あれから3年経ち、オレは13歳、エルザは8歳となった。
相変わらず、エルザの甘えん坊は変わらない。
12歳になった時、両親から魔導士ギルドに入ってもいいと言われた。しかし、オレ自身徒党を組むつもりはこれっぽっちもない。
ギルドに入らなくとも仕事は見つけられる。
錬金術で錬成した回復ポーションをギルドに大量に売りつけることによってオレの財布はいい感じに温まっている。
しかし、そんなに効果のないポーションでこんなに貰えるとは思わなかった。欠損した手足が生えるわけでもないのに。何故だ。
そして今日も今日とて錬金術の副産物としてできた回復ポーションを売りつけに街に出る。
今回は魔力を回復できるポーションもついでに錬成した。いい感じの価格になるだろう。
「キャロルお姉ちゃん!」
「グフっ。......エルザ、何遍も言ったはずだがオレの背後から突進してくるな!お前は猪か!」
「あはは!」
「はぁ、オレは街に出る。教会で大人しくしてるかそこら辺のガキと遊んでいろ」
「はーい。気をつけてね!」
そう言ってエルザは笑顔で手を振った。
それを見たオレは足元に術式を展開し、宙を舞った。
今日もいつもと同じ、平凡な日だ。
♪
マグノリアの街。
ここは比較的広い街で、オレが錬成したポーションもいい値段で売れる。そこら辺にある街ではそんなに高くつかない。
オレは街の門付近に着陸し、門番に通門証を見せ、街のとあるギルドに向かった。
向かっている中、バザールで串焼きや魔導書を買ったりと色々時間を掛けてしまったが、目的地に着いた。
そこで見た景色は正直言って最悪だ。
飲んだくれがいたり、喧嘩をしている奴がいたりとローズマリー村では考えられない状態だ。
そんな中、オレはカウンターへと向かった。
「おう!キャロル」
「.....マカロフ・ドレアーか。頼みの品だ。おまけもつけた」
オレは異空間からポーションが大量に入った籠をカウンターに置いた。
「毎度助かるぞぉ。うちの面子は喧嘩っ早いからのぅ。キャロルの回復ポーションは凄く助かるのじゃ。ポーリュシカのばーさんはケチ臭いからのぅ」
そういって妖精の尻尾のマスター、マカロフは酒の瓶をあおった。
「ぷはー!やっぱ昼間から飲む酒ほど美味いもんはなぁい!」
ガシャン!
そう言いながら仰け反ったマカロフはカウンター裏へ大きな音を立てながら転がり落ちていった。
それに目のくれずオレは近くにいたギルドの受付嬢に金を受け取り帰ろうとした矢先、とある少女が立ち塞がった。
「おいキャロル!今回こそテメェを負かしてやる!」
「......ミラジェーン・ストラウス」
オレの前に立ち塞がった少女の名はミラジェーン・ストラウス。銀髪のサイドテールで何故かオレに喧嘩腰の、気に食わない奴だ。
「オレは忙しいんだ。他にも回らなければならないギルドがある。後にしろ」
そう言ってあっち行けのジェスチャーをしながら出口に向かう。それでも奴はオレの前に立ち塞がる。いい加減このやりとりも面倒になってきた。
「チッ。身の程を弁えさせるか」
「そうこなくちゃなあ!」
「そうだな、消え失せろ。
オレは4つの術式を展開し、四大元素をミラジェーンに放った。巨大な光線は付近にいた人間を吹き飛ばし、ギルド内の床を溶かし、扉を破壊した。向かい側の建物も半壊するほどの威力があり、少しやりすぎたと思った。
ミラジェーンは四大元素をギリギリで避けたが、壁に激突して気絶していた。
「マカロフ・ドレアー。オレは帰る」
「おおおいキャロル!何しとるんじゃあ!」
「知らん。喧嘩売ってきたそこの女が悪い。壊した物はお前らギルドでなんとかしろ」
そう言って半壊したギルドを後にした。
いつもより時間がかかってしまったが、夜には村につけるだろう。
オレはマグノリアの門に向かって足を進めた。
♪♪
あの後オレは
しかし毎回思うのは、青の天馬には近寄りたくない。あの一夜とか言う男が気持ち悪すぎる。
「素敵なパルファムだ」とか言って近づいてくるのだ。それで一度四大元素を放ってギルドを半壊にさせたことがある。青い天馬の面子は苦笑いしていた。
その点、蛇姫の鱗と人魚の踵は良いギルドだと思う。常識人が多いし、ポーションを納品したら金だけではなく、食材やら魔道具やらをくれる。言っとくが物に釣られたわけではない。
相手がくれたものをありがたく受け取っているだけだ。深い意味はない。ないったらないのだ。
♪♪♪
「大分遅くなってしまったな」
夜、オレはゆっくり飛びながらローズマリー村に向かっていた。時々気になった薬草を見つけては採取したり身体を拭いたりしていたら気がつけば真っ暗になっていた。
「ふふっ。エルザに怒られてしまうな」
ぷんぷんと可愛らしく怒る赤髪の少女を想像し、つい笑みが溢れる。
「少し急がなくては」
オレは飛ぶスピードを上げて村に向かった。
あともう少しで村に着くと思った瞬間、違和感を覚えた。何故かやけに村が明るいのだ。例年秋ごろに豊穣祭を行うのだが、まだ時期が早いはずだ。いったい何故。
嫌な予感がしてオレは更に飛ぶスピードを上げた。
♪♪♪♪
「なんだこれは...」
目に映ったのはぼうぼうと燃えているローズマリー村だった。
焼けた木の匂いの中に肉が焼けた嫌な臭いも感じる。オレは急速に水の術式を展開し、近くの家に放った。
ジュワという音と共に熱い蒸気を上げてその建物は鎮火した。
しかし、周りの建物の火の勢いは増すばかりだ。
オレは街の中央まで飛び立ち、水の術式を広範囲に展開した。
一度では流石に鎮火できかったから何度も何度も術式を展開し、やっとのことで鎮火できた。
呆然としながらオレは家に向かった。
そこには抱き合ったまま炭と化した両親らしき姿を見つけた。
他の家に向かった。
覗くと苦しんだ表情を浮かべたまま炭になった者もいた。
村で野菜や果物を売っていたおばさんも判別がつかないくらいに焼けこげていた。
肉屋のおじさんも壁に寄りかかりながら死んでいた。
建物の倒壊で潰れた者もいた。
村をこんなにしたであろう、謎の服を着た死体も見た。
教会は原型を留めていなく、崩壊していた。
いつか経験した
「ッ...!」
握る手に力が入る。そこから血が滴り落ちていた。思考が怒りに染まっていく。今すぐにでも村を焼いた者たちを消し飛ばしたい。しかし、それをやったとしても村の者たちが生き返るわけでもない。
しかし、怒りが収まらない。
村を焼いたであろう組織の人間の死体を見やる。謎の紋章と仮面をかぶっている。そいつらに手のひらを向ける。そこからは何重にも重ねられた術式が浮かび上がり、あっという間に死体を覆ってしまった。
「消し飛べ...ッ!
.....声が聞こえた気がした。
ほんの小さな、静かに泣いているような声が聞こえた気がした。
辺りを見やる。視線を動かしても燃え尽きて倒壊した建物ばかり。声が聞こえた気がした方向に足を進める。そこには崩壊した2軒の建物があった。崩れた建物と建物の間に黒い箱が見える。あれだ。オレはその箱に駆け足で近づいた。
「チッ!邪魔だ!」
木の破片や煉瓦が邪魔だった。オレは黒い箱の周りに防御術式を展開し、邪魔な物を四大元素で消し飛ばした。
黒い箱に近づき、恐る恐る開ける。開けるとその中には
「ひぃ...!」
怯えた表情を見せる黒髪の少女がいた。教会で見たことのある少女だった。エルザと仲良く遊んでいた少年の後ろに引っ付いていた記憶がある。確か名前は...
「......カグラか?」
「キャ、キャロルお姉ちゃん.....?」
やっぱりそうだった。
この少女はカグラであった。
カグラはオレを見た瞬間、目に涙を浮かべて抱きついてきた。
「キャロルお姉ちゃん...!うええええええん!!!!!!!!!!!!」
オレは優しく抱き返し、頭を撫でた。
大きく泣き叫ぶ少女の声が村全体に響いた。
♪♪♪♪♪
あの後、カグラは泣き疲れて眠ってしまった。
異空間から毛布を出し、カグラに掛けた後、視線を村に向けた。
残された者として、やらなくては行けない仕事がある。
オレは村の中央に向かった。
村の中央には魔石を使った綺麗な噴水があったが、今は跡形もない。そこにあったのかすら分からないほどだ。
オレは噴水があった場所に遺体を集めた。
パパが殺されてから、人間の命が尽きる瞬間や尽きた後の姿は嫌と言うほど見た。しかしそれらを見ても何も感じなかった。逆に良い素材が手に入ったと思うぐらいだった。
しかし、今回は違う。
...無愛想で可愛げのないオレを可愛がってくれた人がいた。
...魔法について何も知らないオレに教えてくれた人がいた。
...天才と持て囃されたオレに本気で怒ってくれる人がいた。
...強く、優しく抱きしめてくれる両親がいた。
そんな暖かい、なにげない日常を、
寝ているカグラを背負い、村の入り口に向かった。
賑やかだったローズマリー村に向かって手のひらを向ける。暖かい日常の想い出が走馬灯のように浮かび上がった。視界が少しずつ滲んでいく。
オレは目を擦りながらも四大元素とは違う術式を村全体を覆うように展開した。
「さようなら、パパ、ママ。みんな」
そう言うと村は少しずつ崩れていき、数秒後には跡形もなくなっていた。
何も無くなったところに土の術式を放った。
大きな岩が地面から突き出た。その岩にはこう書かれていた。
『ローズマリー村の心優しき民、ここに眠る。』
それに背を向けたオレたちは街に向かって歩みを進めた。
ちょっと暗いですがこのような感じになりました。
キャロルには幸せになって欲しいですね。(小並感)
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