晴朗な気分にさせる太陽を邪魔するものはなにもなかった。黒いジャケットと袴に似たボトムスに身を包んだ山紫メイは、手にカメラを持ってのんびりと歩いていた。腰には電磁抜刀対応高周波木刀こと「Fre9uency」を差して、その存在感が光っている
包帯や傷跡が見えるが、その表情は明るい。頭の上に三日月をふたつ向かい合わせたような青黒いヘイローと、それと同じ色をした短い髪をゆらしていた。
隣には白いロングコートの女性がいた。メイの姉、山紫スイだった。幼い印象を放つ身長のメイよりも少し背は高く、同じ色をした髪は長い。似たヘイローと腰に帯びた細身の木刀をゆらして、スイは小さなじょうろを抱えていた。
辻斬り事件が解決したのち、深い傷を負っていたメイとスイはシャーレの医務室に寝たきりになっていた。トリニティの救護騎士団、ゲヘナの救急医学部の力を借りて治療が行われ、あとは安静にするだけという段階まで回復していた。
こうしてふたりが散歩をしているのはある種の気分転換であり、どうしても済ませておきたかった用事のためでもあった。
亡霊が遺した木をお世話しよう。メイの願いをスイは快諾した。シャーレの先生も迷うことなく頷いてくれていた。
「ねえメイ。あれがそうかな」
「うん。きっとね」
三角コーンで囲われた場所にあの日の木が生えている。どこまでもまっすぐ、小さいながらも力強い印象をみせていた。
スイはじょうろを傾けて緩やかに水をやり、そうした姿をおさめながらメイはカメラを構えてシャッターを切った。1枚、2枚、3枚。いい絵になっている。
「私は撮らなくていいんだって」
「だって姉さんも映っていた方が見栄えがいいの」
「そう? ならいいけど。あ、メイ、振り返ってみて!」
スイの言葉に従えば、メイの表情はさらににこやかになった。ゲーム開発部の4人が駆け足でシャーレからこちらにやってきている。
「メイー! もう動いて大丈夫なの!」
「パンパカパーン! ふたりのサムライが復活しました! あなたがメイの姉のスイですね!」
先頭にいるモモイとアリスが声をかける。メイもスイもにこりと頷いて、近づいてくるふたりを出迎えた。
モモイはメイをやさしく抱きしめ、アリスはスイの手を握る。そうしながらメイは、続いてやってきたミドリとユズがわあっと息をのんだのを認めた。亡霊が遺した木を見て感銘を受けたのだとわかった。
「メイちゃん! この木が辻斬りの?」
「うん。あの亡霊が消えた時に生えていたんだ」
ミドリの言葉に応えたメイは、ミドリの隣でユズが小さくつぶやいたのを聞いた。
「この木、小さいけどとても立派に見えるね。花もきれいで、素敵なものを残してくれたんだね」
うん。メイは首を縦に振って、いつの間にか涙を流していた。
「どしたの? 大丈夫、痛かった?」
「ううん。目にゴミがはいっただけ。それよりモモイ、みんなで遊ぶ前に写真を撮らない?」
抱きしめるモモイから離れて、メイはポケットから折り畳み式の三脚を取り出してカメラに装着する。
この場の全員が思い思いに首肯したり肯定の声を出したりしたのを受けながら、メイはタイマーをセットした。
「写真撮ったらゲームしよう! シャーレの大きなテレビを使ってもいいって先生が言ってたんだ」
「メイもスイも一緒に遊びましょう。落ち着いて遊べるゲームを持ってきたから、怪我の心配はありません!」
モモイとアリスの表情は期待に満ちていた。それを見て嬉しくなったメイは涙をぬぐい、駆け足で集合写真に合流する。
前にゲーム開発部の4人がしゃがみ、後ろでメイとスイが手をつないで笑顔を浮かべる。背景には小さな木が主張している構図だ。
きっと忘れられない思い出の写真になるだろう。大切な思い出をもっと作っていこう。シャッターがきられて焚かれたフラッシュの光が奔り、メイは確かに笑顔を浮かべていた。