「―――と言うわけで!八つ当たりは駄目!分かった!?」
「分かりました…。申し訳ありません…」
人生三回目の女(男)、今現在正座で説教され中。しかしその地獄もようやく終わりを迎えた。
氷花の説教はとても長く、どこぞのロリ閻魔かと思ったほどだ。それにしても足がもう限界を迎えていた。今すぐにでも足を開放したい。
「ゲゲゲゲゲッ」
『ロトトトトッ』
横でスマホロトムが、雪奈の影に下半身を埋め込んでいるゲンガーが笑ってくる。だが、耐える。ここで怒れば説教がさらに長期化する恐れがあるからだ。
「分かればいいのッ!焦る気持ちは分かるけど、それを八つ当たりしちゃ駄目ッ!」
「はい…」
「ふぅ…。これでお話はおしまい。それにしても…麺伸びちゃったね」
説教を終えた氷花が、テーブルの上に置かれている【白い狐】と【黒い狸】のカップを見る。中にはまだ麺が残っており、完全に伸びていた。
「……仕方が、ない、けど、食うしか、ない、な…」
プルプルと体が震え、四つん這いになっている雪奈。足が限界を迎え、立とうとすると痺れが体中を走り、少しの衝撃だけでも逝ける気がしていた。
氷花はそんな姉の様を見て「少しやりすぎたかな…?」と思うも、その考えをすぐに払拭して雪奈の発言の方に気を止めた。
「えっ、もう伸びちゃってるし、捨てるしか…」
「いや、捨てると、ビクトリー系の技が来そう…。俺も、何言ってるか、正直、良く、分からん、けど…」
「――――?」
「とにかく、もったいない、から、食う――」
『ブースト
スマホロトムの叫びとともに、スマホロトムの手が雪奈の足裏を刺激する。足裏を始めとし、全身に衝撃が駆け巡る。そしてやがてそれは――、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」
悲鳴へと変わる。足裏を押さえ、タマザラシのようにリビングをゴロゴロと転がる。雪奈のポケモンたちが心配そうに駆けよるが、左右に転がり続ける雪奈に対し、何もできていない。
『やったロト~!仕返し完了ロト~!』
『ゲンガッ!!』
「ロト、ム、てめ…ッ!」
『ボクに八つ当たりしたこと。【白い狐】を食べ残したこと。そのせいでユキナに創世の神様から天罰が下ったんだロトッ!』
「今の…どう見たって…お前の私刑だろう、が...」
全く意味の分からないことを言うスマホロトムに、恨み言を吐く雪奈。雪奈の足裏に"いやしのはどう"を放ってくれるサーナイトの優しさが染みわたるが、残念ながら足の痺れは長時間の正座による足の血流障害であるため、"いやしのはどう"は無意味に終わる。
「クラボ…クラボのみは…ユキノオーと、ゲンガーの、腹の中…」
唯一この
「ははっ…まぁこれでお相子様ってことで、片づけちゃうね。今の状態じゃ食べれそうにないし…」
氷花は残っている【白い狐】と【黒い狸】を捨ててしまった。
「あぁ~…まだ、食ってなかったのに…」
『これは仕方ないロト。このことを反省して、次に活かすロト』
「くそ、が…」
スマホロトムがウザく見えるが、こればかりは自分が悪いためなにも言えない。元々スマホロトムは雪奈を落ち着かせるための行動を取っただけであり、それに逆切れした雪奈に問題がある。それにここで反論してもさらに説教が長くなるだけだ。
『さて、それじゃあボクはスリープモードに移行するロト。ゲンガー、手伝ってほしいロト』
「ゲンガッ!」
雪奈が動けないことをいいことに、自由行動を始めたスマホロトム。と言っても、それはすぐ終わる。ゲンガーが手に持ったのは、スマホの充電器だった。スマホロトムに充電器が装填され、そのままスマホロトムは息が切れたかのように動かなくなる。睡眠なのか、食事なのかは分からない。だが体が100%プラズマで出来ているロトムならば、その両方である可能性もある。
「ゲゲゲゲゲッ」
そしてそのゲンガーも家具の影を利用して影の中に完全に潜ってしまった。ルカリオとサーナイトの口からはため息が零れ出た。さっきのアレは意味がなかったと。でもこれが何度もループしているからもうなにも言わない。
「じゃあお姉ちゃん。私先に部屋に戻ってるからね」
「ピーカチュ~!」
「イ~ブイ~!」
片づけを終えた氷花もピカチュウとイーブイを肩に乗せて、リビングから出ていく。冷たいときにはとことん冷たい妹であった。
そして最後に残ったのは雪奈と雪奈のポケモンたちだけである。
「る、ルカリオ...サー、ナイト...俺のこと、部屋まで、運ん、で...」
未だに足の痺れで動けない雪奈の唯一の移動手段は運んでもらうこと。二匹は困り顔になりながらも潔く了承してくれた。ルカリオが雪奈の体を"サイコキネシス"で浮かべ、そこをサーナイトがお姫様抱っこをする形で持ち上げた。
「うーん...やっぱり、恥ずい」
「サナッ」
二度目の人生の際、この二匹にはよくベットまで運んでもらった。リビングなどで寝落ちすることが多々あった彼は、常にこの二匹にお世話になっていた。
そしてずっと顔を下にしていたから分からなかったが、既にユキノオーとリザードンの姿がない。机にモンスターボールが転がっているのを見るに、既にボールに戻った後だろう。
ルカリオにボールを持ってきてほしいと命じ、モンスターボールが入っていた箱に分たちのモンスターボール含むユキノオーとリザードンのモンスターボールを入れ、手に持った。
サーナイトは笑顔を見せると、ルカリオとともに歩き出し、リビングの扉を開け、廊下に出る。出た途端、キョロキョロと周りを確認する。
「…どうした?」
「…サナッ…」
「オウッ…」
二匹は困り顔で雪奈の顔を見た。最初は意味が分からなかった、すぐにその意味が分かった。そう、二匹は雪奈の部屋の場所が分からない。雪奈にとっても、二匹にとっても、今日初めて来た家。部屋スタートだった雪奈はともかく、二匹に雪奈の部屋を知る由はなかった。
「そっか…場所か…。えっと、まず、階段上って…」
雪奈の指示を聞き、二匹は歩みを開始する。そして雪奈の部屋の前まで到着し、扉を開ける。
「ルオッ…?」
「サナッ…?」
『雪奈』の部屋に入ったとき、二匹の口からこぼれ出たのは困惑の声だった。なにも、なさすぎる。主が男だった時の部屋はもっとゴチャゴチャしていたのに、この部屋は真逆だ。趣味の一つが分かるくらいのものが、自室には置いてあってもいいはずだ。だとしても、この部屋にはそういったキャラクターグッツすら見受けられなかった。ベット、勉強机、タンス、ドレッサー、棚、本棚、エアコン。それで全てが完結していた。
「ベット、まで…」
「サナッ」
ルカリオが勉強机にモンスターボールを置き、サーナイトが雪奈をベットに寝かせると、雪奈は大きくため息をついた。ようやくひと段落ついて、気が緩んだ。
「お前らも驚いたか...?この部屋なにもなさすぎるんだよな...。趣味の一つや二つ全面に押し出してもいいはずなんだけどよ...」
この部屋を最初に見たとき、困惑が隠せなかった。こんなに何もない部屋、今まで見たことがなかった。部屋と言うのは個性を表に出す場所だ。だというのにこんなに何もないと、個性がないみたいに思える。
「だけど...この体の記憶の一部を、思い出して...熱が出た。『雪奈』と氷花は...両親を亡くしてる」
「「―――ッ!!」」
「だから唯一の肉親である氷花を養うために『雪奈』は通ってた高校を辞めて、通信高校に転校して、日々のほとんどをアルバイトに費やしてる...」
高校中退と通信高校への転校の記憶。これはついさっき思い出したことだ。アルバイトをしているという事実がトリガーとなったのか、アルバイトに関係する記憶がなだれ込み、ついでに高校云々の記憶も思い出した。これでまた、最初の気絶までとはいかないが頭がクラクラしていて、立てなかったもう一つの理由である。
「それがこの部屋がこざっぱりしてる理由だろう。自分に費やす余裕がなかったんだ」
「サナッ…」
「この分じゃ、自分の体も顧みなかったんだろうな…最初はあんま感じなかったけど、意識すると疲れが…」
雪奈の瞼がどんどん重くなってくる。朝から今までそんなことはなかったというのに、急に疲れが現れた。怪我と同じ原理だろう。例え怪我をしていても、「怪我をしている」と意識していなければ痛みを感じないのと同じ原理だ。『雪奈』のアルバイトによる疲労が、今ここで来た。
「俺…寝る、から…この部屋、いろいろ探索、してみて…。なんか気になるもんあったら、教え、て…」
その言葉とともに、雪奈は眠りについた。
* * * * * * * *
「ん...ッ」
雪奈は目を覚ます。壁にかけられている時計を見ると、既に7時を過ぎていた。寝たのが4時頃だったため、大体3時間ほど眠っていたことになる。しかし、布団を体にかけて寝たはずなのに、布団が地面に落ちていた。寝相が悪かったのだろうか。キョロキョロと見渡すと、中心に置いてある楕円状のテーブルに、数点の物が置かれており、そのテーブルを囲むようにルカリオとサーナイトが座っていた。ちなみに、何故か息切れをしているように見えた。
「あ、おはよう...じゃなくて、もうこんばんわになるな...。それにしても、布団がズレてるから、かけ直してもよかったんじゃないか?」
「ル、ルオッ、ルオッ...」
「サ、サナサナッ」
二匹はなぜか焦っているように見えたが、言っていることが分からないためそのままにした。雪奈はベットから出て、机に置いてあるものに目を通す。その中にある一つを、手に取った。
「えっと、これは...」
雪奈が手に取ったのは、長方形の写真立て。そしてその中には一枚の写真があった。写真に写っているのは、2人の男女と2人の少女だ。青い目を持った背の高い青みのかかった銀の女の子と青い目の背の小さい銀髪の女の子はワンピースと動物の耳のカチューシャを着けていた。幼いころの雪奈と氷花だろうか。であれば、この2人の男女は――、
「『雪奈』の、両親...」
まず間違いなく、雪奈の両親だろう。特に女性の方。雪奈と氷花にとてもよく似ており、銀髪で青い目と言う、日本人離れした容姿を持つ美人女性だ。そしてデカい。二人とも遺伝したのだろう。男性の方は特にイケメンと言うわけではないが、少し目つきの鋭い男性だ。姉妹ともに母親の遺伝子の方が強く、彼の遺伝子が確認できるところと言えば雪奈の少しだけ鋭い目つきだ。
母親がどう見ても日本人でないため、ハーフだということが分かる。
「お父さん...可哀そうに...」
無意識に口からこぼれ出る。自分の子に自分の要素がなかったら、自分だってすごく悲しむ。一度目でも二度目でも、子供を持ったことはないのだが。
「サナッ」
すると、サーナイトが分厚い本のようなものを開いた状態で雪奈に渡してきた。雪奈はそれを受け取ると、それがどういったものなのかをすぐに理解した。
「【卒業アルバム】か...小学校のやつだな」
サーナイトが渡してきたのは、小学校の卒業アルバムだった。サーナイトはご丁寧に雪奈が所属していたクラスのページを開いてくれており、すぐに確認することができて――異変に気付いた。ごく当たり前の、異変。
「『雪奈』だけすっごく目立つな、これ...」
卒業アルバムに写されている、雪奈のクラスメイトの顔の写真。しかし、それらの男女全てが黒目黒髪だ。雪奈だけ銀髪碧眼と言う明らかに日本人離れしている容姿のため、すぐに目が行った。
そもそも当たり前のことだが、日本は黒目黒髪が主流だ。それ以外は全て外国人。雪奈と氷花の容姿とここが日本であるということで、すぐに気づくべきだった。ここは、色々な人種が当たり前に共存しているポケモンの世界とは、別の世界なのだ。
「じゃあ、中学校の方も...」
「グオッ」
ルカリオが中学校の卒業アルバムを渡してきた。ページが既に開かれている状態だったため、すぐに確認することができた。案の定、雪奈の写真にすぐ視線がいった。他のクラスメイトは全て黒目黒髪。小学校のころとは違い成長している雪奈の写真を見るが、そこに笑顔はなく、真顔だった。
「――――」
雪奈はゆっくりと卒業アルバムを閉じる。ここにきて、『雪奈』の精神状況を嫌がおうでも理解してしまった。周りと明らかに違う容姿、これだけで小中とどんな学校生活を送っていたのかが想像できてしまう。言葉にできないほど辛く虚しい生活だったのかもしれない。頼れる人間は家族のみ。そしてその家族も死んでしまった。残ったのは妹だけ。なんて悲しすぎる人生だ。
「はぁ…見ていられねぇ…。寝起き早々に嫌なもん見た…」
「サナッ…」
「ルオッ…」
雪奈の言葉に、ルカリオとサーナイトが悲しい顔をした。寝起きのトレーナーに、気分が悪くなるものを見させてしまったことを悔いているのだろう。それを見て、雪奈は慌ててフォローする。
「いや、お前たちは全然悪くない。気になるものがあったら教えてくれって言ったのは俺だ。だから気分が悪くなったのも全部俺の責任だから、お前たちが気に病む必要はないんだ」
雪奈の言葉に、二匹は笑顔を取り戻した。すると、見計らったかのようなタイミングで雪奈の部屋の扉から、「コンッコンッ」とノック音が鳴る。「誰だ?」と聞くつもりだったが、入ってくるのにここまで丁寧なことをするのは、この家で一人だけだ。
「お姉ちゃん、入っていい?」
「いいぞ」
了承すると、氷花がピカチュウを肩に乗せ、イーブイを抱き抱えて扉を開けて入ってきた。扉を閉めると、楕円形の机の前に座った。
「それで、どうかしたのか?あ、もしかして晩御飯?昼飯結構遅い時間に食ったけど、ほとんど食べてなかったから嬉しい――」
「違うよ。お姉ちゃん、一緒にお風呂入ろ?」
「―――え?」
氷花の
「ほら、ピカちゃんもブイちゃんもお風呂に入れないといけないから、どうせなら一緒に入ろうと思って!」
「いや…ほら、ただでさえお風呂は狭いし、ピカチュウとイーブイも入るんだろ?それに高校生二人が一つの湯舟にってのは無理があるんじゃ…」
「大丈夫だよッ!それに今だって時々一緒に入ってるじゃん!」
「そうなの!?あ、いや、そうだったな…」
あまりにもなカミングアウトに思わず口を滑らせた。あまりにも満面の笑みで答えるからつい素が出てしまった。氷花は首を傾げて「?」マークが出ていた。
「お姉ちゃんなに言ってるの?」
「あ、あぁすまん…。でも、いいんだぞ?俺は一人でも入れるし――」
「え~入ろうよ~」
氷花が上目遣いで言ってくる。これに雪奈は墜ちそうになるが、どうしても入れない理由があった。そう、普通に緊張で死ねる。見た目は美少女でも中身は20代の男。自分の体でも欲情してしまったというのに、ここで妹の裸まで見てしまったら耐えられる自信がない。ここはなんとしてでも断る必要があった。
「うっ…で、でも…」
「ねぇお願い。最近は一緒に入ってないから、いいでしょ?」
「う、うん…分かった…」
雪奈は了承してしまった。氷花の甘えるような声と可愛さで、つい言葉が出てしまった。雪奈の了承が聞けて、氷花は柔らかな笑みを浮かべた。
「やったッ!じゃあもうお風呂湧いてるから一緒にいこッ!」
「えっ、今すぐ!?」
あまりにも準備が良すぎて、逃げ道を失った。もうルートは一つだけになってしまった。ここにきて自分の選択を後悔した。ちゃんと粘って最後まで断るべきだった。
「それじゃあ、すぐにいこッ!」
「えっ、あっ、ちょっ!」
雪奈は氷花のもう片方の手に引かれ、お風呂へとその足で向かうことになった。
同時に気付かなかった。ルカリオとサーナイトが、こちら側を睨むように見つめていたことを。
* * * * * * * *
「それじゃあ入ろっか」
「そ、そうだな…」
着替え場に入り、真っ先に氷花は服を脱ぎ始めた。その際にブルンと揺れる大きなモノと欲情を掻き立てるような下着が目に映る。
(おおおおお落ち着け俺…これは不健全なものじゃない。ましてや男女の入浴ではない。これは姉妹同士のコミュニケーションのための場…。だからやましいことは何もないんだ…)
そう思いながら心のメンタルを保っているが、既に限界の防波堤に近かった。と言うか後一撃入れられたら理性が崩壊しかねない。だがそんなことお構いなしに氷花は服の方も脱ぎ始め、下の方の下着も露わになり、思わず雪奈は顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。
(ヤバいエロ過ぎる…!このまま進んでいいのか?なんか俺の男しての大事なプライドが失われかねないような気がする!?)
氷花は半裸だというのに、その破壊力はエグ過ぎた。元より誰もがうらやむようなモデル級の美少女なのに加えて、抜群のプロポーションと庇護欲をそそられる魅力が合わさり、まさに男の理想通りのような女性だ。これで裸まで見たら決壊どころの話ではなくなる気がする。
「どうしたのお姉ちゃん?なんで脱がないの?」
氷花が不思議そうにこちらを見てくる。無理もない。これからお風呂に入るというのに脱がないのはおかしい。氷花の足元にいるピカチュウとイーブイも不思議そうにこちらを見つめている。
「ご、ごめんな?すぐ脱ぐから」
雪奈も慌てて服を脱ぎ始める。上半身、下半身ともに服を脱ぎ、下着だけの状態になってようやく冷静になれた。
(あっ…)
ここまで来ては仕方のないことだが、やはり他人の体で、しかも異性の体で全裸になるのは流石に罪悪感が込み上げてくる。しかしもう後戻りはできない。雪奈は恐る恐る下着に手をかけた。
「…お姉ちゃん、遅い」
氷花から不満の声が漏れる。再び軽く謝罪をしようと顔を上げると――見てしまった。彼女の裸体を。上も下も。敢えて言うなら、上はデカくて下は綺麗だった。再び顔を逸らして、興奮を抑える。
(クソッ、なに興奮してんだ俺!収まれ収まれ!これ以上はいろいろ不味い気がするッ!)
なんとか興奮を心の中で抑え込みながら、雪奈も下着を脱いで互いに裸になる。その際に氷花と同じように大きな乳が揺れ、下の方もツルピカだったとだけ言っておく。
(うう…興奮と恥ずかしさと罪悪感で滅茶苦茶変な気分だ…)
女性経験皆無なことによる興奮。裸になっているという恥ずかしさ。そして体の持ち主への罪悪感で雪奈の心はテンパっていた。それにしても姉妹同じで下がツルピカとは思わなかった。剃ってるんですか?それとも生まれつきなんですか?そんなこと聞けるわけがない。デリカシーがなさすぎる。
しかし氷花はそんな雪奈の考えなどお構いなしにバスルームへの扉を開けた。
その奥に広がっていたのはこじんまりとした一般家庭のお風呂だった。成人男性が背を付きながら体を伸ばしても問題がないくらいには大きいお風呂。そしてその隣にはバス用のチェスとボディーソープにシャンプー、リンスが複数あるのが分かる。
「それじゃあピカちゃんブイちゃん、体洗おっか」
「ピカッ!」
「ブイッ!」
氷花がチェスに座り、プラスチック洗面器でお風呂からお湯を掬ってゆっくり優しく二匹にお湯をかけていく。ピカチュウはともかく、全身が毛で包まれているイーブイはお湯を大量に吸収し、とてもスリムな見た目になった。
「えっと…ポケモンって、人間用のボディーソープでも大丈夫かな?」
「う~ん…どうだろ?俺もそこらへんはよく分かってないんだよなぁ…」
興奮と羞恥と罪悪感の感情を抑えこみ、平然となるように会話をする。
雪奈は人間との会話では失敗することはよくあるが、ポケモンに関する話題なら他の感情を投げ売ってでもペラペラ話せる。それくらい、雪奈はポケモンのことが大好きだ。
しかし氷花の質問になんて答えればいいのか謎だ。二度目の時ポケモンを洗う時は既にポケモン用のボディーソープが売られていたため何も考えずに使っていたが、いざとなるとすごく困る。ポケモンに人間用のものを使ってもいいのだろうか。
「ポケモンは犬とか猫とかと違って丈夫ではあるけど、どうだかな…」
「そこらへん全然考えてなかったね…」
「上がったらロトムに聞いてみるか…」
スマホロトムなら何か知ってるかもしれない。そう思いながら入ったときに出していたシャワーがお湯になったため、全身にかけていく。
「やっぱり、泡で洗わないと洗った気がしないな…」
「今回ばかりは仕方ないって。これを次に活かそう」
「そうだね」
今回ばかりはお湯でのみ、二匹を丁寧に洗っていく。少し大きめの洗面器にお湯を張ってその中にイーブイを入れる。手でお湯を掬い、少しずつお湯をかける。イーブイは気持ちよさそうに鳴いている。
「イッブ~イ…」
「気持ちよさそうだな」
「そうだね、とっても気持ちよさそう」
手でイーブイの毛と皮膚をもみながら洗っていく。すると、シャワーを浴びていた雪奈の足をピカチュウが軽くつついてきた。
「ピカピカッ」
「どうしたピカチュウ?……あぁ、お湯が欲しいのか?ちょっと待っててな」
シャワーの威力を少し弱めて高いところからピカチュウにお湯を振りかける。ピカチュウは「チャァ~」と鳴き声を上げながら自身の小さな手で体を擦っていく。
「ははっ、可愛い奴め」
「そうだね~」
愉快な声で、雪奈の言葉に賛同する。そしてしばらくこの状態が続き、ようやく終わった。洗面器から持ち上げられたイーブイの体は、お湯を吸収しているためとても重い。氷花がタオルでイーブイの顔周りだけを拭くと、イーブイは体を震わせて水を弾いた。
「うわぁッ!」
「ちょ…」
「ピカッ!?」
水しぶきが辺り一面に飛び散り、二人とピカチュウが犠牲になる。体からある程度の水分を放ったイーブイの体はボサボサだ。
「も~ブイちゃんったら~」
「ブイ~ッ」
氷花が胡坐をかいてイーブイを抱き上げてギュッと抱く。その際に氷花は全裸のため二つの大きな山にイーブイの体が埋もれていた。とても羨ましいと思った。
「ふぅ。ほら、次は氷花の番だぞ?」
「ありがとう」
雪奈は氷花にシャワーヘッドを渡し、ノズルを捻ってお湯を出した。氷花は膝にイーブイを乗せたまま体を隅々まで洗う。そして髪を濡らすとシャンプーを出して、髪につけて髪を洗い始めた。
(よしっ。この隙に…)
氷花が髪を洗っていて前が見えていないこの状況を待っていた。今ここにあるシャンプーとリンスは4セット。どう見ても家族分だ。この家は自分専用のものを決めて使っているのだろう。もしここで選択肢を間違えれば氷花に不信感を持たれる。そう考えた雪奈は氷花が髪を洗って視界が不良な時を狙ったのだ。
氷花が選んだ1セット以外の内、適当に選んでシャンプーを出し、雪奈も髪を洗う。雪奈の神はロングのため、洗うのにとても時間がかかる。男の時は普通に短髪だったため、髪が長いと苦労するというのを改めて実感した。
すると隣からシャワーの音が聞こえ始め、氷花が髪を洗い流していることが分かった。
「氷花、終わったらシャワー貸して」
「分かった。ちょっと待っててね………はい」
氷花からシャワーヘッドを渡され、髪を丁寧に洗っていく。お湯が入らないよう目を閉じながら、髪から泡を綺麗に落としていく。やがて全ての泡を洗い流し、近くに置いたタオルで顔を拭く。チラリと氷花を見ると、氷花は既に手のひらに大量のリンスを出して、丁寧に髪につけていた。
(よしここは…)
雪奈は氷花に見えないようにシャンプーとリンスを隠すように移動して、出来るだけ早く適当にリンスを出した。雪奈は髪が長い分、少量でも泡出つシャンプーとは違い、大量のリンスが必要だ。そのままリンスを髪に馴染ませ、丁寧に丁寧に付け込む。前のように大雑把にやっていたら、こんなに綺麗で質のいい髪が傷んでしまうため、当然の配慮だった。
やがて手にあった大量のリンスも全てなくなり、洗い流そうとするとシャワーはすでに氷花によって使われていた。仕方なく待って、氷花が使い終わると同時に声をかけてシャワーをもらった。リンスを全て洗い流し、タオルで顔を拭く。
「さっぱりしたね。それじゃあ入ろっか」
「そうだな…」
氷花はイーブイを、雪奈はピカチュウを抱えて湯舟に使った。流石に二人一気に入るとお湯があふれ出て、勢いよくお湯が流れ出る。それに少し狭い。だが、とても気持ちいい。
「あぁ~~」
「気持ちいい~~」
「ビカヂュ~~」
「ブイ~~」
それぞれがそれぞれの感想を口にし、暖かいお湯に身を包める。ピカチュウとイーブイは雪奈と氷花がしっかり抱えて、顔がお湯に浸からないようにするためだ。
しばらく浸かっていると、イーブイが音を上げた。どうやらのぼせる寸前まで来たらしい。
「ブイ~…」
「ブイちゃん、もう限界?じゃあ上がろっか。ピカちゃんはどうする?」
「ピカチュ」
ピカチュウもどうやらもう上がるみたいだ。ピカチュウは氷花の元までバタ足しながら近づくと、そのまま氷花に抱き抱えてもらった。氷花が湯舟から立ち上がり、出る。
「それじゃあお姉ちゃん。私ピカちゃんとブイちゃんの体乾かすから、一人でゆっくり浸かってて」
「分かった~」
氷花が着替え場まで行くのを確認すると、雪奈は肩の力を抜いた。
「はぁ~~…疲れた…」
今日一日、怒涛の展開だった。なぜか美少女の体に憑依しており、急に世界中にポケモンが現れ、ポケモンショップに行って、目立って、食事して、叱られて、そして妹系美少女と一緒に湯舟に浸かる。
普通では体験できないことが一気に起こった一日だった。
「どうしてこうなっちまったんだろ…」
湯舟の
そもそも一度目の人生で創作物のはずであったポケモンの世界に転生したことでさえも異常なことだった。10歳で旅をして、普通に生きていれば出会えないようなポケモンにも出会って、バトルして、勝って、負けて、寝て、食べて、笑って、悲しんだりした旅だった。そして土地を買って今まで捕まえたポケモンたちとともに暮らすことを選んだ。それだけで、十分だったのに。
(やっぱこんなことできるの、アルセウスくらいだよな…)
自分のこの憑依の元凶にして、ポケモン出現の黒幕として真っ先に上がった存在が【アルセウス】だ。アルセウスは始まりの存在。全ての生命はアルセウスから始まったと言っても過言ではない。アルセウスが、世界を創ったのだ。シンオウ地方が出身だったため、歴史にはある程度自身があったし、何より前世の知識でそれを知っていた。
(世界創れるんだし、世界創りかえることができても不思議じゃないよな…。でもそうだとしたらなんでそんなことをした?なんで俺をこっちの世界に?)
いろいろと考えて、頭がごちゃ混ぜになる。だがここで考えても意味がないのだ。現状最も現実的な考えがそうであるとはいえ、断定はできない。だからいくら考えたところで答えにはたどり着けない。
雪奈が考えを放棄していると、隣から聞こえてきていたはずのドライヤーの音が聞こえなくなった。どうやら終わったようだ。扉を開ける音と、「ピカ~ッ!」「ブイッ~!」と言う声が聞こえて、遠くなった。
その声が聞こえなくなると、氷花が扉を開けて入ってくる。
「お待たせ。待った?」
「待ってないよ。それに、待ち合わせじゃないんだからよ」
「ははっ、いいじゃんそれくらい」
氷花が笑いながら湯舟に浸かる。肩まで浸かり抜けた声が響く。
「今日はなかなかに大変な一日だったねぇ」
「あぁ、そうだな」
「でもまぁ私にとってはいい一日だったよ。だって家がこんなに賑やかになったんだもん」
「……そうだな」
少し暗い声で、そう返した。この姉妹にとって、ここまで愉快で大人数で、楽しい日々はいつぶりだったのだろうか。雪奈はこの姉妹が二人きりになったのが、両親がいつ死んだのかまでは把握していない。だから氷花の悲しみの総量が分からない。
「それに、お姉ちゃんもとっても明るくなったし」
「えっ、そんなに?」
「それはもちろんッ!だってお姉ちゃん、昨日までは家でもほとんど無口だったから…」
「あぁ……」
その時の雪奈の精神状況が良く分かる。おそらくだがその日もバイトで疲れていたはずだ。妹のために通信高校で勉強しながらアルバイトに励んでいれば、肉体にも精神にも限界が来る。唯一の家族との時間も作れないほど、ハードスケジュールだったのかもしれない。
「やっぱり賑やかになったからかなぁ。それにこんな事態になったし時間も余ってるから、心にも余裕ができたって感じかな」
「やっぱり無理してたんだね。……やっぱり私も通信高校に転校して、バイト始めた方がいいよね?」
「いや、氷花はいいんだよ。そんなことしなくて」
「嫌だ。お姉ちゃんが私のためにそんなに頑張ってくれてるのに、私だけこんな楽してるなんてって…辛かったんだからね?」
心配そうにこちらを見てくる氷花。やはり家族だからだろうか。それとも分かりやすいだけなのかもしれないが、なんでもお見通しだった。まぁ自分だけ高校に通って友達と遊んでいるのに対し、姉は通信高校で日々アルバイトをしてお金を稼いでいるなんて状況、心配しない方がおかしいだろう。
「…心配かけて悪かったな。でも大丈夫だから。きっと」
「……その最後の言葉で信用なんてできないよ。言うならちゃんと言ってよね」
「ははっ、悪かったって」
とりあえず今はこの状況を、風呂の時間を甘んじて受け入れよう。これからのことなど、その後にまた考えればいい。肩まで浸かってだらけていると、ふと氷花からこんな言葉が投げかけられた。
「やっぱりお風呂っていいよね。気が緩んで、なんでも喋っちゃう」
「…そうだな~…」
「だからさお姉ちゃん。一緒にお風呂入るのはもう小学生の時以来だけど、一緒に入って本当に良かった」
「そうなのか……って、え」
氷花の言葉に、雪奈は思わずフリーズした。一緒に入ったのが小学生以来?だが氷花はさっき部屋で時々一緒に入っていると言っていた。じゃあつまりアレは嘘だったってこと。何故?なんのためにそんな嘘を?混乱で頭が支配されて、何もできずにいたとき、氷花はゆっくりと立ち上がった。
「やっと明確なボロを出してくれたね。ここまで誘導するのも、案外早くてビックリだよ」
「ひょ、氷花…」
「だからね、私もう一つあなたに聞きたいことがあるの」
両手で風呂の
「あなた、誰?」
どこまでも冷たく乾いた氷花の声に、無意識にヒュっと、息を飲んだ。
今回はここで終わりになります。
なんと、氷花には実の姉でないことがすでにバレていたという衝撃展開。次回、どうなるのでしょうか。お楽しみに。
【白い狐】とか【黒い狸】の元ネタって、分かるかな?ヒントは龍狐の一番大好きなものだよ。
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