あのパンクラチオンを夢に見る 作:マリーザの姉御が嫌いな奴はおらんのよ!!
「はぁ……今日は依頼がなくて暇ね」
そう呟く。私……陸八魔アルの経営する便利屋68は、何でも屋だ。まあ、武力行使の必要な荒事の依頼が7割程度だが。シャーレの『先生』とアビドスで対峙し、共に戦い、あの空中要塞を堕とし、連邦生徒会が不知火カヤに乗っ取られたと思えば解決され、なにがなんだかわからない無名の司祭だかなんだかが攻めてきて……
「ある意味、こんなことを言っていられるのが1番いい、ということなのかしら、ムツキ」
「でも暇は暇だよねぇ、アルちゃん」
「そうなのよね……経営状態は悪くないのだけれど」
以前は火の車だった経営は、無名の司祭とのキヴォトスを巻き込む大戦後に必要となった火事場泥棒に対する防衛や、それからも定期的に連邦生徒会から秘密裏に依頼されるFOX、RABBIT両小隊との連携作戦による手配犯の捕縛などの依頼により見事に好転した。
「昔の生活、今考えるとありえないよねぇ、くふふ」
「そうね……ラーメン回し食べ、懐かしいけれどね」
「生きるためとか、そんなこと言っちゃってさ。ま、あれはあれで楽しくはあったけど……戻りたくはないかな」
「カヨコちゃんの言う通り、あの頃は精一杯で、暇ではなかったよねぇ〜」
便利屋68のメンバーは、今『5名』。
社長、陸八魔アル。課長、鬼方カヨコ。室長、浅黄ムツキ。今はちょっとした用事で空けてるのが平社員、伊草ハルカ。そして、ハルカと共に現在出ているのが……っと。帰ってきたかしら?
「今、戻ったぞ。社長」
「アル様、ただいま戻りました!」
「おかえり、錠前係長にハルカ」
彼女こそ、便利屋68が誇る超大型新人にして、元指名手配犯、係長、錠前サオリ。最初は迎え入れるにしても大っぴらにできなくて臨時社員として迎え入れたのだけれど、トリニティ、ゲヘナ、アリウスが再度結集して行われた新エデン条約の締結の時に。
『私たち、新ETO体制は結成されました』
『だがね、諸君。この素晴らしい記念すべき式典には出るべきものが1人、欠けている』
『その通り。ここに本来あるべきは、アリウスの正しき代表者。故に、私たち連合は事前に定めていた。先生、お願いします』
『本日を以て、アリウスの4名の手配者を特別恩赦とし、その中のひとり、秤アツコをアリウスの生徒会長として任命し、この度の連合のアリウス代表として扱います。この決定は、連邦生徒会直下、連邦特別捜査局シャーレの局長、すなわち私が行い、正式に承認されたものになります』
ということで、逃げ回っていたりなんだりしていたアリウススクワッドに恩赦が出て追われなくなったことで、改めてサオリを係長として正式に迎え入れた、というわけ。
本来はトリニティに戻るのが筋なんでしょうけど、彼女はなんだかんだノリがいい。私たちと歩む道を選ぶのは相当……その、イカれてるのではないかと思うのだけれど。
「ハルカの運転はどうだったかしら?」
「あぁ、この前も思ったが彼女に運転はかなり向いている」
「貴女が言い出した時はどうなるかと思ったのだけれど……カヨコに教えさせてみたらすぐ上達するし極まった心配性だから事故は起きないしその割に判断力はとんでもなくあるから私が乗らなきゃ万能ドライバーなのは驚いたわ……」
「ごめんなさいごめんなさいアル様が乗られるとちょっと冷静じゃなくなっちゃって……!」
「ごめん責める気はなかったのよ、許して……」
サオリは優秀だ。荒事にかけては一級品、優れた腕で鎮圧制圧。前方への切り込みを行うハルカのカバーアップが基本的な作戦となる便利屋68に、オールラウンダーとなる彼女が加入することで、電撃戦耐久戦なんでもござれとなっているのだからその役回りは本当に大きい。あと、黒コートの私と対称になるかのように翻る白いコートはやっぱりカッコイイ。
「この前、というと……トリニティが襲撃された時の?」
「そうだな。ハルカの運転練習で近くに居たところ、銃声が聞こえたし正義実現委員会の委員長の大きな声がしたから急行した時だ。ハルカには車を守ってもらっていたんだが……まあ急行時も適切な運転だったし慌てなかった。優れた運転手だったと思う」
「そう。あなた頑張ったのね、ハルカ! 今夜は改めて運転手1人前記念に柴関よ!」
その言葉に立ち上がるムツキ、頷くサヨリ、やれやれと言いつつ口角を上げるカヨコ、恐縮しちゃうハルカ。これこそ便利屋68、いつものあり様ね! と頷きつつハルカに声をかけた次の瞬間。
ジリリリリ、と黒電話の音が響いた。
急いで取って、お決まりのセリフ。
「はい。便利屋68、陸八魔です。ご用件はなんでしょうか?」
『おぉ、繋がった。テメェが便利屋68の元締めか?』
「え? えぇ、私が社長の陸八魔ですが」
『おう、私は神楽舞リイザってもんだ。よろしく頼む。で、本題なんだが……私と便利屋68で訓練として戦闘がしてぇんだ』
私の脳はフリーズした。神楽舞リイザ。確か、トリニティ襲撃の犯人だとかいうやつ。そしてそんなやつがなぜうちに模擬戦を申し込む依頼なんてトンチキなことを……と考えつつも、口は勝手に動く。
「分かりました、日時と場所は?」
『早ければ早いほど望ましいが準備は入念に頼む。全力が見てぇからな。場所はアビドスの頭に話つけて確保した。カイザー基地跡地の金属床が残ってる部分……奥の方だな。屋外だが足場はしっかりしてるはずだ。座標データを送るから確認しておいてくれ』
「……受け取りました。では、こちらの場所に……そうですね、最も早ければ2時間後から行かせていただきますが?」
『私はもういるから、好きな時に来い。それと、弾代と今晩のメシは私持ちだからそちらの社員方にもよろしく伝えてくれ』
「よろしいのですか? ありがたいですが……」
『構わない。何度も言うが、そちらの全力に期待する。以上だ』
「期待に応えましょう。それではよろしくお願い致します、失礼します」
『あぁ、待ってるぜ』
電話を切る。集まっていた誇り高き友らに笑って、促す。
「便利屋68、今回の依頼者兼敵はトリニティ襲撃事件の犯人、ちょっと変わった模擬戦依頼よ」
「りょーかい、くふふっ!」
「はぁ……社長が決めたことだし付き合うよ」
「はい! アル様!!」
「いつでも出れる、命令待ちだ」
「えぇ、入念に支度して行くわよ!」
頼もしい社員たちだ。改めて、自分にはもったいないと思う。だからこそ、せめて彼女たちを束ねる長として、その理解者であろうと、私は何十度も重ねた決意にまたひとつ数を重ねた。
1時間後、綿密に打ち合わせを済ませた便利屋68は戦闘に耐える特殊車両を出し、走り出す。アルが乗っているから、カヨコがハンドルを握るそれは、颯爽と昼下がりのアビドス自治区を駆け抜けて砂漠へと飛び出して行った。
サオリの現状と次回予告を兼ねてたりするやつ。