魂の子   作:aly

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タイトルでマイルドにする作戦。


ゲロっちゃお♡

 あれから、俺は崩れ落ちたあかねに肩を貸して、ひとまず近場で個室のある店に移動した。

 幸い夕方だったので開いている店はすぐに見つかった。なんせあかねのやつはろくな変装もしていない。今は全国が注目する新人女優だというのに、目的に集中するあまりこの様だ。いや、あえて変装をしないことで警戒させない狙いがあったのかもしれない。

 二人分のドリンクと、あかねが動き出すのを待っていたために腹が空いていたので軽いものを注文する。しかし俺が食事を始めてもあかねは放心したまま飲み物に手をつけることすらしない。

 

「とりあえずお前も何か胃にいれろよ。何か食べないと気力も湧かないぞ。ここで諦めるつもりじゃないんだろ?」

 

 あかねの肩が震える。……仕方がない。

 

「アクアは神木ヒカルに遠からず辿り着くぞ」

 

 その言葉に、あかねはがばりと顔を上げた。

 

「どうしてその名前を知ってるの? 私、そこまで言ったっけ?」

「いや。言ってない」

「じゃあ……そっか。ヒスイくんは私よりも先に辿り着いてたんだ。それでも黙ってた。私と同じだね」

 

 一瞬瞳に強い力が宿った。ああ、これは殴られても仕方ないかと思っていたら、彼女は急速に力を失って上げかけていた腰を再び椅子に戻した。

 人を動かす強い力は怒りだ。それを利用しようとしたが、あかねの場合はそうではないらしい。むしろ聡明な頭脳によって俺の意図すら察してしまった。

 

「どうしたらアクアくんを救えたのかな。まだ手立てはあるのかな……」

 

 アクアは一見復讐に対しては手段を選ばない人間に思える。DNA鑑定の件にしても、人間関係に利用価値を見出せるかどうかを考慮する点なんかはまさにそうだ。しかしあいつが暴力を振るったことは一度もない。あかねの言う通り本質的には平和的で明るい人間なのだとしたら、果たして本当に暴力的な解決ができるのだろうか。

 たとえば俺なら……(ゴロー)自身を殺したストーカーやいい印象のない両親に対して何か報復を考えたとしても、暴力的な手段はとれない。それは医者だった矜持もあるし、そもそも俺は怒るより諦観してしまう人間だからだ。怒りには力になるが、同時に途方もないエネルギーが必要になる。

 さりなちゃんの今際の時に彼女の両親が来なかったときも、俺は怒りこそすれ最後には諦めてしまった。日に日に足を運ばなくなった親に対して、俺が代わりになることで埋め合わせをしようとした。ただの代償行為だと分かっていても。

 アクアがもしも復讐に向かない本質を持った人間だとしたら、きっと別の間接的な方法で復讐を行うだろう。きっと心が晴れることはないが、それでも無理やり納得させて全てが終わったと信じるしかないのだ。

 

「たぶんあかねの思っているようなことにはならないんじゃないか」

「どういうこと?」

「あいつはそんなに強くも弱くもないってこと。あいつの復讐はきっと、時間がかかる」

 

 法的に裁けない相手に罰をくだす方法で、自ら手を汚さない方法はいくつかある。相手自身に決着をつけさせるとか。しかしそれには準備が必要だろう。まずは情報を集めて弱みを握ってといった具合にだ。

 だったらまだやりようはある。

 

「あかね。腹を割って話そうか。ちょっとお前の家寄っていい?」

 

 はは。傍から見たらフラれたばかりの女に漬け込んで家に上がり込むクソ野郎のセリフだ。これ。

 当然ながらあかねの白々しい視線を浴びながら、俺はその目的を以って弁明するのであった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 人はみな秘密を抱えて生きている。

 私やアクアくんは特にその傾向が強い人間だと思っていた。それがどういうことだろう。この飄々として能天気そうなこの男は、いったいどれほどの秘密を抱えて生きてきたのだろう。

 

「えっと、もう一度初めから説明してくれる? ちょっとオーバーフローしちゃってた」

「うむ。そうだと思ってた」

 

 最初はデスク用の椅子にヒスイくんが、ベッドに私が腰かける形で向かい合っていた。ところが気が付いたら私はクッションを抱きしめて、そこに顔を埋めて彼の話を聞き流していた。

 だって、仕方がないじゃない。アクアくんとルビーちゃんはアイの子供? 二人のアイへの執着を考えれば想像はできる。担当医だったのなら知っててもおかしくない話だ。センシティブだし本人たちが伏せていたのだから今まで秘密にしていたのも納得できる。

 でもその上でヒスイ君は何ヵ月も前にカミキヒカルに会っていて? しかも何度も? それからカミキの依頼を受けていた? いや、マジほんとふざけるなって話なんだけども。

 

「神木はおそらくIQが高くて計画性のあるビジョン系のシリアルキラーだ。いわゆる神の啓示や妄想に取りつかれて殺人を繰り返すってタイプだな。神木の場合は神に選ばれた芸能の才能を持つ人間。神木曰く真の本物以外の紛い物を排除することが動機だ」

「えー……」

「真顔でひくな。俺は直接これを聞かされたんだぞ。少しはねぎらえ」

 

 たしかに危険な役を引き受けてくれたとは思う。でも二重スパイをしてたんでしょ? 素直に労うのは無理。

 あれ? でも今の説明だと大きな矛盾がある。アイはどう考えても誰をも惹きつけてやまないアイドルだ。紛い物なんて呼べるだろうか。

 

「何かに気づいた顔をしてるな。きっとアイの殺害理由だろ」

「わ、すごい」

「初歩的なことだ。俺だって最初は矛盾してると思ったからな。理由は明らかになっている。アクアとルビーちゃんだ。子供を宿したことで穢してしまったと思ったんだよ。自分の手で紛い物にしてしまったと感じた。だから自ら葬ろうと考えたんだ」

 

 それは何て身勝手なことだろう。それに、アイはむしろ復帰してからのほうが活き活きとしていたように思える。子供たちからたくさんのことを学び、きっと成長していったんだ。私にはなんとなくわかるよ。大切なものがなかったアイには、夢しかなかった。けれどもいつしか子供たちが大切なものになったんだ。あるいは、生まれた瞬間からそうだったけど分からなかった。そんな人をアクアくんたちから奪ったんだ。

 

「その後の殺人行為、これは証拠があるわけじゃないから何とも言えないけど、あいつの発言から推測したところそれはアイを殺したことを正当化するための行為なんだと思う」

「そんな理由で……」

「あの手合いの殺人鬼の動機なんて推しはかろうとしても無駄だ。とにかく、そういうわけだから俺はお前と神木の接触はさせられなかった。下手したらお前も殺されてもおかしくないからな」

 

 たしかに私はアイほどの才能があるかどうかと言われると疑問だ。それでも一応日本映画賞の新人女優賞を取ったんですけど。

 ちょっとした怒りを込めてクッションを投げつける。ヒスイくんはあっさりとキャッチしたそれを投げ返してきた。

 

「わぷ……!」

「根拠もある。あかねは俺やアクアの目を見て何か感じたことはないか? 視覚的でも感覚的なものでもいい」

 

 ある。これはアイを研究していたときにも感じたものだ。引き寄せられるような輝く目。自信の表れかなと思っていたけど、金田一さんもたしか役者としての資質がある人の目だと言っていた。たしか、嘘をつくのが上手い人間の特徴だとか。

 正面のヒスイくんの目を見る。たしかにうっすらとそういう感じはある。でもヒスイくんは演技が下手くそだし嘘も苦手だ。あれー?

 

「俺はちょっと例外だったわ。アクアとルビーちゃんとお前の共通点と言ったほうがいいか。神木によると芸能の才能を授けられた人間の目らしい。芸能の才能はイコール嘘つきの才能だとも言ってたな」

「なるほど。たしかにヒスイくんは例外だね」

「何を考えてるかは分かってるからな? で、またおかしな話なんだが、これを神木は神様がつけたタグだって考えている。GPSだ」

 

 うーん。それはむしろ神様が探すための座標というよりカミキ自身が標的を選ぶときのタグな気がする。その正当性に神様を用いている?

 

「とりあえず神木の話は以上だ。次はルビーちゃんの話だ。本当は許可なく話すのは論外なんだけど……背に腹は代えられんからな。実は彼女も生まれ変わりだ。前世の名前は天童寺さりな。雨宮吾郎が研修医時代に仲がよかった患者で、俺が看取った。アイのことを推すようになったのも彼女の影響なんだ」

「えぇーーっ!? そんなオカルトが重なることがありうるの? ってなんか運命の再開を果たしてるし。あ、もしかして高千穂でのあれってそういうこと!? 先生ってそういう意味かぁ!」

 

 まさかの事実が判明。でも言われてみれば納得できることは多い。ルビーちゃんは年の離れた好きな人がいると言っていた。雨宮吾郎さんのことだ。そのことを私に伝えてすぐにヒスイくんに猛アプローチを仕掛けていると思ったら、ヒスイくんが雨宮さんだと分かったからか。

 ずっとアイドルに憧れていたのは前世からアイに憧れていたから。ヒスイくんより違和感なくふつうに今の生活に馴染んでるのは前世で亡くなった年齢が低いからかな。

 

「こんなことバラして大丈夫? ルビーちゃんに怒られない?」

「絶対怒られる。しかし神木がやけにオカルトに傾倒してるからな。こっちのオカルトも共有しておいたほうがいいと思った。俺の気づかないところにヒントがあったとしても、あかねなら分かるかもしれない。最近のルビーちゃんはかなり様子がおかしい。アクアとの関係がよくないのか、仇の存在にうっすら気づいているのか。理由は分からないけど彼女を守るためだ」

 

 たしかにそうだ。ルビーちゃんがバラエティ番組に出だしたのは最近からだ。高千穂で何かがあったのか、もしくは東京で真相に近い人物に遭遇したか。

 それにしてもヒスイくんはルビーちゃんに過保護だなぁ。私のアクアくんへのそれとは違う気がする。友達や恋人という域は超えている気がする。もっと大らかで包容力のあるもの――父性? 雨宮さんとさりなちゃんという前世の関係が影響しているとしたら医者と患者。いずれにしても年齢差もあったし、ルビーちゃんを保護してしかるべき人と認識してそうだ。アクアくんに対しても無条件に助けてくれるのは、自分が担当していた妊婦の子だったからなのかもしれない。

 

「とりえあえずヒスイくん。正座しよっか?」

「は?」

「私が言えたことじゃないかもしれないけど、ごめんなさいしないといけないことがあるよね」

 

 ルビーちゃんに対する態度とか。秘密をばらしたこととか。黙って神木に接触していたこととか。私を尾行していたこととか。

 もしかしてヒスイくんが嘘をつくのが下手な原因って、既に大きな秘密を抱えているから無意識にセーブしているのかもなぁ。なんて考えながら、私は大人しく床に腰を降ろした彼をとつとつと叱るのである。

 ルビーちゃんの件は気持ち強めにね。乙女の恋心はとってもナイーブなんだから! 私の分まで受け取れーー!!




ヒスイ大暴投。原作に大きな風穴を開ける。

今日はこんなに早くネタばらししていいのか!!
おかわり(ばらしてないネタ)もあるぞ!

あとタイトルであかねが虹を放出したと思った人は正座してください。 
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