魂の子   作:aly

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もりもとらべんだーひすい


森本薫翡翠

 しばらく出演者と会話をして、恋愛バラエティーショーというものがどういうものなのかを理解した。

 出演者を追うカメラや定点カメラなどの存在はあれど、出演者は思ったよりそれを意識せずにやりとりをしている。そしてその姿は嘘はほとんどない。鷲見ゆきのように誇張気味に話すやつもいれば、熊野ノブユキのようにまったくの素に見えるやつもいる。

 既にキャラクターを露出しているMEMちょはユーチューブと同じテンションだが実際のところは知らない。黒川あかねは間違いなく素だろう。バカがつくほどの真面目さが滲み出ている。

 俺はというと、最初は少し恋愛というか青春らしさを演出してみたものの、本来の目的を果たすために今は抑え気味でいる。普段は背景でありつつ、必要とあればあいつに接触できる。それがベストだ。

 

「最初は最後のメンバー二人のうち片方が同業者って聞いて、まじかーってカンジだったけどさ。ヒスイくんってばめちゃめちゃストイックな動画しかないね!?」

「そうか?」

「だって九割九分演奏動画じゃん? MNG(My New Gear)とかやらないし、機材レビューとかもなし」

「一応ミステイクとか練習風景とか入れてるから」

 

 最近話題の音楽系Youtuberといえばアニメーションが多く顔出しはない。ボカロに歌わせるやつもいれば、歌ってみた系出身の配信者に楽曲を提供しているやつもいる。だが森本ヒスイの場合は完全顔出し。背景も合成などを使っていない。会議室やレッスンルームのような小部屋ということは分かるが特定は難しい。事務所の一室かもしれない。

 

「それじゃあ私の動画とコラボしよ、って言ったらオッケーしてくれる?」

「えぇ……」

「いや露骨に嫌そう」

「MEMちょの歌唱力次第、か? 最悪カスタネット担当でいいなら」

 

 二人が話し合う様子は自然だ。同業者だからかもしれないが、森本ヒスイに対人スキルの問題はなさそうだ。異性との会話はふつう。いや、恋愛リアリティーショーとしてはふつう過ぎるのが気になるが、これは俺が鏑木Pに頼んでもらったキャスティングだから本人は乗り気ではないのかもしれない。少なくとも序盤から爪痕を残そうと躍起になるタイプではないらしい。

 

「あ、あかねだ。おーい」

「MEMちゃんとヒスイ君……」

 

 俺たち以外、つまりノブユキとゆきのところから来たのだろう。ぼんやりと歩いていたあかねの姿をMEMちょが捉えた。演者が4人も集まるとあってカメラやスタッフもそれなりに集まる。当然あかねも迷うことなく声をかけたMEMちょの下へ向かった。

 

「あ」

「なんだ、突然フリーズして」

「えっと、そういえば……撮影が始まってからヒスイ君とちゃんと顔を合わせるのって初めてかなって思って」

 

 ベンチに腰掛けていた二人のMEMちょ側に座ったあかねが思い出したかのように呟いた。彼女はこれまで基本的に女子がいる場に同席するように振舞っている。積極的に男に声をかけることが出来ないのだろうか。俺やノブユキに対しても誰かを通して会話をすることが多い。

 

「それは昔からだろ」

 

 隣のベンチで話に参加しているフリをしていたら、初めて聞く情報が現れた。

 

「覚えてたんだ?」

「まぁな。子役のオーディションってだいたい同じやつが来るし。日程が重なることも結構あったから」

「そうだね。結局共演できなかったけどね」

「そうだったか? いや、そういえば俺が通ったときって基本あいつが一緒だったか」

 

 黒川あかねは子供のころから役者をしていたのか。劇団に所属しているという話は聞いていたが、まさか子役時代の森本ヒスイと接点があったとは意外だった。だが、共演したことがないのであれば黒川あかね関係の大人はあまり親密ではないのかもしれない。

 

「子役といえば、アクたんも映画に出てたよね?」

「そうなのか?」

「うんうん。有馬かなちゃんが出てる映画。知らない?」

 

 五反田監督と出会ったあの映画のことだろう。マイナーな映画だろうにMEMちょはよくそんなものを覚えていたな。いや、一応監督賞にノミネートされた作品だから映画好きなら知っていてもおかしくはいないのか?

 

「あぁ。といっても俺はあまりたくさん出演してたわけじゃないけどな。本数も出演時間もさほどない。この前のドラマだって久々だった」

「あれもかなちゃん出てたよね」

「偶然だ。偶然」

 

 もちろん狙いは明確で、鏑木PのDNA情報だった。当然真実は語れないので適当にかわす。

 とはいえ森本ヒスイがいるこの場で俺に会話のボールが来たのはチャンスとも言える。

 

「ヒスイは子役から音楽活動に完全に転向したのか?」

「ああ、基本的には俺から役者をやるつもりはない」

「そうなの? 演技楽しいのに」

「あかねはそうかもしれないけど、俺は何かを演じるのってあまり向いてないって分かったから」

「ふぅん……」

 

 ナイスだ黒川。今の森本ヒスイの言葉を信じるなら、あまり裏表のない性格ということになる。没入することも舞台装置にもなることも出来ないタイプ。しかしこれが嘘なら大嘘つきってことだ。

 

「俺もいくつか動画を見たけど、結構古い洋楽が好きなんだな」

「あぁ。でもエアロスミスやセリーヌディオンとかなら今でも通じるだろ?」

「映画の主題歌だからな。ミス・ア・シングは最高だ」

「あと一応邦楽も聴く。ラルクとかサザンとかシャ乱Qとか」

 

 昭和かよ。いや、でも分かる。俺も前世では学生時代によく聴いていた。B'zや大黒摩季のアップテンポな曲は受験のときの良いBGMだった。こいつ、中身おっさんか?

 

「懐メロばっかじゃんかよー!」

「お父さんがよく車でかけるやつだ……」

 

 ゔっ。

 

「ゔっ……。いいだろ別に。良い曲に時代は関係ないんだ。映画だってそうだろ?」

「それもそうだね」

 

 森本ヒスイの動画はエレキ一本から始まった。それから他のパートにEDMを採用し、時々アコースティックギターの弾き語りなんかもするようになった。ボーカルにボカロを時々使いだしたのは流行に乗ったからなのだろうか。そして最新のAIを使ったボーカル。技術としては知っているがまだ一般に幅広く普及しているわけではないものをいち早く取り入れていくのはこいつのセンスなのか? それとも誰かの入れ知恵か?

 

「ヒスイってなんで音楽始めたんだ?」

「えーっと……」

 

 言いよどむ。後ろめたいことでもあるのかと意識を集中させる。表情、目線、呼吸、手の動き。そういうものから得られる情報は重要だ。何一つとして見落とすつもりはない。

 

「なになに? 言いづらいことでもあるのかな?」

「違う。ただ中学の授業で上手く弾けて、それで俺って才能あるのかもって思ったなんて言うの恥ずかしいだろ」

「言うんかい!!」

 

 こいつ……

 

(マジで演技下手かーー!!)

 

 本気で照れて言いよどんでただけだった。視線や汗、声の抑揚と何をとっても嘘を吐いている要素はない。というか目が泳いでる。めっちゃ耳が赤くなってる。こいつ本気で演技が得意じゃなかったのか……。子供のときは気にならなかったけど、思春期を経て演じることが苦手になった? いや待て、まだ逆に演技が超絶得意だという可能性があるかもしれない。

 あるのか? なさそう。いや、どっちだ。

 

 ……あの曲はなんなんだマジで。




どっちなんだい!(脳内のぴえヨン)

森本ケンゴさんはキラキラネームの犠牲になりました。ごめんなさい。
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