魂の子   作:aly

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タイトルは昔よく聞いていた諌山実生さんの歌から。虹色ラブレターも好きです。


月のワルツ

 検索。

 ……映画のことばっかじゃないか。いや、こうなることは分かっていた。なんせ有名タイトルだ。昨今はタレントやサブカルによってこういうクラシックな情報が追いやらているのは日常茶飯事だ。

 改めて天岩戸で検索し直す。

 最有力なのは高千穂なのだが、実は日本各地にそれらしき場所はある。それどころか世界中に似た逸話を持つ土地がある。これは太陽信仰が広範囲にわたっていることが原因だと思われる。

 改めてアクアたちにはこちらに専心してもらって復讐なんてきっぱり諦めてほしいのだが、いかんせん情報源が巫の言葉と俺とあかねの推論だけというのは無理がある。

 東京に戻ってから神話に関わる事柄を調べているのだが、尾ひれに背びれがついていて進まない。

 どうせなら俺の魂をこの身体に封じた神様の巫に会いたい。しかしそれが何方なのか不明というのが困っている。

 巫の二人に聞いたところ、神に関わる人物が近くに来ていても必ずしも託宣なり神降ろしがあるわけではないらしい。そもそも初めて高千穂に行ったときには俺に対して何もアクションがなかった時点で気づくべきだった。

 いや、薄々は気づいているんだよ。身近な人間で最もオカルトに傾倒している人物がいるということを。……会いたくないなぁ。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

「少女に会った」

 

 演奏を始めてしまえば感情が音に乗る。だから楽器を用意しながら、客席に座る神木にそう告げた。

 

「おや、君もついに目をつけられたのか」

 

 神木の目がすっと鋭くなる。アクアなど比ではないほど器用に表情を操る男ではあるが、上唇がかすかにめくれ上がったことに気がついた。食いつきは上々だ。

 

「俺から接触してみたんだ。天鈿女命に関わる神社をいくつか訪ねてみた」

「そうか。君が自らそうやって動くとは……僕の子たちと何かあったかな?」

「まぁな。あんたも気が付いているんだろ?」

 

 小手先の技術だと分かっているが、あえて明確な答えを避けて相手に喋らせることを期待する。本来の神木であれば俺の意図なんて容易に気づけるだろう。いや、今も気が付いた上でのことかもしれない。しかしこいつは楽しそうに笑って口を開いた。

 

「映画のことかな。もちろんだ。彼らなりの復讐(せいちょう)を見てみたいよ」

「俺は後ろ向きに前進しているように見えるけど」

「ベクトルはどうだっていいさ。とにかくアイの代替物である彼らが舞台で踊ることに意味があるんだから」

 

 アイの代替物? それは芸能の才能に富み、神に愛された存在としての代わりって意味なのだろうか。それとも殺すに値する存在という意味か。

 

「…あんたは舞台に上がらなくてもいいのか」

 

 舞台に上がれば復讐を直接受けることになるが、アクアたちに接触できる。舞台袖で待つなら隙を見て殺せる。観客席から眺めるのであれば……一体何を考えているのか。

 

「僕は舞台から降ろされた存在だからね。邪魔な候補者を排除するのが精々だ。君は上手くその手はずを整えてくれたし、彼らを奮起させてくれている。素直に感謝するよ」

「舞台から降ろされた?」

 

 それはどういう意味だろう。

 神木は目を閉じてしばらく沈黙した。

 

「アイという人物は僕が触れてはならない存在だった。だから神がお怒りになった。それだけのことだよ」

 

 言葉数は少ないが、神木の様子は喜怒哀楽でいうところの哀の感情が強く表れてるように見えた。自罰的とでもいうのだろうか。後悔や懺悔のようにも聞こえる。

 それはそれとして勝手に自己完結されても理解できないんだよ。

 

「たしかにあれほど輝いている存在は知らないな。星というがあれは太陽だ」

「君はいいことを言うね。その通り、僕は太陽に灼かれてしまったイカロスかもしれない。太陽は二つも必要ない。太陽が隠れたときにだけ人の目に映る月だけが存在を許される」

 

 太陽が隠れているという表現はどことなく天照大神の岩戸隠れを想起させる。しかし順当に捉えるならアイやそれに類するカリスマのいない現代という意味だろう。

 

「……あんたにとっての月って誰なんだ?」

「今は不在だ。そうあればいいと思う存在はいるよ。黒川あかねや不知火フリル、君なんかね。ただ僕の子には太陽になってほしいものだ。いや、下手に太陽を目指されても困るかもしれない。なんとも矛盾した感情だ。でも、もしも月に甘んじるようなら……ふふふ。この先はやめておこう。さあ、演奏を始めてくれ」

 

 神木への探りはこれ以上は無理だ。こいつが心を閉じれば何も得ることはできない。

 しかし今の口ぶり……アクアたちの行動によってはこいつの殺意は二人に向かうかもしれない。それだけは確実に読み取れた。

 

「オーケー。じゃあ、まずは月のワルツでいいか?」

「Excellent」

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 ところで俺も神木にしっかりマークされていないか、と後になって気づいた。神木の言動を家に帰ってから考えたが、どう考えてもあいつが殺害してきた人物はアイの代わりになろうとした人物だ。さらに突き詰めていけば、アイの代わりになれるほどの資格や才能がないにも関わらず頂点に近づいてしまった人物や、才能があるのに諦めてしまった人物ということになるのだろうか。

 神木によれば俺は月になれる存在ということだが、同列に扱われていたあかねやフリルに比べれば数段劣っている。それは知名度だけではなく実力という点でもだ。なにせ国民的女優二人と一発屋だ。神木から身を守るための方針が裏目に出てしまった。いや、音楽界では一発でも売れれば成功なんだが。

 

「やばい。ルビーちゃんは映画の主演が内定したし、アクアたちも出演する。神木にとっても注目の作品だ。この段階でここまで差があるのは確実にまずい」

 

 焦りのあまり独り言がぼろぼろと零れ落ちる。

 脳裏に崖から落ちて死亡した片寄ゆらの姿が浮かぶ。街中で目にした広告とは似ても似つかぬ光のない目にだらしなく開いた口。命の抜けた姿というのはあまりにも無様だ。神木が殺人を犯した瞬間は見たことはないが、片寄ゆらの姿や雨宮吾郎、自殺したストーカーの青年のことを思うと容赦のなさは想像できる。

 今まではアクアとの距離を保つツールとしての盾があったが、映画公開後はどうなるかは分からない。むしろ巫と接触したというカードを切ったことであいつの中での俺の価値が下落した可能性もある。いや、あれはあいつと巫との関係を探るために必要だった。ってあいつが巫から何を言われたか聞き出せてないじゃん……。

 まだ映画製作は始まっていない。スポンサーを募っている状況だろうと専門家のあかねに聞いたことがある。キャスティングはほぼ終えているだろう。撮影は2、3ヵ月だが、ドキュメンタリーだからロケハンなどもあまり時間はかからない。遅くとも夏には公開という流れになるだろう。

 つまり、俺が音楽家としての才覚を示す猶予は半年を切っている。

 過去に短期間で売れたバンドや歌手は存在している。一昔前はドラマの主題歌への起用が大きなパーセンテージを占めていたが、今はTiktokでのバズがかなり重要だ。でも俺、ユーチューブしかやってないんだよね……。

 こうなったらあいつに頼るしかないか。有馬が卒業し、ルビーが演技の稽古に励んでいる今なら時間もあるだろう。なんとか俺を助けてくれ、バズの申し子MEMちょ様!




久しぶりに神木ヒカル登場。
薄々気づかれている方もいると思いますが、原作ではキャラを掴み切れないのでかほんのり味付けしています。
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