魂の子   作:aly

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我ながらひどいタイトルだ。
おわかりでしょうか? ギャグ回です。


アイドル有馬かな、男二人を我が物にする

「は?」

 

 その日、ルビーは激怒した。

 順風満帆――とまではいかなくとも、人気をぐんぐんと上げている真っ最中のアイドルユニットに異性関係のスクープが浮上したのだ。

 容疑者は有馬かな。高校三年生。ロリ。少なくとも三人の中でもっとも色恋沙汰とは縁がないと思われる。

 ところがどっこい。彼女はなんとある映画監督の自宅前で撮影されてしまっている。しかも、二股だ!!

 意気揚々と監督の家に入ろうとする二人組の写真。その間に立ちふさがって二人を引き離そうとする男の図という三人の写真。朝になって二人でマンションから出てくる男女。

 その相手は――。

 

「なんでせんせまでスクープ写真に入ってるのぉぉぉお!?」

「はぁ? せんせ?」

「あ、いや先輩ね。ヒスイ先輩」

 

 そう。なんと先輩を窮地から救い出したのは私のせんせことヒスイ先輩なのである。しかしこんなスクープを撮られていたとなっては、引退後に二人で仲良くゴールインするときの印象が悪くなってしまうじゃないか。

 そもそもロリのほうの先輩はなにしてるわけ? 無防備にふらふら変な男に寄っていくなんてダメじゃん!

 よし、復讐はいったんお預けだ。今は将来の旦那を救わなければ!

 

「電話でろ電話でろ電話でろ」

「怖いわよルビー」

 

 

☆★☆★☆★  

 

 

 俺は神木を恨んでもいいと思う。

 今更ながらにそう思うのは、こいつの人使いが粗いというのもあるが、トラブルを呼び寄せる疫病神だからだ。

 神木が明確な意図を以って星野兄妹と距離を置いているのは、しばらくこいつの依頼を受けてきて分かってきたことだ。

 大きな仕事に関しては神木自身が把握してるらしいのだが、ルビーちゃんのユーチューブのロケだとかアクアのバラエティの仕事は追い切れていないらしい。そういうのを把握するのが俺の仕事だ。

 ルビーちゃんとの会話から割り出したり、メムとユーチューブ談義と称してさりげなく予定を聞き出す。アクアに関してはあかねを通じて予定を確認していた。ときには彼女たちの友人として事務所に出入りさせてもらうこともあり、ホワイトボードで予定を確認するという狡すっからい真似もした。

 その結果俺は墓場まで持っていくつもりだった秘密をあかねに晒すことになり、さらにこってり絞られた。

 これらは基本的にメールで神木に送る。もちろん最初は彼女たちの安全のために近辺に潜んでいたが、やつが現れる気配は一向にない。どうやら本気で接触をしないつもりだと分かった。

 それとは別に神木はわがままを言う。月に一度くらいの頻度で俺の音楽を聴きたいというのだ。

 おそらく俺のメンタルチェックなのだろう。あいつは音色で俺の感情を読めるらしいからな。一度あかねの発案で盗聴器を装備していこうとしたのだが、緊張感が薄れていると言われてすぐに外された。

 なんでこんなことを考えていたのかというと、今日もまた神木に呼び出されて演奏をしていたからだ。精神的に不安定な今ははっきり言って断りたい。しかし微妙なバランスで成り立っている今の関係を崩し、神木の動向が全く分からなくなるのは困る。

 場所は雑居ビルにある洒落たバーで、貸切らしく店主すらいない。そこでギターを弾いていたら、突然神木が席を立った。懐からスマホを取り出して部屋を出ていく。あんなんでも一応芸能プロダクションの社長なのだから電話も多かろう。そう思っていたところ、戻ってきた神木はこう言った。

 

「君のお友達を見かけたよ。あれ、大丈夫かな?」

 

 お友達って、俺の友人はほぼ高校生だ。例外はアビ子先生くらいだがあの人はこんな飲み屋とキャバしかないビルには近寄らない。

 慌ててバーを出て廊下を走る。

 無情にもエレベーターは閉まったところで降下を始めている。俺は急いで階段を駆け下りた。膝に手をつき、肩で息をしながらなんとか10メートルは先を歩く集団を見つける。

 

「はぁ……はぁ……あれは、有馬か?」

 

 数名の女性の中に有馬らしき後ろ姿がある。その隣には成人した男がいた。

 というか有馬は未成年だろう。なんだってこんなところにいるんだ? まさか俺みたいにろくでもない理由というわけでもなし。

 空っぽになったエレベーターで部屋に戻る。スマホを弄っていた神木に一応詫びを入れて演奏を再開する。

 しかしそれはすぐに神木の笑いによって中断させれた。

 

「ははははっ。君ね、動揺しすぎだ。あの子のことが好きなのかい?」

「そういうんじゃない。同級生だからな。心配なだけだ」

「ふーん。まぁそうだろうね。あの男は映画監督の島。女遊びで有名なやつだから彼女が大事なら気を付けたほうがいい」

 

 なんでこんな男に恋愛話で心配されなきゃいかんのだ。そもそも友人だと言っただろう。

 しかし映画監督か。そういえば名前を聞いたことがある。有名なやつだ。

 有馬のやつ。あまりにもアクアに相手にされないから同業者のダメ男に引っかかったのか!? 待て待て待て。今お前にはチャンスがある。あかねには悪いが今のアクアは一応フリーだ。復讐が恋人みたいな状態だけど。

 これはさすがにあかねには相談できない。ルビーちゃんには……話したら煽りそうだからナシ。そうだ。

 

『留守番電話に接続します。発信音のあとに――』

 

 メムぅ!!

 くそ、今は自分のことで手一杯だっていうのに、誰も頼れるやつがいない。こうなったらやるしかないのか。俺が。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 とはいえ有馬はなかなか行動を起こさない。

 仕方がないので俺は本来の目的のためにオフを使って一日で歩いていた。しかしリフレッシュはできない。

 夕飯どうしようかな。婆ちゃんには悪いけど外食で済まそうか。そう思ってスマホを取り出して、そいつを見つけた。

 

「よりによって今日かよ!! お前アクアとも二人でディナーに出かけたことねぇだろ!(たぶん)」

 

 仕方がないので後をつけて同じ店に入る。有馬たちは座敷席に通されたが、俺は一人なのでカウンター席だ。やや離れているが俺は耳がいいので問題ない。

 有馬の声は心なしか明るい。浮かれてるな。それにしてもこの監督、耳障りのいいことばっか言ってるな。絶妙に有馬の弱点を付いてきている。

 あ、ヤバい。有馬が釣られた。今から別の店にってお前まだ未成年だろう。

 有馬たちが出てくる前に慌てて会計を済ませる。ちなみに烏龍茶とから揚げとお通しだけというしょっぱい客だ。それから店の脇の電柱に身を潜めて動向を探る。

 うん? これはまさか。お前、今からお持ち帰りされるつもりか!?

 会話を弾ませながら歩く二人をつける。有馬、それはただの破滅への道だぞ。勝手ながらお前にはアクアを引きとどまらせる役を担ってほしい。ルビーちゃんの制御も頼みたい。あと友人だし。多少は心配する。

 あっ。やばい。あのマンションが自宅だ。ええい、こうなれば――。

 

「おい、有馬」

「ヒスイ!?」

 

 さすがに有馬もよくないところを見られたと分かっているのか顔が青くなる。島監督の方はなんだか面白いものを見つけたという様子でニヤニヤと笑っている。

 

「こいつ、貰っていってもいいですね?」

「はぁ? あんたには関係ないでしょ。これは映画監督と役者の話。音楽屋には関係ないわ」

「そんな面して何偉そうなこと言ってんだ」

「ひどい顔なのはあんたのほうでしょう?」

 

 こいつ恋愛経験お子様だから分かってないのだろうか。後で悔やんでも遅いんだ。焦りや勢いでこういうことはするべきじゃない。未来ある若者なら、しっかり悩んでから行動しろ。考えなしも若者の特権だがこれは話が違うぞ。

 

「くく……こいつは面白い。なぁ、君。君も一緒に家に来ないか?」

「は?」

「え?」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

俺と有馬は苺プロダクションのソファーに並んで座っていた。

対面には社長さんとルビーちゃんがいる。メムは俺たちの斜め後ろで原形を失っておろおろとしているばかりだ。

 

「一応撮られた経緯は分かったわ」

「先輩、本当にその監督の家で何もなかったんだよね? もしかして三人で不純なこととか……」

「ないです!!」

 

 今一瞬ルビーちゃんの瞳が神木よりも深い黒に染まったが気がして、反射的に大声で否定した。

 そもそも島監督の家では本当にやらしい感じにはなっていない。当初はそのつもりだったらしいのだが、マンションの前で感情をむき出しにして罵り合う俺たちを見て気が変わったのだそうだ。まぁ片方は青い顔で、もう片方は顔を赤くしてぎゃーすか言ってたら変な気も失せるか。

 

「ウザすぎ死ねなんなんだアイツバカアホカス!」とか暴言を吐く有馬を見て、多少事情が分かっている俺としてはアクアを庇わざるをえない。あいつが日常に戻ってくるには、何も知らない身近にいたほうがいい。あかねはもう色々知りすぎているから、有馬やメムにはあいつの日常であってほしいのだ。

 そう思って宥めたら矛先がこちらに向いた。

 

「あんたもいちいち優しいのよ! 私がアクアのバカに落ち込まされたときに限って優しい言葉をかけてくるとか何なの? 私のこと好きなの? それなら真っ直ぐぶつかってきなさいよ勘違いさせるようなアクアなことしてんじゃないわよ!」

 

 というようなやり取りをしばらくした後、監督と有馬は演技談に入ってしまった。有馬を置いて帰るわけにも寝るわけにもいかない俺は、やはり記憶の件について考えるしかない。他人の家で何をやっているんだという気がして何も前進しなかったが。今度は誰もいないところでゆっくり考えよう。

 ちなみにこれらのやりとりはルビーちゃんと社長さんたちには話していない。有馬が俺に勘違いしかけたなんて知ったら面倒なことになるのは火を見るよりも明らかだからだ。

 さて、ここからは苺プロダクション内の話だ。俺のほうは彼女ほど深刻なダメージにはならない。いや、『蛇視の島監督、未成年者2人を家に連れ込み不倫か』『アイドル有馬かな、男二人を我が物にする』なんて記事は十分にアレなんだが、なぜか神木が俺のほうだけもみ消してしまったため俺の正体は親しい人間くらいしか分からないようになっていた。

 さて、ここから有馬はどうなるのか。アクア、復讐ばかりに気を取られている場合じゃないぞ。




ストーキングに定評のある主人公になってしまった……。
最初にキャラクターを考えたときにはこんな設定なかったのに。
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