あのパンクラチオンを夢に見る   作:マリーザの姉御が嫌いな奴はおらんのよ!!

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#7 『オリジナル』

 目の前に装甲車が現れ、1団の集団が降りてくるのをリイザは軽く手を振って出迎えた。先頭のワインレッドが良く似合う彼女に一言。

 

「よう、よく来たな便利屋。待ちくたびれたよ」

「はじめまして……いえ、正確にはうちの社員が世話になった、かしら?」

「おう、奥の嬢さんは2回目だな……確か、サオリっつったか」

「一応アリウススクワッドのリーダーだったが、正式にはこっちの係長の錠前サオリだ。よろしく頼む」

「係長……あぁ、確か社長課長係長室長平の5人なんだったか、便利屋68は」

 

 その後のアルのメンバーの紹介に頷いて耳を傾けるリイザは、全てを聞ききってさらに一言。

 

「会社、というにはアットホームすぎるな、テメェら……」

「アットホームな職場です、ってだいたい詐欺だよね」

「ムツキ!?」

「なんか……言いたいことは、わかるかも」

「カヨコ!!?」

 

 ちょっとだけ項垂れたアル。その背をオロオロしながら見守るハルカに笑いをこぼしつつ、リイザは此度の獲物を手に取った。

 

「さあまあ、ここに来てくれたって事はやる気満々ってことと見ていいんだよな?」

「ええと……それは?」

「見て分かるだろう、アル社長。鎖だ」

「いや分かるけど分からないのよ、それを使うの?」

 

 リイザは頷いて、両腕にゆるゆると鎖を巻き付ける。2本の鎖が彼女の両腕から垂れ、地につき、ジャラリと音を立てた。

 

「コイツは、師匠たちに会う前の私の『原点』でね」

 

 思い返すは、ひとりの少女との死合。スカジャンが似合うコールサインOOの彼女が、拳銃に結びつけた鎖を自在に操る様を見たリイザは、ふと己の原点がJPの打倒に繋がるのではと考えたのだった。

 

「原点……」

「あぁ。サオリは知ってるだろうが、私のパンクラチオンはとある師匠の教えそのものの体現だ。他にもいくつか、異なる師匠から習ったことはあるが……ま、それじゃあ私の最たる倒さねばならない壁には勝てない」

「お前ほどの者が勝てない壁、か?」

「いいや? 私だから勝てない壁、さ。分からなくても分かってくれ」

 

 リイザは全てを理解していた。JPは、『オリジナル』を知っている。マリーザのパンクラチオン。マノンの柔道。ルークの総合格闘技。ガイルの軍用格闘術。ザンギエフのプロレス。ディージェイの音楽殺法。その全ての原典を、JPは見ている。

 

 故に、所詮『デッドコピー』に過ぎない己がそれを振りかざしたところで、負ける他はないのだということを。

 

「だから、思い出す必要があったのさ」

「原点、ね……まあ、その鎖を武器にする戦法、どんなものか見せてもらおうじゃない! 便利屋68、戦闘開始準備!」

「せっかくだ、楽しもうぜ? ……コレとやり合うのは、テメェらが初めてだからよ」

 

 双方に構える。リイザは、垂らした腕の内から左手を上げ、くいっと手招きした。

 

「初手はくれてやる……来なァ!」

「ハルカ!!」

「はいっ!! 死んでください死んでください……!!」

「くはっ! 純粋な殺意だ……!」

 

 最速で駆け込んだハルカから解き放たれたショットガンの暴威に、リイザの対応はひとつ。

 

「やはり通らないか」

「じ、実際見るとこここ怖いです! でもやめません死んでください!!」

「ムツキ、ケア。社長、いけるよね? 私は前に出る」

「任せなさい」

「行くよー!!」

 

 屈強な肉体にモノを言わせ、耐える。一切身動きせずショットガンの乱打を耐える。次手、ムツキがいくつもの爆弾と、ただひとつの手榴弾を放り込み、カヨコの愛銃「デモンズロア」が手榴弾を撃ち抜いた。

 

「うぉぁ!?」

 

 爆発。閃光手榴弾を、轟音掻き鳴らすデモンズロアで打ち抜けば、五感のうち2つは奪える。そしてその隙を撃ち抜くのは。

 

「喰らいなさい」

「ぐぅぉ!!」

「どっかーん、とね」

「がァ!」

 

 もちろん、アル。撃ちはなった弾は榴弾、神秘の力で射撃そのものの威力も抜群かつ至近距離爆破の追い討ちでリイザの身体がブレる。

 

 途端、煙に飛び込むハルカの後ろからカバーするサオリ。

 

「しっ……!」

「甘い!」

「やるじゃねぇか便利屋ァ!」

 

 煙の中から舞う鎖をサオリは正確な銃の1射でもって払い除けた。煙が晴れ、それなりのダメージを受けたはずのリイザは、にこやかに笑っていた。

 

「いやほんとに、やるじゃねぇかよ……だが、耐えた。こっちのターンだ」

 

 そう傲岸に言い放つと、頭の上に浮かぶ月桂樹の冠を模したヘイローが光り輝く。

 

「オリジナルだが……アレンジも入ってる。神秘でチェーンのRemix、存分にブチ上がれ!」

「なっ……」

「なにあれ……?」

「すごーい! 鎖が生き物みたい!」

「のたうち回ってます……蛇みたいに」

「驚いたな。隠し球か?」

 

 光を受けて、両腕の鎖が空中で自在に動き出した。そして、鎖が彼女を覆うような竜巻の軌道を描き始める。

 

「さぁ……目に焼き付けろ!!」

 

 走る。最初にぶち当たるのはハルカ、小柄なのですり抜けんとするが反応速度でショットガンを向けてくる。左腕で操る鎖を振るいショットガンの下部を下から上に殴打、銃口を上へ。そのまま右手の鎖は胴体へ巻き付かせ、豪脚を叩き込む。

 

「ぐぅっ!」

「流石にチェーンデスマッチの経験は初めてかァ!?」

「させんぞ!」

 

 引き寄せる、当然チェーンなのだから巻き付け引き寄せるのは十八番だ。豪脚で離れた身体を引き寄せてさらにもう1発入れようとして、鎖そのものに再度サオリが射撃を入れたことで引き寄せる力の向きがズレる。向きがずれれば拘束も解けやすくなり、ハルカはそれを見逃すほど無能では無い。

 

 だが、それでもリイザの手中だ。

 

「テメェをハナから狙ってんだよなァ」

「なっ……」

 

 銃を撃つということは、そのための姿勢制御に行動というリソースを使うということ。即ち、最も無防備な瞬間である。ジャラリ、という音が聞こえた時には、既に彼女の左手の鎖はサオリの左足に絡みついていた。

 

「来なァ!」

「うおおおっ!!?」

「なんですってぇ!?」

 

 後ろからアルの驚く声。無視……は出来ないが、このまま戦闘続行。

 

 ムツキの爆弾は周りがいる時には使いにくい、ハルカがチェーンの先にいるならば使ってくることもあろうがサオリにはそれは酷だろうとみている。

 

 アルの狙撃は脅威だが、常に射線上に別の便利屋を置くように立ち回り、その射線が通る瞬間は可能な限り舞うように戦うサオリを盾にすることでケアする。

 

 カヨコのデモンズロアは実際凶悪ではあるが、轟音には慣れた。単なるデカい音の鳴る銃ごときではこの肉体はもう怯まない。

 

 ハルカの武器はショットガンだ。撃てば巻き込む、難しい判断を強いることが出来ているので脅威度は低い……と思った瞬間。

 

「離してください!!」

「!!」

「Shit……!」

 

 やっべ。そんな英語が口から零れ落ちる。今コイツ、サオリに当てるつもりで撃ったんじゃねぇか? そう思わざるを得ないが、しかし、事実としてサオリの救援となったショットガンはサオリを自由へと戻す。並外れた戦闘センスだ、拡散の範囲と鎖の位置から次にサオリがいるだろう座標だけを避けて撃ったのだろう。

 

 間違いなくヒステリーなところを除けば最高峰の前衛アタッカーの可能性があるな、と直感しつつ、リイザは鎖を空中に舞っていたスーツケースに絡ませる。

 

「返すぞ」

「あやっばぁ!?」

「やらせない!」

「ありがとー!」

 

 投げ返すと、アルが狙撃で撃ち抜いた。先程もやったなこれ、と思いながらリイザはアルに向かって鎖を飛ばし……

 

「もう見たわよ、ソレ」

「ほう……」

 

 回し蹴り。美しいまでのコートの翻り、鎖を側面から殴打して地に叩き落とすと、手元の銃で鎖を断ち切る。笑う彼女はこちらに向き直り一言。

 

「これでおしまいよ」

 

 リイザはにこやかな笑みを深め、そうして狂気的に頬を吊り上げた。

 

「こういうことやんの柄じゃねぇんだけどよ……あのイカレ女曰く礼儀なんだそうだ。汝の真名は身喰らう蛇、目覚めろ!」

「っ……! なによそれ!?」

 

 瞬間、ちぎれとんだ鎖が消えてなくなり、リイザの手元で再構築。

 

「紹介するぜ。ミレニアムサイエンススクールが誇るイカレ技術者集団エンジニア部謹製、人間の体内で生存し、宿主が望む時に外部に放出されて武装として展開される超特殊なナノマシン……『ウロボロス』君だ。命名はコトリ」

「つまり……体内に常に近接戦闘装備を仕込んでいたってことね?」

「あぁ。科学に頼るのも私の原点のひとつでさぁ……面倒なヤツらに気に入られたのもそれが原因なんだろうな」

 

 肉体作りから何から何まで科学を信奉し、マリーザに観念を破壊されるまでは科学信者であったリイザ。その過去を知るものは無論ないが、それでもその過去は確かにあった過去。

 

 そしてその過去はここにこうして顕在した。

 

「さぁ、見せてやるよ……増え喰らえ!!」

 

 2本が4本に。8本、16本、32本、64本……

 

「いやいやいや増えすぎよぉ!!?」

 

 128本。128本の自在に動く鎖が便利屋68の5人に同時に襲いかかった、その瞬間。

 

「っ! 社長! 後ろへ飛べ!!」

「!?」

 

 割り込んでくるいくつかの影。盾をもって立ち塞がるソレ。巨銃を鎖に向けるソレ。端末を手にして盾を見守るソレ。それらは、この砂漠の守護者。

 

「はい、ありがとね〜……ふっ!!」

「ドローン、爆撃開始……!」

「ガトリング行きます、殲滅開始!」

 

 カヨコが呟いた。

 

「アビドス……なんでここに?」

 

 盾を構えた少女が笑った。

 

「いやぁ〜、シロコちゃんが暴走しちゃって。それに……気になるよおじさんも。ヒナちゃんが一撃でぶっ飛ばされたとか聞いたらさ〜。でも最初から真正面で勝負するのもめんどくさかったからやり合い始めたら途中から割り込もっかなーとか思ってた!」

「アビドスゥ……テメェらも闘ってくれんのか?」

「もちろん……ここからはアビドスの地を踏む最強チームタッグよお時間だよ〜。ま、ひとりバイトで足りないのは内緒ね〜? 協力してくれるね? 便利屋」

「もちろんよ……と言いたいけれどいいのかしら、依頼主?」

 

 リイザが吊り上げた頬をそのままに、いやさらに吊り上げる。

 

「好きにしろ」

「じゃ……はじめよっかな〜」

 

 次の瞬間、ホシノが盾をアルの榴弾の爆発で割れたところから見えたヒビと砂地に突き立てる。髪の毛をまとめて、ショットガンだけを手にした。

 

「あんまりおじさんを……いや、私を舐めてくれるなよ、神楽舞」

「おぉ……それがテメェの本気か。昼行燈の本気、楽しみだ……っと?」

「んんー?」

「っと、わりぃな。これは……何が起こってやがる?」

 

 小鳥遊ホシノ……暁のホルスと化した彼女が君臨した次の瞬間、リイザの今まで着ていた制服の内側が光り出した。何が起こっているのか、誰もわからず当惑する中で、リイザにだけ聴こえる声が響く。

 

『悪いのだけれど……盾に触れてもらえる?』

「あー……小鳥遊ホシノ」

「なんだ」

「その盾、一瞬触れていいか?」

「なぜ?」

「呼び声が聞こえる」

 

 ホシノは逡巡した様子を見せたが、それも僅か。身体を横にして、盾への道を開く。

 

「すまねぇな……よっと、ほいタッチってうぉおおおおおお!!? これか! これが原因か!?」

「待ってなになになんの光よこれーっ!?」

「なんでだろう? 懐かしい感じだ……」

 

 光が辺りを満たす。リイザが取り出し、辺りを染めた原因となったのは、1枚のカード。

 

「大人の……カード?」

「違う。これは記憶のカードっつーんだよ……だがまあ、似たようなもんか」

「違いはどうでもいいって顔してるね、ホシノちゃん」

「実際どうでもいいからね、近い事が出来るってだけで…………ぇ?」

 

 盾を持ち上げる少女がひとり。緑がかった青のロングヘアーをなびかせて、盾から拳銃を引き抜く。

 

「これ、大事につけたまんまにしてくれてたんだ。ありがとう」

「ぇ……あ?」

「うへぇ……にしても、暑いねー。まだ動いてないのに既に暑いよ〜……分かってたけどさぁ」

 

 彼女は高らかに名乗る。当たり前のように。奇跡を謳い上げる。

 

「私はユメ。アビドス高等学校、生徒会長。……今この一時、私はみんなを守る盾になる」

 

 記憶のカードに眠る力に奇跡を起こす力はない。そのカードが許すのは、記憶にある対象の召喚のみ。しかしながら、記憶の具現たる故人の遺物……盾と、故人の記憶だけで自分を埋めつくした結果、故人の如く振る舞うようにまでなった少女がいるならば。持ち主はその記憶を持たずとも……記憶は形を持つ。それは、奇跡という形を取らない必然ながらも、確かに奇跡。

 

 すなわち。

 

「せんぱ……い……!?」

 

 小鳥遊ホシノの歪み、そのオリジナルが。

 

「はいユメですよ〜ただいまぁ……と言いたいけれど後でね! まずは……行こう! アビドス、レッツゴー!」

 

 ここに、帰還した。

 

 

 

 

 




記憶のカード

とある少女の持つ大人のカードの劣化版と認識されているもの。
持つ能力はひとつ、「記憶を持つ人物または物質を呼び出すこと」。
しかしながら、その専門分野において、大人のカードを大きく上回る点があり…それが、今の奇跡的な再会に繋がっている。

このカードに奇跡は起こせない。奇跡とは、起きるべくして、起きるものなのだから。

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