ええ、そうです。この先の展開で苦労してるので一話挟みました。
『Check Data TV! 日々の流行ミュージックを紹介するよ! 今日のシングルCD売上枚数ランキングは……』
待機時間にスマホで動画を確認する。これは有名な音楽番組の過去の放送回だ。
様々なランキング形式で楽曲を紹介していくスタイルで、基本的にはPVを順に流していく。
合間に注目のアーティストや新人の収録コメントを流すのだが、まさに俺は今その収録のためにテレビ局へ来ていた。
ブレンド茶『Sou』のCM曲として取り上げられた結果、三味線を使った曲『打水』がダウンロード数ランキングに入った。
ちなみに商品名は爽やかの爽と蔵熟成の蔵のダブルミーニングらしい。うーん?
とにかく俺はそのコメントの収録のために楽屋待機しているというわけだ。一日に何組か撮影するそうで、俺は前の撮影が終わるのを待っている。
「森本さん、前の組の撮影が終わりましたので準備お願いしまーす」
AD の軽い声に椅子から立ち上がる。ちなみにテレビに映るとあって今回は衣装が用意された。レザーとデニムでパッチワークした作務衣である。ロック心をくすぐる一品だ。
彼女の後を付いて廊下を歩いていると、向こう側から聞き覚えのある声がした。
「あれ、ヒスイくんだあ! 久しぶりぃ」
「メムか。大きくなったな」
「時空歪んでるよぉ!?」
こいつとは宮崎で会ったのが最後だったか。有馬とは高校で、ルビーちゃんとはしばしば会っているのであまり久しぶりというわけではない。
「ダウンロード数18位おめでとう、ヒスイ」
「CD売上15位のお前らに言われるとあまり嬉しくない」
「あれあれ? もしかして僻んでる? 自称天才ミュージシャンの森本薫翡翠さんがたかがアイドルにぃ?」
「おのれ……」
アイドルのファンってのは推し活するのが生き甲斐なんだよ。だからCDでも何でもグッズは入手。こっちは顔で売れないんだ。土俵が違うんだよ。
「先輩♪ せっかくだしこの後遅めのランチ行こう?」
「いいねぇ。かなちゃんもいいよね?」
「好きにしたら」
いつの間にか俺の意思の確認もなく予定が決まった。あ、ADさん待たせてすみません、今行きます。
☆★☆★☆★
有馬が案内した店は芸能人も多く訪れる個室完備のレストランだった。ランチの後にはカフェタイムも行っており軽食が楽しめる。
「さすがの芸歴最年長だな」
「まぁね。ちょっと前まではカラオケ常連だったけど、最近はお財布に余裕も出てきたから昔連れてきてもらった店にもこうして来られるようになったわ」
「さすがB小町だな」
新生B小町の新曲は大反響を呼んで、その後の曲もオリコン20位以内をキープしている。
さらに最近ルビーちゃんがバラエティ番組の準レギュラーとなってからはさらに人気が上がって今や10位あたりにいる。
「でしょでしょー?」
「ルビーちゃんはワシが育てた」
「いや俺だが」
彼女の最初の音痴っぷりときたら、思い出すだけでも頭痛がする。アクアの悲壮的なSOSを聞いたときには大げさなと笑ったが、録画された映像を見てすぐに真顔になった。
「……あんたらは呑気でいいわね。ま、浮かれるのも今のうちだけよ。今の社会消費の回転率半端ないんだから」
「先輩こわぁ」
うん? なんか今の有馬、いつもの毒舌や自虐って感じじゃなかったな。
メムに目配せをする。
(ルビーちゃんの相手をせよ)
(らじゃー!)
ルビーちゃんは俺の正面に座っている。隣合って座ろうものなら油断して彼女に隙が出そうだったので俺は早々と有馬の隣に陣取っていた。したがって、メムは即座にルビーへとスマホを取り出して注意をそらしている。
「それで。何かあったな?」
「……ふぇ?」
はむ、とサンドイッチを頬張った状態で有馬が停止する。
いいから食べろと目配せをすると、リスのように勢いよく咀嚼して水を含んだ。
「仕事か? アクアか?」
「はーーーっ? べ、別に私がたとえ何かに悩んだとしてどうしてその二択になるのかしら? 幸いアイドル活動は順調だし、アクアとは最近仕事で一緒になることもないから悩みようがないわよ」
「両方か」
なるほどなぁ。アイドルにしか言及しないということは役者方面の不安か。現役アイドルとはいっても芯は役者。となれば最近の仕事内容には不満もあろう。とくにあかねが活躍していることをこいつが何とも思っていないはずがない。
アクアにしてもあかねの話だと復讐から手を引いて彼女との関係性に重きを置いているらしい。うーん。これはビジネス恋愛ではなくなったことがバレたか?
(こ、こいつってばいつも分かったような口を利いてっ。今どき俺様系は流行らないわよ。でも前にも弱ったときに私のことをちゃんと見ててくれたのよね)
アイドルに恋愛なしというわけじゃないが、徹底的に嫌悪する輩が一定数いるのも確かだ。アクアは一応メンバーの家族というグレーゾーンにいたが、ファンにとっては穿った見方もできなくもない。「この写真は兄が撮ってくれました」と言っても信じてくれるかは厳しい。あれ、なんか自分にもブーメラン刺さってる気がする。
とにかく仕事上はいいことなんだが有馬個人にとってはそうでもないのが問題だ。だが有馬が本当に危険なときはこんな饒舌には喋らない。『今日あま』以前の暗黒期の映像を見えていたが、ふとした瞬間にハイライト消えてたからな。たぶんこれは黄色信号か?
(っていうか何か言いなさいよね。じっと私を見て、見て……やだこいつ私のこと凝視しすぎじゃない? 私ったら可愛くて罪な女。やはりヒスイは私に惚れている。つまり黒川あかねに劣っているわけではない! あっ、なんかちょっと首筋が暑いかも。髪をかき上げて……やっぱり見てるー!! きゃー! きゃー!)
そういえば最近のルビーちゃんはやけに仕事に熱意があるんだよな。ライブで見る吸い込まれそうな感覚も以前より増している。バラエティにも出演するようになったが、ちょっと危なっかしい感じがある。確かに彼女はやや奔放ではあるが、演出上は完全なおバカキャラと化している。複雑だ。
ところで有馬がうねっているのは何だ?
「ひすいせんぱぁい?」
ふと視界の横方向から冷気が漂ってくる。ゆっくりとそちらを向けばむっすりと頬を膨らませたルビーちゃんがいる。隣でメムが白けた顔をして口笛を吹く仕草。
「ちょっと先輩と仲良くしすぎじゃないかな? っていうか見つめすぎじゃないかな? 私たちアイドルなんですけど?」
君が言うな。
「や、やっぱり客観的に見てもそうなのね。あんなクソボケなんて無視無視。いやー、やっぱり出会いの早さより過ごした時間のほうが重要じゃない? ぽっと出のキャラなんてノーセンキュー」
「こいつ壊れてる」
「いやぁ、それ君のせいだからね? クーリングオフとか受け付けてませんからぁ!」
(やったよ私! これでアクあか、ヒスかなで無事ギスらずに恋は成就した! 友達も仲間も裏切らないでこのクソゲーをクリアしたんだぁ)
メムが涙を流している。なんだろう。あ、これはまさかルビーちゃんの暴走によってアイドル人生の危機を悟っての涙では?
推しのアイドルの喧嘩とか悪夢だ。よし、おそらくルビーちゃんをこの場で一番てなづけているのは俺。任せろ。
「ルビーちゃん。そのくらいでストップ。ちゃんと君を見てるから。こないだのライブ良かったよ。ちゃんと見えてた?」
「もちろん! せんsぱいのことならドームでだって見つけられるもん」
「そうか。それはすごいなぁ。ところでラス曲のダンスだけど――」
(あぁああ!? かなちゃんの顔から表情が抜け落ちていくー!? ああっ、旅立たないで!!)
メムが虚空に手を伸ばしているが何をしているんだろう。
ま、とりあえず問題は取り除いたからパーフェクトコミュニケーションってところかな。
(やっぱ私のまわりの男ってどいつもこいつもクソだわ。帰って寝よ)
いつの間にかCMに曲が採用されてる。詳細は次回にて。
久しぶりにメムとかなを書いて癒された。
デフォルメされたメムが脳内で歓喜の踊りを舞っています。
タイトルのBは「B小町、BAD」のB!