポケモンに対しては勝負を挑まなかったところらしい。通りでドダイトスが睨んできたわけである。“ヤツ”はそういう分別はできるのにどうしてこうも厄介事を自ら増やすのだろうか。“ヤツ”は正直言ってゲンガー以上の悩みの種である。
「アイツ…俺が見てないところでいなくなったと思ったら喧嘩売りまくってたのか…。となると、今もどこかでバトってそうだな…」
「ははっ…まぁさっきの話聞くと否定できないところが辛いね…」
フローゼルがあの時雪奈たちを襲ったのは、“ヤツ”の言葉通りの人間が通りすがったからその報復のために襲ったというのが真相だった。そして、雪奈に勝ち再びあのポケモンと戦い勝利するため。
「まぁ、昨日送られてきたばっかなんやろ?言うこと聞かないヤツがいるのもしゃーないわ…」
「――――うん」
本当は年単位での付き合いだと言いたいのだが、それを言うと辻褄が合わなくなるため口を閉じる。顔を上げて目の前の大皿を見る。そこにはレンジでチンした甘ダレ唐揚げが4,5個ほどとレタスやキュウリなどのサラダが盛り付けられている。今日のご飯は白米、サラダ、唐揚げである。
ちなみにシャリタツは目の前で唐揚げを手掴みで食べていた。シャリタツの主食は主に鳥ポケモンのため、鶏肉を使っている唐揚げが口に合ったのだろう。
「ウマー!」
「あぁこら!先に食ったらアカン!こういうのは皆で食べるもんや!それに、こっちは食べさせてもらてる身やで?失礼とか思わへんのか?」
「エーッ…」
そんなシャリタツを華凜は叱った。ここまでに至る経緯に回想を使うまでもなく、ただ単純に氷花が「昼ご飯家でどう?」と誘ったのだ。当然ここまでお世話になるわけにはいかないと華凜は断ったのだが、ここで決定したのはシャリタツだった。「クウ!!」の一言で一緒に昼ご飯が決定した。
「オレ オナカスイタ。メノマエニ ウマイメシアル。ダッタラ クウ!!」
「タイミングが大事言うとるんや!」
「ヤセイノセカイ クエルトキ クウ!!」
「でもここは人間の世界や。ちゃんと人間のルールに従いぃや」
「ウグッ…」
論破されたシャリタツはこれ以上なにもいうことなく、食事の手を止めた。どうやらある程度の常識は身に備えているようだ。
「はぁ…いつまでも落ち込んでても仕方ないよな…。とりあえず食うか」
「そうだよそうだよ!!皆も待ってるし、冷めちゃうから早く食べよ!」
「せやけど、急かしてるようで悪い気が…でも、ありがたくいただきます」
「そうだな。それじゃあ、いただきます!!」
「「いただきます」」
「――ウマーッ!!」
雪奈の宣言から始まり、皆が一斉に食事に手を付け始める。そこで真っ先に動いたのがやはりシャリタツだった。食い意地が張りすぎている。そんなシャリタツを雪奈と氷花は半笑いで、華凜は呆れた目をしているが、各々が箸を進めている。
――ただ一匹、食事に手を付けていないポケモンがいるが。
「――――」
その一匹、フローゼルはあの後ソファーから一歩も動いていない。事情を話してくれたにしても、彼(シャリタツ曰く♂とのこと)は野生のポケモンだ。敵からの施しは受けないという
一応フローゼルにもポケモンフーズを用意しているのだが、それに手を付けている様子はない。
「あの子、全然食べないね。お腹空いてないのかな?」
「野生のポケモンだからな。警戒ももちろんあるだろうけど、ナンバー2としての矜持もあるんじゃないか?」
「要するにただ頑固ってだけやん」
華凜のその一言で、フローゼルが振り返って睨みつけてくる。華凜の肩がビクッと震え、それを見て少し気が晴れたのか、首を元に戻した。華凜の方はどうやらまだフローゼルに襲われた恐怖がまだ残っているようだ。
少し時間が経ち、ようやくフローゼルが動いた。フローゼルはソファーから降りると二足歩行で移動し、腕を組みながらとあるポケモンの前に仁王立ちした。そのポケモンとは、ルカリオのことである。
「ル、ルオッ?」
「フロッ…フロフロ。ゼルッ…」
「シャリタツ、翻訳」
「ハァ…「次は負けないから覚悟しろ。絶対にお前らに“切り札の石”を使わせた上で勝ってやる」…トイッテル」
「――ん?“切り札の石”?」
華凜にシャリタツに翻訳させ、判明したフローゼルの言葉は、ルカリオへの宣戦布告だった。だが、そこに気になる単語が出てきたのであれば話は別だ。
“切り札の石”と聞いてポカンとしている華凜に、なんとなく表情が読めない氷花が知らないのも無理はないが、“切り札の石”と聞いて雪奈とその手持ちたちは眉をひそめた。何故フローゼルはその存在のことを知っているのだろうか。その可能性として、一番高いのはやはり――
「それって、アイツから聞いたのか?」
「――?…フロッ」
フローゼルは首を縦に振り、肯定の意を表した。つまり雪奈たちが“切り札の石”を持っているというのは“ヤツ”からの情報であることが確定した。まさかそこまで喋っていたなんて、どこまで面倒事を持ってくれば気が済むのだろうか。
「もしかして…さっきから不機嫌そうだったのはその“切り札の石”を使わずに俺らが勝ったからってことか…?」
「フロッ!!」
今度もフローゼルは首を縦に振った。群れの二番手として意地と矜持が、相手に全力を出させることなく負けたというプライドが許さないのだろう。
だが、そもそもの話で雪奈はその“切り札の石”を使わなかったのではない。それができない理由があった。
「あー…すまん。フローゼル。ごめんなんだけど…俺たち、その石持ってないんだわ…」
「――フロッ?」
フローゼルの
そう、雪奈たちはその“切り札の石”を今現在所持していないのだ。どんなに強くなれるアイテムがあろうが、手元になければ意味がない。“切り札の石”は二度目の際の家にあるため、残念ながらこの世界にはない。せっかく苦労して集めた全員分の石も、持っていなければ
「だから俺らとしては、お前の言う全力で相手できないんだ…」
「――――」
衝撃の事実を聞かされ、呆けるフローゼル。相手に全力で戦わせるつもりで挑んだというのに、その当の相手が全力を出せないでいた。その事実はフローゼルの気力を奪うに匹敵するほどの暴力を孕んでいた。
ショックによる全身脱力でフローゼルは後ろに倒れる。咄嗟にサーナイトとルカリオが“サイコキネシス”でフローゼルの体を支えていた。体を起こし、しばらく意識が上の空だったフローゼルが突如、自身の両頬をパチンと叩く。
「フロ!?フロフロッゼル!」
「翻訳」
「―――「じゃあその石は今どこにある!?失くしたのか?だったら探してきてやるから!」ダッテェ…」
「失くしたというより、そもそも持ってない…」
「――――」
これに関しては嘘と本当だ。持ってはいたが今は持っていない。むしろこの世界で持っていたらそれこそおかしい。むしろ、この世界で自分の手持ちと出会えたこと自体があり得ないくらいの出来事と言ってもいいのだから。
「――――」
ここにきて、フローゼルが可哀そうに思えてくる。せっかく目標を立てて意気込んだところで早くもそれが瓦解した。彼の心情は、考えるまでもなく理解することができた。
「げ、元気だせ…」
「――フロッ…」
トボトボ落ち込むフローゼルを、優しく介抱する。
「そ、それにほら、俺だって結構苦戦したんだぜ?もしかしたらお前が勝ってたかもしれないだろ?なんなら、もう一回バトルするからさ」
「フロッ!!フロロッ!!」
「きゅ、急に元気出たな…」
再びリベンジができると分かったフローゼルが、急に元気を取り戻す。なんと分かりやすいのだろうか。そんなフローゼルの姿に、氷花や華凜たちはほくそ笑んだ。
だが、そんな光景を一匹だけが、歯がゆんで見ていた。それはリビングのソファーの影からこっそりと見ている、ロトムだった。
『う~……早く知らせたいのに…こんな歯痒いことってないロト…』
そう下唇を噛んだような顔をしているロトムが憑依しているスマホの画面には、一つの通知が送られてきていた。
ポケモンショップの項目は全部で五つ。“購入”“マイページ”“全国ポケモン図鑑”“設定”“Q&A”の五つ。その中の“マイページ”の項目からさらに深堀することによって使用ができる、“メール機能”によって送られてきたメール。
そのメールの存在を、雪奈はまだ知らない。
『―――さてと、あとは通知が来るのを待つだけだな』
某県、某所。
薄暗く、畳が敷かれている、民家の部屋。布団や机など、ある程度の生活感があり、窓はカーテンによって遮られている。そこに立つ、“のろいぎつねの面”を被った、機械音声を駆使する全身黒ずくめの人物がいた。
その人物はスマホを眺めており、既読がつくのを今か今かと待っている。
『――なにをしている』
『ノックくらいしろや』
そんな彼がいる部屋に、無地の白い体色をした人型のポケモンが入ってくる。この部屋にいるのは、今世間を騒がせている謎の存在、“ニバン”とそのポケモンである(本人はまだ認めていないようだ)。
部屋に入ってきたそのポケモンの片手をニバンは見た。その手には、円盤のようなものがあった。
『ん、それって…。なに、お前も技の編成変えるときあるんだ。その様子じゃもう使ってきたな?どこに行ってたんだ?』
『言う義理もない。それに、なにに使ったかなんて技とともに忘れてきた』
『うまいこと言うなお前。まぁ話したくないのならそれで別にいいんだが』
『……それで、なにをしている?』
『俺の質問には答えないでそのまま質問するんだ。まぁいいけど…例の1番の人にメールを送ったんだ』
『――連絡なんて来ると思うか?怪しさの欠片しかないお前からの連絡の返信なんて』
『相手側は俺がポケショの運営なんて知らんだろ。まぁ怪しいことには変わりないが…』
『あったりまえロト。暑苦しくて息苦しそうな恰好、わざわざするなんて、ドMもいいところだロト』
ニバンが持っていたスマホが浮遊しはじめ、その裏――ロトムの顔がそこにはあった。そしてそのロトムは男の声(CV:鈴村○一)で煽ってくる。なんだかとてもウザい。
『ドM言うな。温度はどうでもいいし、不思議と息苦しくもない。こんな格好でも正体を隠すのにはうってつけなんだよ。目立つのが難点だけどな。そもそも運営=俺ってまだ知られてないんだから、俺の恰好は関係ないだろ』
『それでも機能美に欠けるロト。お前のその恰好、ただの中二病にしか見えねぇロト』
『てめぇ、人が一番気にしてるところを――』
「ユウー!お腹空いたー!ドーナツー!」
ニバンの声に怒気が含まれてきた直後、部屋を跨いだ廊下、またその先の下から愉快な子供のような声が聞こえてくる。その声に、ニバンは深いため息をついて、気持ちを落ち着かせた。そして大きな声量で下にいる声の主に聞こえるように叫んだ。
『……居間にあるから、先に食べててくれ』
「はーい!」
『あと!ちゃんと皆で分けろよ、特にアイツが怖い』
「分かってるー!」
『おやつか。じゃあ俺も行ってくるロト』
『あぁはいはい。さっさと食ってこい』
『言われなくとも行くロト』
ロトムがスマホから抜け出し、部屋にあるコンセントから姿を消した。その際に浮遊能力を失ったただのスマホが、重力に従って地面に落ちるところを、ニバンにキャッチされる。
『はぁ…なんで俺のロトムはあんな生意気なんだか。いくらニバン用のとはいえ、スマホが一体いくらすると思ってるんだ』
『私としては、むしろ見ていて清々しい。自分のスタイルを崩さない。とても素晴らしいことだ』
『それ、あの
『むしろ骨すらも残らんわ!!はぁ……なんでこんな人間と行動を共にしなければならないのか…』
『その文句は俺じゃなくてアイツに言え。そもそも、アイツの性格を考えれば敢えてこの編成にしたんだろ』
『……否定できん』
ニバンとポケモンの間で、沈黙が続く。そして、その沈黙を破ったのはニバンだった。ニバンは靴下や手袋を脱ぎ捨て、フードを外し、上着である薄いコートを脱いで布団にダイブする。仮面をつけたまま、首を触って変声を解除する。その喉から放たれた声は、体格に似合った男の声だった。
「あ゛ー!この空気嫌いだ!……明後日からは講演だしなー。しかも映像に残る永久物。教壇の上に立ったことなんて教師に指された時以外ねぇわ。しかも俺が教える側。俺教員免許なんて持ってねぇっつの。それ以前に緊張で足腰ガクブルになるっての」
『ハッ!随分と弱気だな。それにお前にはアルセウスの加護があるんだ。別に気にすることではないだろう』
「バッカ、気持ちの問題だよ気持ちの!何事も初めては緊張するもんなんだよ!」
『人間の考えはよく分からん』
「いつか少しくらい分かるときが来るんじゃないか?」
『どうだかな。そんなことより、その一番の人間に早く会う必要があるのか?お前はただでさえ忙しいんだろう』
「――大事なことさ。政府どもに先を越されてたまるか」
ニバン“のろいぎつねの面”を取り外し、枕の横に置く。そこから出てきたのは、黒目黒髪の日本人の男性の顔。その男性は、口元をニヤリと曲げて、不適に笑う。その笑みを見て、ポケモンはしかめっ面をする。
『この地方の頂点…。あの場にいた奴らか。あんな叩けばすぐに瓦解するところを警戒する理由があるのか?』
「バッカ。野生には野生のルールがあるように、人間には人間のルールがあるんだよ。面倒だけどな」
『あぁ、本当にな。―――お前にとってそれが大事なことなのが理解できん。それがなにかは知らんが……せいぜいお前の好きにやれ。私はただ見守り、見定めるだけだ。【
―――【広森 由真】。そう呼ばれた男性は、布団から上半身を起き上がらせスマホを弄る。その画面には、トレーナーナンバーとその下には青みのかかった銀色の髪と碧眼を持つ少女の顔写真が張られている。住所や電話番号、手持ちポケモンなどの個人情報、その中の一項目――【聖 雪奈】の名前に着目する。
「【聖 雪奈】ね…。どんな人だろうか。ま、会ってみるのが一番か…」
『貴様早速運営の権限使ってるな』
「使えるもんは使うんだよ。まぁ罪悪感がないっつったら嘘になるけどさ」
『当たり前だ。本当になんでこんな人間と組まされたんだ…』
他人の個人情報を勝手に視るだけでも十分
由真はスマホの電源を切り、ポケモンに向き直る。
「明日、この人に会いに行こう。俺より先にポケモンを捕まえた人…。会っておいて損はない。行ってみようか、シンオウ地方へ!」
『……それを言うなら北海道だろ。原住民のお前が間違えてどうする』
「頼むから最後までカッコよく締め括らせてくれ」
雪奈
今回全力で土下座した人。自分のポケモンが既に管理の範疇を超えている行動をしていたことに驚きを隠せていない。
あと、本人の知らないところで自分の個人情報が網羅されている。
氷花
今回もずっと猫(ニャース)かぶってる人。今回はあまり出番は少なかったが、雪奈の土下座を面白半分と憎さ(姉の体で何してんだ)で眺めていた。愉悦。
華凜
シャリタツを翻訳係としてこき使った人。今回は終始オカンのような感じだった。
まさか襲われた理由がお姉さんのポケモンのせいだったなんて…なんか大変やな(良い
シャリタツ(そった姿)
今回ずっと翻訳係として活躍した。ラーメン食べたいという願望を持っているが、カップラーメンもお持ち帰りも認めない頑固な一面も。
唐揚げウマー!
フローゼル
ある意味今回一番の被害者。やる気だしたその瞬間にくじかれた
?????
雪奈の最後の手持ち。たった一日で手に負えないレベルの面倒事を作りやがったゲンガーを超えるメンバー1のトラブルメーカー(現在行方不明)。この一件で雪奈の存在を野生ポケモンの間で広めることになる。
バトル最高 アドレナリン分泌中 最高にハイってヤツだ!
雪奈のロトム
早く知らせないと…!
ユキノオー
ゲンガー
ルカリオ
サーナイト
リザードン
またあいつか…。
ニバン(広森 由真)
今最も世間を騒がせてる人物にして正体。
人間のルールがどうとか言っておきながら異性の個人情報網羅してる人。お巡りさんコイツです。一応罪悪感はあるらしい。
由真のロトム
とても生意気な性格。声が総悟くんなだけあって相手をイジらないと気が済まないドSの気質がある。
????
テレパシーで意思疎通が可能。冷静に対応できるツッコミポジションにいると思われる。由真と組むことに不満を持っている様子(一部始終を見るに無理もない)。
円盤のようなものを持って先ほどまでどこかに行っていたようだ。どこに行ったのかは不明。何に使ったのかは技とともに忘れたようだ。
???
ドーナツ!!!
大食漢
腹減った。食い物くれ。
アイツ
ニッコリ(*^▽^*)
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