ところでPV、お気に入り等々がここ1、2話で急激に伸びて仰天しています。
ありがとうございます。
もう1作と比べて1話3000文字くらいなら毎日投下できるかな、なんて余裕ぶってたら思ったより大変でした。老化するのは胃もたれだけじゃないよゴロー先生……。
「あはははは!!」
教室の片隅で生み出される暴力的なハウリングに、俺は腕を組んで憮然とした。
「人の顔を見るなり失礼だろ」
「だって! だってあんたマジで演技下手くそになってるし。ぷーくすくす」
「なんだこいつ」
挨拶もないまま人の席の横に立って大笑いをかましてきた女は有馬かな。同級生でかつての同業者だ。今はフリーから脱却して星野アイが所属していた苺プロにいるらしい。
「そんなこと言ったらお前だって着ぐるみ被って筋トレしてたじゃん」
「ぎゃあああ!! 何で知ってるのよぉお!!」
苺プロに入って何をしているのかと思って検索をしてみれば、ヒットしたのが小中学生に人気のYoutuberの動画だ。覆面をしたまま1時間筋トレ体操をすれば顔出し、というバラドルまっしぐらな企画でアイドルになったことを発表。驚くべきことにそのユニット名はB小町という星野アイが所属していたグループ名だった。
新生B小町のもう一人のメンバーは星野ルビー。今ガチで共演している星野アクアと双子だという。これらの事実が示すのは、つまりそういうことなんだろうと思う。遺伝子は偉大だ。というよりアイの遺伝子が仕事をし過ぎているのか?
「それで? アンタ誰狙いなの?」
落ち着きを取り戻した有馬が隣に着席してすまし顔で問う。上半身だけこちらに向けて、頬杖までついて今までの出来事をなかったことにしていた。
「はぁ?」
「MEMちょとは仲良さそうよね。でも同業者じゃやりにくいだろうから……まさか黒川あかねなんて言うんじゃないでしょうね?」
なぜか強い圧を感じる。これはあれか。子役時代に役を奪い合ったせいなのだろうか。それにしても引きずりすぎだろう。
「いや、恋愛感情はない。そもそもこの仕事は俺というよりマネージャーが乗り気で受けたものだし」
恋愛リアリティショーという生まれてこの方全く縁のなかった仕事の話は突然降ってわいてきた。マネージャーにこの仕事の話をもちかけてきたのだって事務所のそこそこ上の人らしい。まさに言葉通りだ。年齢的にちょうどいいことと、音楽系の出演者がいないこと。Youtuberとしてのチャンネル登録者数的に先方も好感触だということでマネージャーには話があったらしい。
番組サイトを見てみれば美男美女。黒塗りのシルエットが二つあるからキャスティングが未定な数ということだろうか。しかしなんというか、俺には場違いだ。
だから断ろうとしたのだが、マネージャーが断固拒否した。彼曰く、テレビでの露出が増えればユーチューブという枠を超えて音楽活動ができる可能性が広がる。ここ最近の再生数の伸びを考えれば一気に勝負をしかけないでどうする。いや、逝け。
「という感じでねじ込まれたわけだ。俺はMEMちょとYoutuberあるあるを話したり、どこかでギターでも弾ければノルマ達成なんだ」
俺の精神というのは極めて異常だと思う。身体の年齢に合わせて思春期を経験したかと思えば、前世の影響を受けて同年代の少女に興味がたいしてわかない。かといって大人にもそういう目は向かないのは高校生の身体だからなのか。
「っは」
ちょっと思考が横道に逸れていたら、有馬が小馬鹿にしたような表情をして鼻で笑っていた。腕を腰にあてて、哀れみの表情さえ浮かべている。
「そんなこと言ったって、あんたも男なのよ。アクアだって仕事だから~とか言ってたくせにユキやMEMちょにオスの面してんじゃない」
「言い方」
「あんた、ちょっとアイツのこと見張っといてよ。一応私はアイツの妹とアイドルやってるわけだし? 身内を悲しませるようなことはさせるわけにはいかないのよね。だからアンタが本当に恋愛に現を抜かさないっていうならそれぐらいやりなさい」
だから圧。圧がすごい。というか有馬とアクアはいったいどういう関係なんだ。同じ事務所の所属タレントというだけでは説明しきれない激重感情を感じたわけだが、そこには触れてはいけない気がする。
「アクアも現場で見る限り積極的ってわけじゃなさそうだけど?」
「そ、そうなの? ふーん。いや、でも休憩時間とか現場上がりとか隙はいくらでもあるわね。やっぱアンタ監視しろ」
「ストーカーに仕立て上げようとしないでもらえます?」
有馬かな。高飛車とはいえ純粋だったお前はどこに行ったんだ。暗い笑みを浮かべる少女を見て、俺は心底うんざりした。
☆★☆★☆★
陽東高校は芸能科があるというだけあって、校内を歩いていれば様々なジャンルの芸能人と出会う。有馬の狂気から逃げるため、その日の昼食はできるだけアイツに接触しないようにと逃げるように教室を出た。
で、そこでこの子に出会った。
「あ、森本薫翡翠」
「できればフルネームで呼ぶのはやめてくれないか。星野瑠美衣」
ルビーではなくルビイと発音する。大人げないとは思うが本気でラベンダーヒスイの名前は狂気じみているから止めてほしい。
「私のこと知ってるの!?」
星野ルビーの目がキラキラと輝く。有馬関係で知ったことだが、まだ駆け出しアイドルということもあって仕事もない状態だからか、名前を認知されていることが嬉しいのだろう。
「一応アクアの妹だし、有馬の相方だろ? 筋肉体操はよかったよ。ナイスガッツ」
「うっそ!? あの動画見てくれてる人初めて会ったよ。あ、もしかしてファン? 握手いる? サインは?」
なんだろう。凄まじいチョロさで懐かれた。
「んー」
それにしても何だ? 悔しいことにほとんど変わらない身長ゆえに、真っ直ぐに顔を見つめられている。恥ずかしさよりも困惑が勝る。美形の星野妹が気にするほどでもないと思うのだが、しまいには顔どころかぐるりと周囲を一回り観察された。
「小柄なところは私やママに似てる……けどアクアは平均身長あるからなぁ」
人の低身長を指摘するのは止めてほしい。毛髪と身長の話は男にはNGなのだ。そもそも、俺の身長が低いのは生後一年間の意志薄弱だった頃が影響している。食事もままならなかったため、幼少期の段階ですでに周囲より小さな子供だった。
「でもやっぱりその目。惜しいなあ。もう少し濃ければドンピシャなんだけどなー」
「は?」
「あ! ううん、こっちの話」
星野妹は瞳の色で異性を選ぶという変わった人間なんだろうか。日本人にも青や緑がかった虹彩の人がいるというし、子供に遺伝させたいのだろうか。とはいえ星野妹が赤系の瞳だから欧米系のカラーは望み薄だとは思うのだけれど。
「あ、ルビーやん」
「それに隣にいるのは今ガチの……」
星野妹の謎の習性に思考を巡らせていたので、その声の主が近づいてくるのに遅れた。ハッとしてその顔を見て、俺は仰天した。
「不知火フリルに寿みなみ、だと……?」
「まぁ知ってるよねー」
「お前、あの二人と仲がいいのか」
「うん。クラスメイトの中で一番目と二番目に仲がいいんだ。へへ、羨ましい?」
こいつ、小悪魔だったのか。いや、天使か? まさか国民的美少女マルチタレントの不知火フリルと巨乳グラドル寿みなみが友人とは。突然絡まれて迷惑していたと思ったらすごい美少女がこいつの人脈によって現れてしまった。恋愛感情がわかないと言ったな。だが美少女を見て何も思わないほど俺は枯れてはいない。
「不知火フリルです。あなたと話をしているときのMEMちょ。男女の友情を信じ切っているあの顔がメスに落ちたら最高だから頑張って」
「は?」
「あはははは~。うちもルビーのお兄さんが出てるから今ガチ観てるんやけどな? 森本先輩は誰狙いなん?」
「い、いや。別に誰狙いとか、そういうの、ない。仕事だからな、うん」
「うっわ。露骨にデレデれしてる」
仕方ないだろう。寿みなみが出ているミドジャンは電子書籍でしっかり保管している。その本人が至近距離にいるとなれば緊張するのも仕方のないことだ。不知火フリルは意味不明だが。
「なるほど……。森本薫翡翠は巨乳好き。だとすると今ガチでの恋愛は困難ね。ユキは除外。MEMちょはそこそこある。一番大きいのはあかねだけど、みなみには程遠い。ねえ、森本薫翡翠はどのくらいのサイズから射程圏内なの?」
「言うわけないだろ。っていうか何なのこの人。すごく怖い」
役者はオンオフで別人ということがあるが、この人に関しては常識の埒外だ。一方隣で顔を真っ赤にしている寿みなみはイメージ通り。解釈一致。
「あんた、巨乳好きだったんだ? ふーん」
有馬かながログインした。ハイライトの消えた瞳で佇む姿は幽鬼のごとく。理由は察した。お前アクアにホの字じゃないのかよと思ったがそれはそれなのだろう。
俺の高校生活は、今ガチの収録が終わるまで平穏が訪れることはない。そんなこと知りなくなかった。
ようやく同級生だった設定が反映された有馬かなさん。
あとフリルさんの口調や思考がトレースできなくて困る。原作での登場が増え始めてどうしましょう。助けてミヤえもん!