この話は蛇足だ。
俺たちがどうして生まれ変わって、何を成したのか。そんなものは死ぬときまで分からない。
ただ幾つか記憶にとどめておかなくてはならないことがある。
一つ目は神木のことだ。
あいつはアイという神から見放されたことで完全におかしくなってしまったらしい。アイのために犯した罪を功績のようにつらつらと話しだしたものだから、その録音とともに警察に送られた。当然有罪である。
二つ目は映画のことだ。
神木が台無しにしたせいで途中で止まっていた試写が再開された。といってももうほとんど終盤だ。少しだけ巻き戻してストーカーがマンションに入るシーンから再生される。
ルビーが子供たちに愛を伝えて息をひきとり、画面が上空へフェードアウトしていく。そして俺の曲『アイドル』とともにアイの軌跡が次々に映し出される。そしてクレジットへ移り変わり曲が変わる。
『わたしが命を賭けるから あげるから』
『Ah あなたは時間をくれたのでしょう?』
曲名は『メフィスト』
『アイドル』がアイがこの世にいた証として作った曲なら、こちらはアクアとルビーちゃんに作った曲だ。『星の子たちよ、よくお眠りなさい』と彼らが安心して眠れる日が来ることを願ったつもりが、俺が本当に命を賭けるはめになってしまったのだからお笑い草だ。
本当に笑ったらルビーちゃんに滅茶苦茶に怒られたのでもう笑わない。
最後に――俺は父親になる。
☆★☆★☆★
命名『
「お前、マジでこの名前でいいのか……?」
既にお産に入っているルビーを待つ俺に、アクアが問いかけた。
「我が家は代々宝石の名前なんだ。それに俺の翡翠は金星の宝石だ。一番星だぞ」
「それで金星の宝石の中で一番メジャーなのを選んだってわけか」
しかも漢字まで最強だ。いやあ、昔はキラキラネームとかマジふざけんなとか思ってたけど、名づける側になったら色々考えちゃうな。ぴたりとハマったらもう他には考えられない。ちなみに代案として星愛というのもあったんだから、読めるだけいい。
すなわちアイ。愛そのもの。我ながら素晴らしい名前を思い付いたと思う。ルビーもベッドの上で大喜びしてくれた。爺ちゃんがさすが我が孫、みたいな顔をしていたのはどうかと思う。
「キミたちさぁ……。かなちゃんに続いていきなり引退してくれたもんだから、私がセンターとか意味わかんないことになってることに申し訳なさとかないかなぁ?」
「いいじゃん。続・新B小町センターMEMちょあらさんじゅっさい」
「うわーん!!」
すわB小町解体かと思われたが、あの映画の反響で苺プロには多数のアイドル志望者から連絡があった。未だドームまで届いていないミヤコ社長の執念はすさまじく、今度こそと大物新人たちを釣り上げて新たなB小町を作り上げてしまった。センターは前身のB小町から続投のMEMちょである。
最年少の子とは10歳近い差があるのだが、童顔と日々の努力の成果かあまり違和感はない。だから大丈夫だと思う。
「うぅ、アクたんなんてかなちゃんとあかねの間に挟まれて地獄に落ちちゃえ」
「そうだそうだ」
「やめろ。名前を呼んだら現れるだろ」
名前を言ってはいけないあの人かな?
とにかくアクアはアホな遺伝子が仕事をしたのか、二人の女性に猛アタックをかけられている。もっぱらフリルが喜んでけしかけている節があるが黙っておこう。
今年の最優秀女優賞候補2人を股にかける最優秀助演男優賞候補とはいかに。
「かなちゃん! 間に合ったよ!」
「あんたが変な買い物してなきゃもっと余裕をもって来れたでしょうが」
「だって赤ちゃんだよ!? 最高画質で連射してたら容量いっぱいになるかもしれないじゃん!?」
相変わらず喧嘩なのかじゃれ合いなのかよく分からん二人組だ。そのうちアクアを放って二人でくっつくんじゃなかろうか。
ところであかねが首から提げているご立派なカメラはなんでしょうか。それの最高画質ってどんなものですか。壁一面に印刷する気ですか。
と、かしましい二人が来たところで、分娩室から泣き声がした。
「すぐ呼ばれる。落ち着け」
「お、おう。さすがだな。ってか俺も経験してるか」
当事者になると分からないものだな。頭がパニックを起こしかけている。
無意識に膝を揺らしていたことを有馬たちに揶揄われながら少しの時を経て、俺はようやくその子に出会うにとになる。
ベッドの上に横になっているルビーと隣に赤ん坊。女の子だ。
「ほら、ダイアだよ。ママにそっくりな目をしてるでしょ?」
「ん。お疲れ様、ルビー」
「へへー。もっと褒めて?」
うーん。可愛い。しかし後ろのアクアたちが見えていないのだろうか。俺は今背中を何人かにどすどすと小突かれているんだが。痛い。
「ルビー、俺にも見せてくれ」
「しょうがないなぁ。ダイア、アクアマリンおじちゃんでちゅよー」
「おじ……」
中身を考えればお爺さんでもおかしくはない。あ、これ色んな人にダメージ入るやつだ。あとなぜかメムまで苦悶の表情を浮かべている。
アクアがそっと指を近づけると、乃愛は人差し指をそっと握った。可愛い。
「この子にはアイの記憶があるんだろうか」
「どうだろうね。でも別にそういうことじゃないんだよ。私、ようやくあのシーンをちゃんと演じられる気がする」
「そうか」
ルビーは母親になった。母にしか分からないものがあるのだろう。アクアの指に戯れる乃愛を眺める表情は慈愛に満ちている。そんな彼女がとても美しく思う。
だからきっと、俺はこれから父親になっていくのだろう。この子と一緒に。