魂の子   作:aly

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前回はタイガー&ドラゴンのパロでしたが、今回はマルコポーロ。
かなりのんびりしたお話です。


東方見聞録(茨城)

 メジャーデビューを果たして万々歳、とはいかないのが芸能界の辛いところだ。

 どんなに才能があっても売れないCDは売れない。たとえばシャ乱Qが売れたのは4枚目のシングルだったし、エレカシは10枚目まで売れなかった。逆にデビュー曲でブレイクした宇多田ヒカルやサザンのような存在もいるのは事実。どちらに転ぶかは神のみぞ知る。

 そこで事務所としては宣伝を打っていくのは必然である。PVの配信、アニメ中のCMは分かりやすい。

 だが今俺は茨城にいる。宣伝のためにだ。

 

「いやあ、森本君は若いだけあって体力あるね」

「ほんとほんと。おじさんたち歳だしメタボだからさ、よろしく!」

「うっす!」

 

 駆け出す俺。道を歩く一般の人に向かって声をかける。

 

「すみません。今ちょっとお時間いいですか?」

「え? あ、はい」

「今ちょっとこの付近のおすすめの飲食店を聞いてるんですけど、お兄さんのおすすめを教えてもらえますか?」

 

 頼む。頼むから蕎麦はやめてくれ。もう三枚も食べたんだ。そろそろスイーツが来てくれ。甘いものが食べたい。

 

「やっぱり寿司ですね。漁港もありますし新鮮ですよ」

「なん……だと……」

 

 崩れ落ちる俺。そこに背後から遅れてやってきた芸人ともう一人がその姿を見て明らかに失望した声で話しかけてきた。

 

「また蕎麦? 俺最初に天ぷら蕎麦食べちゃったから胃がもたれてるんだよね」

「自業自得だよ!」

 

 最初にちょっと重いものを食べたのはこうやって後々のネタになるからか。ってそんなことを覚えてどうする。とにかく後ろでカメラに向かって一連のノリを披露する芸人たちに真実を告げなければならない。

 

「蕎麦じゃなかったです」

「え? マジ? あの蕎麦の森本君が?」

「蕎麦の森本じゃなくなりましたよ。でも、次は寿司の森本です」

「江戸っ子か!」

 

 そう、俺は今テレビ番組のロケに来ている。場所は茨城県日立市。和食、洋食、中華、スイーツの4つのパネルに隠された地元民おすすめグルメを当てなければならないというバラエティ番組だ。

 そして今のところ俺は二回蕎麦屋を引き当てて撃沈。またしても和食ジャンルで寿司を引いたというわけだ。

 ああ、そうそう。なぜ俺が三枚も蕎麦を食べたかというと――。

 

「ヒスイさん。そんな気ぃ落とさんといて。おすすめが出てくるかもしれへんやん?」

「そうだな。ああ、少しだけ元気が出たよ。寿さん」

 

 彼女の分を食べたからである。寿みなみ、職業はグラビアモデル。したがって無理な暴飲暴食はNGである。じゃあ何のためにこの番組に出ているのかって? 宣伝のためと癒し枠だよ。彼女は新しく出版する写真集の宣伝のためにここに来ている。

 同じくミュージシャンという弄りにくいはずの肩書を持つ俺がなぜこうまで芸人にひどい仕打ちを受けているのか。それは二回目の蕎麦を引いた際に彼女のマネージャーが眉をひそめたのを見て、つい彼女の蕎麦を奪い取りかっこんでしまったからだ。

 

「君やるねー!」

「男気があるなぁ。もっと森本君の男気を見たいなあ!」

 

 というやり取りがあってから、俺は弄ってもいい枠にカウントされてしまったのだ。ロケバスの中でどんな会話があったのかは知らないが、その後俺は芸人たちから無茶を振られ、番組クルーのカンペも容赦がない。

 

「着きました! お寿司屋さん。今回は寿さんに撮影交渉に行ってもらいましょう」

「我々が行くより確実ですからね」

「ナチュラルに俺もカウントされてる件」

 

 と、芸人に交じって雑談をしていると寿が帰ってくる。肩を落としてとぼとぼと「おっけーでーす」って早いな!

 

「おぉ。味のある店内だ。大将おすすめのネタをください」

「まずは椅子に座れよ」

「はい、どうぞ」

「大将もノらないで。立ち食い寿司屋みたいになっちゃうでしょ」

 

 完全に仕込みである。テレビなんでそんなもんだ。改めて座敷に通された俺たちは一列に並び、おすすめのネタを今か今かと待ちわびる。

 何が出てくるかは全く分からない。これでふつうにマグロとか鯛が出てきてハズレだったら辛い。辛すぎる。俺はいつになったら宣伝できるんだ。

 ちなみに寿は一回目の挑戦で中華ジャンルから正解を引き当てて宣伝に成功している。

 

「お待たせしました。おすすめの――生しらすです」

 

 これはどうなんだ。茨城といえばあんこうじゃないのか。いや、あいなめも有名だ。しかししらす?

 

「久慈では夏から初秋にかけて旬でして、これが人気なんです」

「うお、美味い!」

「はえーよ。いや、でもこれ本当に美味いな」

 

 芸人に遅れて俺と寿も寿司にありつく。っていうかこういうのゲストが先に食べるんじゃないのか。

 生のしらすといえば独特の風味があるが、上に乗った葱と生姜が爽やかな彩を与えてくれる。それを軍艦にしたことで海苔の風味で引き締まるというわけだ。

 

「美味し~! うち、しらすは湘南が一番やと思ってたけどこれも負けてへんわあ」

「いやいや。ちょっと危ない発言やめてもらえます?」

「えーと。かんぺが出ました。茨城はしらすの漁獲量4位。ちなみに1位は神奈川ですね。そしておすすめの和食グルメに――入ってます!」

「マジで!? よっしゃあ!」

 

 ついに宣伝ができる。じゃなきゃ俺はお笑い芸人とともにこれからの人生を歩むことになっていたに違いない。

 

「ちなみに他にはあんこう、あいなめ、鮎が特産物としてランクインしていたそうです。なにそれ、食べたい」

「うちじゃ扱ってないけど、よかったら鮎が旬なので食べられるお店紹介しましょうか?」

「大将優しい。というわけで森本君の告知は旬の後で!」

 

 嘘だろう。なんで……なんで……。

 俺の嘆きもむなしく、一行はロケバスに乗って目的の寿司屋に行くことになった。川魚というだけあって海からは離れる。ぼーっと車窓を眺めていたとき、ふとそこが目に入った。

 

「大……神社?」

「ああ。あれは大甕(おおみか)って読むんやで」

 

 後ろの席から寿が話しかけてくる。なんでも有名なアニメ映画にも登場するらしく、彼女はそれで知っていたらしい。

 ふうん、と納得していると車が止まった。何事かと思えば、ちょっと違う画が欲しいので先ほどの神社に寄っていくらしい。なんでも開運のパワースポットであるらしい。すべてのパネルをクリアできるよう願うという画を撮るそうだ。

 車を降りて参道を歩く。鳥居の前で振り向けば、道路を挟んでもう一つの社がある。

 

「ここ紀元前からあるの!? 盛ってない?」

「神様の前でなんてこと言うんだよ」

 

 本殿や神様を封じたとされる石は険しい道を行かなければならないのでパス。まずは鳥居をくぐって右手にある社務所によることにした。

 

「あれ、鶏がおる」

 

 寿の視線の先には小屋の中に飼われた鶏がある。なんで神社にそんなものが、と近寄っていると説明書きには天岩戸を開いたときの鶏――と同じ種類の鶏で天然記念物だという。

 

「あれ、でも天岩戸って茨城だっけ?」

「違う。けどどこだっけかな。知ってるはずなんだけど……」

 

 分からないものはどうしようもない。一行は神社の方の案内で拝殿に向かう。歴史を感じる古い作りで、これが本殿ではないのが不思議なほどだ。

 ここで参拝の撮影をして戻る途中、神社の方の案内でもう一つの社に寄ることになった。なんでもこの神社には何柱もの神が祀られているらしい。

 社務所近くの坂を上がって辿り着いたところには屋根に星があしらわれた一風変わった神社があった。

 

「わっ。ハートの形の石がある。かわええなぁ」

 

 寿のいう石を横目に、俺はこの神社の名を確認する。

 

「甕星香々背男社?」

「ええ。天香香背男とか天津甕星とも言われています。星の神様なんですが、昔この辺りに隕石が落ちたことで信仰されるようになったそうです」

「隕石!? きゃー。ほんまに映画の世界に入ったみたいやわぁ」

 

 なるほど。そりゃ紀元前の話にもなるだろう。たしかドイツにも隕石跡を利用して造られた町があったはずだ。あれも相当古いはず。

 

「じゃ、みなさーん。そろそろお店にアポ取った時間ですので移動しまーす」

「おっ。鮎だ、鮎」

「森本君。ようやく告知できるじゃん。いやー、おいしい!」

 

 おいしかないです。

 なお、寿司屋で無事CDの告知は成功。さらに続くデザートのパネルでも俺が正解を当てたのでアニメの告知もしておいた。アビ子先生からは後日感謝のライン爆撃が送られてきたのは余談である。

 




スリザリン(蕎麦)は嫌だ! スリザリン(蕎麦)は嫌だ!
グリフィーンドーーール(寿司ィィィ)!!!
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