「ただいまー」
「つってもなんの苦労もなしだがなー」
サーナイトのテレポートで自宅へと帰宅した雪奈と氷花。荷物をリビングのテーブルに置き、二人してソファーに座る。
「ロトちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。ゲンガーに回収任せてあるし。アイツも余計なことはしないだろ」
「そっか。じゃあ早速中身の確認だねッ!」
氷花は自分の紙袋の中からモンスターボールを一つ取り出した。このモンスターボールはまだ未起動状態で、三本指でも十分持ててしまうほどの大きさだ。
「うわー、ドラゴンちゃんが出入りしてたのと同じやつだー」
「あぁそっか。氷花はモンスターボールの用途見てるんだっけ」
雪奈は知恵熱で倒れて見ていないが、自身のモンスターボールからゲンガーたちが飛び出たといっていた
から、当然モンスターボールがどのような使い方をするのかをある程度把握していてもおかしくない。
それにせっかくモンスターボールを入手したのだ。使わなければ勿体ない。
「――これ、どうやって使うの?」
「真ん中のボタンを押してみろ」
「真ん中のボタン?これを押して――ってうわっ!」
氷花がモンスターボールのボタンを押すと、モンスターボールは膨張して大きくなる。さきほどまで三本指でも持てるサイズだったボールは一気に片手で掴めるサイズへと変化した。
「大きくなっちゃった…」
「氷花、もう驚き疲れたんじゃないのか?」
「驚くものは驚くの!えっと、この後どうするの?」
「――――」
雪奈は少しの沈黙の後、口を開いた。
「――ピカチュウ、イーブイ。最後に聞くが、氷花にゲットされてもいいのか?」
「ピカチュウ!」
「イブイッ!」
元気ある返事、即答だった。その目を見ても迷いなどなく、氷花を主人として認めていることがはっきりと分かった。
「……無駄な心配だった。ごめんな」
「もうお姉ちゃん酷いッ!まるで私が悪い感じじゃん」
「ごめんって。一応聞いただけだから」
氷花は頬を膨らませて「怒っています」を表現している。元々不必要な心配だった。この数時間でピカチュウとイーブイがどれほど氷花に懐いているのかなど見てきたはずだ。それなのに、この質問は返って氷花たちを怒らせるだけだった。
「一応、ポケモンの意志も確認しておきたかったんだ。ただでさえ今は世界がこんなだし、用心しといて損はないと思って…」
「な~んだ。それなら大丈夫!私、ちゃんと面倒見るから!」
「…そうだな。信じるよ」
「それじゃあ、早速、どうやって使うの?私も早くやりたいッ!!」
「早速かよ…」
感情の移り変わりが激しい子だ。まぁ言うことを聞いてくれるだけまだマシである。いつの間にか両手にモンスターボールをガッチリと持っている様子を見て、「元気あるなー」と思った。
「それじゃあピカチュウ、イーブイ」
「ピカ!」
「ブイ!」
ピカチュウとイーブイが机にジャンプして、氷花の両手に届く位置まで来た。
「そして二匹にモンスターボールをぶつける。コツンでも大丈夫」
「分かった」
ソーッと、ゆっくり雪奈は二匹に向かってモンスターボールを近づける。やがてモンスターボールが二匹の額に当たる。すると、二匹は赤い光となってモンスターボールに吸い込まれていく。その際に氷花は「ウワッ」と小さな声を出した。やはり見慣れない現象はビビってもおかしくはない。既に一度見ていたとはいえ、慣れなければ何度驚いても仕方がない。
氷花の手の平で二つのモンスターボールが揺れ動く。3回揺れ、カチッと音が鳴った。
「――ッ」
「これで、ゲット完了。正式に氷花のポケモンだ」
「やったッ!」
「モンスターボールを投げてみろ。上でもいい。そうすれば出てくるから」
「分かったッ!ピカちゃん、ブイちゃん、出てきて!」
モンスターボールを頭上に投げると、モンスターボールが開き赤い光が飛び出す。机にピカチュウとイーブイが現れ、氷花に飛び移った。頬をこすりつけ、とことん甘えていた。
「ピカッ!」
「ブイッ!」
「きゃあッ!アハハッ、くすぐったいって!」
「こらこら、氷花が困ってるだろ。嬉しいのは分かるが、もうちょっと抑えてくれ」
雪奈は二匹の頭を優しく撫で、そう言い聞かせる。その瞬間、氷花は二匹を抱き上げてムクリと起き上がった。
「私は大丈夫!むしろ完 全 回 復!これからよろしくね、ピカちゃん、ブイちゃん!」
「ピカッ!」
「ブイッ!」
さっきから気になっていたが、もうニックネームを付けたのかと感心する。適応が早いのか遅いのか分からない子だ。
氷花たちのことを微笑ましく見てみると、やかましい声が聞こえてきた。
『ただいまロト~!』
「ゲンガッ!」
雪奈の影からスマホロトムを持ったゲンガーが飛び出してきた。ゲンガーは綺麗に着地し、口を三日月型にして笑う。ゲンガーの手から離れたスマホロトムは、雪奈の真正面に近づく。
「おかえり。どうだった?」
『ばっちり宣伝できたロト!今ボクのことは世界中で話題になってるロト!ネットやテレビ、スレも盛り上がってるロト!』
「大反響だな…」
『早速テレビを見てほしいロト!』
スマホロトムがテレビのリモコンを押すと、騒がしい音が響く。右上に“謎のスマホ出現!その名はスマホロトム!?”と書かれていた。どうやら途中からつけたからかあの場所にいた人間にインタビューが行われていた。
『あの場面を直に見て見て、どう感じましたか?』
『やっぱり今も信じられませんね。だってスマホが浮いて喋ってたんですから。それにあの話だって突拍子過ぎて。最後のアレも驚きましたよ』
『ありがとうございます。そうですね、私も未だに信じられません。しかし、あの時に起こっていたのは紛れもなく現実の出来事であったのです!』
『ポケモンショップの方はどうなっていますか?』
『こちらは御覧の通り、ポケモンショップが利用可能になったことで多くの警察関係者や専門家、市の役員などで溢れかえっており、中の様子を確認することはできません』
ちょうどインタビューが終わったころだったのか一人で終わり、スタジオの人間からの要求でポケモンショップの方が映し出される。予想通りと言っていいのか、ポケモンショップの入り口は封鎖され、そこからたくさんの人間が出入りしているのが分かる。出て言ってから約10分ほどしか経っていないのに、こういうことだけは仕事が早い。
まぁ謎の建物に入ることができなかったのに、一カ所だけ入ることができるようになったらごった返すのも無理はない。
『やはりこの場所だけが利用可能になったことで、今後の情報がさらに期待されるでしょう』
『ありがとうございました。えー現在番組では、この場から逃走したとされる【スマホロトム】と未確認生物に関する情報を募集しています。見かけたという方は是非、こちらの電話番号にてお電話ください』
画面の下に電話番号が表示される。今までずっと開かなかったポケモンショップを開く唯一の鍵にしてこの事態を終結させるための大きなきっかけになる存在だ。それが見つかったのだからどんな手を使ってでも見つけ出し、捕まえたいのだろう。まぁいたずら電話しかこない予感しかしないが。なにせ見かけられるはずがない。今ここにいるのだから。
「うわぁ~ロトちゃん一瞬で有名人だね」
『それを言うなら有名ポケモンロト!』
「ふふっ、そうだったね」
確かにこれでスマホロトムは全世界の注目を集めた。その証拠に今は彼の話題で持ち切りだ。
「ちなみに、テレビの前でどんな話をしたんだ?」
「あ、それ気になる!知りたい知りたいッ!」
『了解ロト!えっと、YouTubeで“スマホロトム”で検索~ロト~。ヒットしたロト!それじゃあ見せるロト!』
スマホロトムが画面の方を見せ、みんなして一斉にその画面に集中する。ちなみにサムネはスマホロトムの姿だった。動画が再生され、スマホロトムとナレーター、テレビスタッフたちの姿が映し出されていた。肖像権大丈夫だろうか?
『自己紹介ロト!ボクの名前は【スマホロトム】、よロトしく!さぁ、なにから話すロト?』
『え、えーと…』
動画内でスマホロトムに詰め寄られているナレーターが可哀そうに見えてくる。いきなり謎の機械生命体に「どんな質問をする?」と言われても困るだろう。しかしプロ根性を発揮したのかナレーターは顔を引きつらせながら次の質問をした。
『じゃ、じゃあ…あなたは何者ですか?』
『いい質問ロト!さっきも言った通りボクはスマホロトム!でもこれは機種名みたいなもの!ボクの種族名は“ロトム”!全国ポケモン図鑑No.0479のプラズマポケモン ロトムロト!ちなみに、ボクのタイプはでんきとゴーストだから、しっかり覚えて置くロト』
『ロトム…プラズマポケモン?全国ポケモン図鑑?でんき?ゴースト?』
聞き覚えのない言葉にナレーターが混乱しているのが分かる。ここがフィクションの世界であれば目玉がグルグル巻きになっていただろう。
するとスマホロトムがナレーターの女性の顔面に勢いよく近づいて大声で喋った。
『ボクたちロトムは体が100%プラズマで構成されていて、電線の中を移動したり、あらゆる電子機器の中に潜り込んで操作する事が出来るロト!』
『うえぇえ!』
ナレーターの女性は急に近くで大声で喋られたことで大声を上げて尻もちをついた。が、それ以外の人間たちはスマホロトムの発言の方に驚き、表情を変えていた。
その話が本当だとすればノーベルどころの話ではない。体が100%プラズマで構成されているということですら驚きなのに、電子機器に入り込んで操作が可能?そんな既存の常識を打ち破る目の前の存在に困惑しないはずがない。
『そしてそのボクロトムが電子機器、スマホに憑依することで生まれた存在こそがこのボク!スマホロトムロト~!』
『は、はぁ…』
『あ、ちなみに…。ボクたちロトムは頭の軽いイタズラ者が多い種族で、ボクのようなしっかり者は一部だけだから、気を付けておいて損はないロト』
テレビカメラのレンズに自分を近づけて暗いトーンで警戒を促すスマホロトム。一番近いカメラマンは思わず固唾を飲んだ。そのままレンズから離れたスマホロトムは先ほどまでいた中心地点へと戻った。
『これでボクの話はおしまいロト!次は~そうロトね~……ポケモンショップの説明でもするロト。それにもともとそのつもりだったロト~』
スマホロトムの発言に周囲の顔が強張った。全国に突如として出現したこの謎の建物。それに関する情報はまさに黄金に匹敵していた。全員が思わず固唾を飲んでいただろう。
周りに静寂が訪れ、響いたのはスマホロトムのお調子な声だけだった。
『ここ、ポケモンショップは全世界に点在しているロト。知っての通りポケモンショップではポケモンの回復、交換に転送を始め、モンスターボール、きずぐすり、きのみ、ポケモンフーズなどの販売が行われているロト』
『はぁ…』
『そして!今回【北海道札幌中央区店】が開放されたことによって、中央区に住んでいる人間限定で、ポケモンショップのアプリが自動インストールされたロト!』
スマホロトムは自身の背面――つまりスマホの画面をテレビカメラに移した。しかしこの画面では確認できない。なので本人(本ポケモン)に聞くことにする。
「これなにを映してたんだ?」
『ポケモンショップアプリの購入画面ロト。気になるならヒョウカのスマホで見てみるロト。ヒョウカも中央区の人間だからアプリがインストールされてるロト』
「あっ、ホントだ!」
氷花がスマホを見せてくる。そこにはモンスターボールのマークのアイコンがあり、それをタップすると赤い画面とPokémonshopの白い文字が現れる。ホーム画面になると、“購入”“マイページ”“全国ポケモン図鑑”“設定”“Q&A”の項目が現れた。“購入”の画面を押すとポケモンショップで見た購入できるアイテムがそのまま並んでいた。
「通販もできるのか…。ほんとどうなってんだこれ?」
『その話はあとにするロト!早速続きを流すロト!』
よほど自分が注目されているところを見せたいのか、急かされ二人は画面に集中する。
『ポケモンショップアプリでは、ポケモンショップでの“購入”がそのままスマホで出来ちゃうロト!支払い方法は複数ある電子マネーや代引きが可能ロト!“通常便”と“即時便”の二種類があるロト!即時便は送料がお高めだけど、すぐに来るからおすすめロト!』
ポケモンショップの説明を流暢に、陽気にこなす画面の中のスマホロトム。するとスマホロトムはポケモンショップの入り口まで近づき、さっきの端末に触れた。
『ポケモンショップを開放するには、トレーナーIDをかざす必要があるロト!トレーナーIDはポケモンショップアプリの“マイページ”で確認できるロト!トレーナーIDが発行される“方法”はただ一つ!“モンスターボールでポケモンを捕獲すること”ロト!』
「ちょっと待ったァ!」
雪奈は速攻で一時停止を押し、動画を止めた。
『なにするロト!まだこれからロト!』
「いや待てやこら。さっきの話と違くないか?確か条件の一つとして
雪奈が動画を止めた理由はこれだ。先ほどの話ではトレーナーIDが発行される条件ではロトムがスマホに憑依することだと言っていた。しかし今動画の中のスマホロトムはポケモンを捕まえることが条件。全く別のことを言っているのだ。
『あ~…多分ユキナは勘違いしてるロト。あくまでボクがスマホに入ることはトレーナーIDが発行される条件の一つであって、必ずしも
「なんじゃそりゃ…?」
『これはボクの言い方が悪かったロト。トレーナーIDが発行されるためにはその基盤であるポケモンショップアプリの存在が必要不可欠ロト。でもポケモンショップアプリがインストールされるためにはその地区のポケモンショップを開放する必要があるロト。でも、それを無視してインストールする方法が――』
「お前の存在、ってわけか…?」
『そうロト!だからユキナはポケモンショップの開放を待たずしてアプリを入手することができたんだロト!そしてユキナは既に本来の条件である“ポケモンの捕獲”を満たしているから、トレーナーIDが発行されたんだロト!』
「――なんだよ、それ…紛らわしいにも程があるだろ…」
雪奈は力を落としてソファーに座りこむ。近くに立っているゲンガーとサーナイトが心配そうに見てくるが、「大丈夫だ」と声をかける。
『ごめんロト。あの時ボクがもったいぶったばかりに勘違いさせたみたいロト…』
そもそもの原因として、あの時スマホロトムが全てを言わなかったことが直接的な原因と言えよう。あの時スマホロトムはショップでの買い物が終わってからのお楽しみとして全ての情報を言っていなかった。それゆえの誤解だったと言えよう。
つまり今までの情報を纏めるとポケモンショップのアプリがインストールされる方法は二つあり、一つがスマホにロトムが憑依すること、もう一つはその地区のポケモンショップを開放すること。
そしてトレーナーIDが発行される条件として“ポケモンを捕獲すること”。雪奈はそれが揃っていたからIDを入手できていたのだ。
「いや…もういいんだ。よく思い出せばお前はその方法は“方法”であり“条件”だっつってたよな…。にしてもなんつー分かりづらい伏線だ…」
今思えばスマホロトムはそれっぽい伏線的な言葉を言っていた。まさかそれがこんな形でつながるとは思いもしなかったが。
「それじゃあ、私ももうトレーナーIDを持ってるってことだよね?」
『え、ヒョウカはもうポケモン捕まえたロト?』
「うん!ピカちゃんとブイちゃんをね!」
『それなら確実ロト!マイページを確認すればトレーナーIDが発行されてるはずロト!これでヒョウカは世界で2番目のトレーナーロト~~!』
「やった!早速確認しよっと!」
『じゃあさっきの映像の続きを流すロト!』
スマホの画面を確認している氷花を余所に、スマホロトムは映像の続きを再生し始めた。画面の中のスマホロトムは先ほどとほとんど同じ会話の内容を話していたが、雪奈はそれを真面目に聞いていた。
――後ろの氷花の呟きに気付かずに
「あれっ?」
『――とまぁこんな感じでトレーナーIDを入手することができるロト。トレーナーIDはポケモントレーナーになった順番で発行されているロト。ポケモンを捕まえるのに必要なモンスターボールはポケモンショップで一つ200円と言うお手頃価格で販売しているから、みんな是非買って行ってほしいロト。これでポケモンショップのお話はおしまいロト』
入口から離れ、再びテレビカメラに近づいたスマホロトム。
『それでボクたちポケットモンスター、略してポケモンは――おっと、そろそろ時間ロト』
『えっ』
『ボクの持ち主からの帰還命令ロト』
スマホロトムの言葉に、周りの人間がざわつくのが分かった。今見ているこの動画も揺れたことで、撮っていた人間が動揺していたことが分かる。目の前のスマホに持ち主がいる。それはとんでもない情報だった。
『なにを驚いているロト?ボクはスマホロト。持ち主がいるのは当たり前ロト』
『そ、その持ち主とは…?』
『それはシークレットロト。ボクの持ち主は目立つのが苦手ロト。ボクが勝手に言っていいことじゃないロト』
「おいごら」
『ロト!?』
その瞬間、雪奈は般若の形相でスマホロトムを鷲掴みにし、徐々に握力を上げていく。女性の体なので握力に限界はあるが、それでもある程度苦しめることはできるしなんなら加減もできる。
「なに勝手に思わせぶりな発言してんだこのやろ゛…ッ!」
『いだだ、いだいロトー!』
「余計なこと言いやがって!どうすんだよこれ!?」
『でもでも!どうせ雪奈はこの事態解決のために動く必要があるロト!だったら早く存在をアピールしておいた方がいいロト!遅く出てきたら逆に不審がられるロトォ~!』
「ま、まぁ…確かにそれもそうか?」
スマホロトムの言い分も一理ある。一度目の人生のことを振り返ってみる。ある政治家の息子の
それと似たようなものだろう。結局は遅くなればなるほど不信感を募らせる。だったら一概にスマホロトムの判断を否定するのは如何なものかと考えた。
「あ、ネットで【スマホロトムの持ち主=この事態の黒幕説】が浮上してるけど…」
「やっぱり駄目じゃねぇか!!」
『あぁああああ~~!』
全力でスマホロトムを握る。氷花の言葉はある意味最悪のタイミングだったと言えよう。そのせいでスマホロトムは犠牲になった。南無。
どっかのバカが話題作りのために作った説だろうが、この状況ではそんな説が出ていてもおかしくはない。突如として現れた謎の未確認生物にスマホロトム、そしてその持ち主である
「とりあえず続き見せろ」
『わ、分かったロト…』
映像の続きが再生される。と言ってももうすぐで終わるが。
『それじゃあボクはここら辺でおさらばするロト。ボクが今日説明したことはポケモンショップアプリのQ&Aに載っているから、復唱したいときはそっちを見るといいロト。あ、ちなみにだけど、ポケモンショップ内部の立ち入り禁止エリアには入らないことをお勧めするロト。入ろうとすれば防犯システム レベル3が作動するロト』
『えっ』
『それじゃあ、よロトしく!』
『ゲンガッ!!』
『きゃあ!』
突如、スマホロトムの影からずんぐりとした体形の紫色の生物――ゲンガーが飛び出してスマホロトムをキャッチした。近くにいたナレーターの女性はあまりにも突然の出来事で尻もちを再びついた。そして他の人間の動揺も画面越しに伝わってくる。普通の人間が“未確認生物”と言っている生物が突如どこからともなく飛び出してきたのだ。
そのままゲンガーはポケモンショップの屋根でできている影に飛び込み、その姿を消した。その一連の状況に、周りの人間は固まっていた。ここで動画は終わっている。
「――――」
『――――ロt』
「待てやごら」
『ロトォ―――!』
動画が終わった直後、雪奈は逃げようとしたスマホロトムを瞬間的に鷲掴みにした。それと同時にもう片方の手でモンスターボールを取り出し指示を出した。
「ルカリオ、“サイコキネシス”」
「ルオッ!」
「ゲンッ!?」
モンスターボールから飛び出たルカリオは影の中に隠れようとしていたゲンガーを拘束する。
「お前ら……。確かに宣伝の方は許可した。ゲンガーにはスマホロトムを回収するようちゃんと言った。だけどここまで目立つようにしろって、俺言ったかァ?」
『違うロト違うロト!ぼ、ボクはちゃんと人目を撒こうとしてたロト!正直言ってボクもゲンガーのあの行動にはビックリしたロト!だからボクは悪くないロト~!』
「ゲンッ!?」
「…まぁ一理あるか」
「ゲゲッ!?」
雪奈の言葉にゲンガーが震えた声を上げた。ゲンガーは必至に抗議するが、悲しいかな。ゲンガーの言葉は雪奈には分からない。唯一通訳可能な
サイコキネシスで縛られ動けないゲンガーに、雪奈は徐々に近づいていきあるものを取り出した。
「お仕置きはこれだ」
「ゲンッ…?」
「カゴのみだ。お前の今日の昼飯にこれを入れる」
「ゲンッ!?」
ゲンガーの声が響く。補足すると、ゲンガーの性格は“ようき”である。そして性格は味の好みを分ける重要な要素。“ようき”な性格のポケモンは“あまい”のが好きで“しぶい”のが苦手である。
そしてカゴのみは外側の皮も中身も全てが硬くて渋が、ちゃんと全部食べられるきのみ。つまりとてもしぶい。ゲンガーの昼食にカゴのみが入ることが決まった瞬間であった。
雪奈のゲンガーは陽キャゆえに行動が早いが考えなしなとろこがある。そのせいでこういった
「ゲンガ~……」
「安心しろって。夜はちゃんと好みのきのみ入れるから。それに――」
『ロトッ!?』
「お前だけに責任は被せないから」
『ちょ、ユキナ――』
「おらおらッ!!」
『ロト~~~!!!?』
雪奈はスマホロトムを持つ手をグルグル回した。分かりやすく言えばグルグルパンチ状態である。その振動をスマホロトムは直に味わっている。
『なんでロトなんでロト!?ボク悪くないロト~!?』
「俺の目を誤魔化せると思ったかバカめ!だったらなんで最後の言葉が『よロトしく』だったんだ?普通はバイバイやさよならだろがッ!よろしくってことはお願いって意味だよなぁ!?」
『ロト~~~!!!』
「ゲゲゲゲゲッ!!」
スマホロトムの悲鳴とゲンガーの笑い声が聞こえる。雪奈も心なしか顔が笑顔で溢れており、その光景をルカリオとサーナイトは微笑ましく見ている。
―――そしてその近くにいる氷花は、未だに自分のスマホを見て首をひねっていた。
「うーん…。やっぱり何度見てもおかしいよね…?」
「ピカチュ?」
「ブイ?」
スマホの画面を見て唸る氷花の行動を疑問に思ったのか、氷花の見ているスマホを二匹してみた。それを見た途端、二匹は驚きの声を上げた。
「ピカチュ…?」
「ブイ…?」
「ピカちゃんもブイちゃんも不思議に思う?やっぱり変だよね…?確か、トレーナーIDの番号ってトレーナーになった順番で決まるんだったよね?だったら―――」
スマホロトムの話では確かにそうだった。トレーナーIDの番号はポケモンを捕獲した順番で決まっている。なら必然的に雪奈の次にポケモンを捕獲した氷花のトレーナーナンバーは2番になるはずだ。それなのに、今スマホに映し出されている氷花のナンバーは――、
「なんで私のナンバー、“3番”なんだろう?」
氷花の疑問は、雪奈たちの喧騒の声に、かき消された。
「クルポ~…」
「…【モクロー】、寝るのは好きにすればいいが、せめて家に着くまでボールの中にいてくれ」
『仕方ねぇロト。こいつ、お前のリュックの中の方が良いみてぇロト』
路地裏に男の声と人の声に寄せられた機械音声が響く。
「……困ったヤツだな」
『いいから早くするロト。早くしないとドーナツが冷めるロト』
「そうだな。こんな世の中になったから、営業してる店探すのにすげぇ苦労したし。とりあえず全種類買ったからいいか」
『アイツの機嫌が悪くなる前にさっさと帰るロト。つってももう出入口だけどな、ロト』
「無理に語尾つける必要あるか?」
『うっせぇロト!』
「はいはい。頼んだぞ」
『おいてめ――』
突如男たちは消え、その場からはなにも残らなかった。
互いの存在を、1番と2番は、まだ知らない。知るのは、ほんのちょっと先。