魂の子   作:aly

18 / 48
原作ではいきなり半年の時間経過があり『深堀れ☆ワンチャン!!』が始まります。
さらに半年経過したら『15年の嘘』目前。
オリジナリティを出せる余白と捉えるかアンタッチャブルな期間と捉えるか難しいその間の出来事を少し描写します。


突撃! ヒスイのお宅訪問!

「なあなあ、二人はヒスイ先輩のアルバム聴いた?」

 

 陽東高校1年の一室。後方に座る彼女が問いかけたのは仲のいい二人の女子生徒だ。

 

「彼がピアノも弾けるのは知っていたけど、思っていた以上に多才で驚いた。よかったからCDとハイレゾ音源両方にお布施した」

「ほんまそれな。今ガチでもギター持ってたし、東ブレの曲もやん?」

 

 ふっふっふ。分かってるねー二人とも。せんせは天才なのだ。

 前世からお医者さんということもあって頭がいい(なんと学年トップ3常連らしい)し、生まれ変わって音楽の才能が開花した。

 これは私がB小町のライブ映像で教育したおかげだろうか。だとすれば森本ヒスイは実質私が育てたってことじゃない!?

 

「なあ、ルビーはどう思う?」

「え? あー。ギターのビブラートとかすっごく繊細で切ない感じだよね。あとピアノを弾いてるときの揺れてるとこは可愛いしー。あ、でもでも。多重録音したのを編集してるとき姿勢がいいのもいいんだよねー」

「音からそんな光景まで見えてるんや……。すごすぎひん?」

 

 あ、しまった。実は東京に戻ってきてから、ときどきせんせが仕事をしているのを見せてもらっている。デートをしたときにストリートピアノを弾いてもらったときはうっとりしたなぁ。ちょっと事務所に遊びに行ったときには作業中で、ユーチューブ用に撮影したらしい音源を編集していたのを、ちょっと我がままを言って私でも入れる共用スペースでやってもらった。

 うふ。うふふふふふ。

 

「これはガチ恋の顔ね。美少女のこの顔は保養になる」

「ええっ!? でも相手は……ってこの流れやとそういうこと?」

「相手がイケメンなら最高にアンチエイジングにいいのに。とはいえ美女と野獣も野獣側の気持ちになれば……うん、いける」

「野獣は言い過ぎちゃう?」

 

 あー。早く学校終わらないかなー。楽しみだなー。

 MEMちょがYouTuberの仕事で、ロリ先輩は役者の仕事。二人とも仕事じゃアイドルの仕事もレッスンもできないよね。うんうん。だから私だけオフでも仕方ないのだ。

 

「えへへ……」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 落ち着かない。最近俺の前世がルビーちゃんに知られて、しかも彼女もまた生まれ変わりだと判明した。それも研修医時代に共に過ごしたさりなちゃんだという。

 さすがに偶然が過ぎると思って当時の話をしてみたが、俺が彼女のためにブラウン管を用意したことやいかに熱くアイについて語ったか。そして死の前に話した内容まで告げられては疑う余地もない。

 こんな奇跡があるのなら、双子のアクアだったほうがもっと奇跡っぽいのにと言えば、それじゃ結婚できないと容赦なく否定された。

 なお、俺は結婚の約束はしてない。あくまでも16歳になったら考えるという社会的制裁を恐れて日和った発言をしただけだ。

 

「先輩、おまたせ〜!」

 

 学校から少し離れたところにある喫茶店でコーヒーをちびちびやっていると元気な声がドアに備え付けられた鐘の音とともに響き渡る。

 

「君……ちょっとは声を抑えなさい」

「だってどうせ他にお客さんいないしぃ」

「こら」

 

 確かに穴場であるこの店には常連客以外はほとんどいない。彼らはたいてい午前中から昼すぎまでに集中していて、高校が終わる夕刻というのは俺以外の利用者は迷い込んだ一見客が時々いるくらいだ。

 そんなこの店を知ったのは、ギターを披露するために訪れた音楽喫茶の客からの紹介だ。副業で稼いでいるからこんな経営でも成り立っているのだとか。

 学校の生徒も来ないので、今は彼女との待ち合わせに使っている。

 

「せんせ。早く行こうよー」

「これを飲んだらな」

 

 ちびちび。ぐいっと行けないのには理由がある。もちろんコーヒーが実は苦手なんて馬鹿な理由ではない。これから行く先というのが、我が家だからだ。一体どういうイベントなんだ。どこでフラグが立った。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 電車を乗り換えおよそ30分。少し歩けば祖父母の家だ。一応最近は知名度が多少なりとも出てきたということで、二人とも学校で着替えて簡単に変装している。

 

「ここがせんせの家……」

「正確には祖父母の家だな。本当の家は神奈川だ」

「そうだった。家出中なんだっけ? せんせも悪よのう」

 

 好き放題言われているが仕方ない。俺ももう高校三年生になる。そろそろ今の関係に決着をつける必要があるだろう。

 それにルビーちゃんだって反抗期を経験しただろうに。性差や個人差はあるが16歳の思春期真っ只中のはず。義母には辛くあたりづらいからアクアが対象だろうか。アクア、洗濯物は別に洗ってって言ったよね? なーんて。ウケる。

 

「ほら、入れ」

「はーい。おじゃましまーす」

 

 我が家は都内では珍しい古めかしい木造家屋。いかにもなコンクリートブロックの壁に門のアプローチからドアまでには婆さんの趣味の家庭菜園がある。きゅうりに茄子など。今年はししとうとミョウガが増えた。古いといえば扉も横開きだ。

 玄関を上がれば左手に居間とキッチンがあり、右手に応接間という名の俺のグッズ部屋がある。CDや手書きの譜面、歌詞ノートやら好き放題だ。たぶん俺の知らないところで婆ちゃんが友達を呼んで自慢しているのだろう。

 俺の部屋は二階にある。急な階段を上ると俺の部屋と爺ちゃんの部屋に使っていない部屋がある。昔は婆ちゃんの部屋だったそうだが脚を悪くしてからは一階に移って、今では物置だ。ありがたく俺の楽器を置かせてもらっている。

 

「わっ。男の子の部屋だ」

 

 当たり前だろうと思ったが、どうやらアクアはミニマリストなのか物がほとんどないらしい。俺の部屋には雑誌もあればギターもある。大量のCDもあるから全く異なって見えるそうだ。

 

「B小町の円盤がないので減点です」

「今どういう値段ついてるのか知ってて言ってる? ルビーちゃんたちが襲名してから再高騰してんだから」

「そうなんだ。うちの事務所には普通にあるから気づかなかった」

 

 まぁ再予習しなくとも俺の脳内にライブの記憶は残っている。特にさりなちゃんがレクチャーしてくれたときのものは。だから問題ない。

 ネットには違法に保存された過去のライブ映像もあるが、古式ゆかしいファンとして見てはいけないと思っている。

 

「ところでせんせ。本当にその時のこと覚えてないの? ショックが原因なのかな?」

「分からない。もうすぐ双子が産まれることを確認したところまでははっきり覚えてるんだが……」

「そっかあ。私は最期まで覚えてるけどなぁ。せんせが一緒にいてくれたこと」

「そっちは覚えてるから安心しろ」

 

 まさか俺が殺されていたとは夢にも思わなかった。前世は前世と割り切っていたからだろうか。てっきり普通に死んで、俺の魂だけが過去に転生してきたんだとばかり思っていた。

 失踪? アイが死んでヤケクソにでもなったのかと思ってました。わはは。

 再び六畳間を探索し始めたルビーちゃんを眺めていると、廊下を挟んだ向こう側の部屋の扉が開いた。爺ちゃんだ。

 

「翡翠。お前彼女を呼ぶなら先に言っておけ。外に出ててやるのに」

「変な気をつかわないでくれ。というか彼女というわけでは……」

 

 冷たい視線がまっすぐに俺の後頭部を射抜いている。誰のものかは自明である。

 彼女はすすすと扉の脇まで進むと、そっと開いて笑みを浮かべた。

 

「はじめまして。星野ルビーです☆」

「こりゃご丁寧に。翡翠の祖父の晶です。よかったら一階でお茶でもどうだい」

「はーい」

 

 連れだって歩く二人を追うと、なぜか居間ではなく応接間に入っていく。うそだろ爺ちゃん。

 

「うわぁ。せんs……ぱいの写真がいっぱい!」

「うちの婆さんの趣味でな。あとアルバムがあそこにあるから好きに見りゃいい。俺は茶を持ってくる」

 

 なんという羞恥心。さすがにその部屋に入ることはできず、爺ちゃんの背を追って台所へ向かう。

 そろそろ麦茶か、なんて冷蔵庫を開けている爺ちゃんの横に立ってじとりと目線をやると、本人は耐えられなかったのかにんまりと笑った。

 

「そう怒るな。それにしてもお前。似たような子を連れてきたな」

「何が?」

「眼だ。前に言ったことがあっただろう。星のような輝きがお前にはあると。あの子にも見える」

 

 ふむ。たしか高校に入ってすぐに聞いた話だ。

 ルビーちゃんはアイの娘。そして才能あるアイドル。まぁそういうこともあるだろう。

 

「芸能界にはそういう人は多いのか? 俺にゃテレビ越しじゃ分からないもんだが」

「いや。あの子は特別さ。兄のアクアも似たようなもんだが。他は――」

「ん?」

「いや、何でもない」

 

 かつてあの目を後天的に宿したやつがいる。黒川あかねだ。

 普段は穏やかな目をしているが、アイの演技をしたときだけあいつの眼には輝きがあった。爺ちゃんの言う星のような輝きが。

 アイの血筋だからと双子に関してはよく考えたことがなかった。俺にしても薄っすらとしたものだから気にならなかったが、あかねの件もふまえてよく考えると共通点はなんだ。演技の才能というわけではないだろう。アイの片鱗――というなら俺が例外だ。

 まぁ考えても仕方ないか。早くこの麦茶をルビーちゃんのところに運ばねば、部屋中を調べ尽くされてしまうからな。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 森本ヒスイとは何者だろうか。ルビーちゃんは彼を「先生」と呼んだ。また、雨宮吾郎という医者の遺品について二人には共通の知識があるらしい。

 アクアくんの口ぶりからすると雨宮さんは知人だったというけれど、遺体の白骨化から考えると彼は最低でも死後半年は経っていると考えられる。しかし失踪記事がかなり前にあるから幼少期の知人なのだろうか。

 もう一つ不可解なのはアクアくんがペットの死体の話をしていたこと。あれは恐らく雨宮さんのことだったのだろう。だけどたしか――15年くらい前に死んだ、と言っていなかっただろうか。だとすると相当昔に亡くなっていたことをアクアくんは知っていた。

 幼少期のアクアくんと面識があったならルビーちゃんと知り合いでもおかしくはない。ではヒスイくんは? 彼の両親は神奈川県に住んでいる。彼は今母方の祖父母の家に住んでいるが、都内にいる。父方の親戚が高千穂にいるのだろうか。三人は幼少期の知人? そんな話は特に聞いたことがないし、ヒスイくんは彼女を「星野妹」と他人行儀に呼ぶ。

 あの遺体を見てから明らかにルビーちゃんはヒスイくんに対して親密さが増した。思い出したという表現では言い表せない不気味さがある。正しくは、そう。発見したという表現の方がずっと近い。

 私が知る前のヒスイくんは今とは全然違う相貌だった? 仮にそうだとしたらかなり昔の知人だったことになるから、実際に雨宮さんが亡くなったのは10年強くらい前なら説明がつきそう。

 

「うーん……なんかしっくりこないなぁ」

 

 一番疑問なのはアクアくんだ。雨宮さんの家に行ったとき、彼は迷いもなく鍵を取り出した。あそこにあることを知っていたんだ。雨宮さんがポストに鍵を隠すところを見たことがあるのだろう。

 しかし問題なのは雨宮さんについて聞いたときだ。雨宮さんについて思い出しながら話していたように思えたが、よくよく思い出せば途中からおかしかった。「本当は外科医になりたかった」という言い回しはまるで自分がそうであったかのようだ。

 雨宮さんに強い思い入れがあって語り部の役に入り込んでいた? むしろ幼い頃に受けたショックで境界性が曖昧になっているように感じる。もしかして、彼の死に直接関係している?

 

「まだ情報が不足してる」

 

 まずはアクアくんたちの親類に幼少期の行動記録。雨宮さんの情報が必要だ。

 それにルビーちゃんの「先生」という呼称だ。幼少期のあだ名? しかし先生というには本物の先生(ドクター)がそばにいたはずなのに、どうしてその言葉をチョイスしたんだろうか。




アスリートの実家ってよくトロフィーが飾ってある部屋がありますよね。
あんなイメージの応接間です。別名ヒスイ記念館。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。