視点Bは私も未読なので関連するところはウェブ上の情報で書いています。
「チャート初週圏外か」
「配信再生数は結構伸びてますね」
「これはPRを畳み掛ければいけるか?」
我が事務所で、俺のブレーンであるマネージャーとメムがPCを前に難しい話をしている。
人の噂も七十五日というけれど、圧倒的に早い一か月強という短期間でリリースした結果CDもそれなりに売れた。しかし批判的な目があるのは確かで伸び悩んでいる。
一方現役時代のアイを知らない若い世代はメムのダンス効果で踊ってみたが急激に増加している。その波及効果で動画再生数やサブスクの再生数、そしてダウンロード販売は好調である。
崩すべき牙城は古参アイファン。彼らを味方につければ世論は俺に傾く。彼らが俺を認めてくれるにはどうすればいいのか。
アイの子が公認しても火を油に注ぐようなものだ。アイのファンが認める人物からのお墨付き――できるならコラボができればなおいい。
アイと同世代の歌手? アイの共演者? いや、もっと近しい人物がいる。それは最大のアンチでありながら最高の信者だ。
「なぁメム。昔のB小町らの現状って分かるか?」
「え゛。まさかヒスイくんめいめいたちに協力してもらおうと思ってる? ムリムリムリ。表向きはともかく内部はかなりギスってたってミヤコさん言ってたよ?」
「そりゃあれだけアイ推ししてればな。だが、アイを間近にして脳をやられてないはずないだろ」
「アッ、ソウデスネ」
憎悪は愛情の裏返し。オセロのようにひっくり返せば必ずアイの魅力に再び燃え上がるに違いない。
なーに、推しがいきなり子供こさえてやってきた俺がファンを続けてるんだ。いけるいける。
……やっぱ雨宮吾郎としての自覚が抜けきらないな。もう完全に同化してるのかもしれない。
☆★☆★☆★
アイを中心としたB小町は7人で構成されていた。初期メンバーは4人。俺が最後に確認したときには7人になっていたが、初期メンがそこに全員いたかは分からない。なぜなら途中で大幅なメンバーの入れ替えがあったからだ。
その中で俺はある人を見つけた。B小町解散後もしばらく芸能界に留まっていた人物。アイという柱を失ってもなおB小町に残留し続けて卒業ライブまで完遂した。その後は苺プロを辞めて他の事務所に移り歌手をしほどなくして引退するのだが……その事務所がうちだったのだ。
彼女の名は渡辺くいな。さりなちゃんが歌が上手いと評価していた初期メンバーだ。アイドル時代はきゅんぱんの名で知られていた。
当時登録されていた連絡先が生きていたこともあり、俺は彼女とのアポを取ることに成功した。
「こんにちは」
ミヤコさんと同年代だろう。しかし記憶にある姿とは違いずいぶんと年月を感じる。童顔を売りにしていたからだろうか。
「まさかアイのことで私を訪ねてくる人がいるなんてね。どうせなら隠し子のほうを当たらない?」
「間に合ってますから」
「そう。かなり熱心なファン
は? 未来永劫ファンなんだが。
いや、待て。冷静に考えれば今の時期にいきなり連絡してきた人間を平気で受け入れ、こんなに余裕のある態度でいられるだろうか。
まるで話したくて待っていたみたいだ。
「あなたもアイの熱狂なファンだな?」
「昔はそうでもなかったんだけどね。失ってから気づくものもあるのよ」
まるで神木みたいな物言いだ。何かを意図的に失くした後悔を含んだ感じがある。
「……あのサイトを消したのはあなただったか」
「!」
「たしかに登録されていたアドレスはあなたのものだったから、可能性としては一番高かった」
それはかつてのB小町の公式サイトとして機能していたブログだ。まだ幼かった彼女たちなりのファンとの交流の場で、当人からしたら黒歴史であるのかもしれない。
しかしこの人が消したとなれば話は違う。アイをチープにしかねないものを葬ったんだ。
「どうしてあれを……?」
「昔偶然見つけた。アドレスもメンバーの名前から推測してパスワード変更の申請を出して該当するアドレスを割り出した。パスワードは簡単だったよ。俺も似た癖があったからな」
神木と遭遇したときにスマホのパスワードを設定したが、それも同様の手法だ。
「あなたはアイドルのアイをそのまま封じていたいんだろうが、もうじきそうもいかなくなる」
「……どういうこと?」
「アイを殺したヤツが炙り出される。そうなればアイの過去は否応なしに暴かれるぞ」
きゅんぱんの顔が歪む。やはり彼女も元アイドルというだけあって、ただのストーカーに住所を突き止められていたことに違和感を覚えていたのだろう。
険しい眉間の皺が怒りを如実に表している。記憶の中の美しい姿であってほしいのはファンにとって当然の思いだろう。
「俺ならそこに介入できるかもしれない。あなたが俺と会う気になったのは『アイドル』を聞いてくれたからだろ?」
「ええ。YouTuber時代から知ってるわ。とても良く出来ていたけど、今回のは……」
「子供たちから聞いたアイも取り入れた。アイは欲張りだからな。母としてのアイを無視すれば怒るだろ?」
それはきゅんぱんにとっては未知のアイだ。プライベートを神秘のベールで覆い隠していた彼女の子供たちへの思い。愛。
「今度の曲は受け入れられないか?」
「……いいえ。とてもよかった。私が作れなかったことに嫉妬すら覚えた」
「そりゃよかった」
本物のB小町のメンバーにそう言ってもらえてよかった。なにしろこの曲にはアイの仮面や本音、周囲の嫉妬。さらに子供へのメッセージと彼女の人生が詰まっている。もちろん彼女のことは分からないことも多いが、それでも知れる限りのアイは入れ込んだ。
「わかった。何をするつもりなのか知らないけど、協力してあげる。声をかけたらきっと芽衣も手伝ってくれる」
「めいめいが? そりゃ嬉しいですね」
高峯芽衣もまた初期メンバーだ。アイとはメンバー中で一番親しかったという話を聞いたことがある。
「お願いしたいのは1つだけ。一緒に歌ってください。そしてそれを動画にして公表させてほしいんです。今の苺プロの社長の斎藤ミヤコさんの許可はこっちでなんとかします」
メムという新B小町ときゅんぱんという旧B小町が歌う。それだけで物語性が増す。表舞台から姿を消していた彼女たちが、アイの秘密が暴かれた後にアイのために作り発表されたこの曲を歌う。マスコミが食いつかないわけがない。これで普段はアイドルに興味のない中高年代の目にも留まることになる。
さらにこれは次への布石にもなる。知名度を獲得した上で若者向けの音楽しか作れないと思わせない曲を世に出す。これで俺は名実ともに現代ミュージシャンとして名を刻むことができるだろう。
「私はいいけど、芽衣はブランクあるから練習期間はちょうだいね」
「それなら俺がボイトレしますよ」
一応ルビーちゃんを指導した経験もある。かつての推しに指導できるとかどんな徳を積んだんだ前世の俺。
「じゃ、スケジュール合わせましょ」
「あ」
彼女が取り出したスマホを見て思わず声を上げてしまう。なぜならそのスマホケースは黄色にペンギンのイラストが入っていたからだ。彼女のイメージカラーに、担当の動物だ。
「やっぱB小町好きなんじゃないですか」
「うるさいわね。元々ペンギンは好きだったの。黄色もね!」
だったらサイトを消すなと言いたいが、気持ちはちょっとだけ分かるので許そう。まぁアクアたちにも見せてやりたかったが、仕方がないか。
さて、今度はめいめいのスマホでも拝みにいきますか。案外オレンジ色の猫デザインだったりするかもしれないな。
☆★☆★☆★
二週間後、ユーチューブに投稿された動画には3人のアイドルが歌う姿があった。また、個別に撮影した一分程度のインタビューも歌の終わりに追加され、多くのメディアがそれらを取り上げた。
俺は各音楽番組に呼ばれるようになり、配信・CDともに売り上げが急上昇。発売三週目にしてついにチャートで1位を獲得した。
B小町ってメンバーの出入りが激しくて誰が誰だかむずかしい。
アイ死亡後の解散ライブにきゅんぱんとカナンと緑の子が確認できます。
葬儀で芽衣、緑の子ときゅんぱんっぽい人(おさげを解いている?)がいます。
初期メンバー4人は1話にシルエットだけ出てきますが、アイと芽衣は分かりやすく、ほかにツインテールの子と髪型が分からない子がいます。45510の主観の人物は4人の一人だと思われるので、途中でクビになったニノではない人物の高峯、渡辺のどちらかです。おそらく片方が芽衣なので、髪型不明の子をきゅんぱんにしました。
苗字はパスワードの順番で絶対に忘れない、かつメールアドレスを用意しているので最初の文字である4の高峯をきゅんぱんにしています。
いやぁ、旧メンバー考察するの楽しかった。
追記
きゅんぱんが卒業ライブ前に辞めていた描写になっていたのを修正しました。