少女は木刀で失った青春を取り戻す   作:いかるおにおこ

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エピソード2 ミドリのスランプ!? イラストコンテストで入賞を目指せ(中)

 ミレニアムを出て地下鉄にのり、メイはモモイとミドリとともにトリニティの自治区へと足を踏み入れる。

 地下鉄での移動とはいえ、トリニティの自治区へと入ったのはこれが初めてだった。

 キヴォトスの三大学園のひとつ、トリニティ総合学園。確か宗教系のお嬢様学校だと姉から聞いた覚えがあった。

 実物の写真やネットでの画像も見たことがある。宮殿のような校舎だとか、落ち着いた雰囲気の生徒たちの写真だとか、見た目は穏やかで過ごしやすそうな場所に見えた。

 実際はどうなのかは知らない。もしかすると陰湿なイジメなんてものが横行しているのかもしれない。ここはキヴォトスだ。暴力は形を変えてどこにだって存在する。

 名もない小学校ですらイジメはあった。であればマンモス校と名高いトリニティであっても、どれだけ優れていたとしても、おそらくは。

 

「どうしたのメイちゃん」

「え?」

「なんか浮かない顔してるから。もしかして地下鉄は苦手?」

 

 隣で座って、心配そうに聞いてくるミドリにメイはかぶりを振る。

 あたりに客は少ない。地下鉄の車両にあるモニターは問題なく見えるし、あと数分で目的地の駅に着くのがわかった。

 

「地下鉄に乗るのは問題ないんだけどね。ちょっと嫌なことを思い出しちゃって」

「大丈夫そう?」

「うん。先生との待ち合わせ場所ってどのあたりだっけ」

「次の駅を降りてすこし歩いたところみたい。メイちゃんは先生とは初めて会うんだよね?」

 

 ミドリの問いかけにメイは頷き返した。

 シャーレの先生。すごい大人という話は聞いていた。

 シャーレとしていろんな学校のごたごたを解決したり、エデン条約にまつわる事件にも介入して諸々をいい方向に導いたという噂も聞いたことがあった。

 噂といえば、前にキヴォトス中を混乱に陥れた、あの赤い空の事件にも介入したとも聞いた。奇妙な機械の敵、巨大な機械やペロロがあちこちで暴れていたあの事件だ。

 それらの解決にシャーレや連邦生徒会や多くの学園と生徒たちが関わったという。最終的には先生が全裸でそこらへんを駆け回ったとかいう変な噂のおまけまでついていた。

 つまり、シャーレや先生についてはっきりした情報は持っていない。当時のメイは地下のシェルターに避難していたから、やはりなにも知らないのだ。

 シャーレや彼らに協力していた生徒たちがいなければ、おそらくキヴォトスは今日こうしてあるようにはなっていなかったのだろう。

 そのくらいしか分からないし、だからこそ凄いとか、雲の上の存在なのかなとか、そう思うようになっていた。

 

「ミドリとモモイは、先生とは知り合いなの?」

「そうだよ。知り合いっていうか、恩人だよね」

「恩人! そうなんだ。先生ってどんな人なの?」

「優しくて、でも変わっている人かな…いつも私たち、生徒のことを大事にしてくれる、とてもいい人だよ」

 

 先生のことを語るミドリの顔は、どこか赤らんでいるように見えた。そうした妹の様子に気づかないようにモモイはうんうんと頷いている。

 地下鉄の車体がしゃあぁと音を立てて減速する。目的地の駅に着くことを車内アナウンスが告げていた。

 

 

 

 

 

 

「確かこのあたりだったと思うけど」

「スイーツ屋ってどこだろう? ミドリ、その地図、ちゃんと見た?」

「見たよお姉ちゃん。あっ、あれじゃない?」

 

 地下鉄の駅からエレベータで地上へ出ると幅の広い道に出た。それからミドリの案内のもと、3人でトリニティの自治区を歩いていく。

 通行許可証なんかが必要なのはトリニティ総合学園の中を移動するときだけらしい。そのあたりはミレニアムも同じだった。そんなことを思いながら街路樹の陰になっているところを選んでメイは後ろからついていった。

 

 ミドリが指さしたのはそこそこ大きなお店だった。淡いピンクの屋根やおいしそうなスイーツの意匠のロゴが遠くからでもわかる。

 そこに先生がいるのだろうか? 他の誰かとの相談をしていて? 

 緊張したのを自覚したメイは深呼吸をして立ち止まり、それからもう一歩を踏み出して目を開いた。なにかひゅおぉと飛ぶ音が聞こえたからだ。

 

「どうしたのメイ?」

「伏せて!」

 

 危険な予感がして目の前の双子に呼びかけつつ、彼女たちの肩に手を伸ばして力づくで伏せさせる。

 結論、メイたちにはなにも危険はなかった。

 危険があったのは遠くにあるスイーツ店の方だった。なにかが右の方から飛んできて、ぶつかって爆発を起こしたのだった。

 

「ロケットランチャー!?」

「誰がそんなものを…あっ、先生が!」

 

 モモイが叫んで駆け出していく。彼女には似合わないような、悲しげな声をしていた。どうしてそんな声が出たのかはわからなかった。

 

「メイちゃん、急いで先生を助けに行こう!」

「そりゃそのつもりだけど、モモイがあんな声を出すなんて」

「だって先生はキヴォトスの外の人なんだよ! 銃弾が当たったら怪我してしまうの。最悪、もしかしたら――」

 

 死んでしまうのだろう。ミドリはそれが言えなくて口を開いたままだった。こうしている間にも2発目のロケットランチャーがスイーツ店に着弾し、より大きな爆発を起こしている。

 

「わかった。モモイを追いかけよう。私たちで先生を助けに行くんだ!」

「――うん。後ろからメイちゃんを援護するから、まかせて!」

 

 

 

 メイたちがスイーツ店に近づくと3回目のロケットランチャーが店に直撃した。距離が近いぶん、起きた大爆発の音や熱がより身近に感じてしまう。

 これだけの脅威に晒されて銃弾一発でアウトの先生は無事だろうか。高まる不安をメイは拭うように木刀に手をそえた。

 

 スイーツ店を襲撃している集団が見えてきた。駐車場の茂みの方からヘルメットをかぶった集団数十名が荒れた様子で騒いでいる。

 

「お姉ちゃん、あれヘルメット団だよね」

「どう見てもそう! このままだと先生が危ないよ!」

 

 何発もロケットランチャーを撃ち込まれてぼろぼろになった壁。強引なブリーチングの末に侵入をしようとしている。

 しかし。

 一番先頭にいたヘルメット団団員は後ろに吹き飛んでいた。ほこりにふーっと息を吹きかけて飛んだようだったとメイは思う。つまり、スイーツ店にはそんなことができるだけの実力者がいる?

 

「どうしたんだよ!」

「ヤバい! この店、あいつが」

 

 店内へ侵入しようとしたふたりのヘルメット団員は、少し間があいて吹き飛ばされてしまった。店からは大砲じみたショットガンの銃声が轟いている。

 

「げえっははは~っ!! えへへっえへ…」

 

 形容しがたいデスボイスが店の大穴から響いた。メイたちは駐車場の横につけ、ヘルメット団への奇襲のために茂みに隠れていたが、それでも耳に刺さる恐ろしい声だった。

 

「さーて 始めますか」

 

 別の声も聞こえる。のんびりしてふわふわした印象の声だった。いったい誰が出てくるんだろう。いつでも抜刀できるように準備してメイはそちらに注意を向ける。

 店の破壊された壁からふたり現れた。

 ひとりは身長が高く、長い黒髪でスタイルの良い少女だった。ものすごく恐ろしい表情をして2挺のショットガンを携え、首には肌がつぎはぎのように見えるアクセサリーを身につけている。腰には刺々しい羽があって不良学生のようにメイは思った。

 もうひとりはヘアピンで桃色の髪をサイドテールにしている、背の低い少女だった。とはいえモモイやミドリ、そしてメイよりも少しだけ背が高そうではある。

 白いセーラー服と短機関銃、そして透明の盾を持って、黒髪の少女の前に立っていた。

 

「よろしくぅツルギ先輩」

「げへへ! げえっへへへ…」

 

 得体のしれないふたり組だがヘルメット団と戦うらしい。メイはそう理解してモモイとミドリの肩に触れた。

 

「ふたりとも、出るならいまじゃない?」

「だよね! ミドリ、ここから狙える?」

 

 問題ないよ。伏せながらそっと武器を構えてミドリが言う。メイはモモイの顔を見て頷き、先頭を切って走り出した。

 

「お前たち! なにをしてるんだーッ!!」

 

 メイは叫びながら手近なヘルメット団に接近して、死角気味の横から居合切りを仕掛ける。

 居合抜刀された木刀はヘルメットに直撃。一撃で気絶はさせられなかったが衝撃でぐわんぐわんと敵の体が揺れていた。

 

「な、なんだ!?」

「もういちど!」

 

 今度は横一文字切り。木刀はヘルメット団の胴にがつんとぶち当たり、それをきっかけに他のヘルメット団員たちはメイたちがいることに気がついた。

 

「こっちからも来たぞ!」

「木刀持ってるやつがいる!」

「正実もいるのにこいつらマジでなんなんだよ!」

 

 いくよー! ノリノリでモモイが遮蔽物から身を乗り出して射撃。ミドリは後ろで狙撃ポイントを変えつつ的確に目立たない射撃を繰り出していた。

 店から出てきたふたりと、メイたちを合わせて5人は、確実にヘルメット団の数を減らしていく。このままいけば問題なく終われそうだった。

 

 

 

 乗用車の後ろで隠れていたヘルメット団に袈裟切りしたメイは、一撃で気絶させたのを確かめつつ射線から逃れるように車の陰に飛び込む。

 そこにはすでに誰かがいた。店の壊れた壁から出てきたふたり組のうちのひとり、怖い顔をしたショットガンの黒い制服の少女だ。

 

「どうも! あいつら、だいぶ数が減ったね」

「きひゃひゃっ! お前っあの時のおぉ! あぁおあ!!」

 

 気さくに声をかけたのが気に入らなかったのだろうか、怖い顔の少女はさらに表情をゆがませてメイにショットガンを向けた。

 危険を感じて身をねじりつつその場から離れたのと、ショットガンが火をふいたのはほとんど同時だった。

 弾はほとんど当たっていない。どうにかかわせている。

 彼女は言っていた。

 あの時のお前。

 メイの記憶にはないが一方的に覚えられることがあったのだろうか? でもいまはそんなことより、不意打ちの同士討ちだぞ。それも故意の。

 

「なにすんの! 助けに来てんだよこっちは!」

「きゃはあああっ!!!」

 

 車を飛び越えてショットガンの少女がメイに銃口を向ける。このままだとまずい。メイは決断的に木刀を振って射撃を弾いた。

 

「いーっひひひ!!」

「このままっ!」

 

 連続して木刀を振るメイ。素早い連撃はショットガンに強い衝撃を与え、わずかの間だけメイに銃口が向かないようにした。

 

「ぎゃおう!」

「ちょっと貸してよね!」

 

 メイは踏み込んで怖い少女が持つ右のショットガンにしがみつく。そのままトリガーを探し当て、無理やりに引く。するとショットガンが爆発して、二度と使えない見た目になってしまった。

 メイが銃を使えない理由。銃を撃とうとすればそれが壊れてしまう。ハンドガンだろうが、サブマシンガンだろうが、銃であればなんでも壊してしまう。

 

「なっ!?」

「これ以上やるとあなたの武器がなくなるよ」

 

 怖い顔で睨みつけられる。メイも負けじと表情を歪ませた。ううーっとふたりで唸っていると、店の方から声が聞こえた。

 

「ツルギ! その子は敵じゃないよ。私たちを助けに来てくれたんだ!」

「えっ!」

「君も一緒に戦ってくれているんだよね! それなら右側から攻めてみて、きっとうまくいくから!」

 

 了解した! 声の主の姿は見えないが大声で返すメイ。

 ふりかえってみれば、ツルギと呼ばれた怖い顔の少女は素直にかわいい少女のように見えた。こっちが素の顔なのかもしれない。

 それに、ツルギの返事はとてもギャップのあるものだった。恋する乙女のような声とでもいうか。そこでメイはきょとんとしてしまった。

 車に弾丸が直撃した音で集中を取り戻し、メイは木刀を収めて息を整える。ツルギの方を見てみれば、再び怖い顔に戻っていた。

 

「ツルギさん、でいい?」

「ああ」

「あなたの銃を壊してごめんなさい。とっさに、ああするしかないと思って」

「気にするな。銃はまだまだ持っている。こちらこそすまなかった。お前はあいつとは違うんだな」

「あいつ?」

「後で話す。いまは奴らをやるぞ。さあ…暴れる時間だ!!」

 

 聞いた者を震わせるようなデスボイスをあげてツルギが左に飛び出す。メイは右に飛び出して、アサルトライフルを撃ってくるヘルメット団の射撃を弾いて走る。

 近くで看板に身を隠しているモモイが集中攻撃を受けていたのが見えた。ミドリは射線が通せないのか、彼女が射撃している様子はない。

 

「メイ!」

「私が注意をひくから!」

 

 銃弾を弾きながらメイはモモイの横を通り抜ける。するとモモイの隠れていた遮蔽物に集中していた射線がメイを捉え追っていく。

 

「その程度じゃ私は止まらない!」

 

 近くに身を隠して息を整えられる場所はない。メイは雄たけびを上げながら前方にいる3人のヘルメット団に突っ込んでいく。

 

「なんで止まらねえんだ!」

「こっちの弾が効いてないぞ!」

 

 うわあああ! 叫ぶヘルメット団たち。銃弾を弾き返した弾丸でまずはひとりを気絶させたメイは、続いての2撃目でもうひとりの頭を叩いて気絶させた。

 

「お前なんなんだよ、どうして銃がないのにつええんだ…」

「それなりに努力したからね。このまま殴られるか銃を壊されるか、どっちがいい?」

「な、なめんじゃねえ!」

 

 震えた声でアサルトライフルを向けられ、メイは即座に最後のひとりの手を切り上げた。その衝撃で空高く銃を投げ出してしまったヘルメット団がしりもちをつき、メイは落下した銃をつかんで向けて引き金をひいた。

 ばん! 内側から爆発した銃はどうみても使い物にならない。だが鈍器にはなる。

 ああーっと驚くヘルメット団員に向けて思い切り銃を投げつけると、敵のヘイローはふっと消えて気絶していた。

 

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