『アイドル』をちょっと回収。ついでに謎(オカルト)を追加。
例の週刊誌の発売日。俺はそれを特に目にすることなく目的地に来ていた。
最近は営業仕事(神木の依頼含む)ばかりだったので、その合間に免許を取った二輪があるので遠出も容易だ。
最近はいろいろなことがあった。少しじっくりと考えたいことがあるのだが、都会のいうのはこういうときに不便だ。外に出れば喧騒からは逃れられないし、自宅にいても祖父母もいればスマホがうるさい。
そこで今日は早朝から二輪に乗って人のいない場所に行こうと思った。以前高千穂捜索のために始めた登山がちょうどいいだろうと、日帰りの支度だけで俺は山を訪れていた。
静かなところであればいいので、近場の奥多摩へやってきた。あまり長距離を二輪で移動するのは寒いから今回は近場がいい。それに人気の山に行く必要はないのだ。
整備された登山道なのか、ところどころに木柵やロープなどが設置されている。初心者でも登れる低山だという情報だったが、紅葉シーズンも終わって冬登山への移行期だからか人が少ない。
縦走する人のための山小屋から下山してくる人たちとすれ違っただけだった。
ほどなくして山頂にたどり着く。山小屋では軽食を提供しているそうだが、俺は離れたところに陣取ってバックパックを開封する。
時間はあるのでのんびりと軽量のチェアを展開し、コーヒーを淹れる。澄んだ空気とカフェインさえあれば、考え事には最適だ。
「明らかにルビーちゃんと俺の記憶は違う……二人の差はどこにある?」
さりなちゃんが亡くなったのは俺が研修医のときで、生まれ変わるまでに数年の差がある。
死後の記憶に時間という概念があるのかは分からない。もしかしたら彼女にとっては死んだ直後にはアイが目の前にいたのかもしれない。
俺にしても死んでから生まれ変わるのに一年時間を遡っている。まさか魂は光速を超えられるのか? オカルトは本当に不可解で理不尽だ。
「ふう……」
さっぱり分からん。そもそも生まれ変わりってなんだ。エネルギー保存の法則的なものか? それとも三途の川を渡った先で裁きを受けてえいや、ってことか。
とはいえ死んだときの記憶もなければ川なんて見ていない。いや、普通の輪廻転生では前世の記憶なんてないんだから例外的なルートを経たんだろうか。
あかねはこういうの詳しいのだろうか。案外フリルのほうが詳しそうだ。説明できないのが致命的だけれど。
これは考えても仕方がないのかもしれない。そもそも俺は元々前世にたいして関心がない。アイの遺児さえいなければ新たな人生をまっさらにエンジョイしていただろう。
慕ってくれている彼女には悪いが俺の記憶がおかしいことは伝えなければならない。……女心のことで叱られたばかりだから一応あかねに相談はしておこうか。
☆★☆★☆★
一応の心の区切りがついたので、しばらく自然を堪能して俺は早々に下山を開始した。おそらく昼過ぎには駐車場について、陽が傾く前に帰宅できるだろう。
いつも通りの気分に戻ってきたことを感じて音楽を聴きたくなった。バックパックを降ろしてイヤホンを取り出す。
「――――!!」
? なんだ、今の。
登山道から外れた上のほうから何かが聞こえてきた。まさか滑落事故か?
山小屋には誰かいた様子はなかったから、縦走してやってきた人が俺のあとから来たのかもしれない。
次第に歩く速度が早まる。木々の合間を縫って行くと、足場に石が増えてくる。
そこで、俺は岩場に横たわる女性を見た。
散乱した荷物に靴。明らかに上の道から落ちてきた様子だった。慌てて女性に近寄る。
その顔にはいくつもの傷があって、土埃や血で汚れた顔には本来あった快活さはなく、虚ろに開かれた口元から吐き出される息と色を失いつつある瞳が唯一命を感じさせた。
血が広がっていく。
彼女がもう死にかけているということはすぐに分かった。
ショックで空を見上げていた彼女の視線が、様子を窺おうとした俺の影に気づいてこちらに向かう。
「あ……たすけ、にげ……」
そう呟いた彼女の目元に涙が浮かぶ。そうしてすべての力を使い切った彼女は、そのまま亡くなった。
それを見て雨宮吾郎はこんなふうに死んだのだろうかだなんて考えた。ありもしない記憶が補填される。だとしたら、これはなんて惨めな死に方なんだろう。
「おや……」
背後で誰かの声がしたような気がしたとき、彼女から何か光のようなモノが見えた。
魂の質量はおよそ21.262グラム。今まさに死んだ彼女から離れていくこの光の正体はそれしかあり得ないとなぜか確信していた。
空へ還っていくそれを見ようと一歩下がったところで、足元のそれに気が付いた。
もう一つ、光がある。彼女の胸元から身体を通り抜けてゆっくりと土に向かっていく。これの正体はなんだ?
ノイズが走る。
脳の中を激しく信号が行き交い、何かを覚醒させようと刺激を繰り返し、熱が蓄積されていく。頭痛がして立っていられなくなりその場に蹲る。
なおもニューロンが活性化し、ネットワークを信号が縦横無尽に行き交う。目の奥から溢れ出た光が明滅しているように感じて瞼をつむる。しかし視界はなおも光で明るい。
気分が悪いどころじゃない。立っているのか寝ているのかさえも分からないほどだ。全身の神経がイカれている。俺にはもう、ここが現実なのか夢の中なのかさえ分からないみたいだ。
光が意識を呑み込んで――何かが罅割れた。
「気を失っている。君にはすまないことをしたね。まさか人がいるだなんて思わなかった。君を今殺すわけにはいかない。僕を見ていなければいいんだけど……」
☆★☆★☆★
つながっている。
てが、からだがつながっている。
つないだゆびから命をかんじる。これは
そうだ。
こんなにおきているのは初めてだ。いつもすぐに眠ってしまう。
たゆたう海のなかでたがいを感じる。とてもながい夢のようなとき。
かみさまがくれたじかんだ。
『幸せになるんだよー』
そうだ。そうだといい。ねむりにつく前にははのこえが聞こえた。
だんだん力がぬけてきて
空へ還る
『ああ、可哀そうに』
『肉の器は烏が救うだろう。しかしこの魂には見向きもしまい』
うさぎがもう一羽やってきて、
『しばらく私が引き受けましょう。ただしあまりにも弱いから、あなたは一つになるしかありません。よくお眠りなさい』
うなづくと、
ほどけて、つながって、まざって。ながいあいだ、そうやっていた。
『ああ、これでは世に送るにはまだ弱すぎる。ならば烏が置いて行った魂の残滓を使いましょう。あなたたちならば、きっと一つになれる』
ああ、おれに何かがかぶせられた。よわいおれを守るようにぎゅっとかためられる。
そして命の薄いからだに封をされた。
『ああ、傷がついてしまったんだね。でも大丈夫、君はもう強くなっただろう。星の子よ。さあ目覚めなさい』
☆★☆★☆★
気がつくと俺は駐車場に停めたバイクに寄りかかっていた。
荷物は全てある。電源を切っていたスマホを起動させると、山のように着信やアプリの通知ができている。ルビーちゃんとあかねで七割。有馬もちょっとだけ……『あんたニュース見た? 見たらさっさと連絡寄越しなさいバカ!』っていきなり罵倒。
ルビーちゃんからは鬼のような電話と留守電の通知。あとロインで山ほど電話の催促がきている。あかねも似たようなものだが生存確認の連絡が多い。数時間スマホの電源を落としていただけで何を、と思ったらそこに表示されている時刻はまったく数時間どころではなかった。
「あれぇ……?」
たしか何か夢を見ていた。思い出すのは頭痛と眩しい光。そして、夢のような何か。それは俺が――。
「俺が俺になる前の記憶」
おかしいと思っていた。なぜ俺の記憶が曖昧なのか。それは残滓の記憶だからだ。雨宮吾郎の魂の残滓が持つ記憶だった。
なぜ彼の魂の全てが生まれ変わらなかったのかは分からない。それでも、残されたわずかな魂が記憶を伴って本来の俺を守る膜となった。
一番外側にあるからか、それとも年季の問題なのか分からないが雨宮吾郎の記憶が強く表れていたのはそんなとこなのかもしれない。
そして俺の本当の前世は双子の水子。
あの兎や声の正体が何だったのかは気になるが、もっと重要なのはその前に呼びかけられた声は
おい、いつかの患者。俺はどうやら本物の推しの子供らしいぞ。肉体的には無関係だが。
ははは。笑える。
なんだ。俺の前世は、
全部がひらがなだと読みづらいので苦肉の策でちょっと漢字を混ぜる荒業。
次回第二章のエピローグです。
なんか章が一つ増えました。どうして。