人生三回目、現代にてポケットモンスター現る。   作:龍狐

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6 3時の昼食

 あの騒動の後、息を整えた雪奈は着崩れた服を整える。スマホロトムは乱暴に扱われたために目を回して気絶している。そんなスマホロトムを無視して全員に向けて一言言い放った。

 

 

「よしお前ら、飯にするぞ」

 

 

 その一言で、ポケモンたちは奮い立った。紆余曲折あったあとの飯――働いた後の飯は格別と言う理論である――は何よりの楽しみであった。

 雪奈はポケットから二つのモンスターボールを取り出した。

 

 

「出てこい、ユキノオー、リザードン!」

 

 

 投げられると同時にモンスターボールは開かれ、一筋の青い光とともに二つの巨体が現れる。一つはユキノオー。そしてもう一体の方は、赤い竜。2本の角を持ち、燃え盛る尻尾の先が特徴的だ。その名はリザードン。雪奈の手持ちの一匹である。

 

 

「リザッ!!」

 

 

 リザードンはボールから飛び出た瞬間に雪奈に抱き着いた。

 

 

「うわぁあ…どうしたんだよ、リザードン…?」

 

「フフッ、その子、お姉ちゃんが元気になって嬉しいんじゃないかな?」

 

「…そっか。心配かけたな、リザードン」

 

 

 雪奈は優しくリザードンの頭をなでる。リザードンは最初雪奈が倒れたとき心配して飛び出てきていたのだが、尻尾の炎が家具などに燃え移ることを危惧され、ずっとボールの中にいたのだ。そして今目の前に主人が元気な姿でいることが、嬉しかったのだろう。

 頭を撫でられ、嬉しそうにするリザードン。厳つい見た目に反して、このリザードンの性格は“さみしがり”である。ヒトカゲのころの習性が抜けきっていない。

 

 

「でも悪いな。飯食べたら、またボールに戻さなきゃいけない。お前の尻尾の炎が家具に燃え移ったら大変だからな」

 

「リザッ…」

 

「そんな顔すんなって。外に出たらたくさん遊んでやるからさ」

 

「リザッ!」

 

 

 雪奈の言葉に、しゅんとしていた顔が一瞬で明るくなった。その顔を微笑ましく見ていると、氷花が隣から声をかけてきた。

 

 

「お姉ちゃん、この子たちのお皿どうする?」

 

「あー…そこまで考えてなかったな。紙皿とかないか?」

 

「探してみるね」

 

 

 雪奈は皿のことを完全に失念していた。今いるのは2人に7匹で、合計9つの皿が必要になる。雪奈と氷花の皿は当然あるとしても、ポケモンたちの皿は準備などされていない。そのため紙皿で代用することにした。氷花が引き出しの中を探していると、「あっ」と声を上げた。

 

 

「あったよ!この前のバーベキューのが残ってた」

 

「おっ、ラッキー。じゃあみんなの分出して――」

 

「オノッ」

 

「ん?どうしたユキノオー?」

 

 

 突然一歩身を乗り出したユキノオー。どうやらなにか伝えたいことがあるようだ。ユキノオーは片手を何度も振る。ちなみに技の“ゆびをふる”ではない。このサインが意味するのは――、

 

 

「あぁ、お前の場合は皿じゃなくて直食いの方がいいか」

 

「オノッ」

 

 

 ユキノオーは首を縦に振る。腕を振る行為はノーのサインだった。ユキノオーは手がデカイ。とても人間用の紙皿に入ったものを掬えるとは思えない。

 思えば二度目の人生の際もユキノオーはポケモンフーズが入った袋を滝のように流す形で直食いしていたし、手で持って食べるものがあるとするなばらきのみだけ。その際に「ポケモンフーズ食い辛そうだな…」と思った雪奈によって大型ポケモン用の皿を購入し、事なきを得ていた。

 

 

「でも一応、きのみを置くために皿は用意しとくからな」

 

「オノッ」

 

 

 ユキノオーは再び頷く。流石にきのみを床に直置きはまずいと判断したためだ。

 雪奈はキッチンへと歩き、氷花が置いていた紙皿を一枚一枚並べていく。そこにユキノオー以外の皿にポケットフーズを盛っていく。

 

 

「さて、と…」

 

 

 雪奈は自身のポケモンの“せいかく”と“好み”を再考する。性格と好みはリンクしており、ポケモンの食事を考える際の重要な要素だ。

 

 ユキノオーの性格は“れいせい”。好きな味は“しぶい”。嫌いな味は“あまい”

 ルカリオの性格は“ゆうかん”。好きな味は“からい”。嫌いな味は“あまい”

 リザードンの性格は“さみしがり”。好きな味は“からい”。嫌いな味は“すっぱい”

 ゲンガーの性格は“ようき”。好きな味は“あまい”。嫌いな味は“しぶい”

 サーナイトの性格は“おとなしい”。好きな味は“にがい”。嫌いな味は“すっぱい”

 

 そして今ここにはいないが最後の一匹の性格は“せっかち”。好きな味は“あまい”。嫌いな味は“すっぱい”だ。

 

 

(……なんかこれ考えると懐かしいな。メンバーがまだユキカブリとゴースだった頃。好みが正反対でよく喧嘩してたっけな…。まぁほぼゴースのイタズラのせいだがな)

 

 

 過去を思い出す。当時ゴースだったゲンガーが無理やり自分の好みである“あまい”きのみを食べさせ、ユキカブリとの喧嘩に発展したあの頃。それが懐かしく感じる。

 

 

(さてと、そろそろ考え直さないとな)

 

 

 思い出に浸るのはまた今度にして、ポケモンフーズにプラスするきのみを考える。きのみは一匹5個として、好きなものを多めに入れ、残りは好きでも嫌いでもないきのみを入れることにした。今雪奈の手元にあるきのみは10種類が5つずつ。計50個。

 まず一番考える必要のないゲンガーの皿に目線を送る。とりあえず(しぶ)いことで定評のあるカゴのみを入れることは決定。しかし“しぶい”味が好きなユキノオーもいる。どうしたものか、いろいろ考えた結果――。

 

 

「―――よし、できた。次だな」

 

 

 ゲンガーの食事の準備が完了した。

 次に簡単なのは、ルカリオとリザードンの食事。二匹とも好みが同じであり、辛いことで定評のあるクラボのみを入れることは決定した。残りは別のきのみで代用。

 次に手を取ったのはサーナイトの食事だ。サーナイトの好みは“にがい”ものなのでチーゴのみを主役した食事が完成した。

 最後のユキノオー。先ほど使ったカゴのみを主に入れ、残りは別のきのみを使った。

 

 

「よし、俺の方は完成だな」

 

「は、早い…。お姉ちゃん早すぎない?」

 

「俺は手持ちの好み全部把握してるからな。そういう氷花はどうしたんだ?」

 

「いや私はフーズだけだし…。きのみは、買ってなかった、し…」

 

 

 氷花はしょげている。隣でピカチュウとイーブイが慰めているが、その顔は暗いままだ。しかし雪奈には何故そんなにしょげているのかが分からなかった。

 

 

「なんでそんなにしょげてるんだ?」

 

「だって…お姉ちゃんのはすっごく考えられてて色とりどりので、対して私のは何も考えず茶色一色…。なんか負けた気分…」

 

「ピカ~」

 

「ブイブイ~」

 

「――――」

 

 

 つまり氷花が落ち込んでいる理由は姉に女子力で負けたこと。しかし雪奈自身は「そんなに落ち込むことか?」と心の中で首を傾げていた。でもせっかく作るのなら気合を入れて作りたいという気持ちは分からなくはない。乙女心と言うのは難しいものだ。

 

 

「仕方ないな…。俺の買ったきのみ分けてやるから、元気だせ」

 

「ホント!?ありがとうお姉ちゃん!」

 

「全く、現金なヤツだな…」

 

 

 雪奈にきのみを分けてもらえると分かった瞬間、目を輝かせてピョンと飛び跳ねた。ウサギか。

 

 

「でもちゃんと好みを考えろよ?適当に出して食べてくれなかったは悲しいだろ?」

 

「そうだよね…。ねぇ、ピカちゃんとブイちゃんはどれが食べたい?」

 

 

 ピカチュウとイーブイを抱っこし、残っているきのみを見せる。きのみを見て、先に反応したのはイーブイの方だった。

 

 

「イブイ!イブイ!」

 

「食べたいのあった?ん~…お姉ちゃん取って!」

 

「はいはい…」

 

 

 氷花の手はピカチュウとイーブイで塞がっており、イーブイが指摘しているきのみを取ることができない状態だった。雪奈はとある一つのきのみ――モモンのみを手に取り、イーブイはその実を見て目を輝かせた。

 モモンのみ。さっぱりとした甘味が人気の実だ。

 

 

「甘い味のモモンのみを選んだか…。となると…性格も大分絞れて…イーブイの様子から見て一番近いのは――」

 

 

 甘い味を好むポケモンの性格は“おくびょう”“ようき”“むじゃき”“せっかち”の4種類。まずイーブイの状態から見て“おくびょう”と“せっかち”は除外。残りは“ようき”と“むじゃき”のどちらかだ。正直どちらともあり得るため、最終的な判断ができない。ので――、

 

 

「イーブイ。これ以外に、どれを食べたい?」

 

「イブ?」

 

 

 雪奈が出したのは二つのきのみ。渋いカゴのみと苦いチーゴのみ。この二つをイーブイに差し出した。イーブイは二つのきのみの匂いを嗅ぎ――そのうち一つにそっぽを向いた。

 

 

「イブイッ」

 

「――チーゴのみか。となると、イーブイのせいかくは“むじゃき”だな」

 

 

 イーブイはチーゴのみを拒否した。つまり残り二つの選択肢が一つになり、“むじゃき”と言う結果が判明した。“むじゃき”な性格のポケモンは“あまい”のは好きだが“にがい”のは嫌いな傾向がある。十分な判断材料だ。

 

 

「へ~ブイちゃん、無邪気なんだ~」

 

「イッブ~イ~」

 

「可愛いなぁ、このこの~。好き嫌いは駄目だけど、許しちゃいそう~」

 

「ピカチュ!」

 

「あっ」

 

 

 氷花がイーブイとほっぺすりすりしていると、突如ピカチュウが氷花の腕から離れ、余っているきのみの後ろに立った。ピカチュウはそのきのみを各種類一つずつ自分の目の前に寄せていき、二本足で立って前足を組んだ。突然の行動に、氷花は?マークを浮かべるだけだった。

 

 

「―――?」

 

「多分、「自分は好き嫌いなんてない」って伝えたいんじゃないか?」

 

「ピッピカチュウ!!」

 

 

 そう!と言いたげに大きな声を上げるピカチュウ。

 氷花はようやくピカチュウの真意がわかり、抱き寄せた。

 

 

「そっか~。ピカちゃんは何でも食べられるんだね。偉い偉い」

 

「ピカ~」

 

「ブイッ…」

 

 

 すると今度は、イーブイはムスッとした顔になった。おそらく、好き嫌いがないピカチュウを「偉い」と褒めたため、自分は偉くないのだと思ったのだろう。それにはすぐに気づいた氷花が咄嗟にフォローした。

 

 

「あああぁ…大丈夫だよ、ブイちゃん。誰にでも好き嫌いはあるから。ほら、私もからいのとか苦手だし、だからさ、機嫌直して~~…」

 

「ははっ――」

 

 

 修羅場である。だがその光景はとても可愛らしい。それにしてもピカチュウに好き嫌いがないということは、そこから考えられる選択肢は5つ。“がんばりや”“てれや”“まじめ”“きまぐれ”“すなお”が該当している。その中で“てれや”と“きまぐれ”は除外。残りは三択だが、これはもう判断できない。イーブイのように好き嫌いがあるわけではないため、判断材料が経過観察しかない。これに関しては諦めることにした。

 二匹の機嫌直しに奮闘している氷花から視線を外し、ピカチュウとイーブイに食べさせるきのみを除外して、残ったきのみに視線を向ける。

 

 

「――残りは…きのみジュースにでもするか」

 

 

 残ったきのみを数個輪切りにして、ミキサーに突っ込む。回して切り刻み、液状になるまでそれを続ける。出来上がったらそれを紙コップに注ぎこみ、全てなくなったらミキサーの容器を水洗いし、再び別のきのみを投入。これを繰り返しやがて全てのきのみがなくなった。

 

 調理が終わり、それぞれのポケモンたちの前に皿を置くためにリビングへと歩く。サーナイト、ゲンガーの紙皿はリビングの机に対になるように置く。ユキノオーとリザードンは巨体ゆえにスペースが限られているため、床に紙皿を置く。そしてルカリオ、ピカチュウ、イーブイの紙皿は台所の机に置いた。元々この机は4人家族用。ルカリオが一人分、ピカチュウとイーブイが一人分で十分補える。

 

 

「オノッ」

 

「リザッ!」

 

「ルオッ」

 

「サナッ」

 

 

 ユキノオーの食事はポケモンフーズ1食分の開封済みの袋ときのみはカゴのみ“3個”とオレンのみ2個

 リザードンの食事に入れたきのみはクラボのみ2.5個とラムのみ2個

 ルカリオの食事に入れたきのみはクラボのみ2.5個とオレンのみ2個

 サーナイトの食事に入れたきのみはチーゴのみ3個とキーのみ2個

 

 

「それで、お前にはこれな」

 

「ゲンッ……ゲンッ!!?」

 

 

 意気消沈中のゲンガーの前にポケモンフーズときのみが入った紙皿を置いた。その内容を見た瞬間、ゲンガーは驚きの声を上げ、びっくりした表情のまま雪奈を見た。

 

 

「――勘違いするなよ。カゴのみはユキノオーの好物だからな。だから多く入れてやりたかっただけだからな」

 

 

 その表情を見ながら雪奈は、きついながらも優しいトーンでそういった。

 問題となっているゲンガーの食事内容。それはカゴのみ“2個”とヒメリのみ3個だった。カゴのみはゲンガーの嫌いな味だが、ヒメリのみはいろんな味がつまったきのみ。5種類ある味の中で“しぶみ”だけが存在していないきのみだ。雪奈のゲンガーに対する配慮が見え隠れしている食事だった。

 

 

「ゲッゲッゲッ」

 

 

 雪奈の気遣いに、ゲンガーは笑った。他の四匹も雪奈に向けて微笑みを浮かべた。そのことに気付いた雪奈は、次第に顔を赤くして声を荒げた。

 

 

「わ、笑ってんじゃねぇぞ!いいから早く食べろッ!残したらマジで許さねぇからな」

 

「ゲンッ!?」

 

 

 雪奈は本気の睨みを聞かせ、ゲンガーをひるませた。それに焦ったゲンガーは咄嗟に食事に手を伸ばし、口に加えた。――それは愚策。咄嗟に入れたのはきのみで、入れたのはカゴのみだった。それも二つ一気に。

 

 

「~~~ッ!!」

 

 

 顔を一気に青くして悶えるゲンガー。しかし口の中のもの吐き出さない。ここで吐きだしたらこの後どうなるかが分からないからだ。ゴロゴロと地面を転がりながら、それをなんとか飲み干すことができた。しかしながら、ゲンガーは瞼を閉じ涙目になり大きな舌を出している。とても渋かったようだ。

 

 

「ゲ~~~…」

 

「ほら、口直しだ。飲め」

 

「ゲンッ?」

 

「いいからッ!」

 

「ゲガッ!?」

 

 

 紙コップに入ったジュースを無理やりゲンガーの中に流し込む。悪い予感がしたゲンガーは口を押えるが時すでに遅し。ジュースはゲンガーの口内へと入っていった。

 

 

「ゲグッ…ゲンッ?」

 

 

 ここで吐きだしてはまずいため、すぐに飲み干そうと思ったが、口の中の味を意識した瞬間、その考えは消え去った。口の中に広がるのは、甘くて芳醇な香り。甘美な甘さにずっと口の中に入れたくなるような甘いジュース。やがてゲンガーはそのジュースを笑顔で思いっきりに飲み干した。

 

 

「ゲンッ」

 

「余ったモモンの実とオボンの実のミックスジュースだ。うまいだろ?」

 

「ゲンッ!」

 

「これに懲りたら、勝手な行動はすんなよ?」

 

「ゲンガッ!!」

 

 

 ゲンガーは満面の笑顔で返事をした。普通にいい話なのだが――こういった出来事は一度や二度の話ではないのは、言わないお約束である。

 

 

『ユキナ~…。その優しさ、ボクにも分けてほしいロト~…』

 

「黙れ元凶」

 

 

 いつの間にか喋れるくらいには回復していたスマホロトムに冷たく言い放つ。しかし、まだ動けはしないようだ。

 ゲンガーは嫌いな味のきのみがなくなったことで、次々に食事に手を出した。それを見て、ユキノオーたちも手を合わせ、食事を始める。

 

 

「さてっ…氷花、そっちは――って、もうできてるし…」

 

 

 こっちのことで頭がいっぱいだったため、氷花に向ける注意が疎かになっていた。いつの間にかピカチュウとイーブイも食事を始めており、雪奈と氷花の席には【白い狐(きつねうどん)】と【黒い狸(たぬきそば)】が置かれていた。既にお湯も入っている。

 

 

「もう準備してるから、あと30秒で出来上がるよ」

 

「仕事早いな…」

 

 

 氷花もすでに席に座っているため、雪奈も対面の位置に座る。と言うか残りの席はルカリオ、ピカチュウ、イーブイ、氷花がいるため実質一択しかないのだが。雪奈の席には【白い狐】が置かれていた。

 

 

「お姉ちゃんこれ好きだったでしょ?ちょうどあったから良かった。どうせならみんなで食べる方がいいもんね」

 

「お、おう、そうだな…」

 

 

 そう聞かれて、雪奈はしどろもどろに答えるしかない。確かに『雪奈』はこの【白い狐】が好きだったのだろうが、今中にいる自分が好きなのはラーメンだ。うどんも嫌いではないが、うどんかラーメンかの選択肢だったら迷わずラーメンを選ぶ。

 

 

「へへっ、こんなに大勢での食事なんて、いつぶりだろう?」

 

「……そう、だな」

 

 

 その時、氷花の顔は笑顔だったが、なにか黒いものが見えたような気がした。これはほんの些細な勘だ。だが、この勘は当たっているかもしれない。この家族のことを考えたら――

 そうしていると、タイマーの音が響き渡った。氷花はタイマーのボタンを押して蓋を取る。つゆを入れ、割りばしを割った。

 

 

「ほら、お姉ちゃん。早くしないと麺が伸びちゃうよ?」

 

「あ、あぁすまん」

 

 

 氷花の言葉で現実に戻り、カップ麺の蓋を取りつゆを入れ、割りばしを割る。そして二人同時に手を合わせ、「いただきます」の言葉とともに麺を啜る。

 

 

「うん、うまい」

 

「そうだね~~」

 

「さてと…このあとはどうするかだな…」

 

「この後って?」

 

 

 ニ、三口食べた後、雪奈は呟く。雪奈のこの後とは、これから先どうするかと言うことだ。

 

 

「良くも悪くも俺は世界で注目の的になった…。幸いなのは、スマホロトムの持ち主が【聖 雪奈】だということはバレてないってこと。でもポケモンがこの世界に現れて、世界は今混乱している。最悪の場合、人間とポケモンの間で戦争が起こる」

 

「そんな…」

 

「氷花。お前の気持ちも分かる。ピカチュウとイーブイはお前に懐いてる。俺もこいつらのことは大好きだ」

 

 

 雪奈の言葉に、雪奈のポケモンたちは微笑みを向けた。10年で培った信頼関係。それは並大抵のことで崩れるようなことではない。人とポケモンが共存し、生きている世界。そんな世界で生きてきた雪奈にとって、ポケモンは大事な仲間だ。しかし、それはポケモンが当たり前の世界だからこその話だ。

 

 

「だから、人とポケモンは仲良くできる。でも他の人間はそう思っていない。アイツらにとってポケモンはまだ“未確認生物”でしかないんだ」

 

 

「まだこの状態だと、人間たちはポケモンたちを必要以上に怯えて、排除しようとする。普通の兵器でも、ある程度対抗することはできる。でもそれには限界が来る。人間にはなくてポケモンにはあるもの――それは“わざ”」

 

「“わざ”…?」

 

 

 “わざ”。ポケモンなら必ず一つは持っているもの。ポケモンを代表する要素の一つだ。“わざ”がポケモンをポケモンたらしめるものと言っていい。

 

 

「氷花が見ているのは、ルカリオの“サイコキネシス”だよな」

 

「ルオッ!」

 

 

 ルカリオがサイコキネシスを発動させ、テーブルにある醤油やソースなどの調味料を浮かして見せた。

 

 

「ほへ~~」

 

 

 実際に本格的な技を見た氷花は、ポケッとしていた。実際氷花がルカリオのサイコキネシスを見たのはゲンガーの拘束のためだ。あれでは実感が湧かなかったのだろうが、今浮いている調味料を見て、初めて“わざ”の実感が湧いたようだ。

 すると、氷花が「あっ!」と言う声を上げた。

 

 

「そういえばピカちゃんもすごい電撃出してたよね!?」

 

「ピカチュ!」

 

「電撃…ってことは“10まんボルト”か。ていうか初見でソレを忘れるってマジか…」

 

 

 “10まんボルト”はかなり強力な技だ。と言うか字面からして強力な技だと連想できる。その技を見ていたことを忘れていたなんて、本当にこの子は何というか、変である。

 

 

「だって~…可愛かったから」

 

「ピカチュウ!」

 

「―――そっか」

 

 

 雪奈は遠い目をして返事をした。どうやら氷花の中では恐怖より可愛いが優先順位が高いようだ。でもポケモンを怖がられるよりはかなりマシだ。最初に出会ったのがイーブイとピカチュウで良かった。いや本当に。

 

 

「とまぁそんなわけで、人と違ってポケモンは強力だ。最初は対抗できても、いずれ限界が来る。なにしろ“伝説のポケモン”だっているからなぁ。そいつら敵に回したら、人類滅亡ルート待ったなしだぞ?」

 

「伝説のポケモン?」

 

「歴史に残る超絶強いポケモン。時間とか空間とか操れたり、中には一匹で国を滅ぼしたっていうポケモンもいるからな」

 

「時間!?空間!?国ッ!?それってヤバくない!?」

 

「あぁ、超絶ヤバい」

 

 

 例として時間の神(ディアルガ)空間の神(パルキア)黒竜(ゼクロム)白竜(レシラム)を挙げたが、どれも超絶ヤバい。人間の兵器だけで太刀打ちできる存在ではない。そんなポケモンたちを対抗手段を持たない人間が怒らせでもしたら、結果など目に見えている。

 

 

「ポケモンがどういう生き物なのか、広めて知らしめる必要がある。でないと不味い。でも、そうなると必然的に目立つ必要が出てくる。今回みたいにな」

 

「―――」

 

 

 雪奈はうどんを啜りながら考える。スマホロトムを使ってポケモンショップの使用方法を宣伝した。今後も同じようなやり方で表に出ればいい。だがそれには必ず限界が来る。普通に考えよう、顔も名前も分からない人間を信用できるだろうか?否である。

 うどんを噛み、飲み干した後、覚悟を込めて氷花に聞いた。

 

 

「今じゃない。でもいつか必ず顔と名前を出さないといけないときがくる。お前は、それに賛同してくれるか?」

 

「……それって、お姉ちゃんじゃないと駄目なの?お姉ちゃんがやらないといけないことなの?」

 

 

 氷花から帰ってきたのは返答ではなく、更なる疑問だった。その声は今まで明るい氷花のイメージを崩した、とても暗く重い声だった。

 

 

「…そうだな。誰にも正体を知られない方法として、やっぱりスマホロトムを使う必要がある。でもその方法も結局限界が来る」

 

「でも…」

 

「誰かがやらないといけないことなんだ。現状、ポケモンを良く思っているのは俺と氷花だけ。残りの人間はどうか分からない。事実、ポケモンによって怪我をしている人だって出ている。国が強硬手段に出るのはおかしくない」

 

「う、うん…」

 

「それにもし、ポケモンと人間が争うことになったら、俺たちはこいつらと暮らすことができなくなる。最悪、他の人間から排除の対象だと見られてもおかしくない」

 

「そんな…ッ」

 

 

 事実、ポケモンの世界でもそういった時代があった。シンオウ地方チャンピョンのとある女性から聞いた話だ。昔はポケモンと人間が対立していて、ポケモンが「化け物」扱いされ、そんなポケモンを連れている人間は恐怖の対象だったらしい。そんなことがこの世界でもあり得るのだ。

 

 

「でも俺はそんなことは嫌だ。真っ向から否定してやる。氷花だって、ピカチュウとイーブイと対立することなんて嫌だろ?」

 

「嫌。ぜっっったい嫌!」

 

「だろうな。だからやるしかない。だからまずは、人々の認識を改めること。最初は無難に、“未確認生物”なんて呼び方やめさせて、ポケモンって呼ばせたい。話はそれからだな」

 

「―――そうだね。でも、極力メディアに顔出すとかはやめてね!?」

 

「うおっ!?」

 

 

 氷花が机から体を乗り出してそう啓発してくる。その際暴力的なまでの二つの山が揺れ、雪奈はそれに一瞬釘付けになった。体は美少女でも中身は男。そういうのにはまだ興味津々なお年頃だ。しかしすぐに沈静化する。理由?そんなの簡単である。だって自分にもついているから。大きな二つの山が。

 

 

「わ、分かってるって…できるだけ善処するから」

 

「約束だよ?」

 

「もちろん。俺も目立つのは極力避けたいからさ」

 

 

 しかしいずれはそういう日が来るだろう。できるだけその日を先延ばしにはできるが、それも結局限界は来る。この世界にポケモンについて知っているのは自分だけだ。だからこそ、結局自分が動かねばならない。

 

 

(だけど、この体はあくまで他人の体…。そして『雪奈』(この子)の体を無断で使っている以上、この子の家族はなんとしてでも死守しなくてはならない)

 

 

 もし自分がメディアに顔出しでもすれば、当然人々の目は自分に向く。それは唯一の家族である氷花も同じだ。だからこそ、大胆かつ慎重に動かなければならない。

 大胆に行動する理由は世界にポケモンのことを理解させるため。慎重に動く理由は家族に危険が及ばぬようにするため。

 この対極の行動を効率とバランスを考えて行わなければならない。

 

 

(クソッ…。俺はどっかの殺し屋でも探偵でもねぇんだぞ。こんなルナティックミッションできるのか?……いや、出来る出来ないとかじゃなくて、やらなきゃいけないか…)

 

 

 自分でやると決めた以上、それはやり遂げる。必ず。そうでなければ人類の存続は約束できない。

 

 

「はぁ~…。自分で振っといてなんだが、もうこの話はやめにしよう。せっかくの飯が不味くなる」

 

「そうだね。その方がいい。―――それとなんだけど、お姉ちゃん。ずっと、気になってたことがあるだよね」

 

「―――?」

 

 

 油揚げを加え、それを噛み締めているとそんな言葉がかけられた。そしてそれは――雪奈にとって、絶望的な、一言だった。

 

 

 

 

 

 

「今日バイトどうしたの?確かお昼からだったよね?」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「―――――」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 その一言で、その場の全員の時が止まった。雪奈の箸から油揚げが落ち、汁の中に沈む。雪奈もその状態から静止したままであり、それからどのくらい時が進んだのか、雪奈には分からなかった。だが確実な変化は現れており、雪奈の顔には徐々に冷や汗が滲み出ていた。そして―――

 

 

「あぁああああああああああ!!!」

 

 

 それが一気に爆発する。雪奈は思いっきり立ち上がり、奇声を上げた。そのあまりにも突発的な状況に全員が耳を塞ぐことしかできなかった。

 

 

「ヤバいそうだった!!ポケモンのことで頭がいっぱいで完全にすっぽ抜けてたッ!!」

 

 

 雪奈にとって『雪奈』がバイトしていたことなど初耳の情報だったが、なんらおかしいことではない。妹思いの姉、『雪奈』。親の保険金を生活費などの必要なもの以外のことには一切使わないであろう彼女が、それ以外のお金を稼ぐためにアルバイトをしていても不思議ではない。

 そして今日は日曜日。アルバイトがあってもおかしくはない。

 

 

「あぁ~~どうしよう!昼からってことはもう3時間は過ぎてるし!かんっぜんに遅刻だどうしよう!?ポケモンショップなんて行ってる場合じゃなかったッ!!」

 

「お、お姉ちゃん落ち着いて…」

 

「これが落ち着いていられるかッ!ヤバいどうしよう?今すぐにバイト先に電話して謝罪の電話を…いやでもそもそも『雪奈』のバイト先のことなんて一切知らないし…

 

 

 雪奈が混乱状態に陥っていると、ある程度回復したのか、スマホロトムが雪奈に近づいてきた。

 

 

『ユキナ…』

 

「あ、スマホロトム!いいところに!今すぐバイト先に連絡繋いでッ!」

 

『そのことなんだけど…ユキナが眠っている間に「緊急事態のためしばらく臨時休業」と言う連絡が来ていたロト…

 

 

「「「「「「「「「――――――」」」」」」」」」

 

 

 再び世界(いえ)の時が、止まった。

 よくよく考えれば分かることだった。このポケモンが現れるという緊急事態。ほとんどのお店が閉まっていてもおかしくはない。『雪奈』のバイト先もその影響化にバッチリ入っていた。そしてその静寂を破ったのは、雪奈自身だった。

 

 

「それを先に言えやッ!!」

 

 

 雪奈の理不尽な拳が、スマホロトムを襲った。

 

 

『理不尽ロト~~ッ!!』

 

 

 ちなみにこの後、ルカリオ、サーナイト、ゲンガーの仲裁が入って雪奈は正座させられながら氷花からの説教を受けた。

 

 

 

 




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