人生三回目、現代にてポケットモンスター現る。   作:龍狐

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2 家族が増えました

「ノッオッ!」

 

「ユ、ユキノオー…だよ、な…?」

 

 

 こちらを見下ろす白い巨体に、雪奈は尻もちをついてたじろぐ。オモチャだと思っていたボールから本物のポケモンが、しかも自分の二度目の人生の際の相棒ポケモンが出てきたら、驚かない方が無理がある。

 雪奈はゆっくり立ち上がって、目の前のユキノオーを見上げる。

 

 

「色違いの、ユキノオー…。俺のユキノオーで、間違いない、よな…?」

 

「オノッ?」

 

 

 ユキノオーは雪奈を見て首を傾げる。頭にハテナマークでも浮かんでいそうな表情だ。

 しばらくの沈黙が続き―――、

 

 

「ひ、久しぶり?それともまた会えた?ユキノ――」

 

「ノッ!」

 

 

 ユキノオーに手を差し伸べようとすると、突如ユキノオーは目を鋭くして雪奈を睨みつけた。その行為に反射的に怯えて手を引っ込める。

 

 

「ウワッ!どうしたんだよユキノオー!」

 

「ノオ……」

 

 

 ユキノオーに問いかけるが、ユキノオーは依然と雪奈を睨みつけたままだ。

 雪奈の知るユキノオーは、初対面の人間に対して警戒心が強いポケモンだ。色違いと言うこともありユキカブリ時代に多くの人間に目を付けられ当初懐いてもらうのに大変苦労した記憶がある。

 

 だからそう、初対面の人間をとても酷く警戒していて――警戒――初対面。

 

 

(はッ!そうだッ!今の俺完全に別人だったッ!!)

 

 

 目の前のユキノオーが彼のユキノオーである確立が非常に高い以上、初めて見て目の前の女性が自分のトレーナーなど気付けない。気付けるはずもない。

 自身の憑依/性転換のことがすっかり抜け落ちてしまっていた雪奈。

 

 

(そうと分かればユキノオーに『俺』だって分かってもらう必要があるな…。一番有効な手立ては…アレだな)

 

「ユキノオー」

 

「――?」

 

「お前の初恋がユキカブリのときに俺がバトルしたトレーナーのユキメノコであることを俺は何故か知って――」

 

「オノォッ!!?」

 

 

 ユキノオーが雪奈を抱きしめる。ちなみにこれは決して好意でやっているわけではない。それ以上その口から余計なことを言わせまいと、ユキノオーが出した策である。自分の手では口を塞ぐにはあまりにも大きすぎるため全身を抱擁(ホールド)する衝撃で雪奈の口を塞いだ。

 

 

「いててててッ!力強いって!悪かった、悪かったから離してくれ!」

 

「ノオ……」

 

 

 ユキノオーはゆっくりと雪奈を放すと怪訝な顔で、痛がっている雪奈を見る。

 この事実を知っているのは当時のパーティーだった自分とトレーナー、そしてもう一匹だけのはず。ユキメノコと戦ったのはもう一匹の方だったが、戦いの際の優雅さ、美しさに一目惚れしたのを覚えている。

 もちろん、言われたくないことなので結果は目に見えているが。

 

 

「ま、まぁとにかく。これで分かっただろ?見た目どころか性別も完全に変わっちゃったけど、正真正銘、お前のトレーナーだぞ~」

 

「―――」

 

「―――ごめん」

 

 

 女子の体をいいことに、可愛く言ってみた――が、正直言ってかなりキツかった。見た目は超絶美少女な分、中身が自分(おとこ)であると思うと、すごく虚しくなる。

 しばらくの沈黙が続いて――、

 

 

「あ、そういえばなんで宅配で送られてきたんだ?」

 

「ノオッ?」

 

「いや、お前たちが入ってるモンスターボール、何故か宅配で送られてきたんだけど、意味わからん」

 

 

 雪奈が残り五つのモンスターボールが入っている箱を指さす。そのモンスターボールを見た途端ユキノオーは――震えた。

 

 

「ッ!」

 

「えっ、なんで急に震えて――アッ」

 

 

 ここで雪奈は思い出した。先ほど自分がトレーナーであると分からせるためにユキカブリ時代のことを放したが、それはユキノオーにとっては知られたくない黒歴史。それを他のメンバーに、知られた。これだけ近くにモンスターボールがあるのだ。中から聞こえていないはずがなかった。

 

 

「あ、あの…ユキノオー……ごめん。本当に、ごめんなさい」

 

「ノオ……オノォオオオオ!!!

 

「あぁああああああああ!すみませんでしたあぁああ~~~!!」

 

 

 ユキノオーが両手と雄叫びを上げながら迫ってくる。ちなみに二人の距離は大体50㎝(さっき抱き着いていたため)くらいなので、ユキノオーは一歩も動かずとも雪奈に手を下すことができた。雪奈に打つ手なし。自分の運命を受け入れるしかなく、両腕で自分の顔をガードする。

 しかし、いつまで経っても衝撃どころかなにも起きない。不思議に思ってゆっくり目を開けると、そこには青くて黒い、一匹のポケモンがいた。

 

 

「ヴオォッ!」

 

「ルカリオ…」

 

 

 雪奈の目の前には、ルカリオが立ちふさがっていた。その背中は、まさに騎士(ナイト)が如く。

 ルカリオは目の前のユキノオーを睨みつけ、威嚇している。正直言って仲間同士のいざこざは見たくないが、今はそんなこと言っている余裕は雪奈にはなかった。

 

 

「オノッ!ノオッ!」

 

「オオッ、ヴオォ!」

 

「ノオ…オノノ!」

 

「……ルォオ」

 

「オノッ!!?」

 

(……なにを話してるんだろう?)

 

 

 ユキノオーとルカリオがなにやら話しているが、雪奈にポケモンの言葉は分からない。だから表情などでなにを話しているかを察しなければならない。

 

 

「オノノ、オノッ!!?」

 

「ヴォオウ…。ヴォオ…ガウ…」

 

「オノッ…!!」

 

 

 ルカリオの言葉に、ユキノオーは短い膝から崩れ落ち、床に手を着いた。どんな話だったのかは全く理解できなかったが、とりあえずショックを受けていることだけは猛烈に伝わった。

 

 

「元気だぜ…ユキノオー…」

 

 

 見ていられなかったので慰めることにした。

 

 

「オノ…」

 

「よしよし…」

 

「ヴォオ…」

 

 

 そんな感じでユキノオーを慰めていると、突如――、

 

 

「お姉ちゃんただいまー!!!」

 

 

 高くてデカい、女性の声が聞こえた。その声は雪奈は知らないが、最初の言葉で声の主が誰なのかがはっきりと分かった。雪奈の妹の氷花だ。氷花は確か友達と朝早くから遊びに行っているはずで、こんなに早く帰ってくるはずがなかったのだが、なぜかの急な帰宅に雪奈は戸惑いを隠せない。

 

 

(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!妹ちゃんが帰ってきたッ!!ナンデ!?友達と遊んでくるって書いてあったじゃん!もっと遅くに帰ってくると思っちゃうじゃんッ!!まだ九時過ぎたくらいだよッ!?不味い、まずはユキノオーたちをどうにかしないと――)

 

 

 ここで一言。一般家庭に置いて玄関からリビングまでにかかる時間は3秒とかからない。そしてこの家も例外ではない。しかもなぜか急いでいるのかドタドタと音がうるさい。つまり、雪奈は思考だけで貴重な時間を使っていることになる。無論雪奈は0.1秒間で動き思考できるほどの超人的な要素は一切ないため、雪奈の奮闘虚しく、リビングの扉が、開けられた。

 

 そこにいたのは雪奈に似たような美少女の姿だった。雪奈と同じ青い目に、逆に違って完全な銀髪を短髪で揃え、妹と言うこともあって童顔で小柄であり、庇護欲をそそらせる見た目をしている。しかもデカい。ボンキュッボンである。

 白いブラウスに青いワンピースを着ていて、とても似合っていた。両肩に乗せている黄色いネズミと茶色のウサギっぽいポケモンもセットで可愛い。

 

 

(―――ん?)

 

「お姉ちゃんッ!!この子たち家で飼いたいんだけどいいかな――って、なにそれッ!?」

 

「ピカッ!」

 

「ブイッ!」

 

 

 氷花の両肩に乗っている、【ピカチュウ】と【イーブイ】を見て、雪奈は固まった。

 雪奈の両隣にいる【ユキノオー】と【ルカリオ】を見て、氷花は固まった。

 

 沈黙が、続き――、頭痛が響く。

 

 

「うッ!!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

 記憶の濁流に飲まれる。犯される。自分のものではない記憶が、蘇る。意識が、哀しみで、悲しみで、辛さで、塗りつぶされる。

 場所は葬式。一番前にあるのは二人の男女の写真と棺桶。その目の前には雪奈と氷花。

 

 

『お父さん…お母さん…』

 

『氷花…』

 

 

『可哀そうに…まだ二人は高校生なのに』

 

『あの二人、どうするのかしら?』

 

 

『大丈夫かい?安心していい。これから私たちが、君たちの面倒を見るよ』

 

『だからもう悲しまなくて大丈夫だからね』

 

 

 チガウ。あれは私の家族じゃない。アレは他人だ。『親戚』と言う化けの皮を被ったただの他人だ。笑顔で取り繕っても分かる。アイツらはお金が目当てなだけだ。じゃなかったら、何故葬式(この場)で笑顔でいられる?こいつらは敵だ。守らないと。氷花を。私の、たった一人の家族。私の希望。氷花のことは私が守る。

 

そのためなら――私の人生どうなったっていい

 

 

「はッ!!」

 

 

 物凄く断片的で、状況が続いておらず飛ばし飛ばしの映像だった。だが、一つ分かるのはあの記憶は『雪奈』の記憶だ。何故急にこの記憶が浮き出てきたのか――理由は明白。一番最後の記憶、雪奈は妹思いの姉だったのだろう。それが両親の死によって過激化した。氷花を見てこの記憶が浮き出てきたのは、『雪奈』の妹への過激なまでの感情が起点になった可能性が高い。

 

 

(痛い…。まだ頭が割れるように痛い…。)

 

 

 急激な記憶の復元で、知恵熱が起こり雪奈は両手で頭を抱えて唸り声を上げる。そんな時、

 

 

「オノッ…」

 

「ウッ……ハァ…ハァ…」

 

 

 ユキノオーが自身の大きい冷えた手を雪奈の頭に乗せた。ひんやりとしていて気持ちがいい。雪奈の苦しそうな顔がみるみると穏やかになっていく。ユキノオーのおかげで熱も収まっていき、少し思考に余裕ができた。

 

 

(でもこれで分かったぞ…。なんでこの子の通帳にあんな大量の金額があったのか…あれは家族の死亡保険の金だったわけか…)

 

 

 親が考えなしでお金を持たせていたわけじゃなかった。そうならざる負えなかったのが正解だった。両親は死んでいて、親族は全員保険金目当て。本人の妹思いな性格が重なり合わさって、『雪奈』はかなり追い込まれたはずだ。

 

 

(それにしても――)

 

 

 ちらりと、こちらを心配している氷花を見る。

 

 

(この子を見ただけで思い出すあたり、『雪奈』はそんだけ氷花を大事にしてたってことだよな…)

 

 

「ピカァ…」

 

「ブイィ…」

 

 

 ピカチュウとイーブイも、氷花の肩から降りて雪奈のことを心配そうに眺めている。

 

 

「お姉ちゃん、大丈夫…?」

 

「うん……大丈夫。大丈夫だから、少し、休ませて……」

 

 

 憑依、ポケモン、家庭問題。いろいろな問題に直面してついにオーバーヒートを起こした雪奈は、ゆっくりとその目を閉じ、ユキノオーの体を枕にして、その意識を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

* * * * * * * *

 

 

 

 

 

 

 【聖 氷花】は朝6時に目を覚ました。今日は日曜日であるが、朝早くから友達と遊ぶ約束をしていたため、早く出なければならないと言うのに、寝坊をしてしまったからだ。当然乗る予定だったバスは通り過すぎ、移動手段が徒歩か自転車しかなくなった。

 朝食はご飯と【ごはんだろ(海苔の佃煮)】で済まし姉に対して書き置きを残して家を飛び出し、自転車に乗って待ち合わせ場所の駅に向かう。

 

 

(急げ急げ~~!!)

 

 

 この時、氷花は周りの変化に気付くことはできなかった。待ち合わせの時間に遅れてしまうという焦りも相まって、尚更。朝6時頃とは言え日曜日。それなりに通行する車があってもおかしくなかったが、この日は一台の車も見かけることができなかった。

 それに地面の変化だ。北海道と言えば有名な積雪地帯。今年は約数十年ぶりとも言われるほど雪の少ない年だったが、それでも平均よりは多少多い。だからこそ周りに雪が敷き詰められていてもおかしくはないが、周りに雪の一切が存在していなかった

 途中、信号に引っ掛かることもあったが、氷花の頭は待ち合わせの時間のことで頭がいっぱいで、他のことに意識を回している余裕がなかったのだ。

 

 

「やっと着いたッ!!」

 

 

 15分ほど自転車で全力で走り、ようやく目的地の駅にまでつくことができた――が、ようやくここで異変に気が付いた。目的地までたどり着いて余裕ができたからだ。

 

 

「あれ……人が誰もいない…?」

 

 

 駅だというのに、誰一人として姿どころか気配を感じない。朝早いと言っても、ここは県庁所在地の駅。当然飲食店や服屋などの店が並んでおり、常に人がいるはずだというのに、今日に限っては不自然にガランとしていた。

 それに環境の変化も感じ取っていた。雪が一切見受けられないということに。

 

 

「そういえば……今日ここに来るまで走ってる車を一台も見なかったような…」

 

 

 徐々に氷花の心に不安が広がっていく。明らかな不自然。いつもと違い景色。それらの要素が氷花の不安を一気に駆り立てた。

 気味が悪くなり、早く帰ろうと自転車を反対方向に回すと――

 

 

「ブイッ」

 

「えッ」

 

 

 謎の生き物が、そこにはいた。茶色と薄茶色の体毛を持ち、ウサギのような長い耳と、首の周りを覆う襟巻きのような毛が特徴的な、そんな生き物だ。大きさは小型の犬ほどの大きさだ。その生き物はお座りをしながらそのつぶらな瞳で氷花のことを見ていた。

 その謎の生き物を見た評価は―――、

 

 

「か、可愛い…!!」

 

「イブ?」

 

 

 「可愛い」。これが氷花が最初に思ったことだった。事実目の前の生き物は可愛いが、普通は全く知らない謎の生物を見たら戸惑うものだが、氷花の場合はこれは適応しなかった。

 氷花は自転車をその場でいったん止めて四つん這いになる。ゆっくりと謎の生き物に近づいてく。謎の生き物は氷花を警戒することなく、不思議そうにこちらを眺めている。やがて氷花と謎の生き物の距離が触れられるほどに近づくと、氷花は正座をする。顔も赤らめている。もう服が汚れるとかそんなこと関係なく、氷花は興奮していた。

 

 

「ね、ねぇ…触っても、いいかな?」

 

「イブ…イブイ!!」

 

 

 目の前の生き物は氷花の言葉を完全に理解したのか、自分の方から氷花に近づいてきた。氷花は震える手でその生き物の頭に触れる。――モフモフだ。触り心地が凄く良く、いつまでも撫でていたい衝動に駆られる。氷花自身の撫で方もうまいのか、謎の生き物は気持ちよさそうに氷花に身を委ねている。

 

 

「ふわぁああ…」

 

「ブイ~~」

 

「可愛すぎる…。……でも、君ってなんて動物なのかな?全然見たことないけど…」

 

 

 撫でられて気持ちよさそうにしている謎の生き物を、氷花はじっと見る。少なくとも自分の知識にこういった動物は存在していない。別に自分は動物に詳しいわけではないので、自然界にはこういう動物がいてもおかしくはないと、氷花は考えていた。

 すると、謎の生き物の耳が突如ピンッっと上がった。謎の生き物はそのままどこかの方向へ走り去っていく。

 

 

「あ、待ってッ!」

 

 

 氷花は考えるよりも前にあの生き物を追いかけることを選んだ。何故急に走ったのか気になることもあるがなにより―――

 

 

(まだモフモフしたりないッ!!)

 

 

 と言う欲望の方が強かったりした。

 生き物は少し走ると、草木が並んでいるところで止まった。謎の生き物はその木の上をじっと見ている。なにかあるのかとじっと見てみると、その木にはオレンジのような見た目をした青い果実がたくさん実っていた。

 

 

(あれ…この木って確か普通の木で、なにも実ってなかったはずなんだけど…ていうか何この実!?)

 

 

 ここらに生えている木は景観のために人の手で植えられたものであり、なにか実るような木は植えられていなかったはずだ。それに、オレンジの見た目をした青い果実。こんなものは今まで見たことがない。

 

 

(人や車が全くいないし、可愛いモフモフがいるし、変な果物が()ってるし、ホントにどういうこと…?)

 

 

 氷花の頭はオーバーヒート寸前だ。ただでさえ常識外れなことが連続で起こっているため、流石の氷花も混乱するしかない。

 ふと、謎の生き物を見やると、生き物はジャンプしながら木を登ろうとしている。しかし滑って登れていない。この姿もまた可愛いと思った。もしかしたらあの青い果実を取りたいのかもしれない。このままでは可哀そうなため助け船を出すことにした。

 

 

「あの実を取りたいの?取ってあげようか?」

 

「ブイッ!!」

 

 

 氷花がそういうと、生き物は明らかに目を輝かせてしっぽを振りだした。そのあまりの可愛さに手を口で押え、理性の決壊を必死に抑える。

 しかし、そうは言ったものの氷花の身長は150センチ前後。手を伸ばしても高い木になっている木の実には届かない。それで考え付いたことが――、

 

 

「そうだッ!私が君を持ち上げて君が木に登るってのはどうかな?もしかしたら届くかもしれないよ」

 

「イブイッ!」

 

 

 それだッ!と言わんばかりに謎の生き物は後ろ脚で立ち上がり、抱っこの時を今か今かと待っている。

 

 

(やったーっ!モフモフを掴める!私って天才かも!)

 

 

 ただ実際は優しさ五割、欲望五割であったが。氷花はゆっくりと生き物の体を掴んで持ち上げる。手から伝わるモフモフの感触が氷花の脳細胞を破壊しようと迫ってくるのを必死に抑える。

 目標は氷花でも届きそうな位置に実っている実だ。そこに狙いをつけ、背伸びをする。

 

 

「ん~~!!」

 

「ブイ~~!」

 

 

 生き物の前足が果物を揺らす。あともう少しで届きそうで届かない。これを何度も繰り返す。そこで最後の手段に出た。

 

 

「えいッ!」

 

「ブイッ!」

 

 

 なんてことはない、普通のただのジャンプだ。そうすることによって足りなかった高さを一瞬ながらも補うことができる。生き物も突然の行動に驚いていたが、ビックリした拍子に前足で果物をガッチリと掴んでおり、落下の力で見事果物をもぎ取ることに成功した。

 

 

「ブイ~~!」

 

「良かったね」

 

 

 前足で掴んだ果物を見て嬉しそうに声を上げる生き物。よほどお腹が空いていたのだろうか。そのまま嬉しそうに口を開けてその果実を食べようと――、

 

 

「ムクッ!!」

 

「ブイッ!?」

 

 

 瞬間的に、青い果実が生き物の前足から消えた。急に食べようとした果実がなくなったことに、生き物は困惑している。対して氷花は、果物がなくなった瞬間に何かが通り過ぎたような風が起こったことを瞬間的に把握していた。それにさっき、この生き物とは別の鳴き声を確かに聞いていた。

 風が通り過ぎた方向を向くと、そこにはかなりの大きさの鳥がいた。大きさは60センチほどだろうか。白、黒、灰色の鳥が先ほどまでこの生き物が持っていたはずの果実を加えていた。その鳥は青い果実をそのまま食べて、飲み込んでしまった。

 

 

「イブ~~!!」

 

「あぁ~~!!」

 

「クバート!」

 

 

 青い果実を強奪して食べ、そのまま立ち去ろうとする大きな鳥。このままでは逃げられてしまう。

 

 

「あ、待てー!」

 

「ブイーー!!」

 

 

 追いかけようにも、鳥はどんどん高度を上昇させる。氷花と生き物は飛ぶ手段などあるはずもなく、このまま逃げるのを指をくわえて見ているしかなくなる。

 そんなときだった。

 

 

「ピ~カ~ヂュ~~!!!」

 

「バ~~ド!!」

 

 

 突如として落雷にも似た大きな音と共に、強大な雷が鳥を襲った。雷は鳥の体を焼き焦がし、地面へと落とした。この意味不明の現象に、氷花がポカンとしていると、植えられている低木がガサガサと音を立て、一匹の影が姿を表した。

 

 

「ピカチュウ」

 

 

 それは40センチほどの大きさのある黄色いネズミだった。ふっくらとした体、丸い顔に赤い丸があるほっぺ、つぶらな瞳に先端がハート型のしっぽ。今氷花が連れている生き物とは、また違うような生き物だ。このネズミのような生き物を見て氷花は――、

 

 

(か、可愛い~~!この子とは違う…プニプニでモチモチしてそうな体!触りた~い!!)

 

 

 と、思いに(ふけ)っていた。

 黄色いネズミはそのまま先ほど氷花たちが取った青い果実が生っている木に登り、青い果実をもぎとる。そのまま大きな鳥に持っていき、(くちばし)に加えさせた。

 

 

「ピカピカ、ピカチュ」

 

「バード…」

 

 

 鳥がその果実を食べると、信じられないことに先ほど電撃で焼き焦げていたはずの皮膚がみるみると元通りになっていき、地面に倒れ伏していた鳥は翼を大きく広げ、「ムクバードッ!!」と大きく吠えた。

 

 

「うっそ…」

 

 

 あれほどの電撃を受けたというのに、先ほどまで瀕死と言っても差し支えない状態だったというのに、あの木の実を食べただけで瞬時に回復するなんて、常識的にあり得ない。氷花の頭は真っ白になる。

 

 

「ピカチュ、ピッカ!!」

 

「クバー!」

 

 

 そしてそのまま大きな鳥はその場を去っていった。黄色いネズミはこちらの方を振り返ると、走ってきて再び木に登り、青い果実をもぎ取った。それをそのまま地面に落として、氷花は慌ててキャッチする。降ってきた数は三つだ。

 

 

「うわわぁ!!ふゥ~セ~フ」

 

「イッブイ!」

 

「ピカチュ!」

 

 

 謎の生き物と黄色いネズミが、いつの間にか氷花の足元まで移動しており、後ろ脚で立って前足で「ちょうだい」と言わんばかりに求めてくる。

 

 

「あ、それで……。はい。ありがとうね」

 

「ブイ~!」

 

「ピカ~!」

 

 

 青い果実を差し出すと、二匹はおいしそうに食べ始めた。ここで、氷花は自身の手元に残っている一つの青い果実を見る。二匹がそのままおいしそうに食べているところから、皮はなく、そのままガブリとイケるタイプの果物のようだ。サクランボやリンゴのようなものだと思えばいい。

 青い果実をジッと見ていると、黄色いネズミが片前足を出して、

 

 

「ピカピカ」

 

 

 「どうぞ食べて」と言わんばかりに手を出してきた。

 

 

(え~~…)

 

 

 基本的に、人間は分からないものに手を出したくはない。それに青い果実だなんて今まで見たことはないし、もしかしたら毒が入っているかも、食べられないかもと思っているが、二匹はおいしそうに食べているためそれはないだろう。だが、この動物たちだからこそ食べれるかもしれなくて、人間には毒だったらどうしようかと言う迷いがある。

 だがしかし既に食べ終わっている二匹がつぶらな瞳でこちらを見てくる。好意でもらったというのに、食べないのは失礼すぎるから。

 

 

「ええいこうなりゃ自棄(やけ)!!」

 

 

 氷花はガブリと、青い果実にかじりついた。

 

 

「……(固い。けど、不思議とおいしい」

 

 

 食べた果実はかなり固めだったが、不思議とおいしかった。ゆっくりと食べ始めて、いつのまにかなくなっていた。

 

 

「おいしかった~~」

 

「ピカッ!」

 

「ブイッ!」

 

 

 ポケットからハンカチを取り出し、手をふく。ついでに二匹の口にも食べかすや汁があったのでそれもふき取っておく。

 

 

「いろいろありがとね!」

 

「ピカチュ!」

 

 

 二本足で立ち胸を張る黄色いネズミ。どう考えてもこちら側の言葉を完全に理解している仕草だ。ここまで人間の言葉を完全に理解できる動物なんて聞いたこともないが、氷花は――、

 

 

(可愛い…)

 

 

 これだけで頭がいっぱいだった。

 とりあえず一件落着。そんなとき、氷花は一つのアイデアを思い付いた。

 

 

(この子たちがいてくれたら、きっと毎日楽しそう…。だってこんなにも可愛いし。ヘヘヘ…。……でも、お姉ちゃんがなんていうか…)

 

 

 自身より一つ上の姉。前までちゃんとした生活だったというのに、数か月前に両親が死んでから姉は変わってしまった。通っていた高校も辞め、通信制の高校に転校した。

 そしてその開いた時間でアルバイトで日々金銭を稼いでいる。幸い、両親の死亡保険があるためお金には困っていないのだが、姉妹共々両親が死んで手に入れたお金を好んで使おうとは思わなかった。日々の生活費や教育費は保険金から工面している。

姉が稼いでいるのは生活費以外のお金だ。彼女の稼いだお金の半分は、氷花のお小遣いになっている。

 当初は氷花もアルバイトをすると言ってはいたが、姉はそれを拒否。姉妹共々、通っている高校はアルバイト禁止だったのだ。バレれば生徒指導室行きは確定である。だから姉は学校をやめて転校した。

 

 

(お父さんとお母さんたちの代わりに働いて…いつも大変で…。この子たちがいたら、お姉ちゃんの気持ちも少しは和らぐかな…?よし、ここは当たって砕けろッ!)

 

 

 氷花は正座をして、二匹の目を見る。二匹とも、不思議そうに氷花を見る。

 

 

「ねぇ君たち。私の家に来ない?」

 

「ピカチュ?」

 

「ブイ?」

 

「君たちがいてくれたらね、私の、私たちの日常がもっと楽しくなると思うの。でもお姉ちゃんの許可も取らないといけないけど…。もしお姉ちゃんが許してくれたら、君たちと一緒に過ごしたいなぁって」

 

 

「ピカチュ……」

 

「ブイ……」

 

 

 二匹は考える素振りをしだし、しばらく考え込んだあと――、

 

 

「ピカピカ!!」

 

「ブイ!イブイ!!」

 

 

 大きな返事をしてくれた。これは肯定だと受け取ってもいいのだろうか。その次に二匹は、四本脚で移動して氷花の両肩に乗っかった。それと同時に襲ってきたのはモフモフとモチモチの感触。至福の感触が同時に氷花を襲ったのだ。氷花は両手で二匹の頭をなでる。

 

 

「ありがと~~~!!よ~し、じゃあ後はお姉ちゃんに許可をもらうだけッ!それじゃあお家に帰ろうッ!」

 

「ピカッ!」

 

「ブイッ!」

 

 

 走って自転車のところまで追いつき、自転車を跨ぐ。

 

 

「あ、走行中は危ないから篭の中に入っててもらってもいいかな?」

 

「ピカチュ」

 

「ブイッ」

 

 

 氷花の言うことを素直に聞き入れ、篭の中に入る二匹。篭から身を乗り出している姿もまた可愛かった。

 

 

「それじゃあ、しゅっぱぁ~~つ!!」

 

「ピカチュウ~~!」

 

「イッブイ~~!!」

 

 

 そして一人と二匹は、駅から姿を消した。

 この時完全に氷花は友達との約束を忘れて帰宅していたわけだが、その選択はある意味正解だったといえよう。何故なら、その友達は――否、友達どころではない。全県、全国、全世界がそれどころではなかったからだ。

 姉妹は後に知る。人類が、大激変を迎えていたことに。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ユキノオーとルカリオの会話内容です。


「オノッ!ノオッ!」(邪魔するなルカリオ!このバカ主人には一回折檻(せっかん)してやらないと気が済まない!)

「オオッ、ヴオォ!」(お前こそ落ち着け!どういうわけかは知らんが今の主は女だ!女に手を上げるなど、見ていられないッ!)

「ノオ…オノノ!」(だが、俺の気持ちも考えずに言ったバカ主人が悪い!ずっと隠しておきたかったのに!)

「……ルォオ」(そのことなんだが、既にみんな知っているんだ)

「オノッ!!?」(はぁ!?)

「オノノ、オノッ!!?」(どうしてお前が…いや、みんな知ってるんだ!?まさかアイツがみんなに…)

「ヴォオウ…。ヴォオ…ガウ…」(いや違う。主の20歳の誕生日の時、主が酒をがぶ飲みしていたことがあっただろう?その時お前も間違って酒を飲んで酔っ払った衝動で全部ぶちまけていたぞ)

「オノッ…!!」(そんな…バカな…)


 こんな感じの会話内容でした。


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