ガルナ島の依頼を終えて数日。オレとエルフナインは相変わらず研究漬けの毎日だ。
依頼を終えてから外に出ていない気がする。集中ができん。
エルフナインもそう思っているのかチラチラとオレの顔を見る様になった。
「エルフナイン」
「はいっ」
「気分転換に出掛けるぞ」
「...!はいっ!」
ポールハンガーに掛けられたローブと三角帽子を身につける。エルフナインは身体に合わないブカブカな白衣を着た。エルフナイン曰くこの格好が落ち着くらしい。S.O.N.G.でも着ていたからだとか。もっと可愛らしい服装をしてもいいと思うのだが。
「戸締りよし。忘れ物なし!」
「では向かうとしよう」
オレは赤い結晶、テレポートジェムを地面に叩きつけ、家からマグノリアの正門まで転移した。何もないところから出現したオレたちに驚く門番に通門証を見せて門をくぐる。
昼間のマグノリアの街は活気に満ち溢れており、バザールは喧騒に満ちていた。オレはエルフナインと逸れない様、優しく手を握りしめた。
「この串焼き美味しそうですね!」
「フッ、そうだな」
エルフナインはバザールに入ってすぐの屋台に興味を示した。それは串焼き屋で、ここではそこまで珍しくない屋台だった。
ただ楽しそうに笑うエルフナインを見てオレも笑みが溢れる。
「お嬢ちゃんたち見る目あるな!買ってくかい?」
「串焼きを2本くれ」
「あいよ!2本おまけしとくぜ!」
「ありがとうございます!」
串焼きが入った紙袋を貰い、街中央の噴水の間でエルフナインと一緒に食べる。濃いタレの味と肉の旨味が口の中に広がる。いつもは魚しか食べないせいか、肉の味が身に染みる気がする。
「美味しいですね、キャロル!」
「あぁ、美味いな」
結局美味すぎて串焼きを全て食べてしまった。幼い身体だと串焼き2本でも腹が膨れてしまう。よく噛むからか、タンパク質のお陰かどっちだか分からないが。
腹ごしらえを終えたオレたちは街の散策を続ける。
次にエルフナインが目をつけたのは服屋だった。何故か悪い予感しかしない。
オレはそっと逃げようとするとがっちりと腕を組まれ、引きづられながら店に入った。
案の定着せ替え人形になった。ただし店長、お前も一緒になるな。人形になっている最中エルフナインは、
「やっぱりキャロルはドレスが似合います!」
と言ってワインレッドのスリットの入ったドレスを推していた。しかしこのドレス、スリット入り過ぎではないか?これでは見えてしまうではないか。一応買ったが。
その後も色々と街を散策し、夕暮れになった。
「
「もう帰ってもよくないか?」
難色を示すも、エルフナイン腕を引っ張ってギルドまで連れて行かれた。
妖精の尻尾の前まで行くと木造のギルドは複数の鉄芯のような物で貫かれていた。
「どういうことだこれは」
「わかりません。とりあえず入ってみましょう」
ギルドの扉を開ける。チリンチリンと鈴が音を立てる。その音に反応したギルド員は一斉にオレたちに視線を向けた。その反応にエルフナインはオレのローブを掴む。
「マカロフ・ドレアー。これはどういうこと だ」
「おうキャロル!元気か?」
「キャロルお姉ちゃん!」
『お姉ちゃん!?』
エルザとギルド員の驚く声を無視して酔っ払ってる小柄な爺、マカロフ・ドレアーに話しかける。視線をずらすと銀髪の長身の女性が目に入った。どこかでみた気がするが、気のせいだろう。改めて視線をマカロフに向ける。
「誰もいねぇ夜中に襲撃された、以上じゃ!」
「そうか。売られた喧嘩は買わないのか?」
「夜に襲撃するしょっぺえ奴らにいちいち目ェ向けんのも面倒くさいんじゃあ!ひっく...ミラ酒!」
「飲み過ぎですよマスター」
ミラと呼ばれた女性がマカロフを制する。もしかしてこの女は...
「お前、まさかミラジェーン・ストラウスなのか...?」
「ええ久しぶりね、キャロル」
「随分とイメージチェンジしたのだな...」
「もうやめてよ。黒歴史なんだから」
うふふと微笑むミラジェーンを見て意外だと思う。
あのパンクな衣装で不良口調のミラジェーンは何処にいったんだ。どうでもいいが。
何はともあれ、マカロフはなんともないと言っているんだ、オレの出る幕ではない。首突っ込むのもあれだしな。
「帰るぞエルフナイン」
「いいんですか?一応エルザさんたちがいるギルドですが...」
「襲撃者がオレたちに危害を加えたなら徹底的に叩き潰すが、コイツらもいい歳した大人だ。自分のケツは自分で拭け」
「そうじゃあ!テメェのケツも拭けねえヤツにウチのギルドが務まるわけないんじゃあ!」
マカロフはジョッキを煽り、転がっていった。
慌ててエルザとミラジェーンが介抱する。
「てな訳で、うちは大丈夫じゃキャロルよ」
「ならいい。帰るぞエルフナイン」
「はい」
テレポートジェムに転移先の座標を設定した後、床に叩きつける。足元に術式が展開され、術式から赤い光が漏れだした瞬間、オレたちは住んでいる家に転移した。
ローブと三角帽子をポールハンガーに掛け、風呂に火の術式と水の術式を発動し、お湯を貯める。そしてすぐに風呂に入り、眠りについた。
♪
朝、妖精の尻尾の襲撃事件が朝刊に載っていた。それを見ながら紅茶を啜る。今日も良い味だ。
「ご飯できましたよ。今日はベーコンエッグトーストです」
「ありがとうエルフナイン」
エルフナインが、作った朝食をテーブルに置いた。オレは新聞をソファに投げ、紅茶をエルフナインのカップに注ぐ。
「「いただきます」」
お互いに呟くとトーストにかぶりついた。ベーコンの塩味と旨味がシンプルながらに美味い。こういうのでいいんだこういうので。
「新聞に載ったんですね」
「あぁ。
オレとエルフナインは互いに紅茶を啜る。
これはギルド間の戦争が起きそうだ。評議院ではこれを全面禁止にしている筈だが。
「怖いですね」
「なに、お前のことはオレが守ってやる」
「ここに来てから優しくなりましたね、キャロルは」
「前世でお前が脳の解析をして擬似人格を生んだのに加えて万象黙示録を完成させようと躍起になっていた時の想い出もある」
「パパの命題はもう良いんですか?」
「パパの命題はもう終わった。世界を識ることに決着をつけた。前世に未練はもうない」
朝食を摂り終わり皿を桶に入れ振り返る。
「今、お前と一緒の生活がなによりの幸福だ」
「〜!キャロル〜!」
そう言うとエルフナインは抱きついてきた。オレはそっと頭を撫でる。
「ボクも幸せです!ずっと一緒にいましょうね!」
「あぁ、そうだな」
ふと小さな音が聞こえ始めた。窓を見ると水滴がそこら中についており、なんだと様子を見ていると雨が降ってきた。天気から見て雨が降る様子ではなかったのだが、通り雨であろう。
エルフナインが慌てて立ち上がる。
「洗濯物取り込まなきゃ!」
「オレも手伝うぞ」
「キャロルは座っててください!」
「そうか...」
ものの数分で雨は上がり、眩しい光が窓を指す。やはり通り雨だったようだ。
洗濯物を取り込みにいったエルフナインが帰ってこない。通り雨は止んだからまた洗濯物を干しているのだろうか。
オレは手伝おうとすべく席を立ち上がり家を出る。家の裏側に洗濯物を干すスペースを作ってあるのでそこを確認するとそこには地面に落ちて汚れた洗濯物しかなく、エルフナインの姿はなかった。
「エルフナイン...?」
雨、いったい誰なんだ....。
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