15年の嘘。しーらない(すっとぼけ)
ここから後編。第二章です。
ちょっと短いのはプロローグだからということで。
※雨宮吾郎を一部宮野吾郎と誤って記述してしまいました。混乱させてすみません。
灼熱の憎悪
それは少女を灼くのに十分過ぎるほどの熱だった。
たった1つの幸福な家庭。世界のどこにでもある日常。そのわずか一コマ。
少女にとっては実母はいなくとも、今の義母と兄との暮らしもその一つだっただろう。しかしその家庭だけは違う。
幸せであってはならない。嘆き悲しんでいなければならない。いや、嘆きを受け入れた先の幸福ならば彼女も決してその熱に痛みを覚えることはなかっただろう。しかし現実は違った。
愛を信じた少女。愛を求めた少女。しかし伸ばした手の先はとうの昔に違う方向に向かっていて、私など初めからなかったかのように幸福な家庭がそこにあった。
だから、私の希望の糸は。細くて張り詰めたぼろぼろの糸は、そんなちっぽけな一つの家族の温もりなんて熱で切れてしまうのだ。
☆★☆★☆★
ルビーが部屋に駆けこんだのが見えた。
あの出来事以来、彼女は俺に口をきいてくれない。視線を合わせることも同じ空間にいることも拒むようになった。
仕方がないと思う。だが、それでも俺は止まることができない。そしてこの道にルビーを巻き込むわけにはいかない。
「私は不幸しか運ばない!」
彼女の心のうちが叫びになってあふれ出してくる。前世の母への感情。今の母への懺悔。神への慟哭。
そして彼女が取り出した一つのキーホルダーを見て、俺は以前から抱いていたある仮説が真実であることを確信した。
こんな都合のいいことがあっていいのか?
それでも彼女の独白が仮説を裏付ける。
「ゆっくり……ゆっくり息を吸え。一旦横になるぞ。立てるか?」
あの日の光景が蘇る。遠い記憶のことだからか、ときどきノイズがかったりセピア色だったりするが少女――天童寺さりなちゃんは希望にあふれたただの少女だった。
だったら、余計にこの子を復讐の道へ進ませるわけにはいかない。
「アクアの手なんて借りない!! 私がアイドルをやる理由は、もっともっと上り詰めてママとせんせを殺した奴を見つけ出すためだ! 仇を取るためだ!」
こぼれ落ちる涙の元で、復讐に囚われた深紅の炎と闇い星が力強く虚空を睨みつける。その先には正体も知らぬ実父がいるのだろう。
だが、それはダメだ。
「頼む。お前は復讐なんて考えないで生きろ」
しかしあの日の裏切りが、ルビーの心まで言葉を届けることを阻む。そしてそれは俺たち二人が別の人生を歩んで生まれ変わった人間であることにも起因していた。
私たちはたまたま同じ所に生まれ変わっただけの他人だ。すでに何を言っているのか判別がついていないのかもしれない彼女の口から零れ落ちたその言葉で俺は――。
「いまさら血を分けた兄妹なんて言うつもりはない。都合のいいことを言っている自覚はある。けど、これは星野アクアとしての頼みじゃない。俺の頼みを聞いてくれ――さりなちゃん」
ただ名前を伝えるだけでは信じてもらえないかもしれない。だから彼女との思い出を語る。まだ希望に夢見ていた少女との思い出を。
唖然したルビーがいる。
さっきまでルビーが伏していたところにあるキーホルダーを取る。
「君が持っててくれたんだね。さりなちゃん」
これできっと届くはずだ。アクアとしての言葉は届かなくても、雨宮吾郎としての言葉なら。きっと。
「は? 汚い手でせんせと私の思い出に触るなよ。誰だよ、お前」
しかし彼女の瞳は、星野アクアを拒絶するよりも激しく、憎しみを込めた焔のようだった。
☆★☆★☆★
ダメだ。ダメだ。ダメだ。
それだけは許しちゃいけない。アクアが手に取ったキーホルダーを奪い返して、こいつが言ったことを否定する。
「は? 汚い手でせんせと私の思い出に触るなよ。誰だよ、お前」
こいつはせんせじゃない。
どうして私とせんせの思い出を知っている? 私たちの大切な絆を知っている?
病院の関係者を調べたのだろうか。いや、病院の関係者の生まれ変わりだったのかもしれない。それでせんせと私の関係を利用しようとしているんだ。
あるいはママとせんせの仇のほうだろうか。入念に下調べをしていたのなら私たちのことを知っていた可能性がある。
殺したい。でもこいつもママの仇を探しているらしいから、人手は少しでもあったほうがいい。
ああ、ダメだ。怒りで頭が上手く回らない。そうだ、せんせに相談しよう。きっと私のために一生懸命考えてくれる。ちょっと最近怒らせちゃったけど、きっと偽者がいるって教えたら許してくれるよね。
「私、出ていく」
「どういう、ことだ……?」
「せんせを騙ったことは今だけ不問にしてあげる。仕事もする。でも、私たちのことには関わらないで」
そうして簡単に荷造りをする。残りはまた後で取りに来ればいい。だから早くせんせの下に行こう。
本物のせんせ――ヒスイ先輩のところに。
いきなり爆弾を落とすスタイル。
ずっと書きたかったシーンでした。