魂の子   作:aly

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ログインというかロックオンというかセットアターゲットというか。


星野アクアがログインしました

 

「やります。でも、一つだけお願いがあります」

「ふむ。まぁ言ってみてよ」

 

 鏑木勝也の眉がぴくりと動く。肘をカウンターに乗せて組んだ手のひらに顎を乗せる。心理学的には守りの姿勢。警戒されている。

 

「参加者は全員決定してるんですか?」

「そうだね」

「もう公表済みですか?」

「いや、好奇心を刺激するために順次発表している最中で今は三人目だよ」

 

 ここまで話すと鏑木さんも俺の意図に気づいたのか、少しピリついた空気が和らぐ。

 

「それで、君は誰をキャスティングしてほしいんだい? 言っておくけど僕はこれに関してはうるさいよ」

「知ってますよ、そんなこと。俺が欲しいのは森本ヒスイ。YouTuberです」

「知らないなあ」

 

 それも当然だろう。森本ヒスイ。幼少期からモデル、子役を経てバンドマンに転身。しかしそれも泣かず飛ばずの実績で二年経たずに解散。現在はYouTuberとして活動中。こちらは中々の実績を上げている。

 

「参加者にはYouTuberが一人いるんだよね。視聴者を呼び込むために用意したんだ。MEMって知ってる?」

「ええ。でも森本ヒスイは音楽系YouTuberで異なる導線を期待できます。それにこれを聴けば鏑木さんも納得して頂けると思いますよ」

 

 スマホからYouTubeを起動する。ライブラリ機能から手早く目的の動画に遷移する。

 

「『アイドル』……この曲は」

「はい。その作詞作曲、そしてボーカルも森本ヒスイが一人で行ってます」

「ボイスチェンジャーってやつか」

 

 正確にはAIを利用した特定の人物の声を学習した音声変換ソフトだ。そしてこの楽曲にはアイの声が学習されている。粗さゆえに声質は本人そっくりとまではいかないが、ブレスやビブラートなどの歌の癖はアイそのものだった。

 

「この曲を聴いてると不思議とアイを思い出す。ああ、なるほど。それで君は彼を呼びたいんだね?」

「恋愛リアリティショー。演技をする人間もいれば素で挑む人もいる。この森本ヒスイがどちらかは分からないですけど、何かは分かるでしょう」

 

 森本ヒスイは年齢から俺たちの父親ということはありえない。しかし同じ父や何らかの血縁を持つ可能性があるかと思えば芸能関係に就いている親族は皆無だった。

 それでもあの曲のアイへの造詣は尋常じゃない。必ず身近な誰かに父親につながる手がかりがあるはずだ。

 

「顔はふつうだね」

「鏑木さんの好みじゃないことは分かってます。でもこいつは普通じゃない。きっと将来への投資になりますよ」

 

 鏑木はようやく腕を解放して、肩肘で頬をついた。

 

「貸し一つだ。もちろんアイの件は君の出演の対価だから安心しなよ」

「怖いですね」

「僕には君のほうがよっぽど怖いよ。君、ファンどころか狂信者じゃないか」

 

 とある高級寿司屋で、二つの契約が成立した。

 

 

☆★☆★☆★ 

 

 

 苺プロ事務所。所属タレントの星野アクアが出演するということもあって、妹の星野ルビーと所属アイドル有馬かなはメディア用の広報動画を眺めていた。

 

「なんか皆顔よくない?」

「鏑木Pはそういうの好きなのよ。モデルに役者に……げっ、こいつも出てるの?」

「なに、知り合い?」

「別に。それより、アクアの出番はまだかしらね……って。――は?」

 

 かなの表情が固まる。それは五人目の出演者の紹介のときだった。

 不思議に思って画面を覗き込む。しかしルビーの目に映ったのはたいしてイケメンでもなくて背も低い、鏑木Pの好みとは思えない男だった。

 

「森本ヒスイです。音楽やってます。よろしく」

 

 どこかで見覚えがあるような……と逡巡して、ルビーはその正体に気がついた。

 

「この人、学校で見たことある!」

「そりゃそうよ。私のクラスメイトなんだし」

「そうなの!?」

 

 森本ヒスイ。本名は森本薫翡翠(ラベンダーヒスイ)。星野愛久愛海(アクアマリン)に勝るとも劣らない酷い名前だ。かなが陽東高校に通うことになったその日。ばったり同じ高校で再会したと思ったら、入学初日にそれを聞いたときはドン引きした。で、思いっきり笑った。

 

「こいつ、アレよ。あんたが騒いでた曲のやつ」

「嘘!?」

 

 ルビーは動画を停止してまじまじとその顔を見る。彼女たち双子と違ってアイの美貌は受け継いでいない。隠し子という線はなさそうだ。

 でもなんだろう。違和感がある。ルビーの直観が違和感を捉えた。

 

「目だ」

 

 ママに似ている、と予感した。アイのキレイなバイオレットカラーの瞳とは違うが、同系統の色味だ。その点だけはルビーたち兄妹よりも似ているかもしれない。

 紫をベースにややくすんだグレーがかった色。

 

「ねえ先輩。なんでこの人ヒスイって名前なんだろ? 全然それっぽくないよ」

「ああ、それ? なんか目の色が理由らしいわよ。あいつ本名がラベンダーヒスイ……っぷ……って言うの。ほら、これ」

 

 かなは笑いながらスマホをぽちぽちと操作して、一つの宝石の画像をルビーに見せた。そこにあったのは淡い紫色の宝石。まさに彼の瞳の色だった。

 

「あんたらと同じ理由ね。おめでとう。たった一人当たりを引いたわね、ルビー」

 

 茶化すかなの声が遠くで聞こえる。

 

(ママのことをよく知っているかのような歌詞。ママに似た声。そして名前の付け方)

 

(あなたは誰?) 




森本薫翡翠vs星野愛久愛海。どっちがひどい名前で賞。ファイ!!
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