MEG ザ・モンスターズ2観に行こうか悩みます。Blu-rayでいいかな。
ジャパンアイドルフェスを終えてしばらく経つ。いよいよ夏アニメが終わり、次のシーズンが到来する。
所属アーティスト、森本ヒスイ。事務所のそのページにあるアー写と名前。その下には経歴としてユーチューブでの活動とバンド時代のことが書かれている。さらにページを手繰ると参加音源としていくつかの楽曲があり、不知火フリルが主演のドラマ主題歌も新たに記載されていた。
さらに下へ。インフォメーションと称して最新の情報が発信されるそこには、今まで今ガチへの出演が最上段にあった。つい最近バラエティ番組への出演が増えたが無視して……そしてフリルの主題歌への参加が加わり。
1stシングル発売。東京ブレイドオープニングテーマ「Resonance」10月初旬発売。
「えへ。えへへ」
なぜか俺の事務所にやってきたアビ子先生はミーティングスペースでスマホの画面を見せて喜んでいた。なんでも最近はアシスタントを雇ったらしく、人間的な生活を取り戻したらしい。その一環が散歩なのだが、いちいちうちの事務所に寄るのは止めていただきたい。
「ヒスイ先生はこれで代表曲が二つですね」
「いや、サポートで入った曲は俺のじゃないんですけど」
「いえいえ。これです。『アイドル』です」
トトトと軽快なタップ音の後にはユーチューブの我がチャンネルが表示されていた。
それ、声が俺じゃないんですが(フェイクボイス的に)。あくまで個人制作で会社とは何の契約も結んでいない。いわば同人作品だ。
「そうなんですか?」
「っていうかよく知ってましたね」
「あれから調べましたから」
できれば今ガチは知らないでいてほしい。無理だろうなあ。
「ヒスイ先生はアルバムを作らないんですか? その、シングル二曲くらい入っているものをよく見かけるので、もう作れるのでは?」
「そのとおりだ! ヒスイくん!」
気が早い、とアビ子先生を窘めようとしたら、パーテーションからにょっきりと現れたマネージャーが声を大にして同意した。
ちなみに未だに異性に抵抗があるというアビ子先生は俺の後ろに避難している。なんでも俺はリスペクトできるアーティスト枠としてセーフらしい。複雑。
「東ブレはこれから舞台も始まってノリに乗っている。その主題歌歌手として、アルバムを出すのにこれほど適したタイミングはない!」
「主題歌インストですけどね」
「だからこそアルバムで君の多面性を知ってもらうのさ」
背中の後ろで激しく首を振る気配を感じる。アビ子先生には仮曲を含めて様々な曲を聴いてもらってるから、ちょっと嬉しい。
マネージャーはミーティングスペースに入ってくると、一枚の資料をテーブルに置いた。
「えーと。森本ヒスイ1stアルバム『タイトル未定』10曲前後予定。発売は来年2月予定。……2月!?」
いやいやいや。一曲はタイアップ曲でいいとしても、あと最低8曲くらいは新しく作れというのか。生産やら収録を考えると……いつまでに作ればいいんだ?
「納期は今年いっぱいでよろしく。あ、ちゃんと歌詞のチェックと編曲も含めてだよ? あと3か月あるからいけるいける」
「いや、俺新人なんですけど」
ねえ、アビ子先生? と担当の無茶振りに同意を得ようとしたらキラキラした目で見ていた。そういえばこの人週刊連載してるからスケジュールのタイトさでは常識が通じないんだった。
☆★☆★☆★
こんなこともあろうかと、楽曲はいくつかストックがある。いつかデビューの話が来たら提出するつもりだった曲たちだ。
しかしアルバム全体の構成として、一曲だけインストというのは具合が悪い。まずは導入として二分ぐらいのインストをもう一曲入れたい。
別の視点から考えると、ジャンルはどうするかだ。斉藤和義やエドシーランのように弾き語りをしてもいい。サポートバンドを依頼してバンド曲を入れるのも良さそうだ。全部俺でもいいぞ。いや、納期的に死ぬか。ギターだけでいくかどうかも問題だ。そもそもピアノでも何でもいいわけで。
ダメだ。頭がおかしくなる……!
畳で左右に回転していると、スマホの着信音が鳴る。マネージャーからだった。
「森本君、急で悪いんだけど出張お願いできないかな」
「出張」
「まぁCDの営業さ。他のタレントが行けなくなってね。ちょうど宣伝にもなるから演奏と手売りをしてほしいんだ」
新人と言えば手売り。分かる。特にアイドルに顕著だが、売れない歌手というのはこの手の営業が多い。
「きっとインスピレーションが刺激されてアルバムにもいい影響があるよ」
「そっすかねえ?」
「ちなみに場所は大阪だ。場所はショッピングモールなんだけど、前泊していいよ」
大阪。食道楽。USJ。ライブハウス。
俺は大阪営業を決意した。
☆★☆★☆★
諸君。大阪と言えば何を連想するだろうか。大阪城、Yes。通天閣、Right。お好み焼きにタコ焼き、Good。
だがもっと有名なものがあるだろう? お笑い芸人だよ。
そう、俺は営業と聞いて所属タレント数名で小一時間宣伝をして終わるものだと思っていた。ところがどうだ。うちの事務所にもお笑い芸人がいた。で、今回の営業は彼らのものであり、欠員もまた芸人だったのだ。
どこに放り込んでるんだマネージャーよ。
「さっきのアーティストさんおるやん? せっかくやし彼になんか弾いてもらって歌ボケやろうや!」
「うちの森本ですか? 彼なら東京で先輩の番組でウケてたしいけると思いますよ」
「よっしゃ!」
なにがよっしゃ、である。会場は大阪のショッピングモールにある広場。そこで行われるのは関西vs関東お笑いショーというどちらも若手の地獄のイベントだった。さらに放り込まれた俺。仕方なく前座としてアニメタイアップ曲を演奏して客寄せを行い、ショーの傍らで手売りをしているときのことである。
二組の芸人が出番を終えたところ、イマイチ受けがわるい。さもありなんとネタを聞きながら納得していたところ、パーテーションで区切られた控室からさきほどの会話が聞こえてきたのである。
「なんやお前ら東京モンは漫才下手っぴやなあ」
「お前が言うなよ」
「ほな次は別のジャンルで勝負せーへんか?」
「いいだろう。受けて立つ」
「よし。ほなジャンルは替え歌や! 森本ちゃん、かもん!!」
カモン、と言われても乗り気ではない。しかし背後から事務所の先輩がつついてくるので仕方なく壇上に向かう。
「じゃあみんなが知ってそうな曲をサビだけ頼むわ」
そう言われても今のご時世著作権というものがありましてね。勝手に演奏してお金を得ると怖い人がやってくるんですよ。というわけで版権切れの曲を思い出す。クラシック、童謡。あ、ジャズならAmazing Graceとかあるじゃん。
よし、いけるか――。
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「というわけで俺は芸人ともども大滑りをして退散したのさ」
「あっはっはっは。ウケるわー。モデルに子役に音楽家。今度は芸人を目指すの? 節操がないわね。よっ、マルチタレント」
「断じて違う。俺はCDを売りに行ったんだ」
翌週。俺は教室で営業の地獄を有馬に語ったところ案の定大笑いされた。まぁアクアも不知火フリルも笑うだろう。星野妹も笑うか。唯一寿だけは慰めてくれそうだが年下に慰められる絵面が地獄なので想像したくない。
「マルチっぷりには負けますけどね。先輩」
「ぐふっ」
しまった。火力が強すぎたか。
「そうね。どうせ私は迷走のあまりどんな仕事も断らなかった女よ。役者としての仕事が減ってからは歌も出した。ピーマン体操を踊りにイベント参加。なんならその世代向けの交通安全イベントやらハロウィンにも出たわよ。へっ」
やばい。有馬の目が死んでいる。
「ま、まぁ芸人と一緒に爆死するよりマシだろ? 最終的にテツ〇モさんのギターまでやったんだぞ」
あ、少しハイライトが戻ってきた。
「お互い、苦労したわね」
「ああ」
「でも事務所的には評判いいんでしょ?」
「それが問題なんだよ」
何をとち狂ったか。芸人の先輩方はどうせ滑るなら異業種の俺もいたほうが
アルバム制作が進んでないんですけど、マネージャーはどういうつもりなんだ。仕方がないので新幹線の中で作詞をするとしよう。今の時代ならPCどころかスマホさえあれば音源も作れるから浮かんだフレーズくらいは打ち込んでおけばいい。
「で、次はどこでっていうか誰と営業?」
「絶対面白がってるだろ」
「あんたのせいで脚本がすっっごく荒ぶってんだからこれくらいいいでしょ」
ああ、アビ子先生のやつね。
「今月は神奈川2件、埼玉と栃木で1件ずつ。来月は名古屋と新潟。12月は今んところ九州のどこかって聞いてる。芸人と組むこともあればミュージシャンともグラビアモデルとも行く。もうわけがわからん」
「あらま。大人気じゃない。八丁味噌まんとへぎそばよろしく」
「土産催促してんじゃないよ、まったく」
それにしても九州か。時間があれば寄り道できるかな。
昔モールで若手ミュージシャンのイベントに遭遇しました。
頑張ってた彼らは今どこに……。
ところでDead of the Mallのゾンビとはスベり倒した芸人たちとヒスイのことでした。何度やられても立ち上がるからね。