魂の子   作:aly

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小難しい小説を書いていると息抜きが欲しくなるので流行りの推しの子の小説に手を出しました。
一応設定は捻ったつもりですが被っていたら申し訳ありません。

頭を空っぽにして、こんなパターンもあるんだなーと楽しんでいただけたら幸いです。

追記
投稿後数日は主人公が設定段階の名前でした。アオからヒスイに変わってます。


第三の子
転生


 魂の質量ってものを聞いたことがあるだろうか。

 およそ21.262グラム。人間の死の前後で減少した質量だそうだ。

 当然俺はそんなこと非科学的だって笑ってきたし、魂の存在を確証していたわけじゃない。でも仕事柄そういうものを信じてはいた。人は生まれ、逝く。物言わぬ骸がただ電気信号が流れなくなってしまっただけの物体だなんて考えるよりは、魂というものが来世に向かったのだと考えたほうがずっと自然で都合がいい。

 ああ、でもそれはようやく確証に変わった。なぜなら――。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 毎朝起床するかのように、その日は突然訪れた。

 ぼんやりと映し出される風景。どこかの部屋。耳に入る音。そちらに視線を向けると鮮やかな光景が四角い枠の中で現れては消えていく。

 テレビつけっぱなしで寝てたのか……?

 昨日はそんなに忙しかったかと自問しながらリモコンを探そうとして、手の届く範囲にないことを知る。仕方がないから起き上がろうと思って気づいた。

 身体が軽い、いや軽すぎる。そして視界がおかしい。テレビまでの目線を遮るように柵がある。というより裸眼なのにはっきり物が見えている。なぜ、と顔に触れようとした手は隆起した成人男性の手ではなく、柔らかく丸いものだった。

 一度気がつけば全てが明らかになる。手と同じく幼い脚。首から垂らされた前掛け。柵は自分の周囲全体を囲んでいて、そもそもこれはベビーベッドだ。

 つまり、これが意味するところは。

 

「おえいーら?(俺、死んだ?)」

 

 発声もままならない。

 とはいえ自分が死んだ記憶もないので実感はわかないのだが、おそらくそういうことなんだろう。前世、つまり今意識している俺の記憶は断片的だし、乳幼児にはそういうケースは少なくないと聞いたことがある。知らないはずのことを喋ったりするが、その記憶は時と共に次第に薄れていく。

 俺が消えるというのは残念だがたぶん新しい人生に合わせて変化していくのだろう。そう思えば悪くない。

 現状を確認したら特にできることもなくなった。仕方なく再びベッドに身体を委ねてテレビを視界におさめる。

 

『本日のゲストは――』

 

 何かの音楽番組が流れている。音楽番組は前世でよく見ていたはずなのに番組名が思い出せない。時代が異なるのだろうか。

 紹介される出演者たち。流れる画面。そしてその最後に彼女は現れた。

 

『私たち、B小町です!』

 

 アイドルグループの名前は憶えていなかった。しかしそのセンターに立っている少女の顔には見覚えがある。いや、顔どころではない。名前すら知っている。

 

「アイ?」

 

 歌唱シーンが始まる。吸い寄せられるような瞳。呼吸さえ忘れそうになる。無意識に手が揺れてリズムを刻む。瞬き一つで失神しそうになる。

 ああ、覚えている。だって俺は彼女のファンだった。星野アイ。ずっとファンで、そして患者でもあった少女。ふつうに活動をしているということは無事に退院して活動を再開したのだろうか。もしくは時を遡ってあの前に生まれた?

 とにかく俺は一つ大事な秘密を持って生まれてきてしまったらしい。アイドルB小町のセンター・星野アイには双子の子供がいるということを。いや、だからなんだって話なんだけども。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 俺が俺を認識したときは一歳ぐらいだったらしい。しかしもっと重要なことがある。仕事から帰宅した母に呂律の回らない舌で話しかけると、彼女は幽霊でも見たかのように硬直して荷物を落とした。

 

「ヒスイ? 今、私に話しかけてくれた……?」

「おーああ(そうだよ)」

「うそ、どうして。あ、そうだ。病院、病院に電話しなくちゃ――!!」

 

 なんでそうなる。

 いや、後から考えて見れば一歳だというのに母音しか喋れないのは発育が遅れていたし、身体能力もやや低いように感じられた。

 彼女の狼狽ぶりは、俺が俺を認識するまでのことを考えれば自然のことだったのだ。

 

「先生はゆっくり経過を見て行こうって言ってくれてたけど、まさかいきなりだなんてなぁ」

「本当、奇跡みたい」

「そうだな。何をしてもずっと無反応だったこの子が話しかけてくれる。それだけでこんなにも嬉しいよ」

 

 両親の揃ったリビングで、俺は二人の幸福をかみしめる様子を見ていた。

 病院での会話もあわせて推測するに、どうやらこれまでの俺は人形のように何をしても無反応だったらしい。出産のときに泣いたのを最後に、意思表示のために泣くこともない。いつ授乳したり下の世話をすればいいのか分からない育児はかなり大変だったようだ。

 俺は今の今までただの生まれ変わりだと思っていたけれど、もしかして意志薄弱で消えそうな誰かの上に上書きされたのか? それともあまりに起きるのが遅いから神様に叩き起こされたのか。正直後者であってほしい。

 

「ようやくふつうの家庭になれるな」

「ええ、公園に連れて行ってママ友を作って、一緒にドライブに行ったりして」

「うん、うん」

 

 意思を示さない赤子を外に連れ出すことは今まで難しかったようで、二人にはずいぶんと不便をかけさせたらしい。

 だからこれからは、この人生は両親とともに幸せに過ごしていこう。幸いにもこの人生にも俺には推しがいる。

 

 アイ

 

 もう二度と会うことはないだろう。それでも画面越しに、いずれはライブに足を運んで見守っていきたい。

 しかし人生というのはままならないものだ。俺が担当した妊婦でアイドル。

 

 それから4年後、彼女は亡くなった。




この主人公、いったい何者なんだ?(茶番)

追記
まさかの設定段階の名前で投稿してしまうとは……。アオくん、今日から君はヒスイだよ
あと最後の1文を完全に間違えました。アイ死亡時の年齢と2話の大学生のセリフに矛盾が生じていたので変更しました。
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