ばばっと振り返ったモモイにも見えただろう。公園の道を10人はいるであろうスケバンたちがこちらに向かって走ってくる!
「オラァ木刀の奴出てこい!」
「金髪のガキこら!!」
「あたしらにたてついたの後悔させてやるよ!」
辺りにいた人々はみんな関わり合いになりたくなさそうにして、大量のスケバンたちは止まることなくこちらに向かっている。
彼女たちの狙いは間違いなく自分たちだし、まわりの助けは得られそうもない。
メイは立ち上がって近くのベンチやごみ箱を使って遮蔽物に仕立て上げる。モモイも隣でそうしてくれていた。
まわりの木や即席の遮蔽物があればなんとか応戦できるだろうか。物陰に潜みながら、メイは木刀の柄に指をかけた。
「どうするの、メイ!」
「私が前に出るから、モモイは後ろから奴らをやっつけて」
「そんなことしたらメイがやられちゃうよ!」
「やわな修練は積んでないから問題ないよ」
「それなら…よし、勝利へのシナリオが見えた!」
隣の遮蔽物でスマホを操作したモモイは、遮蔽物をかすめる弾丸に頭をもっと低くした。桃色のアサルトライフルを抱えていつでも撃てるようにしている。
「出るよ!」
メイは居合の構えのまま横倒しにしたベンチから飛び出し、直後に飛んできた弾丸の雨に木刀を一閃させた。
しっかりした手ごたえ。弾丸が反射する音。スケバンたちのうめき声。それらを確かめながらメイは走って木刀を振り続ける。
弾丸を木刀で弾き返して逆にダメージを与える! 返しきれない弾もあるが戦いの支障になる傷にはならない。
「こいつをくらいなァ!」
メイは横っ飛びをして遮蔽物に隠れる。一斉射撃の中に手榴弾が織り込まれていたのを見た、とっさの状況判断だった。
手榴弾も弾き返せないこともないが、弾丸返しはずっとできることではない。集中を整えなおす必要があった。
「なにいまの!? どうやってやったの!?」
「弾丸が来るところを弾き返したんだ」
「そんなさらっといえることじゃないでしょ! まるでゲームのキャラみたい! ソロならとんでもないクエストだけど、メイがいるなら!」
遮蔽物から身を乗り出してモモイが撃つ。息はもう整っていたメイも飛び出し、無防備でこちらに撃ちながら近づいてくるスケバンに狙いを定める。
「出てきたなオラァ!」
得意げなスケバンの射撃――銃口、指の動き――に集中。敵の射撃と同時に抜刀し、重い手ごたえを得て振りぬく!
「うげ!?」
メイが反射した弾丸は狙い通りにスケバンの頭にぶち当たる。スケバンは受け身も取らずに倒れこんだ。間違いなく気絶した。
ヘッドショット! モモイが楽しそうに叫んですぐに頭をひっこめる。
どちらにも敵の攻撃が集中している。メイは自分に迫る弾丸を弾いて下がって木の裏に隠れた。
モモイの射撃があっても、弾を返して当てても、スケバンたちの数は全然減らない。包囲されるのは時間の問題だった。
「まずいよ! 私たち囲まれちゃう!」
「モモイ! さっきスマホでなにしてたの!?」
「開発部のみんなにモモトークで助けてって送ったの! 既読はついたから、きっと来てくれる!」
望み薄だろう。用事があったからモモイについていかなかったという話だったはずだ。
こうしている間にもスケバンたちの増援が来たらしく、彼女たちの勢いづいた大声が聞こえた。
このままふたりで戦っても勝てそうにないかもしれない。モモイを置いて逃げる。それはやろうと思えばできそうなことだった。
不良に囲まれてぼこぼこにされるのは誰だって嫌だ。でもここから逃げ出すのは、修練で培った「義」と「勇」の心が許さない。
それにモモイはひとりで逃げださず、共に立ち向かってくれている。背を向けるわけにはいかない。だからメイは呟いた。
「ここで逃げたら修練の意味がなくなる」
「え?」
「だから、ここで下がれない!」
スケバンたちのリロードを見計らってメイが三度飛び出す。
手近なスケバンに一閃して気絶させ、素早い足さばきで別のスケバンに近づいて切り上げた。
「ぜりゃあっ!!」
振りぬいた木刀はスケバンの体を宙に浮かせる。このまま飛び上がって追撃を――
「いってえぇ!」
「動きに合わせるね!」
――せずに別のスケバンに向かって走りながら弾を弾く! モモイが追撃をいれてくれることを確信したからだ。
確信したとおり射撃を叩き込むモモイが、続けて別の遮蔽物に向かいつつ射撃を繰り出すのを横目に、メイは狙いをつけたスケバンを2撃で沈めた。
「冗談じゃない! あの木刀の奴、強いぞ!」
「どんどん仲間呼んでこい!」
公園で繰り広げられる戦いはまだ終わる気配がない。
胴に木刀をぶち込んで気絶させたスケバンを盾にし、大きな木の後ろに回り、息を整えて納刀。そうしながらメイは、モモイが小さな山の方へ向かいながら射撃しているのを認めた。包囲から抜け出しつつの攻撃だ。
「私の怒りの弾丸を食らえ!」
迫るスケバンにアサルトライフルを乱射するモモイ。何人かは倒れたが後ろからスケバンたちの増援がやってくる。
きりがない! メイは居合を構えて飛び出し、再び手近なスケバンに抜刀しようとして、それが悲鳴を上げて倒れたのを見た。
頭部への射撃、問答無用の気絶、狙撃手の一撃! メイは予測した斜線から隠れるために近くの花壇に滑り込む。
「大丈夫だよメイ! いまのは私の妹!」
「えっ!?」
「ミドリ! 来てくれたんだね!」
モモイの後ろ、小さな山からモモイそっくりの少女が顔を出した。緑色の猫耳ヘッドホン、そしてスナイパーライフル。双子の姉か妹なのかもしれない。
「お姉ちゃん! こんどはなにやらかしたの!?」
「ゲーセンのリアルファイトの続き! そして木刀の子は私の仲間!」
「わかった!」
ふたりは撃ちながらそんな会話をしていた。
メイはこちらに集中し始めた射撃を弾きつつ走り、モモイたちとは別の場所から攻撃を仕掛けようとして――
「うわぁなんだあいつ!」
「着ぐるみか!?」
「こっちに転がってくる!!」
モモイたちがいる山の方から、白くて丸い何かが飛んできた。
どこかで見た、確か、長い舌をべろべろしている白くて目がイッてる鳥のキャラクターだ。うわあああと着ぐるみから悲鳴が聞こえている。
着ぐるみが転がってスケバンたちをなぎ倒していく。残ったスケバンたちは慌てて着ぐるみから離れるように集まっていき、
「作戦成功です! そして…光よ!」
またも小山の方から小さな少女が姿を現し、巨大な箱のような武器を構えているのをメイは見た。
ひとつ間があいて巨大な武器から光線が飛んだ。スケバンたちが固まっている場所に着弾して大きな爆発を巻き起こし、スケバンたちを容赦なく吹き飛ばしていく。
「うわーっ!!」
「ぐはーっ!!」
花壇に隠れて居合を構えながら、一気に形勢逆転したことをメイは理解した。あたりに立ち上がれそうなスケバンたちはもういない。
まだ終わってねえぞバカがよ…
後ろから聞こえてメイは振り返る。まだ残っていたスケバンがひとり、メイに古めかしいリボルバーを向けていた。
彼我の距離は6メートル。普通の居合では届かない。
「てめえだけでもぶっ倒す! この距離ならあたしの勝ちだ」
「やめたほうがいいよ」
「このままくたばれ!!」
勝利を確信したようにスケバンが撃って、後ろに吹き飛んでいた。
メイは体を横にずらして射撃を回避し「気合いを入れて」居合を頭にぶちこんでいた。この居合なら6メートル程度離れた相手にも攻撃が命中する。修練の成果だった。
「私の刀は伸びるから。だからやめたほうがよかったんだって」
「く、くそが…」
それだけ言って最後のスケバンが倒れこんだ。頭の上のヘイローが消えて、そこでようやくメイが肩で息をする。
どれだけの敵を叩き切っただろう。修練以外で他者に刀を振るったのは初めてだ。人助けのために力をふるったのも、これが初めてだった。
「メイ! 大丈夫だった!?」
「なんとかね。モモイと、あなたのお友達のおかげで。ありがとう」
山から降りてきていたモモイと、モモイにそっくりな少女。それにバカでかい箱の武器を吊って持ち歩いている長い黒髪の少女。そしてペロロの着ぐるみ。
「申し遅れました。私はメイ。その子が、モモイが不良に絡まれているのを見て――」
「サムライ! サムライです!」
長い黒髪の少女がメイを見て大喜びで笑顔を浮かべている。
ちょっとアリス、なんてモモイが止めていると、ペロロのぬいぐるみから中の人があらわれようとしていた。
中の人も背の小さな少女だった。とはいえ、彼女と比べればメイの方がやや背は低い。
長くふわふわした赤髪とひろいおでこをして、ぶかぶかしたパーカーから脚がのぞいている。人見知りそうにメイを見て、息を吸って言葉を発しようとしていた。
「あ、あの、モモイを助けてくださって、ありがとうございました」
「礼を言うのはこちらです。あなた方がいなければどうなっていたことか」
「それでもお礼をさせてください! ゲーム開発部の部長として、きちんとお礼がしたい、です」
ゲーム開発部の部長。というと、この4人は全員がゲーム開発部の所属なのだろうか。
「わたしはユズ、ゲーム開発部の部長、です…ああそう、そうだ、紹介しますね。この子はアリスちゃん。そしてモモイちゃんの双子の妹のミドリちゃん」
はじめまして! と元気に挨拶するアリス。内気そうにはじめましてと会釈するミドリ。そんな彼女たちにメイはお辞儀をした。
「でもユズ、どういうお礼をするつもりなの?」
「えっとそれは…おいしいケーキとかどうかな?」
いえいえ気持ちだけで十分です。ユズに話したメイは、そこで自分の裾がひっぱられたことに気づいた。アリスが興味津々で近づいてきていた。
「アリス、その武器はゲームで見たことがあります! 刀ですね!」
「うん。でも、本当の刀じゃなくて、これは木刀なんだ」
「さっきの戦いはすごかったです! メイはサムライみたいでした! まるでゲームから出てきたような」
ゲームがとても好きな子なのだろう。まっすぐな好意を向けられてメイは眩しくて目をそらしてしまう。
モモイは良い友人たちに恵まれている。なんだかそれがうらやましく思えた。
「よかったらアリスたちとフレンドになってパーティを組みませんか?」
「え?」
「また、このメンバーで集まって一緒に遊びたいです! 今度はゲームで!」
「そういうことなら、もちろんオッケーだよ。よろしくね」
メイはアリスに手を伸ばす。ぱあっと明るい笑顔になってアリスはきゅっと握り返した。
「パンパカパーン! サムライがパーティに参加しました!」
「ありがとう。よろしくね、ゲーム開発部のみなさん」
そのままミドリと、モモイと、ユズと握手を交わして、そこでユズが「あっ」と声をあげてペロロの着ぐるみに振り返る。なにがあったのだろうとメイが様子をうかがうと、
「そろそろ休憩時間が終わっちゃう! バイトに戻らないと」
「それならアリスが着ぐるみを持ちます! ユズ、一緒に走れば大丈夫です!」
そうか。モモイのSOSにこたえるために、ユズは着ぐるみのバイトの休憩時間に駆けつけてきてくれたのだ。
それにしても、アリスは細身の体なのに大きな着ぐるみを難なく持ち上げていた。すでに箱のような大砲を吊っているのに、人は見た目によらないな。走り去っていくアリスとユズを見送って、メイはそんなことを考えた。
「お姉ちゃんを助けてくれて、改めて、ありがとうございました!」
「ありがとうねメイ! そうそう、これは私のモモトーク! 連絡先交換しよ!」
そうだね。懐からスマホを取り出して連絡先を交換する。ミドリとも連絡がとれるようにして、メイはひとつ頷いた。
「私は次の週末があいているから、その時にまた会えるかな」
「もちろんだよ! みんなにも予定をあけられるか聞いてみるね」
「次会うのを楽しみにしてる。じゃあまた。リアルファイトには気をつけて!」
お辞儀をしてメイは踵を返し、自分の家へと帰っていく。
背中に「またね!」「ありがとう!」と言葉を受けながら、メイは嬉し気に息をついた。
長い修練を終えてから、これが初めて技をふるった機会になった。
人助けとして技をふるい、人を倒し、新しい友人ができた。
もしかしたらきっと、新しくて楽しい日常が待ち受けているのかもしれない。知らず、メイは笑顔を浮かべていた。