魂の子   作:aly

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MEMちょ成分補給!
リラックス効果を感じる。


今からガチ恋始めます 番外編

 苺プロの一室。

 今日はそこで話があるということでメムと待ち合わせをしていた。

 先日有馬が抜けたばかりなので、仮にそういう話なのだとしたら大打撃だがおそらくそうではないだろう。もしB小町が解散するとしたら、面倒見のいいメムが最後になると思う。新メンバーの話なんかもしていたしな。

 おそらく動画の参考意見でも欲しいのだろうと、ソファーに掛けてタブレットで雑誌を読みながら待つ。

 

「アクたん、おまたせー」

 

 ほら、呑気な声でやってきた。

 最近は重い出来事が続いていたから身構えてしまったが、悪いことばかり続くわけじゃない。

 

「お邪魔します」

「はいってはいってぇ」

 

 と思っていたのだが、どこか聞いたことのある声にタブレットから目を放す。

 ウェービーな髪を記憶にあるものよりも随分と短く切り揃えた人物がそこにいた。鷲見ゆき。『今からガチ恋始めます』という恋愛リアリティショーで出会った友人である。当時もっとも仲のよかった人物は――黒川あかね。

 

「アクアひさしぶり」

「久しぶり」

「意外すぎて驚いた? なーんて、それポーカーフェイスだよね」

 

 つい先日も会っていたかのような気安さで距離をつめ、向かいのソファーに座る。

 メムは少し逡巡して、ゆきの隣に掛ける。

 

「無表情が過ぎてウケる。やっぱ役者さんってすごいね?」

「まぁな」

「あのぅ、そのぅ。どうして二人はいきなりバチバチになってるのでせうか。私邪魔だったら別の部屋にいるけどぉ」

「そこにいて」

「はい」

 

 なるほど。メムは理由も分からずに仲介役だけ任されたというわけか。

 わざわざゆきを介して、メムを同席させることで何の目的があるんだ、あかね。

 

「その警戒よう。さすがにどうして私がここに来たのか分かってるみたいね?」

「…………」 

 

 いや、わからんが。

 

「メムちょのことは責めないであげてね。私が頼んだことだから。私がここに来たのはね、あかねのことよ」

「やっぱりか」

「そう。あのあかねがアクアを振るわけがない。だとしたら振ったのはアクア! あかねのどこに不満があるんだ言ってみろやあ!?」

 

 ……そっちかよ!

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 B小町がかなちゃんの卒業という一区切りをついたところで、懐かしい人から連絡があった。

 それは私がB小町に入ってアイドルという昔からの夢を叶えるきっかけになった大切な番組で知り合ったゆきだ。まぁショージキなところ今私はアイドルとYoutuberの掛け持ちで大変な目にあっているのだけれど、電話越しに聞こえるゆきのキラキラな幸せオーラに癒しを貰って、でぇへへと頬を緩ませていたらなんか頼み事をされた。即引き受けた。

 それが間違いだったんだ。

 

「お待たせ~」

 

 待ち合わせのスタバに現れたのはとんでもない美女だった。

 あのさ、今ガチのときは高校一年生だったゆき。当時ですら小悪魔ムーブが妙に似合っていた大人びた彼女が18歳という大人の女性に変貌したのだ。その破壊力たるや! 幼さが抑えられて色気のある大人の女性になっている。すわ失恋かと思ったらノブユキとスポーツをするのに邪魔だったからという御馳走様な理由でした。

 

「あのー。それでわたくしめに何の頼みがあるんで?」

 

 もう26歳の私に彼女は眩しすぎる。こんな大成功な成長を遂げたゆきに何の悩みがあるのか。発する言葉も卑屈だ。

 

「へんなメムちょー。JK(笑)だったこと気にしてるの?」

「ぐさぁ! ちょっとダイレクトすぎやしません!?」

「まぁまぁ。もうここまで来たら一つの武器じゃん。弄ってなんぼよ」

 

 それはそう。ユーチューブでも隙あらば「元JK(笑)無理すんな!」という煽りが頻出する。正直オイシイので盛大に乗っかったり突っ込んだりしている。完全に色物アイドルだよ……。

 

「メムちょはおかわりいる?」

「私はこれで大丈夫。カフェインは夜に摂取するから昼は控えてるんだ」

「や、闇深い……」

 

 そうだよ。苺プロは闇の一等地だよ。経営体制もやばいし、稼ぎ頭のアクたんとルビーちゃんも病みに病んでいる。かなちゃんも少し前までは今みたいな円満な卒業を望めないありさまだった。

 

「それで頼みって何かな?」

 

 現実に目を逸らすべく本題を急かす。

 

「うん。実はアクアに久々に会いたいなって思って」

「なん……ですと」

 

 ゆきはあかねのマブダチ。アクたんあかねと破局。つまり、これは修羅場なのでは?

 

「おこ?」

「おこ♡」

 

 うわあ、微笑みが逆に怖い。大人っぽくなったせいで凄みが出てきた。

 私としましては人の恋路に口を挟む野暮はしたくないんだけど、これはかなちゃんのことも知ってるからそう思うのかなとも思ったり。

 しかし最近のアクたんはルビーちゃんとも距離感バグってるから、そろそろ誰かに叱られてもいいのでは?

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 完全に戸惑った雰囲気を出すアクア。ポーカーフェイスが得意というけれど、まだまだ甘いな。

 あかねとの関係が気になっているのは本当。根が真面目で素直な子だ。番組終了後も続けていたやりとりで変化していくあかねを見て、こいつ染められてんなーと思うこともあった。

 まぁアクアがあかねを振った理由というのも想像がついてる。先日大きく報道されたアイの隠し子というニュースが関係しているのだろう。未成年での妊娠に出産、および隠蔽。さらにその後の他殺という火をつけ放題な話題にあかねの事務所はさぞ敏感に反応したことだろう。

 

「あかねに聞いたんじゃないのか?」

「あの子が素直にぺらぺら喋ると思う? 絶対に忖度入ってるから」

 

 質問に質問で返す。ほれほれ、困るだろ?

 

「悪いがこれは双方の事務所に関係がある話だ。さすがに部外者には言えない」

「それは当然だ。でも、私は事務所間のお話は聞いてないよ」

「そうきたか。ゆき、お前今ガチの時より性質悪くなってるな」

「あら、褒め言葉」

 

 女は秘密で着飾る生き物よ。私はモデルだからね。

 あかねから今回の相談を受けたときは驚いた。アクアの本心を知りたいなんてピュアなこと言ってくるんだもの。

 そりゃあ協力しなきゃ友人がいがないじゃない?

 でも、あかねったら妙な注文をつけるんだよね。

 

「なにその鳩が豆鉄砲くらったような顔」

 

 そう。アクアが驚いたときに必ず一度はこのワードを入れろってオーダーだ。何か二人の間の暗号?

 

「ぷ。たしかにアクたんってば苦いドリンク飲まれたときみたいな顔してる」

「ああ、あの放送ね」

「あ、鳩といえばこの前ヒスイくんも鳥に追っかけられてたなぁ」

 

 うわ、ヒスイとか懐かしい。そういえば彼はメムちょに告白したんだっけ。もしかしてまだ連絡を取り合ってたりするのかな。

 あかねの話だと番組があった年の冬に宮崎で遇ったって言ってたけど、その時メムちょもいたんだよね。

 いけないいけない。今はあかねとアクアのことに集中しないと。

 

「鳥?」

「そうそう。それを女の子に見られてたんだよ。めっちゃ笑われてた」

「そうか……。それっていつ頃だ?」

「へっ? 結構最近だったかな。烏森神社ってとこが新橋にあってね」

 

 新橋? あっ。

 

「メム、お前……」

 

 アクアも同じことを考えたのだろう。メムちょを冷たい目で見ている。

 芸能界なんて鯖読んでなんぼなところはあるから、メムちょがついに成人しちゃったからってお酒を飲みに新橋に行っても私は責めないよ、うん。

 

「違うからねぇ!? コラボ案件で近くに寄ったんだよぉ!?」

「そういうのいいから。で?」

「いや、前にアクたんが言ってた芸能の神様を祀ってるところだから寄り道したんだよ。そしたら都会なのに烏がめっちゃいてさ、びっくりして写真撮っちゃったらヒスイくんが映ってるからめっちゃオモロくてぇ」

 

 メムちょがスマホを取り出してセンターテーブルの上に置く。フォルダにはすごい数の動画や写真があったけど、彼女は全て把握してるのかすいすいと目当ての写真までスワイプした。

 

「ほら、これ」

 

 たしかに鳥居の上にすごい数の烏がいる。メムちょが画像をスワイプすると、歩道を歩いていた男の人に烏が飛び寄る。その画像を拡大するとまぎれもなくヒスイだった。

 

「ほんとだ! 激レア写真!」

「他の写真はないのか? 女の子に笑われているところとか」

「ないよ」

 

 アクアってヒスイのこと嫌いだったっけ? 襲われている写真だけでもおもしろ……じゃなくて可哀想なのに追い打ちをかけるなんて。あっ、まさかヒスイってあかねのこと好きだったりする? 実はまだあかねのことが好きだけど、事務所的に別れたところにヒスイが横やりをかけている。これはドラマになるぞ……!

 

「そうか。何かヒスイと話したのか?」

「いや、後で気づいただけだから」

「その女の子とヒスイは何か話していたか?」

「どうだろ」

 

 やけに食いつくね、君。ふふふ、ゆきさんには全てお見通しだ。だからその話はやめてそろそろ私とのお話に戻りましょうね?

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 苺プロから歩いて数分、最寄り駅近くのカフェの窓にゆきの姿が映った。

 

「お疲れ様」

『こんな感じでよかったの? アクアには結局はぐらかされちゃったけどいいの?』

「うん。()()()()()()()()

 

 予め通話状態にしておいたスマホを鞄に入れておくことをお願いしていたのは、私が直接アクアくんの話を聞きたかったからだということにしている。もちろん、本当は会話の内容を全て漏らさずに知りたかったからだ。

 

『でも私の勘だとあれはまだ未練あると思う』

「だったらいいなぁ」

 

 この依頼をゆきにお願いする傍ら、()()()はメムちょにも細工をした。言うまでもなく神社の件だ。

 あの画像はフェイク。映像の裏方としての技能があるアクアくんに仕掛けるのは勇気が必要だったけど、あれを撮影・加工したのは私だ。鳥の話題が出たらこの画像をアクアくんに見せることをお願いしていた。もちろん、自分が撮影したふりをしてもらうことも忘れずに。

 複雑ではあるがメムちょは勝手に勘違いしてくれたので、不要な説明も省けた(匂わせじゃない!)。

 

『まぁどうしようもなくなったらヒスイがいるから安心だね。じゃ、私そろそろ電車に乗るから』

「え? あ、うん。今日はありがと。またね」

 

 なんでヒスイくん? まぁいいや。

 とにかく、烏と少女に対してやけに関心を示すアクアくんの様子は確認できた。その実在に関してはかなり信憑性が高まったと考えていいだろう。あとはその正体が何なのか。

 そろそろヒスイくんは接触できてるかな?




まーたあかねが悪女ムーブしてる。まきこまれるMEMちょごめんなさい。
候補の神社はいくつかあったんですけど、新橋の立地には勝てなかったよ。
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