魂の子   作:aly

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今ガチに動きがありました。アニメでも後半へ。
今回は三つの闇が描かれますが、なんか一つ変なのが混じってるような?


テレビの闇、社会の闇、俺の闇

 今ガチの収録が進むと、方向性はだんだん明確になっていく。演者の思惑と番組サイドの思惑が重なって、現在は熊野ノブユキと鷲見ゆきをフォーカスしたゆきゆきなるカップリングが注目を浴びている。

 俺とアクア、MEMちょはもはや消化試合という状態で、彼らの背景として邪魔にならないように時々絡むに留めている。幸い俺とMEMちょのやりとりは恋愛とは別のベクトルではあるものの、一種のコラボとして好意的に受け取られているようだ。

 残るは黒川あかね。真面目なあいつは放送に対する露出の少なさに焦っているのだろう。スタッフに片っ端から意見を聞いて何かをつかもうとしている。そんな彼女が変化を起こしたのはいつも通りの撮影の一日だった。

 

「モデルの顔に傷はやばくない?」

「このあと撮影でしょ?」

 

 あれは事故だった。黒川あかねに悪意を持って他人を害する人間性はないと、昔なじみだから言える。しかし偶然にも鷲見ゆきの顔をネイルで傷つけてしまったのは事実だ。

 口さがないスタッフの陰口は止まらない。そして番組も彼女の悪女としてのキャラクターを使えるとふんだのか、そのシーンは放送されてしまった。

 人は誰かを攻撃したくてたまらない生き物だ。ストレス社会がそうさせているのか、優れた個体であることを示すための本能なのかは分からない。とにかく、あかねの行動はそういう人たちに燃料を与えてしまったのだ。

 批判とか誹謗中傷への耐性は人による。俺はユーチューブのコメントでそういうものに晒された経験もあって、割り切ることができるようになった。バンド時代の低空飛行も批判の声との付き合い方を学ぶことにつながった。アクアはそういうものに無頓着そうだし、ゆきやノブユキも強そうだ。MEMちょはちょっと分からない。

 しかしあかねは明らかに耐性がない。子役時代に聞いた話で、彼女は大人のダメ出しに隠れて涙することがあったという。

 

 

☆★☆★☆★ 

 

 

 嫌な予感ほど当たるもので、台風の日にあかねは身投げをしようとしたらしい。心神喪失状態で、ほとんど衝動的なものだった。

 駆け付けた今ガチのメンバー、特にゆきとの会話によって少しは持ち直した。番組は休養という形になったが、それでも彼女が無事であったことに安堵する。一応は昔馴染みなのだ。

 世間の風潮はある程度一転した。どうやら事件のことが週刊誌記者に漏れてしまったらしく、翌日には紙面にニュースが掲載された。やがてテレビでも取り上げられ、今まで彼女を袋叩きにしていた声は目に見えて減っている。しかし完治とも寛解とも言えない。病原は見つかっているが手は出せないし、すぐに悪さをするわけでもない。そういう状況だ。

 どこか白々しい撮影現場の合間に、アクアが俺を訪ねてきた。

 

「ヒスイって作曲できるよな? ちょっと頼まれてくれないか」

「そりゃできるけど、どうして?」

 

 アクアが人に頼み事をしてくるなんて珍しいと思った。撮影では基本的に俺と近い立ち位置で、積極的に恋愛を演出するわけではなく青春する若者という背景を演じているようなやつだと思っていた。だから俺に一人で会いに来ることだって意外だ。

 

「俺たちで動画を作って今ガチの演者用のアカウントでアップしようと思ってる」

 

 彼の話を要約すると、番組制作側の都合で切り取られた映像ではないもの。俺たち出演者サイドから見た今ガチを提供することで妙な勘繰りや思い込みを払拭するという狙いらしい。

 

「……なるほど。そういうことなら任せとけ。ウェットで、ドラマティックな感じか? いや、フレッシュさもいるな。どういう構成だ? 時系列順に作っていくのか? それとも事件のシーンから始めてメンバーの親密な風景に持っていくのか。ラストに今の俺たちのメッセージのようなものがあってもいいな。しかしこれじゃ全然違う曲になるな。とにかく材料が足りない。アクア、フレーズは用意しておくから映像のほうを完成させてくれ。うまく繋いでまとめる」

「……お前、結構饒舌だったんだな」

 

 趣味に多弁になって何が悪い。俺は趣味=仕事の人間だ。他にも趣味はあるし、そっちだって熱く語れる自信はある。

 それにしてもアクアがこんなことを企むなんて、と思ったが番組そのものの完成度もその後への影響を考えればクールなアクアこそ動くのかもしれない。

 正直なところ、俺としては若い少女の生命が助かった安堵と、これからへのメンタルケアはどうなるのかってくらいしか考えていなかった。

 うん。少し反省すべきかもしれない。アクアは器用に場にある牌から役を作った。俺は役に気づかずに次の場を考えていた。今をあがく必死さが欠けている。

 人生二度目といっても、油断は禁物だ。

 

 

☆★☆★☆★ 

 

 

 アクアが用意した素材は、いわゆるオフショットというやつだ。中にはほぼ黒のグレーな映像まであるが、俺は気にしないことにする。

 それらはMEMちょの部屋で編集されることになった。俺たちYouTuberみたいな小手先ではなく、本物の映像編集スキルを持つアクアがそれを行う。言い出しっぺだからな。

 

「これが人気YouTuberの機材か……すごいな」

「えっへへ〜。そう? そう?」

「俺なんてスマホで撮影してる」

「うすうす気づいてたけどもう少しお金かけよぅ!?」

 

 額に冷却シート、デスクには栄養ドリンクを散乱させながら作業を進めるアクアを見ないようにMEMちょと絡む。ああいう社畜くさい光景を十代の今は見たくない。どうせ将来自分自身で経験するんだ。今は無縁でいよう。

 

「カメラも一眼レフでレンズがひのふの……マジか」

「最近は動画性能いいからね。一眼を使ったドラマとかもよく見るしさ」

「おお、照明もあの自撮り用の丸いやつだけじゃない」

「それはまぁ、なんというかパワー不足といいますかこだわりといいますか」

 

 俺の職業はYouTuberではないのかもしれない。意識の差がひどすぎる。正直勝ってるのは音響周りだけかもしれない。

 さすがに爺さんの家にハイスペックなPCを置くのは申し訳ないので、高度な編集は事務所のものを借りてやらせてもらってる。だから未だに家にあるのはノートPCだけだ。

 

「っておい、アクア。その流れにするなら曲が邪魔するだろ」

「は? いや、でもそこまで気にするほどじゃないと思うが」

「ダメだ。拡散させるための動画に妥協はしたくない。あかねのためにもな。ここから……ここまで転調する。すぐ終わるから先進めてろ」

 

 アクアの顔が上から無理難題を押し付けられた平社員の表情に変貌する。具体的には目つきが三割増で悪化して、深呼吸の繰り返しで平静を保とうとしている。

 

 

「アっくん。休憩するか?」

「いや、いい。ユキもノブユキも頼むからこいつみたいな無茶振りはしないでくれ。それだけでいいんだ。それだけで」

 

 はっはっは。苦労しろイケメン。なに、あかねにも有馬にも粉かけてるのは知ってるんだぞ。これで不知火フリルや寿みなみにちょっかいかけたら知らんぞ。お?

 




芸能科に所属するフツメン低身長のヒスイ。
事務所には役者、ミュージシャン、YouTuberのマルチタレントとして登録されていて何とか入学できた男です。
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