魂の子   作:aly

14 / 48
演劇だと今暗転しました。時を戻そう。


俺の歌を聴け!

 俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の魔王を分からせなければならぬと決意した。俺には小難しいことがわからぬ。俺は、一介のミュージシャンである。ギターをかき鳴らし、ときどき意味不明なテレビにも駆り出されて来た。けれども音楽に対しては、人一倍に自負があった。

 

「もう一回言ってもらえますかねぇ?」

 

 怒りを隠そうともせず、目の前の男に詰め寄る。彼は俺の依頼主である企業の社員であり、俺の担当だ。

 

「それがその……本当に申し訳ないが原作者の都合で全部ボツになりました。すみません」

「六曲全部が? ボツ?」

「はい」

 

 俺は最大限努力した。六曲の仮歌の制作をわずか三週間で仕上げた。この担当もその制作スピードとクオリティには関心していたはずだ。

 なんなら一緒に談義して出来上がった曲もある。それをなんだ? 原作者はばっさりと切ったというのか。

 

「その鮫島アビ子ってセンセーは音楽のことは?」

「いえ、漫画一筋ですから。アニソンくらいは聴くかと思いますが」

「ほー。へー。ふーん。鮫島センセーはどのくらい俺の曲を聴き込んだんですかねぇ? まさか執筆中に流し聴きなんてことはないですよね?」

「ひぃ」

 

 鮫島アビ子。漫画家。今ノリにノッてる東京ブレイドの作者である。週刊連載で人気を獲得し、ついにアニメ化。現在二期が放映中。

 俺には関係のない話だと思っていたら、先日の不知火フリルのサポートギターがここに絡んでくる。まだドラマの存在も公になっていないというのに、俺のギターやピアノは業界内で少しは噂になったらしい。

 で、不知火フリルの所属する事務所の声優が東京ブレイドのキャストだという縁をたぐって、MVの釣りだと言って彼女が寄こしたのが来期のOPの仕事だ。

 つまり、事実上ソロとしてのデビューが決まったわけになる。マネージャーは大喜びして、高い焼き肉をご馳走してくれた。

 それでやる気になった俺は漫画を全て読み、放映されたアニメも観た。そこから湧いたインスピレーションから一週間で三曲の仮歌を制作した。バトルシーンをイメージしたロック。和テイストのロック。恋愛要素を入れたバラードの三つだ。さらに今後の展開から活躍するキャラクターを中心に据えた曲を三曲書き上げた。

 進捗はOP監督と随時すり合わせていたし、彼やその上の評価もなかなかだったと思う。

 が、それをあの魔王鮫島が鎧袖一触で木っ端微塵にした。

 俺、もうゴールしていいよね?

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「おらぁ! ここが鮫島アビ子大先生の棲み処かあ!!」

 

 計画は完璧だ。俺は編集が原画回収に来たタイミングで後ろにくっついてマンションに侵入。そして編集が帰った後に鬼のピンポン連打を行う。

 当然集中を乱された魔王鮫島は怒り狂ってドアを開ける。そこを狙って俺は白昼堂々と仕事場に侵入した。

 

「うわ、きったね」

「は?」

 

 思わずこぼれ出た言葉に背後から追いかけてきた鮫島アビ子の不機嫌そうな声が鳴る。しかし現実は無情だ。物証があるのだから。

 参考資料らしきものが散乱してるのはまぁいい。だがコンビニ弁当やシリアルバーの袋や栄養ドリンクの空ビンが床に落ちているのは……人としてダメだろう。

 

「とりあえずお片付けタイム」

「いや、いきなり押し掛けて何なんですか。警察呼びますよ」

「この汚部屋に?」

「かはっ……!」 

 

 とりあえず前科は免れた。危なかった。

 目の下の隈がヤバいことにやってる魔王をフローリングの綺麗そうなところに寝転ばせ、俺はせっせと片付けた。っていうかアシスタントはどこだ? あまりの汚さに逃げたか?

 

「というわけで片付け完了」

「あ、ありがとうございます」

 

 ちょっと申し訳無さそうに頭を下げる魔王。君不審者にそんなんでいいのか。

 

「さて、本題だ。あんた俺の曲を全部ボツにしたんだってな? お? ちゃんと聴いたのか?」

「……あぁ。あのタイアップで浮かれたゴリ押し歌手だったんですか」

「は?」

 

 たしかにアニメのタイアップに若手ミュージシャンが起用されることはある。往々にしてアニメとは無関係な曲が採用される。

 しかし中にはそれでめちゃくちゃ売れた曲もある。るろ剣のジュディマリ、ハガレンのラルク、学校の怪談のヒスブル。挙げればキリがない。いや、若手かというと疑問だが。

 逆にアニメに寄り添ったミュージシャンの名曲もある。レイアースのゆずれない願い、エウレカのDays、ブラックジャックの月光花。いずれも名曲で、俺もそれを目指した。

 が、この女はそれを全否定した。

 

「鮫島センセー、シティーハンターは知ってるか?」

「当たり前です」

「あれ、小室哲哉さんたちのTM NETWORKのEDなんだけど。男臭くていい曲だろ?」

「まぁそうですね。でも若手じゃないじゃないですか。例外を挙げて自分を正当化するのってすごくダサいと思います」

 

 こいつ……むかつく。

 

「でも鮫島センセーより売れてる漫画家だってアニメ化んときにそういう歌手を使いましたよね?

 もしかして鮫島センセーは大先輩を否定してらっしゃる? あ、それとも自分のほうが上だと思ってたり?」

「はあああ!? あの人たちは器の大きさが違うんですー。売れない歌手を使っても視聴率が下がらないクオリティと、彼らを使ってあげる余裕があるの。私はまだそこまでの人間じゃないからアニメに関わるものには妥協できませんっ。この苦悩が分かります?」

「は? ちゃんと展開にもキャラにも気を配った曲を作っただろ? その耳は飾りですか?」

「あれでですか? だとしたら考察不足もいいとこですね。バトルがあるからってドラムをどんどこ鳴らせばいいわけじゃないし、陰のあるキャラが活躍するからって安易にバラードにしないでくれます?」

 

 漫画家って皆こうなのか? いや、有馬に聞いた今日あまの作者は腰が低くて大人な人だったらしい。こいつが気性難なんだ。

 

「あんたちゃんと監督に意思を伝えてるか? 今みたいにべらべら喋ってたら聞き流されても仕方ない。加減ってものがある。相手も忙しいんだよ」

「ぐっ。でも作品のために全力を尽くすのが音楽監督の仕事でしょ? ちゃんと仕事しろよって話です。あなたももっと取材してください」

 

 かっちーん。だから、今、俺はここにいるんだろうが。

 

「東ブレの漫画一冊もってきてください。んで、俺の前で読め」

「はい? 私は執筆という貴重な時間を無駄にされてるのになんでさらにそんなこと」

「いいから読め。全て理解る」

 

 しぶしぶと本棚から取り出したのは七巻。

 

「選びましたけど……って何やってるんでふかぁ!?」

「見ての通り演奏の準備だが」

「見ての通りじゃないんですけど。こわ」

 

 その反応は腹立つが分かる。なぜならいつものギターに加え、股の間にはボンゴ、さらにフットペダルに打楽器を左右に用意している。当然アンプやエフェクター等も完備だ。

 

「さっさと読みやがってくれません?」

 

 語気を強めて言うと、魔王鮫島は漫画を手に取る。同時に左のフットペダルを踏み込む。シャン、シャンと鈴の音が鳴る。出囃子のように一定のリズムで。

 魔王は一瞬こちらに意識を取られたが、むすっと対抗心を燃やして表紙をめくる。鈴の音は加速して、本編への導入を煽る。

 俺の視線は魔王の指先と目線に集中している。今、ページを捲った。ここは前巻最後に登場した渋谷クラスタへ言及するシーンだ。つるぎが知る噂が語られ、そのリーダーが鞘姫という大人しい女性であることを主人公たちが知る。血気盛んなキザミが内心で楽に降せると笑うコマもある。

 彼女の視線と指の動き、いや前腕の筋肉の動き。それを以ってどのコマを読んでいるのかを把握して、次に視線の移動を予測。タイミングを合わせて音を奏でる。

 まずは穏やかにギターを弾く。つるぎの心に寄り添う。そしてキザミが侮るシーンで音色を変える。

 そして場面はキザミと匁の戦闘シーン。足でベースボックスを叩いてビートを刻みながらギターを弾く。ボンゴも追加してほとんど打楽器だけのパートすらある。そうら、キザミの心音はこれで再現だ。さらに鞘姫の見せ場のシーンでは、エレキで琴の音色を再現する。彼女の力強さと儚さは和楽器がふさわしい。

 

「…………」

 

 魔王の手が全てのページを捲り終える。俯いていて表情は読み取れないが、俺のキャラ考察と展開への理解は痛感しただろう。

 

「ふっ。どうです? 今までにない臨場感で漫画を楽しめたのでは?」

「……はい」

 

 おや、魔王の様子がおかしい。

 

「すごく、楽しかったです。あの、そういえば名前を聞いてませんでした」

「森本ヒスイです」

「森本ヒスイ……先生」

 

 先生? 普段音楽を聞かなさすぎて、情報過多でおかしくなってしまったのだろうか。人気作家に悪影響を及ぼしたとあっては大変ヤバい。どうしたものか。

 

「これは革命!」

「うおっ!?」

「ぜひOPは今の感じで。あっ、放送回の巻をとってくるので、フォーカスしてほしいシーンを演奏してもらえますか!?」

「あ、はい」

 

 るんるん。という文字が虚空に見えるほどに上機嫌になった魔王こと鮫島アビ子は本棚から数冊本を取り出して、音にしてほしいコマを選びだした。

 なんか思ってた展開と違うけど、どうも俺に任せてもらえるようだしよかったのか?

 よくなかった。

 OPはその場で完成したもののインスト曲になった。先ほどは漫画の背景音に徹していたが、今度は漫画の一連の流れをイメージした音に変換した。

 さらに気をよくした鮫島アビ子はキャラクターのイメージ曲を作って欲しいと言い出した。ポケットマネーで。なんでも作業中のBGMにするらしい。興奮した鮫島アビ子の圧があまりにもすごく、なんというか見てられなかったので試しに一曲作った。

  

「えへ、えへ。ヒスイ先生好き。頼りになる」

 

 こんなふうになった。残りの曲は後日、ということで俺は慌てて退散したが、後ほどぶっ壊れた鮫島アビ子が編集によって発見されたらしい。

 そして約束通り俺は主な登場人物たちの曲を短いものだが制作した。そのために作業場を訪問したときに、最初に作ったBGMがリピートされていたのは恐怖だった。

 しかし追加報酬が支払われたことでマネージャーはほくほくである。代償は大きかったことを知らしめてやりたいが所詮は一介の所属ミュージシャン。何も言えずに苦笑するしかなかった。

 余談だが、舞台化された現場でも一悶着起こしたらしいのだが、「あなたの仕事を見せてください。それで全て理解る」とか何処かで聞いたセリフで脚本家に詰め寄り即落ちしたという。

 なお、現場で「ヒスイ先生のおかげで人見知りの私でも上手くやれました……!」と独り言を言っているのをアクアに目撃されたらしく、しばらく俺は珍獣のような扱いを受けた。




設問:東京ブレイド編にミュージシャンを放り込めるか。
答え:無理です。なので鮫島アビ子宅に放り込みます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。