あのパンクラチオンを夢に見る   作:マリーザの姉御が嫌いな奴はおらんのよ!!

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#3 『大人』

「全生徒は私の指揮下に入るように! 指揮を開始する!」

 

 先生の号令一下、彼女らは途端に規律正しい軍隊のように動き出した。

 

「ヒナ! ミカ! 牽制しつつ上げて! ツルギ! ミネ! 前へ!」

「後方! アコ、強化をミカに! チナツはツルギに強化を! マリー、ミネに付与! セリナは待機、即効性救急キット投下準備!」

「それと……ハスミ! ヒナタ! ウイを連れてきて欲しい! 彼女の力も借りたい!」

「もう呼んでますし、来てます!」

「急に担がれて……な、なにごとかと……思ったら……!」

「ウイ! ミカにアレ、行ける!?」

 

 先生がタブレットから展開される蒼い光を叩き、覗き、時にスライドして、常に声を上げ続ける。

 

「それと……『プラナ』!」

「はい。指示を」

「『箱の火力装置の権限を譲渡する』! 火力支援を行って!」

「了解しました。全て先生のご指示の通りに」

「『アロナ』!」

「はいっ!」

「……いざという時は頼んだよ!」

「もちろんです!」

 

 それを見ながら、リイザは笑うしか無かった。とんでもない指揮能力だ。先程までは強い仲間意識の元に戦略的行動が取れていなかった生徒たち、それ故につけ込む隙があった彼女達の動きが『犠牲を是認する』……違う、『如何に被弾しても犠牲は出ないと確信している』動きに変わったことで要塞のような壁に変わった。

 

「ちと舐めすぎたか? ……まぁ、いい」

「なにをする、つもり!?」

「なに、風紀委員長さんよ。チェスは好きか? 将棋は?」

「まさか……! やらせるつもりはないわよ!」

「その気持ちが、チェックに繋がるのさァ……行くぜ?」

 

 要塞に陣取る軍に対する逆転の一手は、いつだってただ1つ。

 

「王を取れば勝ちだって決まってんだよなァ!!」

「させない……!」

「狙撃手か……そろそろ痛ェ目、見てもらおうじゃねぇの」

「なにを……!?」

「イヤッハァァァァァァッ!!!」

 

 豪脚という言葉を超えた激打を、『建物の壁に叩き込む』。リイザはさらに大きく跳躍し、建物の影に消え……

 

 ズゴンっ!! バギャァッ!! 

 

「嘘だろう? まさか!」

「先生! 不味いぞ! 『崩落する』……いや! まさか、まさか!!」

「とにかく、避難を! 先生! こちらへ……」

「ダメだ! 彼女の狙いは……! こっちへ!!」

 

 セイアが手を引き、ナギサと共に駆け出す。その方面へ、みんなが同時に走ったその瞬間。

 

「やぁマヌケども! ストリートファイトをしたことは? 怖くてやったことねぇか? 合言葉はいつだって挑む挑まれる関わらずひとつきり、魔の世界を見せてやるよ……これはほんのちょっとのご挨拶だ」

「リイザ!!」

「先生、私の宣言を聞け……改めてだ。こっから先はバーリトゥード、殺しと自殺以外はなんでもありの最高のストリートファイトだ……まずは!」

 

 建物の上から、高らかに笑い、告げる。

 

「ドミノの時間だぜ!! 逃げ惑いなァ!!」

 

 そしてリイザが跳躍して隣の建物に移った、その瞬間。

 

 3本の支柱を失い、主柱を奪われた弾薬で時間差破壊されたことで倒れる方向を制御された学舎がゆっくりと崩れ去る。その大質量を、狙撃手の陣取っていた第2校舎に向けて預けながら。

 

『っ!!!?』

「ハスミ! マシロ!!」

「先生。落ち着いてください」

 

 先生が悲痛な声を上げ、プラナが空中に手を差し伸べた。

 

「汎用化脱出シーケンス正常起動。行けます」

「使うよプラナ!」

「おまかせを」

 

 2人の生徒がプラナと呼ばれた銀髪黒服の生徒の前に呼び出された。

 

「間に合っ「悪いが」なっ……!」

 

 次の瞬間、踏み込んだ右足が大地に亀裂を残すほどの勢いで土煙の中から現れたリイザが、拳を握り締める。

 

「それはブラフってやつでな」

「させません……!」

「ッ!!」

 

 咄嗟に構えて一発撃った彼女らの対応力を責めることはできない。強いて言うなれば、彼女らには運がなかった。

 

 リイザは天才である。

 

 見たものを、得たものを自分に生かす天才である。でなくては、ルークの格闘技を、ガイルのマーシャルアーツを、マノンの柔道を、ザンギエフのプロレスを、何よりマリーザのパンクラチオンを。

 

 その身に溜め込み、全て己の糧とした、求道の体現。

 

 そんな天才の前に、聖園ミカと剣先ツルギ、そして空崎ヒナ……こう言い変えようか。

 

『己の神秘を引き出すことができる天才』が立ち塞がると、どうなるか。

 

 こうなる。

 

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおるぁぁぁぁぁァァァァァァァッ!!!!!」

 

 心臓近くに弾を2発、しかしながらも頭上に輝く月桂樹の冠のようなヘイローが輝きを増すことでそれらはリイザに力を齎す糧となる。

 

 震脚、意図してそうなっているわけでなく、神秘が力を齎した結果としてそうならざるを得ない圧倒的な暴力による技もクソもない踏み込みひとつで狙撃手2名が後方に吹き飛ぶ。

 

 もはや思考すべきことは1つ。目の前の敵を、王を倒す。神秘を引き出し、放つ。己がたどり着いた最強の結論、パンクラチオンの師たるマリーザが生み出した新たなる必殺の一撃でもって。

 

 証明するのだ。最強とは、己であると。

 

「覚悟を、決めろォ!! 先生!!!」

「大切なあなたを守るって、決めたんだ……!」

「絶対にやらせない!!」

「っ、ミカ、ヒナ!! やめ……!」

 

 その前に飛び込んできた聖園ミカ、空崎ヒナの2人。

 

 もはや盾になろうがなんだろうが問題ないと思考。拮抗はさせない、最高の一撃でもって、カタをつけよう。

 

「【マリーザジャベリン】ッ!!!」

「【アロナ】!!」

 

 ズゴガドゴン、とでも形容すべきなのだろうか。爆音。誰もの耳を破壊する、すさまじい爆音が、世界の有り様すら変える。開放された暴力は、爆薬以上の力を秘めて世界を激震させる。

 

 肉体に溜め込んだダメージ分のバフを行う神秘、という本質を彼女は理解していない。していないが、別にする必要もない。ただ、異様に力が出る、それだけでいい。

 

「ぶっ飛べェェェェ!!!」

「ぐっっ! まだだ……! まだだよ!! リイザ!!」

 

 目の前に張られた、己の拳を受けてなおひび割れて耐える青いバリアを中身ごと殴り飛ばす。そして、地面を蹴り、最後の一撃を入れようとして。

 

「「次は私たちの番」」

 

 ミカに背後から凄まじい神秘の籠った一撃を受け、仰け反った状態の顎に同じく神秘を込めたヒナのアッパーが突き刺さる。

 

「がッッッッァ!!! ぐおぁぁぁぁァアーっ!!!」

 

 吹き飛ぶ、上空に。空は誰の領域だろうか。決まっている。翼持つ彼女らの領域であり……今はただひとり、救護を司る者の空である。

 

「喰らいなさい!!」

「まともに喰らうかァ!!」

「ひひひひ……残念だったなァ」

 

 壁を蹴り、飛び上がり……飛ばされたリイザの背面を見据えるのはツルギ。

 

「気をつけ、ってなァ」

「がっはぁっ!!」

「行きます!!」

 

 背面に撃ち込まれたショットガン、前面に撃ち込まれたショットガン、2丁のショットガンで射ち据えられた肉体が完全に空中で直線化する瞬間。

 

「救護……開始!!」

 

 ミネは盾を叩きつけ、リイザと共に空を地へ駆け、叩きつける。その首元に盾を叩き刻もうとして、右拳で盾を殴り弾かれた。

 

「喰らえェ!」

「前に習い……残念だったな」

「ちぃっ!! テメェ……アリウスの!」

 

 錠前サオリがそこからの追撃をブロックした。

 

 そして、サオリが飛び退く寸前落としたそれに、リイザは目を見開き……

 

「閃光来た!! 全弾撃て!!!」

「火器管制、オールクリア。ミサイル発射!」

「スティンガー……行け!」

「システム、アンロック。箱より展開、発射!」

 

 ミネが大きく地を蹴りつけ羽根を広げ天まで飛び退き、サオリがさらにバックステップから爆風の勢いで後退を完全に成功させつつ見たのは無論爆撃の嵐。人間大の災厄として想定された存在に、全てを叩き込んだ生徒たちは、ゆらりと煙に揺らめく影を見た。

 

「……は?」

「……さすがに、冗談もいい加減にして欲しい」

「まぁ……あの子ならそんな気はしてたかも☆」

「ひひひひ……私もさすがにアレは無理だ。とんだ回復力だな」「数時間寝てたら回復したでしょあなた」

「さぁ、なんのことやら」

 

 次の瞬間、煙を払う手。そうして楽しそうな笑みを浮かべながらこちらをやはり楽しそうな瞳で見渡しているリイザに、先程の戦闘狂の雰囲気はない。

 

「くは……ははは!!」

「改めて聞くけど、降伏のつもりは?」

「いやー、リザインするつもりはねぇんだがさすがに私の負けだなコイツは! 負けたぜ負けた! 素晴らしい闘いだった!!」

「素晴らしい闘い、ね……リイザ。君から話を聞きたいんだけど」

「へぇ……いいぜ、こんだけしてもらったんだ、質問くらいなら答えてやらねぇとな」

 

 吹き飛んだ時に受身を取れなかったせいで微妙に腰を痛めているのか腰を抑えている先生は口を開く。

 

「君は、どこから来た?」

「言ってんだろうがよ、『外』からって」

「それは、トリニティの外からって意味? それとも」

「先生のご想像通りってやつだよ……私もさすがに驚いた。こんな世界に迷い込んじまうとはな」

「もしかして銃を持っていなかったのって……」

「御明算、と言いたいところだが、私は肉体を使った方が強いんでな。まあさっきまでよく見たところだろうが」

 

 先生はそれを聞いて頷いた。

 

「じゃあ、なんでこんなことを? 悪意はなかったの?」

「あぁ。断言してやるぜ、悪意はなかった。ちと盛り上がりすぎただけだよ」

「盛り上がりすぎたで校舎ふたつを倒壊させるのはどうなの?」

「あぁ、それについてなんだが……コイツで支払っておいてくれよ」

 

 ポイッと投げ渡された、思ったより大きめの箱に入っていたのは、美しくカッティングされた幾つもの宝石。箱の裏側には、『MARISA』の文字が刻み込まれている。

 

「これは……」

「まさか、天才ジュエラーマリーザの宝石……こんなところでお目にかかれるとはね。先生、これ1粒をオークションにかけるといくらつくと思う?」

「一般的な宝石の原価だと……この程度?」

 

 先生が数字を作って少女に見せているが、大人びた少女……セイアは首を横に振った。

 

「その10倍は下らない。外の世界でも大人気なセレブリティ層向けのブランド物なんだそうだ。……なぜ彼女が持っているのかは分からないが」

「師匠がそれの作り主だ。ストリートファイトの結果とんでもねぇ事仕出かした時はソイツで金の代わりになるから渡すことにしてるんだよ。私は加減ができねぇからな、ま、遠慮せず貰ってくれや。賠償金って奴さ」

「だがしかし、これで済むわけがないだろう。君の身柄を……」

「いやいや、これで終わりだ。また会える機会を楽しみにしとくぜ、強者共。今日は闘ってくれてありがとな」

 

 彼女は指をパチンっと鳴らすと足をトントンと地面にぶつけて鳴らす。

 

「待て、どこへ行く気だい?」

「どこへなりと強者探しだ、また今度リベンジしに来るからよろしくな」

「よろしくな、ではない! これだけの事件を起こした罪をだな……!」

「リイザ。逃げるのはよくないと先生も思うんだけど」

「先生とやら、これは逃げじゃねぇ、撤退っつぅんだよ」

 

 軽口を叩いている中、それぞれの生徒たちが散開して彼女の身柄を拘束せんとして……

 

「じゃ、行くか! 正面に向かってェ! 全力撤退ッ!!」

「「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?」」」

「悪いがこの子の身柄はゴールまで貰ってくぜ!」

「んなぁっ!!?」

 

 靴紐を結ぶフリに手を出したミカを合図に全力のしゃがみ姿勢からのスタートダッシュ。

 

 セイアを小脇に抱え込み、全力で走る。

 

「「「早っ!!!?」」」

「外の世界でもフルマラソンギネスも50mギネスも余裕で超えてるこの筋肉から生まれる力!! 舐めんじゃねぇってな!! あーっはっはっは!!」

「ねぇリイザちゃん☆それは、それは撤退じゃなくて正面突破って言うんじゃないの!!?」

「島津の退き口という名戦術をご存知かしら?」

「そこでお嬢様口調になるの腹立つぅー!!」

 

 後続にかなりの差をつけてトリニティ学園の校門を飛び出すと、セイアの胸ポケットに小袋を突き込む。耳元に口を寄せて、

 

「ミカとかいう女の頭ブン殴った時に落ちたアクセサリーだ。師匠のとこでも見た事ねぇ上物だったからこっそり回収した……俺が褒めてたとかは言うか言わないか任せるけどとにかく渡しといてくれ、な?」

「あ、あぁ……」

「じゃ、人質ちゃんありがとよォ! またな!!」

「くっ……! せめて、もう二度と来るな!!」

 

 セイアの直感は、これからも彼女が来るだろうという嫌な予感をビンビンに受信していた。

 

 

 

 

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